栄養剤は処方してもらえないの?

ふくろう訪問看護リハビリステーション 2026年9月14日
この記事の結論(3行)
- 1「栄養剤」には医薬品と食品の2種類があり、保険が使えるのは医薬品(エンシュア、ラコールなど6品目)だけ。2026年6月1日から、入院中でない人に出すときは「手術後」「経管栄養」「医師が必要と判断した理由」のどれかを処方箋とレセプトに書くことが保険の条件になりました。
- 2保険が使えれば、イノラスを1日3パック飲んでも薬剤費は月2,300〜7,100円ほど(1〜3割負担)。自費(10割)になると薬価どおりでも月2万3千円を超え、食品の栄養剤も1本200kcalで190円前後が目安です。
- 3変わったのは「処方できない」ではなく「理由が要る」。ただし、理由を書いても審査で保険が切られる(査定される)例が現場では珍しくなく、切られた薬剤費は医療機関や薬局の負担になります。医師が処方に慎重になるのはそのためで、理由の材料(食事量・体重・飲み込み・飲み残し・買い物ができるか)を家から主治医に届けることが、いちばん確実な対策です。
「先生、栄養剤はもう保険で出せないんですか?」「薬局で買うと1本いくらですか?」——2026年の夏以降、訪問先でこの質問を受けることが増えました。きっかけは2026年6月1日に施行された令和8年度診療報酬改定です。エンシュアやラコールが「処方禁止」になったわけではありませんが、保険で出すための条件がはっきり文章になり、条件に当てはまらない人は自費か食品への切り替えを迫られるようになりました。
この記事では、①栄養剤の「医薬品」と「食品」の違い、②保険が使える3つの条件と、主治医が処方箋に書く内容、③保険が使える場合・自費になる場合の1か月の費用、④食品に切り替えるときに何を見て選ぶか、⑤訪問看護が家で集められる「理由の材料」を、厚生労働省・中医協・関係学会の一次資料に沿って整理します。数字はすべて出典を末尾に付けました。
「栄養剤」には2種類ある——医薬品か、食品か
病院で処方される缶入りの栄養剤も、ドラッグストアに並ぶカップ入りの栄養ドリンクも、中身はどちらも「たんぱく質・脂質・糖質・ビタミン・ミネラルを一度にとれる液体」です。見た目も味も似ていますが、法律上の扱いはまったく違います。
医薬品の栄養剤は「たん白アミノ酸製剤」という薬効分類に入る医療用医薬品で、薬価(国が決めた値段)があり、医師の処方箋で薬局から受け取ります。一方、食品の栄養剤は消費者庁の特別用途食品制度で「総合栄養食品」として許可を受けているものも多く、通常の食事で十分な栄養がとれない人向けに設計されていますが、健康保険の対象にはなりません。
中医協(中央社会保険医療協議会)の2025年12月12日の資料は、この2つを並べて「同程度の栄養を有する食品が市販されており、通常の食事による栄養補給が可能な患者の追加的な栄養補給はこうした食品で代替可能」と整理しました。これが今回の見直しの出発点です。
2026年6月1日から変わったこと——保険が使える3つの条件
令和8年度診療報酬改定で、医科点数表の「第5部 投薬」の通則に次の一文が加わりました。
入院中の患者以外の患者に対して、栄養保持を目的とした医薬品を投薬した場合は、区分番号F000に掲げる調剤料、区分番号F100に掲げる処方料、区分番号F200に掲げる薬剤、区分番号F400に掲げる処方箋料及び区分番号F500に掲げる調剤技術基本料は算定しない。ただし、当該患者が、手術後の患者である場合又は経管により栄養補給を行っている患者である場合はその旨を、必要な栄養を食事により摂取することが困難な患者である場合その他これに準ずる場合であって、医師が当該栄養保持を目的とした医薬品の投与が必要であると判断した患者に投薬する場合はその理由を処方箋及び診療報酬明細書に記載することで算定可能とする。
出典:厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 14. 重点的な対応が求められる分野(医薬品適正使用)」p.9、令和8年厚生労働省告示第69号(別表第一 医科診療報酬点数表)
読み替えると、「原則として保険では出さない。ただし3つの場合は、理由を書けば保険で出せる」というルールです。判定の順番を図にします。
