暮らしをみる:ゼロから始める訪問看護

暮らしをみる
情報は家の中に置いてある
前回は「からだ」を、その人の平常値からのズレで読みました。今回は「暮らし」です。 訪問看護師は、病院のどの職種も入れない場所——生活そのものの中——に上がりこんでいます。 そこには、本人が言わない情報、言えない情報、言葉にならない情報が、物として置いてあります。 この回を読み終えたときに身につけてほしいのは、家の中の何を見て、それをどう言葉にして、誰に渡すか、です。
この回の結論
- 在宅のアセスメント情報の多くは、聞き出すものではなく、家の中に置いてあります。冷蔵庫、ゴミ、薬の袋、床の擦れ、玄関の履物、暖房器具。これらは本人の申告よりも正直で、しかも家に上がった人にしか見えません。
- ただし、家の環境に手を入れることは、誰にでも効くわけではありません。転倒歴のある人など、リスクの高い人に、その人の生活に合わせて行ったときにだけ、はっきり効くことがわかっています。
- だから、暮らしをみるとは、家を採点することではなく、その人がこの家でどう動いているかを見ることです。直す前に、まず動きを見せてもらいます。
SECTION 01 「暮らしをみる」は、看護のどこに書いてあるのか
新人のうちは、家の中の様子を見ることが、看護の本業の外側にある「おまけ」のように感じられることがあります。 バイタルを測って、処置をして、それが看護で、生活の話は世間話。そう思ってしまうのは自然です。 病棟では、生活の情報はたいてい誰かが聞き取ってカルテに入れてくれていたからです。
けれども、訪問看護の様式は、まったく逆の順番で作られています。 利用者ごとに最初に作る訪問看護記録書Ⅰ(参考様式1)が最初に並べているのは、検査値でも処置でもなく、暮らしの欄です。
図1 様式が最初に問うているのは、病名や検査値ではなく暮らしのほうです。「住環境」「生活歴」「主な介護者」は、家に入った人でなければ書けません。
精神科の様式はさらにはっきりしています。精神科訪問看護記録書Ⅰには「日常生活等の状況」という欄があり、 食生活・清潔・排泄・睡眠・生活のリズム・部屋の整頓・金銭管理・服薬状況・作業等の状況・対人関係について、 それぞれ「援助の要否」を記入するようになっています。部屋が片づいているかどうかを書く欄が、国の様式にあるということです。
つまり「暮らしをみる」は、気の利いた看護師が個人的にやっている追加サービスではありません。 制度のほうが、それを訪問看護の仕事として書いているのです。 見なくてよいものを見ているのではなく、見ることになっているものを見ていないと、様式の欄が埋まりません。
主治医が診察室で得られないのは、まさにこの部分です。外来には、その人が「いちばん整った状態」で来ます。 髪を整え、着替え、家族の車で来て、椅子に座って話す。冷蔵庫の中身も、夜中のトイレまでの距離も、診察室には持ち込まれません。 医師が訪問看護からの報告でいちばん驚くのは、検査値ではなく生活のほうです。
SECTION 02 情報は家の中に置いてある——7つの置き場所
在宅で困るのは、聞いても本当のことが返ってこない場面です。 嘘をつかれているわけではありません。食べていますか、と聞かれた人は、食べているつもりのことを答えます。 薬は飲めていますか、と聞かれた人は、飲んでいるつもりのことを答えます。 人は自分の生活を、実際より少しだけ整った形で記憶しています。これは誰でもそうです。
だから訪問看護は、聞くことに頼りません。家の中には、本人の記憶より正確な記録が置いてあります。 しかもそのほとんどは、探し出すものではなく、玄関から居室に向かう数十歩のあいだに通りかかるものです。
図2 1か所ずつ確認して回るのではなく、訪問の流れの中で目に入ったものを覚えておき、帰ってから並べます。
「見る」と「開ける」は違う
ここで新人がいちばん迷うのが、どこまで見てよいのかという線引きです。 目に入るものを見るのと、扉を開けて中を確かめるのは、別のことです。前者は訪問していれば避けられませんが、後者には理由と断りが要ります。
- 目的を先に言う「お薬がちゃんと足りているか見たいので、置いてある場所を見せてもらえますか」。何のために見るのかを先に言えば、たいていのことは見せてもらえます。黙って開けるのがいちばんよくありません。
- 断られたら引く。そして、断られたことを記録する拒否は失敗ではなく情報です。前回は見せてくれたのに今回は断られた、という変化のほうが大きな意味を持つことがあります。
- 写真は撮らない状況を共有したくなっても、同意なく家の中を撮影しません。伝えたいことは言葉で書けます。撮る必要があると思ったら、その場で判断せず管理者に相談してください。
