低血圧をみたとき:訪問看護師のための「血圧」の見方

訪問看護師のための「血圧」の見方第3回/全3回
低血圧をみたとき

立つ・食べる・湯につかるで下がる血圧と、ショックの線

訪問で血圧を測ったら88/50だった。本人は「いつもこんなもんです」と笑っている。ここから何をするか。 在宅で本当に問題になるのは、高い血圧よりも、下がりすぎた血圧のほうです。転倒、骨折、失神、そして気づかれないまま進む脱水や感染。 この回は、低い血圧を3つに分けて、立つ・食べる・湯につかるという動作で下がる血圧の測り方と防ぎ方、 体の中身で下がる血圧の犯人探し、そしてショックの線を引きます。 最後に、2025年のガイドラインが書いた「降圧薬を減らす相談」の材料と、終末期の血圧の見方を扱います。

この3連コラムの現在地 第1回 血圧とは 第2回 高血圧をみたとき 第3回 低血圧をみたとき 第3回 低血圧をみたとき——立つ・食べる・湯につかるで下がる血圧と、ショックの線

この回の結論

  1. 低い血圧に「ここから異常」という基準値はない。読むのは、その人の平常からどれだけ下がったか、そして皮膚・意識・尿・脈がどうなっているかである。上の血圧が100以下なら理由を探し、90以下なら症状がなくても主治医へ伝える。
  2. 低い血圧の大半は、立つ・食べる・湯につかるという動作で下がるものと、脱水・出血・感染・薬で下がるものである。前者は「立ったときの血圧」を測れば見え、後者は体重・便の色・体温・お薬手帳で見える。
  3. 冷たく湿った皮膚、急なぼんやり、尿が出ない、速い呼吸のどれかが低い血圧に重なれば、それはショックの線である。原因を探すのは後で、まず119番。そして、降圧薬を看護師の判断で止めたり飛ばしたりせず、「今日の分をどうするか」を主治医にその日のうちに聞く。

SECTION 01 低い血圧に「基準値」はない——平常との差と、体のサインで読む

高血圧には140/90という診断の線がありますが、低血圧には学会が定めた診断の線がありません。 上の血圧が90や100を切ったら低血圧、と教わった人が多いと思いますが、それは目安であって基準ではありません。 もともと上の血圧が100前後で何十年も元気に暮らしている人がいる一方で、平常が160の人の128は、数字の上では正常でも、 その人にとっては32下がっています(看護師版連載 第6回)。低い血圧は、高い血圧以上に「その人の平常」が要ります。

それでも数字の目安は要るので、2つ持っておきます。1つは英国王立内科医会の早期警告スコア(NEWS2)で、 上の血圧が90以下なら3点、91〜100なら2点、101〜110なら1点と重みづけされています〔文献5〕。 もう1つは敗血症の簡易スコア qSOFA で、上の血圧100以下、呼吸数22以上、意識の変容の3項目のうち2つ以上で 敗血症を疑う、というものです〔文献6〕。どちらも「100」と「90」に線があります。 上が100以下なら理由を探し、90以下なら症状がなくても主治医へ伝える。これがこの回の数字の目安です。

ただし数字より先に見るものがあります。皮膚が冷たく湿っていないか、顔色が白くないか、急にぼんやりしていないか、 尿が出ているか、呼吸が速くないか、脈が速いか遅いか。低い血圧は、脈と一緒に読むと原因の見当がつきます。 脈が速くて血圧が低ければ脱水・出血・感染の側、脈が遅くて血圧が低ければ薬や房室ブロックの側(「脈」3連コラムの第3回)です。

実務のコツ

低い血圧を見つけたら、数字を書く前に3つ触れます。手の温度と湿り気、脈の速さ、話し方がいつもどおりか。 そのあとで体温、SpO2、呼吸数を取り、今日の食事と水分の量、尿の回数、便の色を聞きます。 「88/50、手は温かい、脈72で整、話はいつもどおり、尿は朝から2回」と「88/50、手が冷たく湿っている、脈112、返事が遅い、尿は朝から出ていない」は、 同じ数字でも別の状態です。