対象は6品目。疑義解釈資料(その4、令和8年4月21日)の問33で、対象となる「栄養保持を目的とした医薬品」はイノラス配合経腸用液、エネーボ配合経腸用液、エンシュア・H、エンシュア・リキッド、ツインラインNF配合経腸用液、ラコールNF配合経腸用液の6品目と明示されました。定義は「たん白アミノ酸製剤のうち、効能又は効果が『一般に、手術後患者の栄養保持』で、用法及び用量に経口投与が含まれるもの」です。
対象外のもの。入院中の患者への投薬、在宅療養指導管理(胃瘻からの半固形栄養など)の薬剤として使う場合、クローン病などに効能が特定されているエレンタール、経口投与の用法がないラコール半固形剤は、この通則の対象ではありません(関係学会の指針による整理)。
書く場所。処方箋は「備考」欄、レセプトは摘要欄。記載要領は令和8年3月27日保医発0327第2号で定められています。
大切なのは、「処方できなくなった」のではなく「理由を文章にすることが条件になった」という点です。理由が書けるかどうかは、患者さんの状態を主治医がどれだけ把握できているかにかかっています。ここに訪問看護の出番があります(SECTION 07)。
「医師が必要と判断した理由」には何を書くのか——4学会の指針
3つめの条件「医師が必要と判断した理由」は、告示にも通知にも具体的な病名や状態が示されていません。そこで日本栄養治療学会・日本在宅医療連合学会・日本老年医学会・日本サルコペニア・フレイル学会の4学会が、2026年4月14日に「医薬品経腸栄養剤適正使用指針(第1版)」を連名で公表しました。指針は「保険給付の確約や、査定・返戻を受けないことを保証するものではない」と断ったうえで、医薬品の栄養剤の使用を考慮する患者像と、処方箋に書くべき内容を次のように整理しています。
| 区分(指針の項目) | どんな人か | 処方箋・レセプトに書くこと |
|---|---|---|
| 手術前(3-1-1) | 低栄養や低栄養リスク、サルコペニアがあり、手術に向けて短期間で栄養状態を改善する必要がある | 「食事で必要な栄養がとれない場合に準ずる」として、栄養介入が必要と判断した経緯 |
| 手術後(3-1-2) | 手術侵襲からの回復途上。消化器・頭頸部の手術では栄養状態の低下が1年以上に及ぶことも | 手術年月日。長期化する場合は、併存疾患や術後合併症など二次的な事由の詳記も検討 |
| 経管栄養(3-2) | 胃瘻・腸瘻・食道瘻・経鼻胃管で栄養をとっている | 直近の造設・挿入またはカテーテル交換の年月日(他院で行った場合は診療情報提供書で共有) |
| 低栄養(3-3-1) | GLIM基準などで低栄養と診断され、食事指導だけでは必要量を確保できない | 低栄養と診断した経緯と、食事からの摂取量・食事指導の効果が不十分と判断した経緯 |
| がん(3-3-2) | 摂取障害や消化吸収障害で低栄養。食品の選択・購入が難しいことも | がん種・進行度・治療の現況と、通常の食事・食事指導だけでは不十分と判断した旨 |
| 摂食嚥下機能障害(3-3-3) | 飲み込みの障害で、通常の食事から栄養補給ができない | 原疾患と摂食嚥下機能障害の診断、通常の食事からの栄養摂取が不十分と判断した経緯 |
| 厳密な栄養管理が必要(3-3-4/3-3-5) | 炎症性腸疾患・膵疾患、悪液質、重症心身障害、心不全・腎障害・糖代謝異常など、成分や用量の管理が要る | 疾患名・病態と、食品では成分管理やリスク管理が不十分と判断した旨 |
| 食品の選択・購入が難しい(3-3-6) | 経済的事情、老々介護、独居、本人や介護者の認知症・精神疾患、僻地など | 栄養補給が必要な病状と、患者・家族自身では食品の選択・購入が困難と判断した旨 |
表1 4学会「医薬品経腸栄養剤適正使用指針」(2026年4月14日 第1版)の3章をもとに作成。GLIM基準=低栄養の国際的な診断基準(体重減少・低BMI・筋肉量減少のいずれかと、摂取量減少または炎症の組み合わせ)。
指針は「低栄養のため」「食事量が少ないため」のような一言では足りず、状態(診断・数値・経緯)と目的をセットで書くことを求めています。たとえば「摂食嚥下機能障害(脳梗塞後)により経口摂取が1日の必要量の半分以下、3か月で体重が4kg(7%)減少、食事指導・食形態調整でも改善なく医薬品経腸栄養剤による補給が必要」のように、看護記録の数字がそのまま材料になります。