家に入ってすぐの3分は、まだ本人の話が始まっていない時間です。この時間に見えたものは、あとから思い出そうとしても出てきません。 訪問を終えて車に戻ったら、記録を書く前に、気づいたことをそのまま2〜3行だけメモしておくと、夜の記録が別物になります。
SECTION 03 家の環境に手を入れることは、誰にでも効くわけではない
暮らしを見ると、直したくなるところがいくらでも出てきます。ここで一度立ち止まってほしいので、 この分野でいちばん確からしい研究結果を先に置いておきます。
地域で暮らす60歳以上の高齢者を対象に、家の中の転倒の危険を評価して環境を調整する介入の効果をまとめたコクラン・レビュー(22試験・8,463人)があります。 結論は、ひとことでいうと「効く相手が決まっている」でした。
図3 同じ介入が、対象の選び方だけで38%減と「変わらない」に分かれます。数字の差は介入の質ではなく、誰に行ったかの差です。
数字を並べると、こうなります。全体では転倒の発生率が26%減り(発生率比0.74、12研究・5,293人)、 転倒しやすいと判断された人に絞ると38%減りました(0.62、9研究・1,513人)。 ところが、転倒リスクで選ばずに行った場合は減りませんでした(1.05、6研究・3,780人)。 骨折や入院を減らせたかどうかは、はっきりしていません。
同じ介入で、なぜ結果が分かれるのか
同じことをしているのに0%と38%に分かれるのは、統計の読み方の問題ではなく、 もともと起きるはずのなかった転倒は減らしようがないからです。整理すると3点になります。
- 減らせる転倒が起きていない集団では、何をしても数字が動かない元気な人に手すりをつけても、その手すりが使われる場面がそもそも来ません。訪問看護が関わっているのは、この研究で効果がはっきり出た側の人たちです。
- 効いたのは「その家に合わせた調整」であって、一般的な助言ではない危険の一覧を渡すだけの教育介入については、転倒を減らすかどうか判断できるだけの根拠がない、というのがこのレビューの評価です。
- 環境の危険の数より、その人と環境の噛み合わせのほうが転倒を予測する同じ段差でも、そこを毎日どう通っているかで意味が変わります。危険を数えるより、その人が実際にどう動くかを見るほうが当たる、という報告があります(Iwarsson S, et al. 2009)。
「転倒予防のパンフレット」を渡して終わりにしないでください。渡すこと自体は悪くありませんが、 それだけで転倒が減るという根拠は、現時点でありません。効いていたのは、家に入った人が、その家の物と、その人の動きを見て、 具体的に一つ二つ変えて、実行できるまで付き合った介入のほうです。
これは、訪問看護にとってかなり良い知らせです。 転倒リスクの高い人の家に、毎週入っていて、その人が実際に動くところを見られる職種は、ほかにほとんどいません。 日本でも、地域の高齢者を対象に、看護職が家の中の危険を一緒に修正する介入を検証した無作為化比較試験が行われています(Kamei T, et al. 2015)。 私たちは、効くとわかっている介入を届けられる位置に立っています。
SECTION 04 家の中のどこで、何が起きているのか
どこを重点的に見ればよいかは、統計がだいたい教えてくれます。ただし出どころの違う数字を並べるので、先に断っておきます。 以下の数字は、調査の時点も、数えているものも違います。人口動態統計は亡くなった人、消防庁の統計は救急車で運ばれた人、 国民生活基礎調査は要介護になった原因です。互いに比べるための数字ではなく、それぞれが「家の中で起きている」ことを示すものとして読んでください。
図4 どの部屋も、訪問のたびに全部を点検する必要はありません。何が起きやすい場所かを知って通りかかるだけで、見えるものが変わります。
介護が必要になった主な原因を2025年の国民生活基礎調査でみると、要介護者では「認知症」23.6%、次いで「骨折・転倒」14.8%。 要支援者では「高齢による衰弱」17.7%、「関節疾患」14.8%、「骨折・転倒」14.7%です。 つまり家の中での一度の転倒は、その人の暮らしの段階をひとつ下げる出来事として、統計にはっきり出ています。
浴室については、65歳以上の不慮の溺死・溺水の約8割が浴槽で起きており、そのうち約9割が家や居住施設の浴槽です(消費者庁)。 そして夏。2025年5月から9月の熱中症による救急搬送は10万510人で、高齢者が57.1%を占め、 発生場所は住居が38.1%と最も多くなっています(消防庁)。 暑さで運ばれる人の3人に1人以上が、外ではなく自分の家から運ばれているということです。
SECTION 05 温度は「その家の数字」——測れるのは訪問した人だけ
バイタルサインは体の数字ですが、室温はその家の数字です。そして室温は、 体温や血圧と違ってカルテのどこにも書かれていません。書けるのは、そこに行った人だけです。
