報告・連絡・相談:ゼロから始める訪問看護

報告・連絡・相談
SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
新人が最初につまずくのは、観察ではなく報告です。気づいていたのに伝わらなかった、というのがいちばん悔しい。 見えたものは、誰かに渡って初めて意味を持ちます。この回では、誰に、いつ、どういう形で渡すかを型にします。 読み終えたときに、電話をかける前の30秒で言うことが決まり、 その連絡が「今すぐ」なのか「今日中」なのか「次回まで」なのかを、自分で振り分けられる状態を目指します。
この回の結論
- 報告の目的は、情報を渡すことではなく相手に判断してもらうことです。だから最後に「何をしてほしいか」を必ず言います。ここが抜けている報告は、相手の仕事を増やします。
- SBARは魔法の呪文ではありません。11の研究をまとめた系統的レビューでも、根拠の強さは「中等度」と評価されています。ただし電話での会話を組み立てるときに効く、とされています。訪問看護の連絡は、ほぼ全部が電話です。
- 迷うのは中身ではなく緊急度です。今すぐ/今日中/次回までの3つに振り分けると、誰に、どの手段で、どんな言い方をするかが自動的に決まります。
SECTION 01 なぜ、報告でつまずくのか
新人の報告を聞いていると、内容が足りないことは、実はあまりありません。 足りないのは順番と結論です。よくあるのは、こういう電話です。
受けた側は、ここで初めて考え始めます。誰の話か、いつからか、どこまで悪いのか、 そして何を求められているのか。聞き手が組み立て直さないと使えない情報は、渡したことになりません。
これは能力の問題ではなく、順番の問題です。 病棟では、同じ空間に医師がいて、カルテを一緒に見られました。前提が共有されているから、 細部から話し始めても通じます。訪問看護の電話には、その前提がありません。 相手はたいてい別の患者を診ている最中で、こちらの利用者の顔をすぐには思い出せません。
- 相手は、その人を思い出すところから始める名前と、いま何が起きているかを最初に言わないと、話の残りが宙に浮きます。
- 相手は、こちらが何を求めているのかを知らない指示がほしいのか、往診してほしいのか、ただ知っておいてほしいだけなのか。ここが最後まで出てこない報告が、いちばん多い。
- 相手には、時間がない診療の合間、移動中、夜間。長さは誠実さの証明になりません。短いほうが、たいてい親切です。
- 電話は、記録に残らない言った言わないが起きます。伝えた内容と相手の返答は、こちらで記録に残す必要があります。
主治医が夜間の電話でいちばん困るのは、情報が足りないことではありません。 何を求められているのかがわからないことです。 「どうしましょうか」で始まる電話は、答える側にも順番を組み立てさせます。 逆に「往診が必要かどうかの判断をお願いしたくて」と先に言われると、医師はそこに向けて聞き返せます。 求めるものを先に言うのは、遠慮のなさではなく、相手の時間への配慮です。
SECTION 02 SBARという型
順番を決めておく道具として、いちばん広く使われているのがSBARです。 もともとは米国の医療現場で広まった伝達の型で、次の4つの頭文字を取ったものです。
図1 新人がいちばん落とすのはRです。Rを落とすと、相手は「で、どうしたいの」と聞き返さなければなりません。
ただし、万能薬ではない
SBARは研修でよく教わりますが、その効果がどこまで確かめられているかは、あまり語られません。 11の研究をまとめた系統的レビュー(Müller M, et al. 2018)を見ておきます。 使う前に、その道具の限界を知っておくほうが、結局うまく使えます。
図2 訪問看護の連絡は、そのほとんどが電話です。このレビューが「効いた」と言っている場面と、ちょうど重なります。
SBARを覚えることより、電話をかける前に30秒だけ止まる習慣のほうが効きます。 車の中でも玄関先でもかまいません。手帳の端に、S・B・A・Rの4文字だけ書いて、 それぞれに一言ずつ入れてからかけてください。書けないところがあるなら、それは電話でも言えません。
SECTION 03 同じ内容でも、順番を変えるだけで通る
SECTION 01に出した電話を、中身は一切足さずに、順番だけ組み替えてみます。 情報量は同じです。それでも、受けた側の負担はまったく変わります。