もう一つ見落とされがちなのが3-3-6「食品の選択・購入が困難」です。独居や老々介護で、通販や重い荷物の買い出しができない家は珍しくありません。これは医学的な理由とは別に、指針が明記した記載事項です。
「先生が栄養剤を出してくれない」というご相談を、2026年6月以降たびたび受けています。多くの場合、医師が出し渋っているのではありません。3つめの条件で理由を処方箋とレセプトに書いて処方しても、審査で「必要性が認められない」として保険が切られる(査定される)事例が、当法人や周囲の医療機関で続いているからです。そのしくみを知っておいてください。
- 「理由を書けば必ず通る」制度ではない。通則6は「理由を記載することで算定可能とする」としていますが、その理由が妥当かどうかは審査支払機関(社会保険診療報酬支払基金・国保連合会)と保険者が後から判断します。4学会の指針も「保険給付の確約や、査定・返戻を受けないことを保証するものではない」と明記し、処方医・薬剤師・審査側の間で判断が統一されていないことを危惧しています。
- 切られた薬剤費は、患者ではなく医療機関・薬局が負担する。査定されると、処方した医療機関の処方料・処方箋料、薬局の調剤料・薬剤料が支払われません。すでに患者さんに渡した栄養剤の代金を後から請求することはできないので、薬剤費はまるごと薬局と医療機関の持ち出しになります。1人あたり月2万円前後の薬剤費が続くと、処方を続けること自体が経営上の判断になります。
- 「食欲がない」「体力維持」では通らない。「低栄養のため」「食事量が少ないため」のような抽象的な理由は査定されやすく、診断(GLIM基準など)・数値(体重減少率、摂取量)・経緯(食事指導や食形態調整をしても改善しない)がそろって初めて審査に耐える記載になります。逆に言えば、記録が足りない状態で処方を求めることは、主治医に持ち出し覚悟の処方を頼むことになります。
患者さん・ご家族にお願いしたいのは、「出してくれない」と受け取る前に、主治医と訪問看護に食事量・体重・むせ・飲み残し・買い物の事情を伝えることです。理由の材料がそろえば主治医は書けますし、そろわなければ食品への切り替えを一緒に考えるほうが、結果として途切れずに栄養を続けられます。
なお、指針は処方後のモニタリングも求めています。飲めているか(アドヒアランス)を定期的に確認し、飲めていなければ種類やフレーバーの変更を考え、残薬があれば医師・薬剤師が連携して処方内容や服薬タイミングを調整する、という流れです。「出して終わり」ではないことが明文化されました。
保険が使えるとき、1か月いくら?——6品目の薬価
保険が使える場合の患者負担は「薬価×本数×負担割合(1〜3割)」に、調剤基本料や薬学管理料などが加わった額です。2026年4月1日以降の薬価から、1本あたりと100kcalあたりに直したものが表2です。
| 製品 | 1本の規格 | 熱量 | 薬価(1mL) | 1本あたり | 100kcalあたり |
|---|---|---|---|---|---|
| エンシュア・リキッド | 250mL 缶 | 250kcal | 0.71円 | 約178円 | 約71円 |
| エンシュア・H | 250mL 缶 | 375kcal | 0.91円 | 約228円 | 約61円 |
| エネーボ配合経腸用液 | 250mL 缶 | 300kcal | 0.83円 | 約208円 | 約69円 |
| ラコールNF配合経腸用液 | 200mL パウチ | 200kcal | 1.07円 | 約214円 | 約107円 |
| イノラス配合経腸用液 | 187.5mL パウチ | 300kcal | 1.39円 | 約261円 | 約87円 |
| ツインラインNF配合経腸用液 | 400mL(混合後) | 400kcal | 0.91円 | 約364円 | 約91円 |
表2 薬価は2026年4月1日以降のもの(KEGG MEDICUS 2026年8月版および薬価サーチ 2026年9月10日更新分で確認)。1本あたりは薬価×容量の単純計算で、実際の薬剤料は点数に換算されるため端数が異なります。エンシュア・リキッドやエネーボは開缶後冷蔵48時間以内、ラコールは冷蔵24時間以内に使い切る規定です。
