転倒での頭部外傷、その時どうする?

この記事の結論(3行)
- 1高齢者の頭部外傷は「見た目より中身」。65歳以上と抗血栓薬の服用は、それだけでCTを検討する理由になる。迷ったら受診、判断に迷えば #7119。
- 2救急車は「意識・けいれん・繰り返す嘔吐・片側の麻痺・止まらない出血・抗凝固薬服用中の“いつもと違う”」。1つでもあれば、ためらわず119番。
- 3帰宅後の宿題は3つ。①72時間の観察と、1〜2か月後の「遅れてくる血腫」 ②抜糸の日(頭皮は7〜14日) ③破傷風トキソイドの2回目・3回目——1968年より前に生まれた方は、救急外来の1回で終わらない。
「ベッドから落ちて頭を打ったけれど、元気そうです」。訪問看護の電話でよくある一言です。ここで難しいのは、高齢者の頭部外傷は受傷直後がいちばん元気に見えることです。脳が萎縮して頭蓋骨との間に隙間があるため、出血が少し溜まっても症状が出ず、数時間〜数週間たってから意識や歩行が崩れる。抗凝固薬を飲んでいればなおさらです。
この記事では、訪問看護師・リハビリ職が転倒現場に呼ばれたときの観察の順番、救急車を呼ぶかの判断、そして病院から帰ってきたあとの抜糸と破傷風トキソイドまでを、医学的な根拠と最新の行政情報(消防庁・福岡県・JIHS)をもとに整理します。
なぜ高齢者の頭部外傷は油断できないのか
まず数字を見ます。高齢者の「転倒」は、交通事故よりずっと多くの命を奪っている事故です。
図1 消費者庁が人口動態統計をもとに整理した数字(令和2年)と、日本頭部外傷データバンク(JNTDB)P2015、Karibe らの前向き研究(2023)から。重症頭部外傷の主役は、若い人の交通事故から、高齢者の転倒による急性硬膜下血腫へ移っている。
軽く打っただけに見えても油断できない理由は、体の側に3つあります。
- 1脳と頭蓋骨の間に「隙間」がある加齢で脳が萎縮すると、脳の表面から硬膜へ渡る静脈(架橋静脈)が引き伸ばされ、低いエネルギーでも切れやすくなります。しかも隙間があるぶん、血が溜まっても症状が出るまでに時間がかかります。これが「その場では元気、数時間後に急変(talk and deteriorate)」の正体です。頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版は、高齢者頭部外傷の章でこの病態と、抗凝固薬・抗血小板薬の影響を独立した項目として扱っています。
- 23人に1人が「血が止まりにくい薬」を飲んでいるJNTDB P2015の解析では、外傷性頭蓋内出血を起こした65歳以上の30.4%(同データバンクの別報告では31%)が抗血栓薬を服用しており、服用者は高齢で転倒による受傷が多く、血腫が後から増えて悪化する例が目立ちました(Suehiro 2019)。ワルファリン、DOAC(リクシアナ・イグザレルト・エリキュース・プラザキサ)、抗血小板薬(バイアスピリン・クロピドグレル・プラスグレル・シロスタゾール)は、訪問前に把握しておく薬です。
- 3自覚症状が出にくく、訴えられない消防庁の高齢者向けリーフレットは「高齢者は自覚症状が出にくい場合がある」と明記しています。認知症の方は頭痛や吐き気を言葉にできず、「なんとなく元気がない」「食事を残す」「返事が遅い」といった形でしか現れません。判断の軸は本人の訴えではなく、ふだんとの差です。
その場でまず何をするか——観察の順番
転倒現場に着いたら、動かす前に見ます。順番を決めておくと、慌てた場面でも抜けが出ません。
図2 観察は「安全→意識→出血→神経→背景」の順。STEP 1で返事がない・呼吸がおかしい・けいれんしていれば、その場で119番に切り替える。
観察項目を表にすると
| 観察項目 | 見る・聞くこと | 赤信号(すぐ119番) |
|---|---|---|
| 意識 | 名前を呼ぶ→肩をたたく→痛み刺激の順。JCSで記録(Ⅰ-1〜Ⅲ-300)。家族に「いつもと同じか」 | 返事がない、もうろう、受傷後に意識が悪化してきた |
