「いつもと違う」に気づき、動く:ゼロから始める訪問看護

ゼロから始める訪問看護第6回/全10回

「いつもと違う」に気づき、動く

予測と急変時の初動

訪問看護でいちばん怖いのは、目の前で起きる急変ではありません。次に行くまでの数日のあいだに起きていた変化を、 前回の訪問で見落としていたと、あとから気づくことです。この回は「気づく」と「動く」を分けて扱います。 読み終えたときに、担当している人について「次に崩れるとしたら、どこからか」を言えるようになり、 気づいたあとの最初の5分に何をするかが、迷わず順番で出てくる状態を目指します。

この連載の現在地 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 第6回 「いつもと違う」に気づき、動く

この回の結論

  1. 高齢者は、教科書の順番どおりには悪くなりません。熱や痛みより先に、食べない・動かない・話がかみ合わない、が出ます。だから「いつもと違う」は勘ではなく、第4回でつくったその人の平常値からのズレという事実です。
  2. 119番通報から医師に引き継ぐまでの時間は、全国平均で約44.6分です。救急車を呼んでも、最初の45分は家にいる人の手の中にあります。そこで何をしたかが、その後を変えます。
  3. 初動でいちばん多い失敗は、判断が遅れることではなく、判断を一人で抱えることです。迷った時点で、もう連絡してかまいません。

SECTION 01 「いつもと違う」は、勘ではない

先輩と一緒に訪問していると、帰りの車で「なんとなく、いつもと違ったね」と言われることがあります。 新人からすると、これがいちばん困る言葉です。どこが違ったのかを聞いても、はっきりした答えが返ってこないことがあるからです。 自分には見えていない何かがあるらしい、けれどそれが何なのかわからない。そう感じて落ち込む人は多いと思います。

けれども、この「なんとなく」の中身は、たいてい説明がつきます。 先輩が見ているのは超能力ではなく、何度もその家に入って蓄えた、その人の平常の姿です。 第4回で、バイタルは基準値ではなくその人の平常値から読む、という話をしました。同じことが、数字以外の全部にも当てはまります。

  • 座っている位置と姿勢が違ういつもは玄関の音で振り向く人が、振り向かない。いつもの椅子ではなく、布団から出ていない。どこにいるかは、しんどさの最初のサインです。
  • 口数と話す速さが違うよくしゃべる人が黙る、無口な人が急に多弁になる。どちらも変化です。話の内容より、量とテンポを覚えておきます。
  • 台所とゴミの量が違う第5回で見た置き場所が、そのまま前回との比較材料になります。ゴミが減っていれば、食べていない可能性があります。
  • 家族の顔つきが違う家族の「なんか変なんです」は、記録に残す価値のある情報です。毎日見ている人の違和感は、こちらの1回の観察より鋭いことがあります。

つまり「いつもと違う」と言えるためには、その前に「いつも」を持っていなければならないということです。 新人のうち気づけないのは、感受性が低いからではなく、比べる相手をまだ持っていないからです。 ここは経験でしか埋まりませんが、埋まる速さは記録の書き方で変えられます。

実務のコツ

記録に「著変なし」とだけ書いていると、平常値はいつまでも溜まりません。 変化がない日こそ、その人の平常を1行だけ具体的に書いておきます。 「居間の椅子に座ってテレビ。自分で立ってトイレへ。会話は普段どおり多い」。 この1行が3か月ぶん並んだとき、初めて「今日は違う」が事実として書けるようになります。

他職種はここを見ている

ヘルパーは、こちらより高い頻度でその家に入っていることがあります。 週2回しか行けない看護師にとって、毎日入っている人が持っている「いつも」は貴重です。 連絡ノートに残った「今日は昼食を半分残した」の1行が、あとから熱発の前日だったとわかることがあります。 サービス担当者会議のときだけでなく、ノートは訪問のたびに読んでください。

SECTION 02 高齢者は、教科書どおりに悪くならない

ここが、病棟から来た人のいちばんつまずくところです。 学校では、感染症は発熱で始まり、炎症反応が上がり、局所の症状が出る、と習います。 ところが在宅で出会う高齢の利用者は、その順番どおりに壊れてくれません。