参考までに、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の高齢者向け実践ガイドラインは、低栄養またはそのリスクがある高齢者に経口栄養補助(ONS)を勧める場合、1日あたり少なくとも400kcal・たんぱく質30gを目安としています。イノラス3パックは900kcal・たんぱく質36g、エンシュア・リキッド2缶は500kcal・17.6g、エネーボ2缶は600kcal・27gです。「補助」として使うなら1日2〜3本が現実的な量で、費用もこの前後で考えることになります。
自費(10割)になるとき、いくら?どこで買う?
3つの条件に当てはまらず保険が使えない場合、栄養剤を続けるなら選択肢は2つです。
道1 食品の栄養剤——価格はオープン、1本200kcalで190円前後から
食品の栄養剤はメーカー希望小売価格が設定されていない「オープン価格」で、販売店が値段を決めます。一例として、明治メイバランスMini(125mL・200kcal・たんぱく質7.5g)は、介護食品の通販サイトで1本189円(税込)でした(2026年9月閲覧)。100kcalあたり約95円で、表2の医薬品の薬価(100kcalあたり61〜107円)とほぼ同じ価格帯です。つまり、10割で買うなら医薬品も食品も値段はあまり変わらず、差がつくのは「保険が効くかどうか」です。
1日500kcal分(2.5本)を30日続けると約14,000円、1日400kcal分(2本)なら約11,000円になります。まとめ買いや店舗によって単価は変わります。
道2 医薬品を薬局で自費購入——できる薬局は限られ、2027年5月に原則禁止へ
6品目はいずれも「処方箋医薬品」ではないため、法律上は薬局が処方箋なしで販売すること(いわゆる零売)が禁じられていません。ただし厚生労働省は2005年から「処方箋に基づく販売が原則、販売は必要最小限」としてきました。健康保険の対象は保険医療機関や保険薬局を通じた「療養の給付」なので、この形での購入は全額自己負担で、価格は薬局が自由に設定します。
2025年5月21日に公布された改正薬機法(令和7年法律第37号)は、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても「処方箋に基づく販売」を法律上の原則とし、処方箋なしの販売は省令で定める「やむを得ない場合」に限ることにしました。施行は2027年5月20日の予定です。想定されている例は「処方されている薬が不測の事態で手元になく、受診もできず、一般用医薬品で代用できない場合」などで、栄養剤を毎月継続して買う用途は基本的に想定されていません。零売を続けたい事業者が国を相手に起こした訴訟は2026年9月18日に東京地裁で判決が言い渡される予定で、本記事執筆時点(9月14日)では結果が出ていません。
なお、保険診療を受けている医療機関で、同じ栄養剤を「保険外」として出せるかどうかは、混合診療の考え方に関わるため医療機関・薬局ごとに判断が分かれます。自費で続けたいときは、主治医と薬局に率直に相談してください。
医薬品と食品、中身はどう違う?——医学的な視点
中医協の資料は、医薬品と市販食品を並べて栄養組成を比較しています(表3)。
| 区分 | 品目 | 1本の容量 | 熱量(kcal/100mL) | たんぱく質(g/100mL) |
|---|---|---|---|---|
| 医薬品 | エンシュア・リキッド | 250mL | 100 | 3.5 |
| ラコールNF配合経腸用液 | 200mL | 100 | 4.4 | |
| エネーボ配合経腸用液 | 250mL | 120 | 5.4 | |
| エンシュア・H | 250mL | 150 | 5.4 | |
| イノラス配合経腸用液 | 188mL | 160 | 6.4 | |
| 市販食品 | 食品A(半消化態) | 200mL | 150 | 5.7 |
| 食品B(半消化態) | 100mL | 200 | 8.0 |
表3 中医協総会(2025年12月12日)資料「食品に類似した医薬品と市販されている食品の比較①」より。食品A・Bは資料上も製品名が伏せられている。
エネルギーとたんぱく質だけを見れば、市販食品は医薬品と同等かそれ以上です。それでも4学会の指針が「医薬品を検討すべき」とする患者像を残したのは、次の点が違うからです。
| 項目 | 医薬品の栄養剤 | 食品の栄養剤 |
|---|---|---|
| 入手 | 医師の処方箋で薬局から(自費購入は例外的) | 店頭・通販で誰でも |