| 呼吸・循環 | 呼吸の有無とリズム、顔色、脈、血圧(可能なら) | 呼吸が不規則・いびき様、顔色が悪い |
| 瞳孔・目 | 左右差、光への反応、物が二重に見えるか | 瞳孔の左右差、視野が欠ける |
| 運動・言語 | 両手を前に出して落ちないか、笑ってもらい顔の左右差、ろれつ | 片側の脱力、顔のゆがみ、ろれつが回らない |
| 頭痛・嘔吐 | 痛みの強さと増悪、嘔吐の回数 | 突然の激しい頭痛、繰り返す嘔吐 |
| けいれん・健忘 | けいれんの有無、受傷前後を覚えているか | けいれん、受傷を覚えていない・同じ質問を繰り返す |
| 創・出血 | 出血部位、深さ、土や砂の付着。耳・鼻からの液体、耳の後ろのあざ(Battle徴候) | 圧迫しても止まらない、耳・鼻から血液や透明な液 |
| 首・全身 | 首の痛み、手足のしびれ、股関節の痛み(大腿骨骨折) | 首の痛み+しびれ(頸椎損傷を疑い動かさない) |
| 背景 | 抗凝固薬・抗血小板薬、飲酒、認知症、打った部位と高さ、時刻 | 抗凝固薬服用中で「いつもと違う」 |
救急車を呼ぶか——3段階で決める
判断の土台は、総務省消防庁の「救急車を上手に使いましょう」(令和7年10月版)にある「ためらわず救急車を呼んでほしい症状」です。高齢者版では「意識がない・おかしい」「けいれんが止まらない」「突然の激しい頭痛」「片方の腕や足に力が入らない」「転倒で強い衝撃を受けた」などが挙げられ、「高齢者は自覚症状が出にくい」と注意書きがあります。これに、頭部外傷ガイドラインとNICE(英国)の基準を重ねて、3段階にしました。
図3 赤=119番、黄=当日中に主治医へ連絡し受診(CT)を相談、緑=在宅観察。黄の段階で迷うときは、福岡県の救急医療電話相談 #7119(24時間・看護師が対応)に電話し、緊急度の判定を受ける。
抗凝固薬・抗血小板薬を飲んでいる人は、症状がなくてもCTを相談する
ここがこの記事でいちばん伝えたい判断です。英国NICEの頭部外傷ガイドライン(NG232、2023年)は、他にCTの理由がなくても、抗凝固薬(ワルファリン・DOAC・ヘパリン類)または抗血小板薬(アスピリン単剤を除く)を服用している人には、受傷から8時間以内のCTを考慮するとしています。理由の一つに「悪化しても救急外来に戻って来られない人がいる」ことが挙げられており、これはまさに在宅の高齢者にあてはまります。日本の頭部外傷治療・管理のガイドライン第4版も、高齢者・抗血栓薬服用例では軽症でもCTで出血を確認し、出血があれば軽症でも薬の中断・中和を検討する立場です。
一方で、「初回CTで出血がなければ、どれくらい安心か」も分かってきました。イタリア3施設の1,596人(中央値84歳、抗凝固薬服用、軽症頭部外傷)で初回CTが正常だった人を12〜24時間後に再検すると、遅れて出血が見つかったのはDOACで1.8%、ワルファリンで2.6%。手術が必要になった人はゼロでした。ただし受傷後の嘔吐と、観察中の新しい症状の出現は、遅発性出血の危険をそれぞれ約5倍に上げていました(Capsoni 2025)。つまり「CTで出血なし」と言われて帰ってきても、嘔吐と新しい症状だけは見逃してはいけない、ということです。
救急隊に伝える5点(申し送りの核)
- 1いつ・どこで・どう打ったか時刻、転倒の高さ(ベッド・椅子・立位)、打った部位、目撃者がいるか。
- 2意識の「ふだんとの差」JCSでふだんの値と現在値。認知症の有無。
- 3薬抗凝固薬・抗血小板薬の名前と最後に飲んだ時刻。お薬手帳を渡す。
- 4持病と主治医訪問診療を受けているか、主治医名・連絡先。がん・透析・人工弁などの重要な既往。
- 5本人・家族の意向積極的治療を望むか(ACP・事前指示があればその内容)。ただし、頭部外傷の出血は可逆的で治療可能なことが多く、事前指示があるからといって受診を見送る判断を訪問看護が単独で行うものではありません。主治医に確認します。