世界保健機関(WHO)は2018年11月に公表した住宅と健康に関するガイドラインで、寒い季節の室温を18℃以上に保つことを勧告しています。 一方、日本の冬の住宅を実測した全国調査では、この18℃以上を満たしている家は1割に届きませんでした。 さらに、居間や脱衣所が18℃未満の住宅では、入浴事故のリスクが高いとされる42℃以上の「熱め入浴」が約1.7倍に増えることが報告されています(国土交通省の全国調査)。 寒い家に住んでいる人ほど、熱い風呂に入っているという関係です。
図5 「暑くないですか」と聞く前に、温湿度計を見ます。数字にしておくと、主治医にもケアマネジャーにもそのまま渡せます。
小さな温湿度計を訪問カバンに1つ入れておくと、記録が変わります。「居室は暑い」ではなく「訪問時の居室31℃・湿度68%、エアコンは停止」と書けるからです。 前者は感想ですが、後者は根拠です。エアコンを勧めても使ってもらえないときも、数字が残っていれば、次の一手をケアマネジャーや家族と相談できます。
SECTION 06 その家に、誰がいるのか
暮らしをみるとき、環境と同じくらい大事なのが人です。ここでも、思い込みを一度外してください。 「家族が同居しているから安心」も、「独居だから危ない」も、どちらも当たりません。
図6 同じ「独居」「同居」でも、確かめるべきことは違います。世帯の形ではなく、誰が何時にそこにいるかを聞きます。
数字をもう少し補っておきます。同居して主に介護している人が「ほとんど終日」介護に費やしている場合、 その人の続柄は配偶者が64.6%、子が28.9%です。要介護3以上になると「ほとんど終日」が最も多くなります。 介護者は利用者ではありませんが、その人が倒れたら、その家の療養はその日で終わります。
そして制度のほうも、介護者を見ることを求めています。毎月主治医に出す訪問看護報告書には「家庭での介護の状況」という欄があり、 記載要領は、家族等の介護の実施状況、健康状態、療養環境について記入すること、としています。 介護者の健康状態を書く欄が、公式の様式にあるということです。
訪問看護報告書の「家庭での介護の状況」欄について、記載要領は「利用者の家族等の介護の実施状況、健康状態、療養環境等について必要に応じて記入すること」と定めています (令和8年3月27日 保医発0327第10号、第一の2(2)⑤)。精神科訪問看護報告書では、この欄が「家族等との関係」となり、家族・友人等との対人関係を書きます。
SECTION 07 見つけたら、誰に渡すか
暮らしの課題は、看護師がひとりで解決できるものがほとんどありません。手すりを付けるのも、ヘルパーを増やすのも、 お金の相談に乗るのも、私たちの仕事ではありません。私たちの仕事は、見つけて、正確に、渡すことです。 そして渡し先は、内容によって決まっています。
| 気づいたこと | 渡す先 | 渡し方のコツ |
|---|---|---|
| 段差・手すり・移動 | ケアマネジャー 福祉用具専門相談員 |
「危ないです」ではなく「トイレの立ち上がりで、右手で洗面台の縁を握っている」と動作で伝える。工事や用具はケアプランに位置づけが必要で、住宅改修は着工前の申請が原則。 |
| 薬が残っている | 主治医 薬局(薬剤師) |
薬の名前・残っている数・いつの分かを数えて伝える。「飲めていません」だけでは処方は変わらない。 |
| 食べていない・やせてきた | 主治医 ケアマネジャー |
何を何回食べたか、体重、買い物と調理のどちらが止まったか。調理が止まったのなら配食やヘルパーの話になる。 |
| 暑い・寒い・冷暖房が使えない | ケアマネジャー 家族 |
訪問時の実測値と、使っていない理由(電気代・操作がわからない・故障・寒がる)をセットで。 |
| お金の心配、未払い | ケアマネジャー 地域包括支援センター |
推測を足さず事実だけ。「督促状が数通ある」「サービスを減らしたいと言われた」。判断はこちらでしない。 |
| 介護者が限界に近い | 管理者に報告し、主治医とケアマネジャーへ | 睡眠時間、体重、口にした言葉をそのまま。レスパイトや区分変更の相談につながる。 |
| 虐待が疑われる | 管理者に報告し、市町村または地域包括支援センターへ | 確証は要らない(SECTION 08)。見たこと・聞いたことを時系列で。自分で家族に問いただしに行かない。 |
表1 渡し先を間違えると、正しい気づきでも動きません。迷ったら、まず管理者とケアマネジャーの2か所です。