| 保険 | 3条件のいずれかを記載すれば1〜3割負担 | 使えない(全額自己負担) |
| 価格 | 薬価で全国一律(自費販売は薬局が設定) | オープン価格で店ごとに異なる |
| 品質管理と記録 | 医薬品の製造・品質管理基準で成分量が厳格に管理され、処方品目と量が必ず記録に残る | 食品の基準。何をどれだけ飲んだかは家族や看護の記録が頼り |
| 禁忌・注意 | 添付文書に禁忌(牛乳たんぱくアレルギー、重症糖尿病など製品による)と注意(心不全、腎障害、ワルファリン併用時のビタミンKなど)が明記 | 表示はあるが、病態に合わせた用量指導は医師・管理栄養士の役割 |
| 医療費控除 | 治療・療養に必要な医薬品の購入費として対象になり得る | 医薬品ではないため対象外 |
表4 4学会指針3-3-4/3-3-5、各製品の電子添文、国税庁の質疑応答(医薬品でない漢方薬・ビタミン剤等の購入費用は医療費控除の対象外)をもとに作成。
実務上いちばん効いてくるのは「禁忌・注意」の行です。たとえばラコールNF・エネーボ・イノラス・ツインラインNFは重症糖尿病など糖代謝異常のある人に禁忌で、エンシュアは牛乳たんぱくアレルギーに禁忌、ラコールやエネーボにはビタミンKが含まれるためワルファリンの効き目を弱めることがあります。医薬品の栄養剤には長期投与でセレン欠乏が報告されており、食品にも同様の注意が必要です。心不全や腎不全で水分や電解質の制限がある人、糖尿病でインスリンを使っている人は、「食品だから自由に」ではなく、医師や管理栄養士と量を決めてから始めるのが安全です。
訪問看護ができること——「理由の材料」は家の中にある
主治医が処方箋に書く「理由」は、診察室の数分では集めきれません。1週間の食事量、体重の推移、飲み込みの様子、飲み残しの本数とその理由は、家に通っている看護師がいちばんよく知っています。令和8年6月1日改正の訪問看護の運営基準(第9条)では、利用者の「服薬状況(残薬の状況を含む)」の把握と主治医への情報提供が明記され、薬局への情報提供も望ましいとされました。医薬品の栄養剤の飲み残しは、まさにこの「残薬」です。
食品に切り替えると決まったあとも、看護の仕事は続きます。甘い味が続くと飽きて飲めなくなる人には、スープ味やゼリータイプ、冷やす・少量ずつ・食間に飲むなどの工夫を一緒に試します。腎臓病や糖尿病の制限がある人には、たんぱく質やカリウム、糖質の表示を主治医・管理栄養士と確認します。介護保険の居宅療養管理指導や医療保険の在宅患者訪問栄養食事指導で管理栄養士が家に来る仕組みもあり、主治医を通じて依頼できます。
「保険が切れた」のではなく、「理由が要る」ようになった
今回の改定で一部の患者さんは自費になり、負担が増えました。それは事実です。ただ、私たちが訪問先で感じるのは、「保険で出せない」と言われた人の中に、本当は3つの条件に当てはまる人が混ざっている、ということです。飲み込みが悪くて食事が半分しか入らない、半年で体重が5kg落ちた、買い物に行ける人が家にいない——こうした事情は本人も家族も「当たり前」になっていて、診察室では言葉にならないことがあります。
- 「なぜ必要か」を、数字と経緯で残す。食事量・体重・むせ・飲み残しを毎回同じ書き方で記録すると、それがそのまま主治医の記載の材料になります。
- 飲めていない事実も、そのまま渡す。飲み残しが多ければ「必要」の根拠は弱くなり、査定の理由にもなります。それは残念なことではなく、種類や量を見直す、食品に切り替えるという次の判断のための情報です。
- 食品への切り替えは、看護の出番。味・温度・タイミング・家族の手間を一緒に調整し、体重が下がっていないかを見続けます。
- 迷ったら、一人で決めない。当ステーションは同一法人に訪問クリニックがあり、主治医・薬局と相談しながら、その人にとって続けられる形を探します。
医療費控除・施設入所・介護保険との関係
- 医療費控除 医薬品の購入費で控除の対象になるのは「治療又は療養に必要なもの」で、医薬品でない食品の購入費は対象になりません(国税庁の質疑応答「漢方薬やビタミン剤の購入費用」)。保険で処方された栄養剤の自己負担分は医療費控除の対象になります。医薬品を薬局で自費購入した場合は、治療目的であることが分かる領収書を残しておき、税務署や税理士に確認してください。食品の栄養剤は、医師の指示で買っていても原則対象外です。