図3 新人が省きやすいのは、Bの「前回の訪問では普段どおりだった」です。ここがないと、いつからの変化かが伝わりません。
Aで数字を言うときは、必ずその人の普段の値をセットにします。 「血圧98」だけでは、相手は判断できません。「98、普段は130台」と言えば、そこで話が決まります。 これは第4回で作った平常値を、そのまま報告に流用しているだけです。 平常値を持っていることは、観察のためだけでなく、報告のための資産でもあります。
SECTION 04 「今すぐ/今日中/次回まで」——緊急度で形が決まる
報告の中身より、新人が迷うのはいつ伝えるかです。 今かけるべきか、夕方でよいか、次の訪問まで待ってよいか。ここで迷って、結局伝えそびれる。 これがいちばん多い失敗です。
当ステーションでは、気づいたことを3つのどれかに振り分けます。 振り分けが決まると、手段(電話かICTか報告書か)も、言い方も自動的に決まります。 迷ったら、ひとつ上の段に上げてください。上げすぎて叱られることは、まずありません。
図4 この3段は当ステーションでの呼び方です。事業所ごとに言葉は違っても、段を先に決める考え方は共通して使えます。
いちばん危ないのは、「今日中」を「次回まで」に落としてしまうことです。 発熱と食事量の低下を「まあ、次の訪問で見よう」と置いた2日後に、入院になることがあります。 第6回で見たとおり、高齢者は典型的なサインを出さないまま重くなります。 判断がつかないものは「次回まで」ではなく「今日中」に置いてください。
SECTION 05 相手によって、知りたいことが違う
同じ出来事でも、相手によって必要な情報は変わります。 全員に同じ内容を送るのは、丁寧なようでいて、実は誰の役にも立っていないことがあります。 相手が何を判断しようとしているのかを考えると、渡すものが絞れます。
| 相手 | その人がいま判断したいこと | 渡し方 |
|---|---|---|
| 主治医 | 診察・往診・処方・検査・搬送が必要か。指示を変える必要があるか | SBARで電話。数字は平常値とセット。最後にRを必ず言う |
| ケアマネジャー | サービスの量や組み合わせを変える必要があるか。区分変更が要るか | 生活がどう変わったかを中心に。医学用語は言い換える |
| 薬剤師 | 飲めているか。飲みにくさの原因はどこか。剤形や一包化を変えるか | 残薬の実数、飲み忘れの曜日や時間帯の偏り、本人の言葉 |
| ヘルパー | 明日以降、何に気をつけて入ればよいか | やることではなく、見てほしいことを1つか2つに絞って伝える |
| 管理者・先輩 | この判断でよいか。応援が要るか。事業所として動く必要があるか | 迷っていること自体を最初に言う。結論が出ていなくてよい |
| 家族 | 今どうすればよいか。次に何が起きうるか。誰に連絡すればよいか | 専門用語を使わない。次の連絡先と時刻を、紙で残す |
| 救急隊 | いつからか。持病と薬。かかりつけはどこか。連絡先は誰か | お薬手帳と、時刻つきのメモを現物で渡す(第6回) |
表1 誰に渡すかで、同じ出来事の書き方が変わります。書き分けるのは手間ではなく、相手の判断を早くするための省略です。
ケアマネジャーに「SpO2が88%でした」とだけ伝えても、動けません。 その人が知りたいのは、それでこの人の生活の何が変わるのかです。 「入浴が今までどおりにはできなくなりそうです。ヘルパーの時間帯を見直したほうがよいかもしれません」 まで言って、初めてケアプランの話になります。数値は、生活の言葉に翻訳してから渡してください。
SECTION 06 「伝えた」と「伝わった」は違う
報告が終わったと思えるのは、話し終えたときではありません。 相手が何をするかが決まったときです。ここを取り違えると、伝えたつもりのまま時間が過ぎます。
- 指示を受けたら、その場で復唱する「では、今日は経過をみて、明日の朝もう一度連絡します。38℃を超えたらその時点で連絡、でよろしいですか」。電話は聞き間違いが起きます。復唱は疑っているのではなく、確定させる手続きです。
- 相手の返事があいまいなときは、こちらで言い切って確認する「様子をみましょう」で終わらせない。「では、いつまで、何が起きたら再度連絡すればよいですか」と、期限と条件を必ず取ります。
- つながらなかったときの次の相手を、先に決めておく主治医が出ない、医療機関の営業時間外。そのときに誰にかけるかを、その利用者ごとに決めて記録に書いておきます。急変の場で考えることではありません。