救急外来では何が行われるか
搬送先で行われることを知っておくと、帰宅後に「何をされて、何が残っているか」を退院サマリーから読み取れます。
| 行われること | 内容 | 帰宅後に残る宿題 |
|---|---|---|
| 頭部CT | 頭蓋内出血・骨折の確認。65歳以上、抗血栓薬服用、意識消失や健忘があれば原則撮影。出血があれば入院・経過観察、必要なら手術 | 「出血なし」でも嘔吐・新しい症状は再受診。出血ありで帰宅した場合は再CTの日程 |
| 抗血栓薬の判断 | 出血があれば中断や中和薬(ビタミンK・PCC・イダルシズマブ等)。出血がなければ継続が多い | いつ再開するか、主治医の指示を確認。自己判断で止めない・再開しない |
| 創の洗浄と縫合・ステープル | 生理食塩水や水道水で洗浄し、異物を除去。頭皮は縫合(ナイロン糸)またはステープル(医療用ホチキス) | 抜糸・抜鉤の日(頭皮7〜14日)。感染徴候の観察 |
| 破傷風トキソイド/TIG | 接種歴と創の汚染度で判断。多くの高齢者は「未接種扱い」でトキソイド1回目+汚染創ならTIG 250IU | 2回目(3〜8週後)と3回目(6〜18か月後)の予約。接種日の記録 |
| 帰宅指示(頭部外傷後の注意) | 多くの病院が注意事項の用紙を渡す。「起こしても目が覚めない」「嘔吐を繰り返す」「けいれん」「手足の麻痺」などで再受診 | 家族が読める場所に貼る。訪問看護も同じ紙を見て観察する |
| 転倒の原因評価 | 起立性低血圧、不整脈、低血糖、薬(睡眠薬・降圧薬)、感染など。救急外来では十分に評価されないことも多い | 主治医と一緒に「なぜ転んだか」を振り返る。再転倒予防が本当の宿題 |
帰宅後の観察——「3日」と「3か月」
帰宅後に見るべき時期は2つに分かれます。数日以内の遅発性出血と、数週間〜数か月後の慢性硬膜下血腫です。
図4 帰宅後の時間軸。抗凝固薬服用者の遅発性出血は初回CT正常でも1.8〜2.6%(Capsoni 2025)、65歳以上の軽症例で1か月後に慢性硬膜下血腫が「形成」されるのは19.9%、症状が出るのは4.6%(Karibe 2023)。
慢性硬膜下血腫——「頭を打った」ことを家族が忘れる頃に出る
慢性硬膜下血腫は、硬膜の下にじわじわと血が溜まり、受傷から3週間〜3か月ほどで症状が出る病気です。仙台市の登録研究では発生率は人口10万人あたり年20.6人、80歳以上では127.1人と、年齢とともに急増し、高齢者では平地での転倒がもっとも多い原因でした(Karibe 2011)。全国のDPCデータ63,358例の解析では、80代がもっとも多く、退院時に約3割が何らかの介助を必要とし、再発率は13.1%。「穴を開けて抜けば治る良性の病気」という従来のイメージほど楽観できない、というのが最近の見方です(Toi 2018)。
訪問看護が見るべきサインは、頭痛ではなく「歩き方・頭のはたらき・おしっこ」です。
- 1歩き方が変わる小刻み・片側に寄る・足が前に出ない。「最近よく転ぶ」も含む。
- 2頭のはたらきが落ちる物忘れが急に進んだ、反応が遅い、日中うとうとする、性格が変わったように見える。認知症の進行やせん妄と間違えやすい。
- 3片側の手足の力が入らない箸を落とす、片側の脚を引きずる、字が書けない。脳卒中と同じ症状。
- 4尿失禁それまでなかった失禁。歩行障害・認知機能低下と3つ揃うと典型的。
- 5頭痛高齢者では出ないことも多い。あれば朝に強い鈍い痛み。
これらが出たら、「1〜2か月前に頭を打っている」ことを添えて主治医に報告します。この一言で、CTの判断が早まります。抗血栓薬の有無で形成率に差がなかった(Karibe 2023)ので、薬を飲んでいない人でも観察は同じです。
抜糸はいつ、どこで——縫合創のケア
抜糸の時期は部位で違います。日本創傷外科学会の一般向け解説では、表皮を寄せている糸は「約1週間から10日、頭・足底・手掌では2週間」で抜糸するとされています。血流が豊富な顔は早く、頭皮は毛髪と皮膚の厚みがあるため少し遅めです。