高齢者の菌血症について、平均年齢85.4歳の151人を追ったフランスの前向き観察研究があります(Hyernard C, et al. 2019)。 このうち21.2%は、発熱も低体温も、悪寒も、血圧低下も示していませんでした。 5人に1人は、感染症の典型的なサインを一つも出していなかったということです。 しかも、そうした現れ方をした人は、そうでない人に比べて死亡のリスクが高いという結果でした。

図1 高齢者の菌血症は、5人に1人が典型的なサインをひとつも出さない 平均年齢85.4歳・151人の前向き観察研究。Hyernard C, et al. Am J Med 2019 より作図。 典型的なサインが、ひとつもなかった人 38.3℃以上の発熱も、36℃未満の低体温も、悪寒も、血圧低下もなかった。 それでも血液培養からは菌が出ている。 21.2% 典型的でない現れ方だった人の、7日後までの死亡 典型的なサインがあった人と比べたオッズ比。95%信頼区間 1.04〜19.24。 4.46倍 同じく、90日後までの死亡 95%信頼区間 1.30〜10.92。糖尿病のある人と黄色ブドウ球菌で多かった。 3.76倍 ※ 症状が軽いのではなく、症状が出ないまま重くなっている。熱がないことは、安心の材料にならない。

図1 「熱がないから大丈夫でしょう」は、この年齢層では成り立ちません。むしろ、出ていないほうが危ないことがあります。

では、典型的なサインの代わりに何が出るのか。実際に在宅で先に現れるのは、次のようなものです。 どれも検査値ではなく、家族と看護師にしか見えない変化だという点が共通しています。

図2 熱より先に出る6つのサインと、そのとき確かめること いずれも「歳のせい」「疲れているだけ」で説明されやすく、そのまま流されやすい。 1 食べない・飲まない 何をどれだけ残したかを数える。食事量の低下は最も早く、最も見落とされる。 2 動かない・起きてこない 昨日まで自分で行けたトイレに行けない。移動できる距離が縮んでいないか。 3 話がかみ合わない・眠り込む せん妄は認知症の進行ではなく、急性の身体の異変であることが多い。 4 転ぶ・立てない 転倒は結果であって原因ではない。なぜ今日転んだのかを、必ず前にさかのぼる。 5 尿の量・色・においが変わる パッドの重さと交換回数は、家族が答えられる数字。脱水と感染の両方に効く。 6 いつもの薬を飲まなくなる 飲めないのか、飲みたくないのか、忘れたのか。残薬の増え方に出る。 ※ 1つだけなら様子をみる材料。2つ以上が同時に、しかも今週から出ているなら、身体で何かが起きていると考える。   とくに「食べない」と「話がかみ合わない」が並んだときは、熱がなくても連絡してよい。

図2 どれも数字ではないので記録から落ちがちです。落とさないために、訪問のたびに同じ6つを口に出して確かめる習慣が効きます。

注意

認知症のある人が急に混乱したとき、「認知症が進んだ」と説明してしまうのがいちばん危険です。 認知症の進行は月から年の単位で進みます。数日で起きた変化は、認知症の進行ではありません。 感染、脱水、便秘、薬、痛み、低血糖。身体の側を先に疑ってください。

SECTION 03 予測する——この人が次に崩れるとしたら、どこからか

急変への備えというと、起きたときの手順を覚えることだと思われがちです。 けれども在宅で本当に効くのは、その前です。崩れる方向は、たいてい決まっています。 病名と治療内容と、これまでの入院理由を見れば、次に何が起きやすいかは絞り込めます。

訪問のたびに、その人について「次に崩れるとしたら、どこからか」を一つ決めておいてください。 決めておくと、次の訪問で最初に見るところが変わります。備えとは、手順ではなく見る順番のことです。