介護保険の住宅改修は、支給限度基準額20万円の範囲で、(1)手すりの取付け (2)段差の解消 (3)滑りの防止等のための床材の変更 (4)引き戸等への扉の取替え (5)洋式便器等への便器の取替え (6)これらに付帯して必要となる工事、の6種類に限られます。 原則として着工前に市町村へ申請し、ケアマネジャー等が作成する住宅改修が必要な理由書を添えます(老企第42号ほか)。 福祉用具は貸与が基本ですが、令和6年4月から、固定用スロープ・歩行器(歩行車を除く)・単点杖・多点杖については貸与と購入の選択制になりました。
良かれと思って、看護師が福祉用具の業者に直接連絡したり、家族に工事を勧めたりしないでください。 介護保険を使う以上、ケアプランへの位置づけと事前の手続きが先にあります。順番を飛ばすと、 工事後に「保険が使えません」となり、そのお金は誰も戻せません。急ぐときほど、ケアマネジャーに1本電話を入れるのが最短です。
SECTION 08 一線を越えるとき——虐待、セルフネグレクト、お金
暮らしをみていると、いつか必ず、看護の外側に見える場面に出会います。あざがある。呼び方がきつい。 年金の通帳を家族が持っている。ゴミがたまり、電気が止まっている。新人がここで固まるのは、 確証がないのに動いていいのかがわからないからです。法律は、その点をはっきり書いています。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。 出典:高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年法律第124号)第7条
ここで大事なのは3つです。
- 「受けたと思われる」で足りる虐待だと証明する必要はありません。判断するのは市町村であって、私たちではありません。私たちの役割は、疑わしいと思われる状況を、事実のまま届けることです。
- 守秘義務は、通報を妨げない法律が明文で書いています。「利用者の情報だから話せない」は、この場面では理由になりません。
- 通報した人は守られる通報を受けた市町村の職員には、通報した人を特定させる情報を漏らしてはならない義務があります(同法第8条)。同法第5条は、保健・医療・福祉の職務に従事する者に早期発見の努力義務も定めています。
規模も知っておいてください。令和6年度に市町村が受け付けた養護者(家族など)による高齢者虐待の相談・通報は41,814件、 虐待と判断されたのは17,133件でした(厚生労働省、令和7年12月公表)。まれな出来事ではありません。
その場で家族を問いただしたり、本人に「されているんですか」と確認したりしないでください。 関係が切れて訪問できなくなると、その家を見ている目がひとつ減ります。 新人が単独で判断する場面ではありません。訪問の帰りに管理者へ連絡し、事業所として動く形にします。
セルフネグレクトと、お金のこと
もうひとつ、判断に迷うのが、誰かに何かをされているのではなく、本人が自分の世話をやめてしまっている場合です。 ゴミがたまる、食べない、受診をやめる、季節に合わない服のままでいる。 背景に、認知症、うつ、痛み、経済的な事情、孤立のどれか、あるいは全部があります。
ここでも私たちがすることは同じです。片づけることでも、説得することでもなく、事実を記録して、つなぐことです。 福岡市の場合、高齢者の総合相談窓口は「いきいきセンターふくおか」(地域包括支援センター)で、市内に57か所あり、 保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーが対応します。虐待や消費者被害の相談も受けています。 担当のセンターは小学校区で決まっているので、訪問先ごとに窓口が違う点に注意してください。
受け持ちの家の担当センターの名前と電話番号を、記録の最初のページに書いておくと、必要になった日に探さずに済みます。 「困ってから調べる」ではなく「困る前に書いておく」。これは第2回でお伝えした、制度を覚えるのは断らないため、という話と同じです。
SECTION 09 見たことを、記録の言葉に変える
暮らしのアセスメントがいちばん壊れやすいのは、記録の段階です。見たものは具体的だったのに、 書いた瞬間に「部屋が汚い」「家族が非協力的」といった評価の言葉になってしまう。 こう書かれた記録は、次に行く人には何も伝えず、主治医には何も判断させず、あとで読み返した自分にも何も思い出させません。
書き方の原則はひとつです。見たこと・言われたこと・思ったことを、混ぜない。 そして最初の2つを主に書き、3つ目は「〜の可能性がある」として最後に少しだけ添えます。
| よくある書き方 | 事実で書き直すと | これで何ができるか |
|---|---|---|
| 部屋が汚い | 台所の流しに食器が数日分たまっている。玄関にゴミ袋3つ(前回は1つ)。 | 前回との差が出る。増えているのか、ずっとそうなのかで意味が変わる。 |
| 食べていない様子 | 冷蔵庫に未開封の弁当4つ、期限は3日前。本人は「ちゃんと食べとる」と話す。 | 配食は届いていて、食べる段階で止まっていることがわかる。 |