| 部位 | 抜糸・抜鉤の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 顔面(額・まぶた周囲・頬) | 4〜7日 | 早めに抜き、テープで補強。跡を残さないために遅らせない |
| 頭皮 | 7〜14日 | ステープルは専用のリムーバーで抜鉤。毛髪に糸が絡むので洗髪はやさしく |
| 体幹・上肢 | 7〜14日 | 張力がかかる部位は長め |
| 下肢・関節部 | 10〜14日 | 血流が乏しく治りが遅い。糖尿病・ステロイド内服では延びる |
| 真皮縫合(埋没縫合)の吸収糸 | 抜糸不要 | 2〜3か月で吸収。抜糸するのは表面に見える糸だけ |
抜糸までの創のケア——「消毒より洗浄」
- 1翌日から1日1回、水道水で洗う石けんの泡をつけて指の腹でやさしく洗い、よく流す。シャワーは翌日から可。湯船は抜糸まで避ける。消毒薬を毎日塗る必要はない(治りを妨げることがある)。
- 2軟膏とガーゼ・被覆材で湿潤に保つ処方された軟膏を塗り、ガーゼやフィルムで保護。かさぶたは無理に剥がさない。頭皮は覆いにくいので、清潔を保てば開放でもよいと指示されることがある。
- 3感染のサインは受傷から数日以内に出る赤みが広がる、腫れ、熱感、膿、ズキズキする痛み、発熱。あれば抜糸を待たず受診。糖尿病・ステロイド・低栄養の方は感染しやすい。
- 4糸が抜けた・傷が開いた自然に糸が取れることがある。開いていれば受診。開いていなければテープで寄せて観察し、次回受診で確認。
- 5抜糸後もテープと遮光抜糸直後の皮膚はまだ弱く、ぶつけると開く。1〜2週間はテープで補強し、新しい皮膚は紫外線で跡が残りやすいので遮光する。
破傷風トキソイド——高齢者は「1回」で終わらない
救急外来で「破傷風の注射を打ちました」と言われて帰ってきたとき、それが3回のうちの1回目であることは、ほとんど説明されません。ここが在宅で拾うべき最大の宿題です。
破傷風とは——年間約100人、そのほとんどが高齢者
破傷風は、土の中に広く存在する破傷風菌の芽胞が傷口から入り、酸素の少ない傷の奥で増えて神経毒素を出す病気です。潜伏期間は3〜21日(平均10日)。口が開きにくくなる開口障害から始まり、顔面のけいれん、飲み込みにくさ、全身のけいれんへ進み、致命率は10〜20%。人から人へは感染しません。感染症発生動向調査の年間報告数は2020年104人、2021年93人、2022年96人、2023年109人、2024年86人と、毎年100人前後で推移し、その多くはワクチンを受けていない高齢者です(国立健康危機管理研究機構〈JIHS〉)。頭部外傷のあとに脳神経支配の筋肉から症状が出る「頭部破傷風」という稀なタイプもあり、潜伏期間は1〜2日と短いとされています。
なぜ高齢者は「未接種」なのか
日本で破傷風トキソイドを含む三種混合ワクチン(DPT)の定期接種が始まったのは1968年です。それより前に生まれた方——2026年時点でおおむね58歳以上——は、小児期の基礎免疫を受けていないのが前提になります。破傷風は自然に免疫がつくことがなく、一度かかっても免疫は得られません。JIHSは「ワクチン歴不明の場合は、未接種として扱う」と明記しています。
図5 JIHS「創傷処置としての破傷風予防」の考え方を3つの質問に。訪問看護の利用者の多くは「C」に入る。母子手帳や過去のケガの記録を探しても、3回の接種歴が確認できることはまれ。
3回接種のスケジュール——2回目と3回目は在宅の仕事
図6 初回免疫は「3〜8週の間隔で2回、その6〜18か月後に1回」の計3回(JIHS)。救急外来で打たれるのは1回目のみ。2回目・3回目は、かかりつけ医・在宅医への依頼と、接種日の記録が訪問看護の役割になる。