抱えている状態崩れるとき、先に出るもの家で確かめられること
心不全体重の増加、夜に横になれない、足のむくみ、食欲の低下毎朝同じ条件での体重。何枚の枕で寝ているか。靴下の跡。
慢性の呼吸器疾患痰の色と量の変化、動いたときの息切れ、食事に時間がかかる家の中を何メートル歩いて息が上がるか。話しながら歩けるか。
脳血管障害のあとむせ、微熱、傾眠、片側の動かしにくさの変化食事中のむせの回数。飲み込むまでの時間。口の中の残りもの。
糖尿病低血糖の症状、食事量の変動、足の傷、感染しても熱が出ない食べていないのに薬だけ続いていないか。足の裏と指の間。
進行したがん痛みの出方の変化、便通の停止、急な傾眠、食べられなくなるレスキュー薬を何回使ったか。最後に排便したのはいつか。
認知症急な混乱、昼夜の逆転、失禁が増える、歩き方が変わるその変化が何日前から始まったか。数日なら身体の異変を疑う。
腎不全・透析透析を休んだ、体重の増えすぎ、息苦しさ、シャント音の変化前回の透析はいつか。シャントに触れて音と震えを確かめる。

表1 網羅的な一覧ではありません。担当する人ごとに、この表の1行を自分の言葉で書けるようになることが目的です。

実務のコツ

いちばん確かな予測材料は、その人が前回どうやって具合を悪くしたかです。 前回の入院理由と、その直前の1週間に何があったかを、記録から拾って書き出しておいてください。 人は同じ壊れ方を繰り返します。前回が誤嚥性肺炎だったなら、次も入口はむせです。

SECTION 04 点数で決められるなら、楽なのだけれど

ここで、早期警告スコアの話をしておきます。 病棟では、呼吸数・SpO2・体温・血圧・脈拍・意識レベルを点数化して合計する NEWS(National Early Warning Score)や、その改訂版であるNEWS2を使っているところがあります。 合計点が上がったら誰に何分以内に知らせる、というところまで決めておく仕組みです。 新人にとっては、これほどありがたいものはありません。迷わなくてよくなるからです。

ただ、在宅にそのまま持ち込めるかというと、話はそう簡単ではありません。 地域看護でのNEWSの使われ方をまとめたスコーピングレビュー(Phillips AM, 2021)は、次のように整理しています。

  • 良い点は、共通の言葉になること看護師、救急隊、医師が同じ尺度で話せると、電話でのやりとりが速くなります。優先順位づけにも役立ちます。
  • 悪い結果を予測する感度は高い点数が高い人はやはり危ない、という方向の裏づけはあります。見逃しを減らす道具としては働きます。
  • ただし、地域での使用は検証が足りないNEWSはもともと急性期の入院患者で作られ、検証されたものです。どのくらいの頻度で測るか、何点で誰にどう動くかという手順も、地域向けには定まっていません。
注意

点数が低いことを、動かない理由に使わないでください。 SECTION 02で見たとおり、高齢者は熱も血圧低下も出さずに重くなることがあります。 その人は、スコアの上では静かなままです。スコアは、上がったときに背中を押す道具であって、 下がっているときに安心させる道具ではありません。

当ステーションでも、点数そのものより、第4回でつくったその人の平常値を優先します。 平常の収縮期血圧が160の人の128は、表の上では正常値です。けれども、その人にとっては32下がっています。 在宅の強みは、この個別の基準を持っていることです。標準の物差しは、それを補うために使います。

SECTION 05 気づいたときの、最初の5分

ここからが「動く」の話です。 訪問先で明らかにいつもと違う、と思ったとき、頭が真っ白になるのは誰でも同じです。 真っ白になっても手が動くように、順番だけを覚えておきます。考えるのは順番の中でやります。

図3 最初の5分。考える前に、この順番で手を動かす 分数は目安。5分を過ぎても連絡できていないときは、その時点で連絡する。 0〜1分 呼びかけて、息をしているかを見る 意識と呼吸。反応がなく呼吸が普段どおりでなければ、ここで119番と応援要請。 1〜2分 触れてわかることを先に取る 脈の速さとリズム、手足の冷たさと湿り、呼吸の数と深さ、顔色。機器は後。 2〜3分 数字をそろえる 血圧、SpO2、体温。持っていれば血糖。測った時刻を必ず一緒に控える。 3〜4分 「いつから」を家族に聞く 最後にいつもどおりだったのはいつか。何時間なのか、何日なのかで意味が変わる。 4〜5分 誰に連絡するかを決めて、かける 主治医か、ステーションの管理者か、119番か。迷ったら、まず管理者にかける。 ※ 0〜1分で反応も呼吸もないと判断したときは、以降の手順を飛ばして胸骨圧迫と119番。器械や血圧計を探しに行かない。 ※ 家族がその場にいるなら、119番通報や玄関の解錠を頼んでよい。全部を自分でやろうとしない。