- 介護保険 介護保険には栄養剤そのものを給付する仕組みはありません。関係するのは、管理栄養士が家に来る「居宅療養管理指導」と、介護保険施設で栄養管理を評価する加算です。訪問看護の利用者で栄養剤の費用が問題になったときは、ケアマネジャーと相談し、食費全体の見直しや配食サービスも含めて考えます。
- 施設に入所している場合 特別養護老人ホームや介護老人保健施設で施設の食事の一部として食品の栄養剤が出される場合、その費用は食費に含まれる扱いが一般的です。一方、配置医や外部の医師が医薬品の栄養剤を処方する場合は、今回の3条件がそのまま適用されます。施設ごとに契約が違うので、請求書の内訳を確認してください。
- 高額療養費 保険が使える場合の栄養剤の自己負担は、同じ月の他の医療費と合算して高額療養費の対象になります。自費購入分は合算できません。
チェックリスト——栄養剤の話が出たら確認する13項目
- いま飲んでいる栄養剤は医薬品(図1の6品目)か、食品か。
- 処方が続いている場合、処方箋の備考欄に「手術後」「経管栄養」または理由の記載があるか。
- その理由は、診断・数値・経緯がそろった審査に耐える内容か(一言の理由は査定されやすい)。
- 手術後なら手術年月日、経管栄養なら造設・交換の年月日を主治医が把握しているか。
- 食事の摂取量を「主食・副食の何割」「栄養剤は何本」で毎回記録しているか。
- 体重を同じ条件で月1回以上測り、1か月前・3か月前・半年前との差を書いているか。
- むせ・食事時間の延長・口腔内の残留など、飲み込みの変化を記録しているか。
- 栄養剤の飲み残し(残薬)の本数と理由を、主治医と薬局に伝えたか。
- 独居・老々介護・認知症など、食品を選んで買うことが難しい事情を主治医に伝えたか。
- 糖尿病・心不全・腎障害・牛乳アレルギー・ワルファリン内服など、製品選択に関わる情報を確認したか。
- 自費や食品に切り替える場合、1か月の費用を本人・家族と具体的な金額で話し合ったか。
- 食品に切り替えたあとも、体重と摂取量を続けて見る計画を立てたか。
- 管理栄養士の訪問(居宅療養管理指導など)を主治医・ケアマネジャーに相談したか。
よくある質問
いいえ。処方自体はできます。変わったのは、入院中でない人に出すときに「手術後」「経管栄養」「医師が必要と判断した理由」のどれかを処方箋とレセプトに書かないと保険が使えない、という点です。理由が書けない場合に自費や食品への切り替えになります。
まず、表1の患者像(低栄養、嚥下障害、がん、厳密な管理が必要な病態、食品の選択・購入が困難など)に当てはまる事情がないか、主治医と確認してください。当てはまっても、記録が乏しいと審査で切られることがあるため(Q3)、主治医は慎重になります。訪問看護を利用中なら、食事量・体重・飲み残しの記録を主治医に届けます。当てはまらなければ、食品の栄養剤に切り替え、体重が下がらないかを見ていきます。
本当に起きています。理由を記載して処方しても審査で必要性が認められず査定される例があり、その場合の薬剤費は患者さんではなく医療機関と薬局の負担になります。主治医が慎重になるのは、その負担が積み重なるためです。対策は、審査に耐える理由(診断・数値・経緯)を作れるだけの記録を家からそろえること、それでも難しければ食品の栄養剤に切り替えて体重を見ていくことです(SECTION 03の注意枠)。
経管栄養の患者さんは2つめの条件に当たり、造設や交換の年月日を記載すれば保険が使えます。ラコール半固形剤のように経口投与の用法がない製剤や、在宅療養指導管理の薬剤として扱われる場合は、そもそも今回の通則の対象ではありません。
薬価は250mL缶で約178円(2026年4月〜)ですが、自費販売の価格は薬局が決めるため、薬価どおりとは限りません。処方箋なしで販売するかどうかも薬局の判断で、2027年5月20日以降は改正薬機法で原則禁止になる予定です。継続して買う前提にはしないほうが安全です。
1本あたりのエネルギー(kcal)とたんぱく質(g)、「総合栄養食品」の許可マーク、味の種類、容量です。腎臓病ならたんぱく質・カリウム・リン、糖尿病なら糖質、心不全なら水分と塩分を主治医・管理栄養士と確認してください。同じシリーズでも総合栄養食品の許可がある製品とない製品があります。