汚染創で未接種・不明の場合は、トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリン(TIG)250IUを同日に注射します。トキソイドで自分の抗体ができるまでの数週間を、他人の抗体で橋渡しする考え方です。重篤な免疫不全がある方(抗がん剤治療中など)は、接種歴に関係なくTIGを使うとされています。なお、破傷風予防のために抗菌薬を予防的に飲む必要はありません。
- 1退院サマリー・お薬手帳で「打ったか」「TIGも入ったか」を確認する「破トキ」「沈降破傷風トキソイド」「テタノブリン(TIG)」の記載を探す。記載がなければ搬送先に電話で確認。
- 22回目の日付を計算して、主治医に依頼する1回目から3〜8週。在宅医・かかりつけ医で接種できる。訪問診療の枝番として組んでもらうと通院負担がない。
- 33回目は「忘れる」前提でカレンダーに入れる2回目から6〜18か月後。半年以上あくので、ケアプランや訪問看護計画書の備考欄に残し、家族にも紙で渡す。
- 4接種記録を1枚にまとめて渡す接種日・ワクチン名・ロット・接種した医療機関。次にケガをしたとき「10年以内かどうか」を判断する唯一の材料になる。母子手帳のない世代には、お薬手帳に貼るのが現実的。
- 5費用の扱いは施設で異なる外傷時の1回目は保険給付。2回目以降も外傷後の予防として保険で行う医療機関が多いが、任意接種(自費)扱いとする施設もあるため、依頼時に確認する。
訪問看護の実務——報告・記録・制度
主治医への報告はSBARで
記録に残す項目
受傷時刻・場所・機転(目撃の有無)、到着時刻、意識(JCS、ふだんの値)、バイタル、瞳孔・麻痺・ろれつ、嘔吐・けいれんの有無、創の部位・大きさ・汚染、実施した処置(圧迫止血・洗浄)、服薬(抗血栓薬の名前と最終服用時刻)、主治医への報告時刻と指示内容、家族への説明内容、救急要請の有無と搬送先。訪問看護記録書には訪問の開始・終了時刻と評価を書き、緊急の求めに応じた訪問であれば、その日時・内容・対応状況を記録します(令和8年度改定で明確化された記載事項)。
事故報告——訪問中の転倒は「事故」として扱う
訪問看護の提供中に転倒が起きた場合、運営基準の「事故発生時の対応」に基づき、家族、居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)、市町村への連絡と、事故の状況・対応の記録が必要です。国が示す標準様式(介護保険最新情報 Vol.943〈令和3年3月19日〉、Vol.1332〈令和6年11月29日改訂〉)では、市町村へ報告する事故の範囲を「死亡に至ったもの」「医師の診断を受け、投薬・処置等の治療が必要になったもの」とし、第一報は事故発生後速やかに、遅くとも5日以内を目安に、事故状況・事業所概要・対象者・事故の概要・発生時の対応・発生後の状況を記入して提出、原因分析と再発防止策は作成次第追加報告する、という流れです(それ以外の事故は各自治体の取扱いによる)。福岡市の様式・提出先は事業所内で確認しておきます。訪問していない時間に起きた転倒は事故報告の対象ではありませんが、ケアマネジャーへの情報共有は同じように行い、サービス担当者会議で再転倒予防を検討します。
制度メモ——緊急の訪問と24時間体制
| 保険 | 加算 | 金額・単位 | 要点 |
|---|---|---|---|
| 医療保険 | 緊急訪問看護加算 | 月14日目まで 2,650円/15日目以降 2,000円(1日1回) | 利用者・家族の緊急の求めに応じ、主治医(診療所・在宅療養支援病院)の指示で計画外に訪問。日時・内容・対応を記録し、明細書に理由を記載 |
| 医療保険 | 24時間対応体制加算 | イ 6,800円/ロ 6,520円(月1回) | 24時間の連絡・訪問体制を評価。イは看護業務の負担軽減の取組が要件 |
| 介護保険 | 緊急時訪問看護加算(Ⅰ)(Ⅱ) | (Ⅰ)600単位/(Ⅱ)574単位(月1回、ステーションの場合) | 24時間連絡・訪問できる体制の評価。実際の緊急訪問は所要時間に応じた訪問看護費を算定。区分支給限度額の枠外 |