| 室内が暑い | 訪問時の居室31℃・湿度68%。エアコン停止、リモコンの電池切れ。 | そのまま医師にも家族にも渡せる。電池を買うだけで解決する場合もある。 |
| 家族が非協力的 | 長男は平日20時ごろ帰宅。昼の内服は本人が管理。長男より「昼は自分では無理」と発言あり。 | 非協力ではなく時間の問題だとわかり、昼の与薬をどうするかの相談に移れる。 |
| 転倒の危険あり | 寝室からトイレまで約4m、途中に新聞の束。夜間は照明なし。壁に手をついた跡。 | 直す場所が1か所に決まる。ケアマネジャーにもそのまま伝わる。 |
表2 右の列が書ける記録は、次に訪問する人が「自分の目で見たかのように」動けます。第4回でお伝えした平常値の記録と同じ考え方です。
ケアマネジャーがサービスを組み替えるとき、根拠として使えるのは事実の記録だけです。 「危ないので見守りを増やしてほしい」では会議で通りません。「夜間の排泄が2回、そのたびに4mを照明なしで移動、 壁に手をついている」と書いてあれば、そこから話が始まります。私たちの記録は、そのまま誰かの申請書の材料になります。
「片づけないでください」と言われる家が、必ずあります
新人が最初の数回でやりがちなのは、気づいた危険をその日のうちに全部なくそうとすることです。 床の物を寄せ、コードをまとめ、めくれたマットをはがし、新聞の束を隅に積み直す。 善意ですし、教科書的にも正しい行動です。それでも、私たちはこれを先にやりません。
その家の物の置き方は、たいてい偶然ではないからです。 ここに新聞の束が積んであるのは、そこに手をつくと立ち上がれるからかもしれません。 重いテーブルが動かせない位置にあるのは、そこを伝って歩いているからかもしれません。 何年もかけてできた動線です。私たちが1回の訪問で見ているのは、その家のほんの一部分にすぎません。
だから当ステーションでは、はじめのうちは動かさない・直さない・見せてもらうを先にします。 いつもどおりに立ってもらい、いつもどおりに歩いてもらい、いつもどおりにトイレまで行ってもらう。 どこで手をつくか、どこで一度止まるか、どこで息を整えるか。それを見てから、変える場所を1か所だけ、本人と決めます。 1か所です。全部変えた家は、次の訪問までに元に戻っているか、その人が転んでいるかのどちらかになります。
新人の訪問から持ち帰ってほしいのは、次の3つです。 1. その人がどこに手をつくか。2. その家に誰が何時にいるか。3. 変えていいものと、変えてはいけないもの。 この3つが言えれば、その日の訪問で処置がうまくいかなくても、暮らしのアセスメントとしては十分に成立しています。
ただし、ひとつだけ例外があります。気づいたのに黙っている、これはしません。 直さないことと、伝えないことは違います。動かさないと決めた危険も、記録に書き、管理者に言い、 必要ならケアマネジャーに渡します。私たちが預かっているのは、その家で起きていることを知っている、という事実そのものだからです。
ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、 観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりをそのまま書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。
- 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
- 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
- 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
- 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を募集しています(常勤・非常勤)
- お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
- メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
- 採用の詳細:求人情報のページ
ブランクのある方、病棟以外の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。
1年目チェックリスト(第5回ぶん)
- 玄関から居室までの動線を、実際に本人が動くところとして見た(見取り図だけで済ませていない)
- 寝床からトイレまでの距離、途中にある物、夜間の照明を確認した
- 訪問時の室温と湿度を、感想ではなく数字で記録した