SECTION 02 低い血圧を3つに分ける——動作で下がる、体の中身で下がる、ショック

低い血圧は、下がる理由の場所で3つに分けると動きやすくなります。1つめは立つ・食べる・湯につかるといった動作のあとに下がるもの、 2つめは脱水・出血・感染・薬・心臓といった体の中身の変化で下がるもの、3つめは循環が保てなくなったショックです。 3つめだけが今すぐ動く対象で、1つめは測り方を変えれば見え、2つめは犯人探しの型があります。

図1 低い血圧は「下がる理由の場所」で3つに分ける 1 動作で下がる——立つ、食べる、湯につかる、排尿・排便 見え方:座っていれば普通。立って数分でふらつく。食後1〜2時間に眠くなる・ぼんやりする。風呂上がりに転ぶ 探す:臥位(座位)と立位の血圧。食後の血圧。自律神経の病気(パーキンソン病・糖尿病)。降圧薬以外の薬 → 測って記録し、動作の仕方を変える。薬の見直しは主治医と 2 体の中身で下がる——脱水、出血、感染、薬、心臓 見え方:姿勢によらず低い。脈が速い(脱水・出血・感染)か遅い(薬)。体重が減った。食べていない。熱がある 探す:水(口・皮膚・尿・食事量)、血(便の色・抗凝固薬)、熱と呼吸数、お薬手帳、体重、浮腫と息切れ → 上が90以下なら当日中に主治医へ。「今日の降圧薬をどうするか」を必ず聞く 3 ショック——循環が保てなくなっている 見え方:冷たく湿った皮膚、蒼白、急なぼんやり・返事の遅れ、尿が出ない、速い呼吸。脈は速いことが多い 探す:探す前に119番。始まった時刻、体温、SpO2、呼吸数、出血の有無だけ控える → 救急隊を待つ間、横にして保温。嘔吐に備えて顔を横に。飲ませない 注:3つは重なる。脱水の人が立つと1と2が同時に起こり、感染が進めば2が3になる。分けるのは、探す順番と急ぐ度合いを決めるため。

図1 低い血圧の3分類。1は測り方で見え、2は犯人探しの型があり、3だけが今すぐ動く対象です。

種類数字の動き脈と皮膚動き方
動作で下がる座位は普通、立位で20以上下がる。食後に下がる脈はさまざま。皮膚は温かい立位の血圧を測る。動作を変える。薬を主治医と見直す
体の中身で下がる姿勢によらず平常より低い速い(脱水・出血・感染)か遅い(薬)。皮膚は乾いているか、熱い水・血・熱・薬・体重を探す。90以下は当日中に主治医へ
ショック90以下、または平常より大きく低い速い。冷たく湿って蒼白。尿が出ない119番。横にして保温。飲ませない

表1 低い血圧の3種類。「脈と皮膚」の列が、数字だけでは分けられない3つを分けます。

SECTION 03 立つ・食べる・湯につかる——動作で下がる血圧の測り方と防ぎ方

起立性低血圧——立って3分以内に、上が20以上または下が10以上

起立性低血圧の定義は、米国自律神経学会などが2011年に出した合意文書で、 立ち上がってから3分以内に、上の血圧が20以上、または下の血圧が10以上、持続して下がること、とされています〔文献4〕。 在宅で起こす理由は大きく2つで、1つは自律神経の障害(パーキンソン病、多系統萎縮症、糖尿病、加齢)、 もう1つは薬です。薬は降圧薬だけではありません。米国心臓協会が2024年に出した高血圧患者の起立性低血圧に関する声明は、 厳格な降圧が起立性低血圧を起こすわけではない人が大半で、悪化させている因子は降圧薬以外の薬であることが多い、と書いています〔文献7〕。 前立腺肥大の薬(α遮断薬)、抗精神病薬、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン薬、硝酸薬、利尿薬。お薬手帳の全体を見る理由です。