金額・単位は令和6年度介護報酬改定および令和8年度診療報酬改定(2026年6月1日施行)の告示にもとづく。加算の届出状況は事業所ごとに異なるため、自事業所の算定可否は届出内容で確認する。
ふくろう訪問看護リハビリステーションの視点
「頭を打った日」より、「その後の90日」を看る
- 1抗血栓薬を飲んでいるかは、転ぶ前に知っておく転倒時の判断の半分は、この一点で決まります。フェイスシートと訪問看護計画書の目立つ場所に薬名を書き、緊急訪問に入る看護師が初見でも分かるようにしておきます。
- 2「元気そうです」と家族に伝えるときは、2つの期限を紙で渡す「3日間は起こして返事を見る」「3か月は歩き方・物忘れ・失禁を見る」。口頭では消えるので、受傷日を書いた紙を冷蔵庫に貼ってもらいます。
- 3縫合と1回目のワクチンは病院の仕事、抜糸と2回目・3回目は在宅の仕事退院サマリーに「破トキ1回目、2回目は3〜8週後」と書かれていることはまれです。書かれていないものを拾うのが、私たちの役割です。
- 4認知症の方は「いつもと違う」が唯一の指標家族の「なんとなく変」を記録に残し、そのまま主治医に伝えます。「様子を見ましょう」と言う前に、頭を打った日付を言えるかを自分に問います。
訪問看護師のチェックリスト(12項目)
- 動かす前に、返事と呼吸を確かめた(返事なし・呼吸異常・けいれん→その場で119番)
- 意識をJCSで記録し、「ふだんの値」と並べた(認知症の方は家族に確認)
- 瞳孔の左右差、顔のゆがみ、片側の脱力、ろれつ、嘔吐の回数、受傷前後の記憶を見た
- 創の部位・大きさ・深さ・土や砂の付着、耳・鼻からの液体、耳の後ろのあざを見た
- 首の痛みとしびれ、脚の痛みと向き(大腿骨骨折)を確かめた
- 抗凝固薬・抗血小板薬の名前と最終服用時刻を確認し、服用中なら症状がなくてもCTを主治医に相談した
- 迷ったら #7119(092-471-0099)に、本人のそばからかけた
- 主治医にSBARで報告し、指示(受診先・搬送方法)と時刻を記録した
- 帰宅後72時間の観察点(起こしても覚めない・嘔吐・頭痛の悪化・新しい症状)を家族に紙で渡した
- 抜糸・抜鉤の予定日と、感染のサイン(赤み・腫れ・膿・熱)を確認した
- 破傷風トキソイドが打たれたか・TIGが入ったかを確認し、2回目(3〜8週)・3回目(6〜18か月)の予定を主治医と決め、接種記録を1枚にまとめた
- 3か月間、歩き方・物忘れ・尿失禁の変化を観察項目に入れ、ケアマネジャーと再転倒予防を検討した
よくある質問(Q&A)
- 頭にたんこぶ(皮下血腫)ができています。冷やせばよいですか?
- 皮下血腫そのものは冷やして様子を見て構いません。問題は「たんこぶの下」です。たんこぶの大きさと頭蓋内出血の有無は比例しないので、判断は意識・嘔吐・麻痺・服薬で行います。65歳以上で意識消失や健忘があった場合や、抗血栓薬を飲んでいる場合は、たんこぶが小さくてもCTを相談してください。
- 出血がひどく見えます。頭皮の出血はどう止めますか?
- 頭皮は血流が豊富で、浅い傷でも派手に出血します。清潔なガーゼで傷を直接、5〜10分間押さえ続けてください(途中で何度も見ない)。押さえても止まらない、耳や鼻から血や透明な液が出ている、傷が開いていて骨が見える場合は119番です。
- 抗凝固薬を飲んでいますが、本人も家族も「元気だから病院は嫌」と言います。
- 症状がなくても、抗凝固薬服用者は受傷8時間以内のCTが考慮されます(NICE 2023)。まず主治医に電話し、受診の必要性を本人・家族に医師の言葉として伝えてもらいます。それでも受診しない選択をした場合は、72時間の観察点を紙で渡し、翌日に必ず訪問して再評価し、その経過を記録に残します。訪問看護が単独で「受診不要」と判断することは避けてください。
- CTで「出血なし」と言われて帰ってきました。もう安心ですか?