図3 この5分でそろえた情報が、そのまま第7回で扱う報告の材料になります。順番どおりに取ると、報告の形にも並びます。

実務のコツ

測った値と時刻を、その場で声に出しながら手帳に書いてください。 あとで記録を書くとき、時刻が分単位で残っているかどうかで、報告の重みがまったく変わります。 「14時20分 血圧82/50、14時35分 96/60」と書けるなら、それは経過であって、印象ではありません。

SECTION 06 電話が鳴ったとき——見に行くかどうかを、電話で決める

オンコールの電話は、たいてい情報が足りない状態でかかってきます。 家族は動転していて、こちらは相手の顔も部屋の様子も見えません。 それでも、見に行くかどうかを決めるのに必要な情報は、いくつかに絞れます。順番を決めておけば、動転している人からでも聞けます。

図4 電話で聞く順番。上から順に、答えを待たずに次へ進まない 1と2の答え方しだいで、残りを聞かずに「今から行きます」と言ってよい。 1 今、そばにいますか。声をかけたら返事はありますか 返事がない、いつもの反応がない。ここで止まったら、電話を切らずに119番へ。 2 息はしていますか。苦しそうですか 胸の動きを見てもらう。しゃべれているかどうかでも、おおよそ判断できる。 3 いつからですか。最後にいつもどおりだったのは 「さっきまで元気でした」と「昨日から食べていません」は、別の事態。 4 何が、どう違いますか 家族の言葉のまま書き取る。要約しない。「ぐったり」「変な息」が手がかりになる。 5 熱や血圧は測れますか。おしっこは出ていますか 測れる家なら測ってもらう。測れなくてよい。ないことも情報として残す。 6 こちらが次に何をするかを、必ず言って切る 「今から向かいます」「15分後にもう一度かけます」。宙ぶらりんで切らない。 ※ 迷ったら行く。行って何もなかった訪問は、失敗ではない。行かずに翌朝知ることのほうが、はるかに重い。 ※ 電話を受けた時刻、聞いた内容、こちらが伝えたことは、その夜のうちに記録する。翌朝の記憶では足りない。

図4 新人のうちは、6番を言い忘れます。家族にとっていちばん不安なのは、電話を切ったあとの時間です。

注意

電話だけで「大丈夫です、様子を見てください」と言い切らないでください。 見ていないものを大丈夫と判断することは、電話ではできません。 伝えるなら「今の話だけでは判断がつかないので、こうしてください。何時に必ずかけ直します」の形にします。 判断に迷ったときは、様子を見るのではなく時間を区切って確認すると決めておくと、迷いが減ります。

SECTION 07 119番を呼ぶ、呼ばない

新人がいちばん怖いのは、たぶんここです。呼んで大げさだったらどうしよう、呼ばずに手遅れになったらどうしよう。 その場で両方を天秤にかけようとすると、必ず時間が溶けます。 だから呼ぶと決めている状態を、あらかじめ決めておきます。天秤にかけるのは、そこに当てはまらなかったときだけです。

  • 反応がなく、呼吸が普段どおりでない迷う場面ではありません。119番と胸骨圧迫が先で、連絡や確認はその後です。しゃくり上げるような不規則な呼吸は、呼吸ありと数えません。
  • 息ができていない、話せないほど苦しい言葉が続かない、肩で息をしている、唇や指先の色が悪い。SpO2の数字が出るのを待つ必要はありません。
  • 止まらない出血、大きなけが、明らかな変形圧迫しても止まらない出血、頭を打っての意識の変化、脚の付け根や太ももの変形。動かして自家用車で運ぼうとしない。
  • けいれんが続いている、または繰り返す短時間で止まって元に戻れば経過をみることもありますが、続いている・繰り返すときは呼びます。
  • 急に片側が動かない、言葉が出ない、顔がゆがむ時間が治療の選択肢を決める領域です。発症時刻がわかるなら、それを最重要の情報として伝えます。