測り方は簡単で、時間だけかかります。座位(または臥位)で2分以上安静にして血圧と脈を測り、立ってもらって1分後と3分後にもう1回ずつ測ります。 立っている間、看護師は利用者さんの横に立ち、椅子を後ろに残しておきます。ふらついたらすぐ座らせて、その時点の値と症状を記録します。 症状がなくても20以上下がっていれば起立性低血圧です。「ふらつかないから大丈夫」ではなく、「数字で下がっているから転ぶ前に対策する」が順番です。

図2 立ったときの血圧の測り方——訪問の中の5分でできる 1 座位(または臥位)で2分以上安静にして、血圧と脈を測る これが「基準の値」。カフはそのまま巻いておく。椅子は立ったあとも後ろに残す 2 立ってもらい、1分後に血圧と脈を測る。看護師は横に立つ 腕は心臓の高さに。ふらつき・目の前が暗くなる・気分不良を聞く。あれば即座に座らせ、その値と症状を記録 3 3分後にもう1回測る。上が20以上、または下が10以上下がっていれば起立性低血圧 症状がなくても記録して主治医へ。脈が上がらないなら自律神経か薬(β遮断薬)を疑う材料になる 4 記録は「座位 136/78・脈72 → 立位1分 108/66・脈80 → 3分 104/64・脈82、めまいあり」の形 薬が増えた最初の訪問、転倒のあと、ふらつきの訴えがあったとき、食事量が落ちたときに測る 注:定義は 2011 年の合意文書〔文献4〕。立てない人は、臥位から座位(上体を起こして足を下ろす)への変化で代用する。

図2 立ったときの血圧の測り方。時間はかかりますが、転倒の予測としてこれより確かな数字は在宅にありません。

実務のコツ

起立性低血圧が分かったら、その日からできる対策は動作の側にあります。 起きるときは、寝返り、座って30秒、足を下ろして30秒、立って30秒、それから歩く。 朝いちばんとトイレの夜間は特に下がりやすいので、ベッドの横に座って足踏みをしてから立つ。 水分をとれる人は、朝起きたときにコップ1杯を先に飲む。弾性ストッキングや腹帯を勧めることもありますが、それは主治医と相談してからです。 薬を減らすかどうかも主治医の判断で、看護師が渡すのは「立位で何mmHg下がるか」の数字です。

食後低血圧——食べたあと2時間の眠気とふらつき

高齢者では、食後に血圧が下がることがあります。1995年の総説は、食後に上の血圧が20以上下がるものを食後低血圧と定義し、 失神、転倒、めまい、脱力、狭心症、脳卒中の原因になること、起立性低血圧より頻度が高い可能性があること、 高齢の高血圧患者に特に多いことを述べています〔文献8〕。 昼食後に急に眠くなる、デイサービスの食後に椅子から崩れる、食後のトイレで転ぶ。これらは「歳のせい」ではなく、食後低血圧のことがあります。 疑ったら、食前と食後1時間・2時間の血圧を、家族の協力で測ってもらいます。 対策は、食後1〜2時間は立って動く用事を入れない、食後すぐの入浴を避ける、降圧薬の服用時刻を主治医と相談する、といった生活の側の調整です。 同じ総説は、よく勧められるカフェインについて、根拠となるデータは乏しいとしています〔文献8〕。

入浴——冬の浴槽は、血圧が上がってから下がる場所

消費者庁は2020年11月、高齢者の「不慮の溺死及び溺水」による死亡が交通事故死より多くなっていること、 その多くが家の浴槽で11月から4月の冬季に起きていることを注意喚起しました〔文献9〕。 寒い脱衣所で血圧が上がり、熱い湯で血管が開いて下がり、浴槽から立ち上がった瞬間にさらに下がる。 起立性低血圧と同じ仕組みが、逃げ場のない浴槽の中で起きます。 消費者庁が挙げる対策は5つで、入浴前に脱衣所と浴室を暖める、湯温は41度以下で湯につかる時間は10分まで、 浴槽から急に立ち上がらない、食後すぐ・飲酒後・服薬後の入浴を避ける、入浴前に同居者に一声かける、です〔文献9〕。 訪問看護が入浴介助をするなら、この5つは手順書に入れておくべきものです。