- 初回CTが正常なら、遅れて出血する確率は抗凝固薬服用者でも1.8〜2.6%程度で、手術が必要になった例はありませんでした(Capsoni 2025)。ただし嘔吐と新しい症状の出現は危険信号です。加えて、1〜2か月後の慢性硬膜下血腫は別の話で、65歳以上の軽症例の約5%が症状を出します。「3日」と「3か月」の二段構えで観察してください。
- 抜糸は訪問看護師がしてもよいですか?
- 抜糸は医行為で、医師が行うか、医師の指示のもとで看護師が行います。実際には、訪問診療の医師が自宅で抜糸する、または医師の具体的な指示を受けて看護師が行う形になります。事前に主治医と「誰が・いつ・どの創を」を決め、創が閉じているか・感染がないかを写真で共有してください。
- 破傷風トキソイドは、救急外来で1回打ったので終わりではないのですか?
- 3回以上の接種歴が確認できない方(1968年より前に生まれた多くの方)は、1回では防御レベルの抗体ができません。1回目から3〜8週後に2回目、その6〜18か月後に3回目で初回免疫が完成し、以後は10年ごとの追加で維持できます。2回目以降はかかりつけ医・在宅医で受けられるので、予定を主治医と決めてください。
- 破傷風トキソイドの副反応が心配です。
- 接種部位の赤み・腫れ・痛みが主で、数日で軽快します。発熱はまれです。明らかな発熱(37.5℃以上)や重い急性疾患があるときは延期します。高齢者でも接種を避ける理由は基本的になく、むしろ未接種の高齢者こそ発症者の中心です。
- 転倒したのが訪問のない時間帯で、家族から翌朝に電話がありました。
- 電話で図3の赤い項目(意識・けいれん・繰り返す嘔吐・片側の麻痺・止まらない出血)を確認し、1つでもあれば119番を勧めます。なければ当日中に訪問して評価し、抗血栓薬服用者や65歳以上で意識消失があった場合は主治医にCTを相談します。電話で確認した内容と時刻も記録に残してください。
ご利用・採用のご案内
ふくろう訪問クリニック
福岡市早良区|通院が難しい方への訪問診療- 緩和ケア・難病・精神科・認知症の在宅医療
- 同一法人の訪問看護・リハビリと連携した在宅療養
- 転倒後の観察・創の処置・ワクチン接種の相談
TEL 092-407-7337(受付時間はホームページをご確認ください)
https://fukurou.fukuoka.jp/ふくろう訪問看護リハビリステーション
福岡市早良区|訪問看護・訪問リハビリ- 看護師・理学療法士・作業療法士による訪問
- 医療保険・介護保険の訪問看護、精神科訪問看護
- 転倒後の観察や創部のケア、主治医との連携もご相談ください
TEL 092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
https://nurse-fukurou.jp/一緒に働く仲間を募集しています
募集職種:医師(常勤・非常勤)・看護師・医療事務
TEL 092-407-7337/メール clinic@fukurou.fukuoka.jp
募集職種:看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(常勤・非常勤)
TEL 092-834-8581(平日 9:00〜18:00)/メール nurse@fukurou.fukuoka.jp
※入職祝い金は、人材紹介会社を通さない直接応募の方が対象です。紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元しています。
参考資料(一次資料)
- 総務省消防庁「救急車を上手に使いましょう ~救急車 必要なのはどんなとき?~」(令和7年10月発行)
https://www.fdma.go.jp/publication/portal/items/portal002_japanese.pdf - 総務省消防庁 救急お役立ちポータルサイト「救急車利用リーフレット(高齢者版)」
https://www.fdma.go.jp/publication/portal/post9.html - 福岡県「福岡県の救急医療電話相談窓口(#7119)」
https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/fukuokaqq.html - 福岡市「急な病気やケガについて、電話で相談したい」(#7119/092-471-0099)
https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/chiikiiryo/kyukyuiryo-syobo/00001_2.html - 日本脳神経外科学会・日本脳神経外傷学会 監修『頭部外傷治療・管理のガイドライン 第4版』医学書院、2019年(Mindsガイドラインライブラリ)
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00550/ - National Institute for Health and Care Excellence. Head injury: assessment and early management (NG232). 2023.