医薬品でない食品の購入費は、医師の指示があっても医療費控除の対象になりません。保険で処方された栄養剤の自己負担分、治療のために自費購入した医薬品の栄養剤は対象になり得ます。領収書を保管し、税務署に確認してください。
4学会の指針は国際的なGLIM基準による診断を勧めています。GLIM基準は、体重減少(半年で5%超など)・低BMI(アジア人は70歳未満18.5未満、70歳以上20未満)・筋肉量減少のいずれかと、食事摂取量の減少または疾患による炎症のいずれかを組み合わせて診断します。体重と食事量の記録がそのまま診断の材料になります。
ご相談ください。訪問看護は主治医の指示のもとで食事や体重などの状態を把握し、主治医に情報を提供する立場にあります。栄養剤の切り替えや費用の心配も、訪問時にお話しください。同一法人のふくろう訪問クリニックとも連携しています。
これまでと、これからの期日
ご利用・採用のご案内
ふくろう訪問クリニック
福岡市早良区|訪問診療
- 緩和ケア・難病・精神科・認知症の在宅医療
- 通院が困難な方の自宅・施設への訪問診療
- ふくろう訪問看護リハビリステーションと同一法人で連携
栄養剤の処方についてのご相談は、主治医とあわせてお受けします。
ふくろう訪問看護リハビリステーション
福岡市早良区|訪問看護・訪問リハビリ
- 神経難病・末期がん・精神科の訪問看護に対応
- 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による訪問リハビリ
- 栄養剤や食事のことも、訪問時にご相談ください
電話 092-834-8581(平日9:00〜18:00)
訪問看護師・セラピストを募集しています
ふくろう訪問看護リハビリステーションでは、看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(常勤・非常勤)を募集しています。訪問看護が未経験の方も歓迎します。人材紹介会社を通さない直接応募がいちばん早く、条件を決める人と直接相談できます。
紹介手数料がかからないぶんを、応募いただいた方に還元しています。
募集職種 看護師/理学療法士/作業療法士/言語聴覚士
電話 092-834-8581(平日9:00〜18:00)
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 14. 重点的な対応が求められる分野(医薬品適正使用)」(栄養保持を目的とした医薬品の保険給付の適正化、訪問看護の運営基準の見直し)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001696833.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
- 令和8年厚生労働省告示第69号 別表第一 医科診療報酬点数表 第5部 投薬 通則6 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その4)」令和8年4月21日事務連絡、問33(対象6品目)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001694332.pdf
- 「診療報酬請求書等の記載要領等について」等の一部改正について(令和8年3月27日 保医発0327第2号)https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001713906.pdf
- 中央社会保険医療協議会総会(第635回、令和7年12月12日)総-2「個別事項について(その15)医薬品その他」https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001610162.pdf(議事次第 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67045.html)
- 日本栄養治療学会・日本在宅医療連合学会・日本老年医学会・日本サルコペニア・フレイル学会「医薬品経腸栄養剤適正使用指針」2026年4月14日 第1版 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20260508_01_01.pdf(日本栄養治療学会の公表ページ https://www.jspen.or.jp/)