注意

「食後すぐ」「服薬後」の入浴を避ける、という消費者庁の項目は、食後低血圧と降圧薬の効き始めが重なる時間を避ける、という意味です。 朝食後に降圧薬を飲んで、そのまま朝風呂に入る習慣の人は、いちばん危ない組み合わせです。 入浴の時刻と服薬の時刻を聞いて、重なっていれば、入浴を昼や夕方にずらすか、服薬時刻を主治医に相談します。

SECTION 04 体の中身で下がる——水、血、熱、薬、心臓の順に探す

姿勢によらず平常より低い血圧は、体の中で何かが減っているか、血管が開いているか、心臓が押し出せていないかのどれかです。 第1回の「心拍出量と血管抵抗」に戻れば、探す順番は決まります。

  • 水——脱水在宅でいちばん多い犯人です。夏の暑さ、下痢や嘔吐、食事量の低下、利尿薬、そして「トイレが近くなるから水を飲まない」という習慣。口の渇き、皮膚の乾き、尿の回数と色、体重の減り、そして脈が速いこと。脱水は血圧が下がる前に脈が速くなるので、脈の記録が先に教えてくれます。
  • 血——出血黒い便、赤い便、吐血、皮下出血の増加。抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる人、痛み止めを常用している人、貧血の既往がある人では最初に疑います。顔色と眼瞼結膜の白さ、脈の速さを見ます。出血が疑われる低血圧は、その日のうちに主治医へ、量が多ければ119番です。
  • 熱——感染敗血症では血管が開いて血圧が下がります。ただし高齢者は熱も出さず、血圧も下がらないまま重くなることがあります(看護師版連載 第6回)。qSOFA の3項目(上の血圧100以下・呼吸数22以上・意識の変容)のうち2つ以上なら、熱の有無にかかわらず敗血症を疑って動きます〔文献6〕。呼吸数を数えていなければ、この判断はできません。
  • 薬——降圧薬過多と、降圧薬以外の薬薬が増えた直後、体重が減ったのに薬の量が変わっていない、利尿薬、α遮断薬、抗精神病薬、抗パーキンソン薬、硝酸薬、睡眠薬。日本老年医学会のガイドラインは、起立性低血圧がある高齢者ではα遮断薬を原則使わず、利尿薬も中止か減量を考慮する、と書いています〔文献10〕。降圧薬によるめまいや立ちくらみは、血圧の下がりすぎで生じる副作用で、家庭血圧を知っていれば防げる、と日本高血圧学会も説明しています〔文献3〕。薬の側の犯人探しには、お薬手帳の全ページが要ります。
  • 心臓——心不全の悪化と不整脈浮腫、体重の増加、息切れ、横になれない。血圧が低くて脈が速く、足がむくんでいれば心不全の悪化です。脈が40台で血圧が低ければ、房室ブロックや薬の効きすぎ(「脈」3連コラム 第3回)。心臓の側の低血圧は、水を飲ませると悪化することがあるので、「低血圧だから水」と決めつけません。
注意

低い血圧を見て、看護師の判断で降圧薬を止めたり、その日の分を飛ばしたりしてはいけません。 β遮断薬は急に止めると狭心症や頻脈を起こすことがあり、心不全の薬は血圧が低くても続ける前提で処方されていることがあります。 看護師がすることは、「今日の降圧薬をどうしますか」を主治医にその日のうちに聞くことです。 そのとき渡す材料は、値・条件・平常との差、立位での下がり幅、脈、体重、食事と水分の量、お薬手帳で見つけた薬です。 主治医から「上が100を切ったら〇〇は飲まない」のような指示が事前に出ていれば、その指示どおりに動きます。 その指示があるかどうかを、低い血圧が出る前に確かめておくのが、第2回の頓服と同じ、訪問看護の仕事です。