- 薬の置き場所を見せてもらい、残っている薬を数えた
- 冷蔵庫やゴミから推し量ったことを、事実と推測に分けて書いた
- その家に、誰が何時にいるかを言える
- 主な介護者の睡眠・体調について、ひとつ以上聞けた
- 気づいた生活課題について、渡す先を決めて、実際に渡した
Q&A よくある質問
連載「ゼロから始める訪問看護」全10回
- 訪問看護という仕事の全体像——病棟と何が逆転するのか
- 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚
- 訪問1回の組み立て方——玄関の前から次回の予約まで
- からだをみる——「その人の平常値からのズレ」で読む
- 暮らしをみる——情報は家の中に置いてある
- 「いつもと違う」に気づき、動く——予測と急変時の初動
- 報告・連絡・相談——SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
- 記録と書類——訪問看護記録書・計画書・報告書
- 多職種連携——誰が何を持っていて、何を待っているか
- 家族とともにいる——意思決定支援から看取りまで
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省保険局医療課「訪問看護計画書等の記載要領等について」令和8年3月27日 保医発0327第10号(参考様式1 訪問看護記録書Ⅰ、参考様式3 精神科訪問看護記録書Ⅰ、別紙様式2 訪問看護報告書ほか)(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681763.pdf)
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- 総務省消防庁「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」令和7年10月29日(https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r7/heatstroke_nenpou_r7.pdf)
- 消費者庁「みんなで防ごう高齢者の事故!ー冬はお餅の窒息事故、入浴中の溺水事故が起きやすい季節ですー」令和4年12月27日(厚生労働省「人口動態調査」を基に消費者庁作成)(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_067/assets/consumer_safety_cms205_221227_02.pdf)
- 消費者庁「10月10日は『転倒予防の日』、高齢者の転倒事故に注意しましょう!ー転倒事故の約半数が住み慣れた自宅で発生していますー」令和2年10月8日(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_040)
- World Health Organization. WHO Housing and health guidelines. Geneva: WHO; 2018.(低温対策として冬季の室内温度18℃以上を勧告)
- 国土交通省「健康&快適生活|家選びの基準変わります」(スマートウェルネス住宅等推進調査事業/住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査の結果を掲載)(https://www.mlit.go.jp/shoene-jutaku/health-effects/index.html)
- 国土交通省「断熱改修等による居住者の健康への影響調査 中間報告(第3回)」(https://www.mlit.go.jp/report/press/house07_hh_000198.html)
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」(Ⅲ 熱中症を防ぐためには/日常生活での注意事項)(https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-1.pdf)
- 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(平成17年11月9日法律第124号)第5条・第7条・第8条(https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82aa7582)
- 厚生労働省「令和6年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67817.html)
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