この5つに当てはまらない場合は、主治医またはステーションの管理者に連絡して判断を仰ぎます。 ここで大事なのは、救急車を呼んでも、しばらくは自分がその場の責任者だということです。 全国の数字を見ると、それがよくわかります。

図5 救急車で運ばれる人の3人に2人は高齢者。そして到着までは待ち時間がある 令和6年中・救急自動車による搬送人員 676万9,172人。消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」より作図。 65〜74歳 75〜84歳 85歳以上 成人 18歳未満 13.6% 24.9% 24.8% 29.1% 7.7% うち65歳以上は428万4,953人で全体の63.3%。85歳以上だけで24.8%を占める。 119番通報を受けてから、救急隊が現場に到着するまで 全国平均。新型コロナ禍前の令和元年と比べて約1.1分延びている。 約9.8分 119番通報を受けてから、医師に引き継ぐまで 全国平均。令和元年と比べて約5.1分延びている。この間、家にいるのは自分。 約44.6分 ※ 平均なので、地域や時間帯によってはこれより長くなる。救急車を呼んだ時点で終わりではない。 ※ 呼んだあとにやることがある。玄関の解錠、家族への説明、薬と保険証の準備、そして情報の整理。

図5 救急車を呼んでからの45分は、空白の時間ではありません。この45分に何をそろえたかで、搬送先での初動が変わります。

呼んだあとに、そろえておくもの

救急隊は、その人のことを何も知らずに玄関に入ってきます。 こちらが持っている情報のうち、最初の数分で渡すべきものは決まっています。 詳しい伝え方は第7回で扱いますが、物としてそろえておくものだけ、ここで挙げておきます。

  • お薬手帳と、今飲んでいる薬の実物抗凝固薬を飲んでいるかどうかは、搬送先の判断を大きく変えます。手帳がなければ薬袋ごと持たせます。
  • 保険証・医療証、介護保険証家族が動転して探せないことがあります。置き場所を普段から把握しておくと、この場面で効きます。
  • 主治医と、ステーションの連絡先誰に確認すればよいかを紙で渡します。口頭だけでは、搬送先で必ず失われます。
  • 今日測った値と、その時刻手帳に書いたものをそのまま見せて構いません。きれいに書き直す時間があるなら、その分早く渡します。
注意

その人が、心肺蘇生や搬送について事前に意思を示していることがあります。 そうした話し合いの積み重ね方は第10回で扱いますが、ひとつだけ先に書いておきます。 急変の場で、書類を探すところから始めることになってはいけません。 意思が確認されている人については、それがどこにあるかを、事前にチームで共有しておく必要があります。 当日その場で確認できないなら、迷わず救命の側に動きます。それを責める人はいません。

SECTION 08 24時間の体制は、個人の根性ではない

夜中に電話が鳴るのは、あなたが優しいからでも、責任感が強いからでもありません。 訪問看護が制度として24時間の体制を持つように作られているからです。 ここを取り違えると、うまくいったときは個人の手柄、うまくいかなかったときは個人の落ち度、という話になってしまいます。そうではありません。

制度メモ

医療保険では24時間対応体制加算、介護保険では緊急時訪問看護加算が、 営業時間外の電話相談や緊急の訪問に応じられる体制そのものを評価しています。 いずれも事業所として届け出て、利用者の同意を得たうえで算定するものです。 福岡県内の事業所であれば、医療保険側の届出先は九州厚生局です。

令和8年度の診療報酬改定では、指定訪問看護の人員及び運営に関する基準について、 事故発生時等の安全管理の体制確保や記録の整備などが新たに規定されました。 急変時にどう動くかは、個人の判断力の問題であると同時に、事業所が備えるべき体制の問題でもあります。

このことは、新人にとって実務上の意味を持ちます。 夜間に判断を求められたとき、あなたは一人で決めなくてよいということです。 体制がある、というのは、電話をかける先があるという意味です。 かけてよいかどうかを悩む時間は、その体制を使っていない時間です。

他職種はここを見ている

主治医が夜間の電話でいちばん困るのは、情報が足りないことではなく、 何を求められているのかがわからないことです。 指示がほしいのか、往診してほしいのか、搬送の可否を決めてほしいのか。 「どうしましょうか」で始まる電話は、答える側も困ります。第7回で、この形を扱います。