SECTION 05 ショックの線——数字より、皮膚・意識・尿・呼吸

ショックは「血圧が低い状態」ではなく「臓器に血が届いていない状態」です。だから見るのは血圧の数字より、血が届いていない臓器のサインです。 皮膚に届いていなければ冷たく湿って蒼白になり、脳に届いていなければぼんやりして返事が遅れ、腎臓に届いていなければ尿が出なくなり、 体はそれを補おうとして呼吸と脈を速くします。この4つのどれかが低い血圧に重なっていれば、原因を探すのは後で、まず119番です。 NEWS2 の考え方でも、上の血圧90以下は単独で3点、つまりそれだけで緊急の評価を要する値です〔文献5〕。

救急隊を待つ間にできることは多くありません。横にして毛布で保温し、嘔吐に備えて顔を横に向け、飲ませない。 脚を上げる体位は、心不全や呼吸困難がある人ではかえって苦しくなるので、息が苦しそうなら上体を少し起こします。 始まった時刻、体温、SpO2、呼吸数、出血の有無、飲んでいる薬を控えて、救急隊に渡します。 急変後の初動(誰に何をどの順で連絡するか)は看護師版連載の第6回に書きました。

見るところ血が届いている血が届いていない(ショックの線)
皮膚温かく乾いている。爪を押すと2秒以内に色が戻る冷たく湿っている。蒼白か、まだら。色が戻るのが遅い
意識いつもどおりに話す急にぼんやり。返事が遅い。落ち着かない、あるいは眠り込む
尿いつもの回数と量半日出ていない。極端に濃い
呼吸と脈呼吸20回未満。脈は平常呼吸22回以上。脈が速い(薬で抑えられていると速くならないことがある)
血圧平常の幅の中上が90以下、または平常より30以上低い

表2 ショックの線。右の列が1つでも当てはまれば119番。血圧の行がいちばん下にあるのは、それが最後に動く項目だからです。

SECTION 06 「減らす」相談の材料と、終末期の血圧

第2回で見た2025年のガイドラインの表は、低い側にも線を引いています。 外来通院に介助が要る人(カテゴリー2)と外来通院が困難な人(カテゴリー3)では、上の血圧が120未満なら降圧薬の減量を考慮する。 カテゴリー3では120未満への降圧を避ける。エンド・オブ・ライフ(カテゴリー4)では降圧薬の段階的な減量・中止を考慮し、 未治療なら新しく治療を始めない〔文献1〕〔文献2〕。「薬を減らす」は、ガイドラインに書かれた選択肢です。

ただし減らすかどうかを決めるのは主治医で、看護師が渡すのはその材料です。 同じ条件で測った家での血圧の平均、立ったときの下がり幅、転倒やふらつきの記録、食事量と体重の推移、 そして買い物・服薬管理・トイレ・入浴が自分でできるかという生活の情報。 「上の血圧が3週続けて110台で、立つと20下がり、先週玄関で尻もちをつきました。体重はこの半年で3キロ減っています」という報告は、 主治医が薬を減らす判断をするために必要なものをすべて含んでいます。

終末期の血圧——測る意味を、家族と一緒に決め直す

看取りが近づくと、血圧は下がり、やがて測れなくなります。この時期の血圧は、治療の目標ではなく、経過を家族と共有するための数字です。 カフを巻くことが苦痛になる人もいます。当ステーションでは、本人と家族と話し合ったうえで、測る項目を減らす、あるいは測らない選択をすることがあります (「バイタル測定で何がわかる?」のコラム)。そのとき見るのは、呼吸の楽さ、表情、手足の温かさ、眠れているかです。 「血圧が下がってきました」と家族に伝えるときは、それが何を意味するかを、主治医と言葉をそろえてから伝えます。