- エンシュア・リキッド 電子添文(2024年2月改訂 第3版)KEGG MEDICUS https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00002007
- ラコールNF配合経腸用液 電子添文(2022年6月改訂)KEGG MEDICUS https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00059706
- エネーボ配合経腸用液 電子添文(2022年5月改訂)KEGG MEDICUS https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062732
- 薬価サーチ(2026年4月1日以降の薬価:エンシュア・H、イノラス配合経腸用液、ツインラインNF配合経腸用液)https://yakka-search.com/
- 薬事日報「零売薬局とは?『買える薬』や原則禁止の背景を2026年時点の制度をもとに解説」2026年8月21日 https://www.yakuji.co.jp/entry138258.html
- 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要」https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001492021.pdf/「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」https://www.mhlw.go.jp/content/000974058.pdf
- 消費者庁「特別用途食品について」(病者用食品・総合栄養食品)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses
- 株式会社明治「明治メイバランスMini」製品情報 https://www.meiji.co.jp/meiji-eiyoucare/products/nutritionfood/meibalance_mini/index.html/価格の例:えみえケアフーズ「明治メイバランスMini ヨーグルト味 125ml」189円(税込、2026年9月14日閲覧)https://www.emie-carefoods.shop/view/item/000000000628
- 国税庁 質疑応答事例「漢方薬やビタミン剤の購入費用」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/39.htm/タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1122.htm
- Volkert D, Beck AM, Cederholm T, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958-989. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2022.01.024
- Cederholm T, Jensen GL, Correia MITD, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition – A consensus report from the global clinical nutrition community. Clin Nutr. 2019;38(1):1-9. https://doi.org/10.1016/j.clnu.2018.08.002
本記事は2026年9月14日時点で公表されている告示・通知・学会指針・製品情報に基づいて作成しました。薬価は2026年4月1日以降のもので、今後の改定で変わります。自費販売や食品の価格は販売店ごとに異なります。保険給付の可否は個々の患者さんの状態と処方内容によって審査され、本記事は特定の処方の給付を保証するものではありません。医療費控除の取扱いは税務署または税理士に、個別の栄養剤の選択は主治医・薬剤師・管理栄養士にご確認ください。記載内容に誤りがあればステーションまでお知らせください。速やかに訂正します。