SECTION 09 終わったあとに、必ずやること

急変対応は、救急車が出ていった時点では終わりません。 むしろ、そのあとにやることを決めておかないと、次に同じことが起きたときに何も変わりません。

  • その日のうちに、時刻つきで記録する気づいた時刻、測った値と時刻、連絡した相手と時刻、相手からの指示、家族に伝えた内容。翌朝に書くと、必ず時刻が丸まります。
  • 主治医とケアマネジャーに、同じ内容を渡す搬送されたこと自体を知らないままケアプランが動き続ける、ということが実際に起きます。搬送先の病院名まで伝えます。
  • 家に残った家族に、次の連絡先を渡す付き添えなかった家族が、いちばん取り残されます。誰に聞けば状況がわかるかを、紙に書いて渡してください。
  • ステーションで振り返る。ただし、犯人を探さない見落としがあったかどうかではなく、次に同じ状況が来たときの手順を一つ決めることが目的です。決めた手順は、その日のうちに書き残します。
実務のコツ

振り返りで出てきた「次はこうする」を、その人の記録の目立つところに書いておいてください。 「夜間の連絡は長男(携帯)へ。日中は不在」「玄関の鍵は郵便受けの中」「前回の入院は誤嚥性肺炎」。 こうした一行は、次に夜中に呼ばれた人を助けます。振り返りの成果は、反省文ではなく、次の人が使える1行です。

当ステーションの視点

「わからないので、見に行きます」と言える人が、いちばん強い

経験を積むと、電話の声だけである程度のことがわかるようになります。 それは確かに技術ですが、当ステーションが新人にいちばん身につけてほしいのは、その技術ではありません。 わからないと認めて、動くことです。

新人のうちは、判断がつかないのが普通です。問題は、判断がつかないときに何をするかです。 判断がつかないまま様子を見るのが、いちばんよくありません。 判断がつかないなら、見に行く。行けないなら、判断できる人に電話する。どちらかです。 迷っている時間だけが、誰の役にも立ちません。

行って何もなかった訪問を、当ステーションでは無駄足と呼びません。 その訪問は、「あのとき何もなかった」という記録を1件つくっています。 それは次に同じ電話が鳴ったときの、比べる材料になります。 むしろ心配なのは、何度も迷っているのに一度も動いていない状態のほうです。 迷った回数は、そのまま報告してください。それは弱さではなく、危険を見つけている証拠です。

採用のご案内

ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。

この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、 観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりをそのまま書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。

1. いきなり一人にしません 見学から一部実施、メイン担当、見守り、単独訪問へ。段階を戻すことを失敗と呼びません。
2. 医師との距離が近い環境 同じ法人にふくろう訪問クリニックがあり、迷ったときに相談できる相手がすぐ近くにいます。
3. 「わかりません」と言える その日のうちに報告できることを、技術より先に身につけてほしいと考えています。
いちばん早いのは、当ステーションへ直接ご連絡いただくことです
  1. 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
  2. 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
  3. 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
まずは見学だけでも歓迎します/お電話・メールどちらでも

ブランクのある方、病棟以外の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。

1年目チェックリスト(第6回ぶん)

  • 担当している利用者について、「次に崩れるとしたら、どこからか」を一人ずつ言える
  • 変化がない日の記録に、その人の平常の様子を1行、具体的に書いている
  • 高齢者は熱が出ないまま重くなることがあると知ったうえで、食事量・活動量・意識の3つを毎回確かめている
  • 気づいてから5分間で、何を測り、誰に連絡するかの順番が、見ないで言える
  • 家族からの電話で、最初に意識と呼吸を確認できる
  • 電話を切る前に、こちらが次に何をするかを必ず伝えている
  • 119番を呼ぶと決めている状態を、自分の言葉で5つ挙げられる
  • その人のお薬手帳・保険証・鍵の置き場所を、訪問のたびに把握している
  • 急変対応のあと、時刻を分単位で記録できている
  • 迷って連絡した回数を、隠さずに報告できている