報告の型——低い血圧は、脈・皮膚・立位の値と「今日の薬」を添えて渡す

「Aさん、本日11時、座位2分後に右で2回、92/54と90/52でした。いつもは120台です。 手は温かく、脈は104で整、話し方はいつもどおり。立位1分で84/50、めまいあり。 3日前から下痢が続き、食事は半分、尿は朝から1回で濃いそうです。体重は先週から1.5キロ減っています。 脱水と降圧薬の効きすぎと考えています。今日の降圧薬と利尿薬をどうしますか。点滴の指示は必要でしょうか。」 脱水が疑われる低血圧の伝え方の例。「今日の薬をどうするか」を必ず聞く
「Bさん、いつも140台の血圧が今日は86/48です。手が冷たく湿っていて、顔色が白く、呼吸が26回、脈は118です。 返事が遅く、朝から尿が出ていないとご家族が言っています。体温は37.1度ですが、昨日から尿が濁っているそうです。 敗血症性ショックを疑い、いま救急要請しました。ご報告です。」 ショックの線を越えたときの伝え方の例。主治医への連絡は救急要請のあとでよい
他職種はここを見ている

理学療法士・作業療法士は、安静時の上の血圧が70以下ならその日のリハビリを始めず、 座位でめまい・冷や汗・嘔気があれば行わない、という日本リハビリテーション医学会の基準を使っています(セラピスト版連載 第8回)。 看護師が「立位で20下がる」と伝えると、リハビリの立ち上がり練習の組み立てが変わり、 リハ職が運動中に見た血圧の戻り方が看護師に返ってきます。 ヘルパーが知りたいのは「起こすときに何秒待つか」「入浴の湯温と時間」という形の指示で、 薬剤師が知りたいのは「降圧薬以外に血圧を下げる薬が何種類入っているか」です。

当ステーションの視点

在宅で人を転ばせるのは、高い血圧ではなく、低い血圧です。

高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、何年もかけて脳と心臓と腎臓を傷めます。けれど今週、この家で、この人を転ばせて骨折させるのは、 朝いちばんに立ち上がった瞬間の血圧の落ち込みであり、昼食後の眠気であり、冬の浴槽から立ち上がった一歩です。 当ステーションが新しい人に伝えているのは、血圧の記録に「立ったときの値」がないなら、その記録は転倒を予測できていない、ということです。 座って測った136/78は、立って測った104/64を隠します。

もう1つ。低い血圧を見たときに、看護師がいちばんやってはいけないのは、黙って薬を飛ばすことと、黙って薬を続けることです。 どちらも「主治医に今日の分をどうするか聞く」という一手間で避けられます。 2025年のガイドラインは、要介護の人や終末期の人で降圧薬を減らす・やめるという選択肢を明文化しました。 その選択肢が実際に使われるかどうかは、家での血圧の平均、立ったときの下がり幅、転倒の記録、体重、食事量を、 看護師が持っているかどうかにかかっています。

脈・皮膚・意識・尿を見てショックの線を越えていれば119番。越えていなければ、動作か、体の中身かを分けて探す。 そして今日の薬をどうするかを聞く。この3つの順番を、玄関を開ける前に持っておいてください。 3回にわたって血圧の話をしてきましたが、最後に残るのは「その人の平常値」と「同じ条件」という、第1回の2つの言葉です。

採用のご案内

ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。

この3回のコラムは、家で測った血圧の数字をどう読み、高いとき・低いときに何を疑い、誰にいつ伝えるかを、 当ステーションが日々の訪問で実際に確かめていることをもとに書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒に確かめていく順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。

1. いきなり一人にしません 見学から一部実施、メイン担当、見守り、単独訪問へ。段階を戻すことを失敗と呼びません。
2. 医師との距離が近い環境 同じ法人にふくろう訪問クリニックがあり、迷ったときに相談できる相手がすぐ近くにいます。
3. 「わかりません」と言える その日のうちに報告できることを、技術より先に身につけてほしいと考えています。
いちばん早いのは、当ステーションへ直接ご連絡いただくことです
  1. 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
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  3. 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
まずは見学だけでも歓迎します/お電話・メールどちらでも

ブランクのある方、病棟の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。

訪問で「できる」チェックリスト(第3回ぶん)