https://www.nice.org.uk/guidance/ng232/chapter/recommendations - 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト「破傷風(詳細版)」2021年1月12日改訂
https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/tetanus/detail/index.html - 国立健康危機管理研究機構(JIHS)「感染症発生動向調査年別一覧(全数把握 五類)-2024-」(破傷風 年間報告数)
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/idwr/2024/year-data/05/index.html - 日本プライマリ・ケア連合学会「こどもとおとなのワクチンサイト」破傷風トキソイド
https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2&nid=123 - 一般社団法人 日本創傷外科学会「切り傷」(一般の皆様へ)
https://www.jsswc.or.jp/general/kirikizu.html - 消費者庁「高齢者の事故を防ぐために」(令和2年 人口動態統計:65歳以上の転倒・転落・墜落 8,851人/交通事故 2,199人)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_055/ - 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/index.html - 日本脳神経外傷学会 日本頭部外傷データバンク委員会. Outline of the Japan Neurotrauma Data Bank Project 2015: Analysis of the data in 1345 cases with traumatic brain injury. 神経外傷 2019.
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390002184891542912 - Suehiro E, Fujiyama Y, Kiyohira M, et al. Risk of Deterioration of Geriatric Traumatic Brain Injury in Patients Treated with Antithrombotic Drugs. World Neurosurg 2019;127:e1221-e1227.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1878875015013066 - Capsoni N, Carpani G, Tarantino F, et al. Incidence and risk factors for delayed intracranial hemorrhage after mild brain injury in anticoagulated patients: a multicenter retrospective study. Scand J Trauma Resusc Emerg Med 2025;33(1):26. doi:10.1186/s13049-025-01337-y
https://link.springer.com/article/10.1186/s13049-025-01337-y - Puzio TJ, Murphy PB, Kregel HR, et al. Delayed Intracranial Hemorrhage after Blunt Head Trauma while on Direct Oral Anticoagulant: Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Coll Surg 2021;232(6):1007-1016.e5. doi:10.1016/j.jamcollsurg.2021.02.016
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33766725/ - Karibe H, Narisawa A, Nagai A, et al. Incidence of Chronic Subdural Hematoma after Mild Head Trauma in Elderly Patients with or without Pre-traumatic Conditioning of Anti-thrombotic Drugs. Neurol Med Chir (Tokyo) 2023;63(3):91-96. doi:10.2176/jns-nmc.2022-0327
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nmc/63/3/63_2022-0327/_article - Karibe H, Kameyama M, Kawase M, et al. Epidemiology of chronic subdural hematomas[慢性硬膜下血腫の疫学]. No Shinkei Geka 2011;39(12):1149-1153.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22128269/ - Toi H, Kinoshita K, Hirai S, et al. Present epidemiology of chronic subdural hematoma in Japan: analysis of 63,358 cases recorded in a national administrative database. J Neurosurg 2018;128(1):222-228. doi:10.3171/2016.9.JNS16623
https://thejns.org/view/journals/j-neurosurg/128/1/article-p222.xml - 一般社団法人日本感染症学会「破傷風トキソイド供給不足への対応について」(2025年7月30日、ワクチン委員会)
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/gakkai_toxoid_250730.pdf - 厚生労働省「医療用医薬品供給状況報告」(沈降破傷風トキソイド「生研」の限定出荷・供給停止・通常出荷復帰〈2026年3月3日〉の告知履歴)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/04_00003.html - 厚生労働省老健局「介護保険施設等における事故の報告様式等について」介護保険最新情報 Vol.943(令和3年3月19日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000763797.pdf - 厚生労働省老健局 介護保険最新情報 Vol.1332(令和6年11月29日、事故報告標準様式の改訂)
https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2024/1202092706494/ksvol.1332.pdf - 末廣栄一, 石原秀行, 藤山雄一, ほか. 高齢者頭部外傷への対応におけるピットフォール―抗血栓薬内服との関連から―. 脳神経外科ジャーナル 2019;28(10):614-620. doi:10.7887/jcns.28.614
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/28/10/28_614/_article/-char/ja - 厚生労働省老健局「令和6年度介護報酬改定の主な事項について」社会保障審議会介護給付費分科会(第239回)資料1、令和6年1月22日(緊急時訪問看護加算(Ⅰ)(Ⅱ)の新設・単位数)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001195261.pdf
本記事は2026年9月16日時点で確認できる公的資料・診療ガイドライン・査読論文にもとづく一般的な情報提供であり、個々の患者の診断・治療を代替するものではありません。診療報酬・介護報酬の金額は改定により変わります。実際の対応は主治医の指示および各事業所の運営規程・届出内容に従ってください。