Q&A よくある質問

Qバイタルは全部正常範囲なのに、どうも様子が変です。連絡してもいいのでしょうか。
A連絡してください。この回のSECTION 02で見たとおり、高齢者は典型的なサインを出さないまま重くなることがあります。伝え方だけ工夫します。「バイタルは正常です、でも変です」ではなく、「血圧138/80、体温36.4℃、脈78。数字は普段どおりですが、いつも玄関で振り向く人が振り向かず、昼食を半分残しています。昨日から続いているそうです」と、事実を並べてください。正常値を報告することと、正常だと判断することは別のことです。
Q夜間に電話を受けましたが、行くべきか判断がつきません。管理者に相談すると迷惑ではないでしょうか。
A迷惑ではありません。24時間の体制は、事業所として届け出て備えているものです(SECTION 08)。相談されることが前提で作られている仕組みなので、使わないほうが問題です。実務的にも、深夜1時に5分の電話をもらうほうが、朝になってから1時間かけて対応するより、はるかに軽く済みます。「行くか行かないかを一緒に決めてほしい」と、そのまま言ってください。
Q救急車を呼ぼうとしたら、家族に「そこまでしなくていい」と止められました。
Aまず、なぜそう言うのかを一つだけ聞いてください。「前に運ばれて本人がつらそうだった」「本人が病院は嫌だと言っていた」など、理由には背景があります。そのうえで、判断を自分と家族の二人だけで決めないことです。主治医に電話し、こちらが見ている状態と家族の言葉の両方を伝えて、判断を仰いでください。呼ばないという結論になった場合は、誰がいつそう判断したかを必ず記録します。ただし、反応がなく呼吸が普段どおりでない場合は例外です。その場では説得より先に、救命の手を動かしてください。
QNEWSのような点数表を、うちでも使ったほうがいいですか。
A共通の言葉として使う分には役に立ちます。ただし、地域での使用は検証が十分ではなく、何点で誰にどう動くかという手順も定まっていません(SECTION 04)。導入するなら、点数そのものより「何点以上なら誰に何分以内に連絡する」という取り決めを事業所として決めることのほうが大事です。そして、点数が低くても連絡してよいという例外を、最初に明記してください。

連載「ゼロから始める訪問看護」全10回

  1. 訪問看護という仕事の全体像——病棟と何が逆転するのか
  2. 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚
  3. 訪問1回の組み立て方——玄関の前から次回の予約まで
  4. からだをみる——「その人の平常値からのズレ」で読む
  5. 暮らしをみる——情報は家の中に置いてある
  6. 「いつもと違う」に気づき、動く——予測と急変時の初動
  7. 報告・連絡・相談——SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
  8. 記録と書類——訪問看護記録書・計画書・報告書
  9. 多職種連携——誰が何を持っていて、何を待っているか
  10. 家族とともにいる——意思決定支援から看取りまで

REFERENCE 参考資料

  1. 総務省消防庁「令和7年版 救急・救助の現況」令和8年1月20日公表(https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-7.html)※本文中の搬送人員・年齢区分別構成比・現場到着所要時間・病院収容所要時間は、いずれも令和6年中の数値
  2. 総務省消防庁「『令和7年版 救急・救助の現況』の公表」令和8年1月20日(https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/kyuuki_20260116.pdf
  3. 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf)※指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準の見直し(安全管理の体制確保等)
  4. 九州厚生局「訪問看護ステーションの基準に関する届出について(令和8年度診療報酬改定)」(https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/kango/todokede_r8.html
  5. 指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年3月31日厚生省令第80号)
  6. 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)第4章 訪問看護
  7. Hyernard C, Breining A, Duc S, et al. Atypical Presentation of Bacteremia in Older Patients Is a Risk Factor for Death. Am J Med. 2019;132(11):1344-1352.e1. doi:10.1016/j.amjmed.2019.04.049
  8. Phillips AM. Use of the National Early Warning Score in community nursing: a scoping review. Br J Community Nurs. 2021;26(8):396-404. doi:10.12968/bjcn.2021.26.8.396
本記事は、公開されている法令・通知・ガイドライン等をもとに、訪問看護の実務に必要な範囲を整理したものです。 制度の取扱いは改定や個別の事情によって変わることがあります。実際の判断にあたっては、 主治医、所属事業所の管理者、審査支払機関、地方厚生局等の窓口にご確認ください。 個々の健康上の問題については、かかりつけ医にご相談ください。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

目次