  • 低い血圧を見たら、数字を書く前に、手の温度と湿り気・脈の速さ・話し方を確かめている
  • ショックの線4つ(冷たく湿った皮膚・急なぼんやり・尿が出ない・速い呼吸)を、見ないで言える
  • 起立性低血圧の定義(3分以内に上が20以上または下が10以上)と測り方を言える
  • 薬が増えた最初の訪問、転倒のあと、ふらつきの訴えのあとに、立ったときの血圧を測っている
  • お薬手帳から、降圧薬以外で血圧を下げる薬(前立腺肥大の薬・抗精神病薬・抗パーキンソン薬・硝酸薬)を拾える
  • 入浴介助の手順に、消費者庁の5つ(暖める・41度以下10分・急に立たない・食後すぐと服薬後を避ける・一声)が入っている
  • 「上が100を切ったら〇〇は飲まない」のような事前の指示があるかを、担当の利用者さんごとに確かめてある
  • 降圧薬を減らす相談の材料(家での平均・立位の下がり幅・転倒・体重・食事量・生活動作)をそろえて主治医に渡せる

Q&A よくある質問

Qもともと上の血圧が90台の利用者さんがいます。毎回主治医に報告すべきですか。
A平常が90台で、症状がなく、皮膚が温かく、脈と尿が普段どおりなら、毎回の報告は要りません。その代わり、平常値を「90〜100、座位、右、症状なし」と幅と条件つきで記録し、主治医と「この人は90台が平常」という認識を共有しておきます。報告するのは、その平常からさらに下がったとき(80台、または立位でさらに20下がる)と、脈・皮膚・意識・尿のどれかが変わったときです。低い血圧の人ほど、平常値の共有が効きます。
Qパーキンソン病の利用者さんが、立つと上の血圧が40も下がります。どうすればよいですか。
Aパーキンソン病では自律神経の障害で起立性低血圧が起こり、抗パーキンソン薬そのものも血圧を下げます。看護師がすることは3つです。立位の下がり幅と症状を毎回同じ条件で記録すること、起き上がりの動作を段階に分けて本人と家族に教えること、そしてその数字を主治医と神経内科に渡すことです。昇圧薬(ミドドリンなど)や弾性ストッキング、食塩の調整は医師の判断で、看護師が勝手に勧めることではありません。多系統萎縮症では起立性低血圧がより強く出るので、40という数字は診断の側にも意味があります。
Q夏に血圧が下がる利用者さんに、看護師の判断で水分を多めに勧めてよいですか。
A脱水の所見(口渇、尿量減少、皮膚の乾燥、食事量の低下、脈の増加)がそろっていて、心不全や腎不全で水分制限がない人なら、通常の範囲で水分を勧めることは看護の判断でできます。ただし心不全のある人では、水分を増やすと浮腫や息切れが悪化します。心不全の既往、利尿薬、水分制限の指示があるかを先に確かめ、あれば主治医に相談してからにしてください。「血圧が低いから水」ではなく、「脱水の所見があるから水」です。夏は降圧薬の量を主治医が調整する人もいるので、家での平均を渡す時期でもあります。
Qデイサービスから「昼食後に血圧が80台に下がって、ぐったりしていた」と連絡がありました。
A食後低血圧をまず疑います。家でも食後1時間と2時間の血圧を家族に測ってもらい、食前との差が20以上あれば主治医に伝えます。デイサービスには、食後1〜2時間は立って動く活動や入浴を入れないこと、食後に横になれる場所を用意すること、起こすときは段階を踏むことを、看護師の言葉で伝えます。降圧薬を朝食後に飲んでいるなら、服薬時刻の相談も主治医にします。「ぐったりしていた」が、意識の変化や冷や汗を伴っていたなら、次に起きたときは救急要請でよいと、デイサービス側にも線を引いて渡しておきます。
Q看取りの時期に入った利用者さんの血圧が70台です。家族に何と伝えればよいですか。
Aまず主治医と、この時期の血圧をどう位置づけるか(治療の対象ではなく経過の共有であること、測る頻度、測らない選択)を言葉でそろえます。そのうえで家族には、数字より「呼吸が楽か、表情が穏やかか、手足は温かいか」を一緒に見る形で伝えます。血圧が下がってきたことは、体が終わりに向かっている経過として、隠さずに伝えます。カフを巻くことが本人の負担になっているなら、家族と話し合って測るのをやめることも選択肢です。2025年のガイドラインも、エンド・オブ・ライフでは降圧薬の段階的な減量・中止を考慮すると書いています〔文献1〕。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問看護リハビリステーションのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

3連コラム「訪問看護師のための『血圧』の見方」全3回

  1. 血圧とは——数字の正体と、家で「同じ条件」で測るということ
  2. 高血圧をみたとき——今日動く線と、その人の「下げどころ」
  3. 低血圧をみたとき——立つ・食べる・湯につかるで下がる血圧と、ショックの線

REFERENCE 参考資料

  1. 阿部雅紀. 高血圧管理・治療ガイドライン2025 〜改訂ポイント〜. 日大医誌. 2025;84(6):257-261(有害事象への注意、表10-4「75歳以上の高齢者の健康・機能状態によるカテゴリー分類と降圧指針」:収縮期血圧120未満で降圧薬の減量を考慮、エンド・オブ・ライフでの段階的な減量・中止). https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/84/6/84_257/_pdf/-char/ja
  2. 日本高血圧学会 高血圧管理・治療ガイドライン委員会(編). 高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025). ライフサイエンス出版, 2025年8月29日発刊. https://www.jpnsh.jp/guideline.html
  3. 日本高血圧学会・日本高血圧協会・ささえあい医療人権センターCOML(編). 一般向け「高血圧治療ガイドライン2019」解説冊子(降圧薬の副作用:めまい・立ちくらみは下がりすぎで生じる). https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019_gen.pdf
  4. Freeman R, Wieling W, Axelrod FB, et al. Consensus statement on the definition of orthostatic hypotension, neurally mediated syncope and the postural tachycardia syndrome. Clin Auton Res. 2011;21(2):69-72. doi:10.1007/s10286-011-0119-5
  5. Royal College of Physicians. National Early Warning Score (NEWS) 2: Standardising the assessment of acute-illness severity in the NHS. London: RCP, 2017. Chart 1: The NEWS scoring system(収縮期血圧 90以下=3点、91〜100=2点、101〜110=1点、220以上=3点). https://www.rcp.ac.uk/media/alxev00t/news2-chart-1_the-news-scoring-system_0_0.pdf
  6. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801-810. doi:10.1001/jama.2016.0287(qSOFA:収縮期血圧100以下・呼吸数22以上・意識変容)
  7. Juraschek SP, Cortez MM, Flack JM, et al. Orthostatic hypotension in adults with hypertension: a scientific statement from the American Heart Association. Hypertension. 2024;81(3):e16-e30. doi:10.1161/HYP.0000000000000236
  8. Jansen RW, Lipsitz LA. Postprandial hypotension: epidemiology, pathophysiology, and clinical management. Ann Intern Med. 1995;122(4):286-295. doi:10.7326/0003-4819-122-4-199502150-00009
  9. 消費者庁. 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!——自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています. 2020年11月19日. https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_042
  10. 日本老年医学会・日本医療研究開発機構研究費 高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班(編). 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(高血圧の項:起立性低血圧を有する場合はα遮断薬を原則使用せず、降圧利尿薬の中止・減量を考慮。前立腺肥大症治療薬・抗精神病薬の起立性低血圧). https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf
本記事は、公開されている法令・通知・ガイドライン等をもとに、訪問看護の実務に必要な範囲を整理したものです。 制度の取扱いは改定や個別の事情によって変わることがあります。実際の判断にあたっては、 主治医、所属事業所の管理者、審査支払機関、地方厚生局等の窓口にご確認ください。 個々の健康上の問題については、かかりつけ医にご相談ください。
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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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