- 伝えた内容と、受けた返事を記録に残す電話は記録に残りません。何時何分に誰に何を伝え、何と言われたか。書いていなければ、なかったことになります。
口頭で受けた指示のうち、薬の変更や処置の変更にあたるものは、 その場のメモだけで終わらせないでください。 指示の内容と、いつ誰から受けたかを記録に残したうえで、 書面での指示が必要なものかどうかを、必ず管理者に確認します。 新人が一人で判断してよい範囲ではありません。
SECTION 07 相談は、報告ではない
報告・連絡・相談と並べて言われますが、この3つは別のものです。 報告と連絡は、結論が出ているものを渡します。相談は、結論が出ていないから相談です。 ところが新人は、相談のときにも報告の形を作ろうとして、結論をひねり出そうとします。そこで固まってしまいます。
相談に必要なのは、きれいな結論ではありません。 どこまで見えていて、どこから見えていないのかが言えれば十分です。
- 迷っていること自体を、最初に言う「判断がつかないので相談したいのですが」と先に置く。相手は、答えを聞く体勢から、一緒に考える体勢に切り替えられます。
- 見えていることを、事実だけで並べる解釈を混ぜると、相手も同じ思い込みに乗ってしまいます。「食事を半分残した」は事実、「食欲がない」は解釈です。
- 自分がどこで詰まっているかを言う「様子をみてよいのか、今日中に連絡すべきなのかで迷っています」。詰まっている場所が言えれば、たいていその場で解けます。
- 相談した結果と、決めたことを記録する誰と相談して、どう決めたか。これがあると、次に同じ場面が来たとき、あなた以外の人も同じ判断ができます。
「こんなことで聞いていいのかな」と思ったときが、いちばん聞きどきです。 経験を積んだ人ほど、その感覚を軽んじません。 迷いは、危険を見つけたときに出る信号です。 信号が出ているのに動かないほうが、事業所にとっては困ります。
SECTION 08 報告は、気づかいではなく仕事の一部
ここまで実務の話をしてきましたが、報告は好意でやっていることではありません。 制度のほうが、報告することを訪問看護の内容として書いています。 このことを知っておくと、報告に時間を使うことへの後ろめたさがなくなります。
訪問看護計画書と訪問看護報告書は、主治医に提出するものとして様式が定められています。 報告書の「特記すべき事項」欄は、病状の経過や看護の内容などの各欄以外に、 主治医に報告する必要のある事項を記入する欄だと明記されています。 月末にまとめて書く欄ではなく、伝えるべきことを載せる場所として設けられています。
また、訪問ごとに作る訪問看護記録書Ⅱには、訪問年月日、 訪問時間(実際の指定訪問看護の開始時刻及び終了時刻)、訪問職種、 病状・バイタルサイン、実施した看護・リハビリテーションの内容等を記入することとされています。 令和8年度の診療報酬改定では、この実際の開始時刻・終了時刻の記載が、あらためて明確化されました。
出典:「訪問看護計画書等の記載要領等について」(令和8年3月27日 保医発0327第10号)第一の2。 同通知は令和8年6月1日から適用されています。
つまり、その月に気づいたことのうち主治医が知っておくべきものは、 書く場所が最初から用意されているということです。 「次回まで」に振り分けたものの行き先が、ここです(SECTION 04)。 行き先が決まっていれば、頭の中に置いておく必要はなくなります。
SECTION 09 言ったことを、その日のうちに残す
電話は、かけた側の記憶にしか残りません。 だから、報告の最後の工程は記録です。書式の詳しい話は第8回で扱いますが、 連絡についてだけは、ここで押さえておきます。
- 時刻を、分単位で書く「14時20分、主治医に電話」。何時ごろ、では経過になりません。分が入っているだけで、記録の重みが変わります。
- 誰に伝えたかを、役職ではなく名前で書く「クリニックに連絡」ではなく「○○医師に電話、不在のため看護師○○さんに伝言」。誰で止まったかがわかります。
- 伝えた内容と、受けた指示を分けて書くこちらが言ったことと、相手が言ったことを混ぜないでください。あとから読む人には区別がつきません。
- 次にすることと、その期限を書く「明朝9時に再度訪問し、体温と食事量を確認。38℃以上なら即連絡」。次の担当者は、この1行だけを頼りに動きます。
令和8年度の診療報酬改定では、他の医療機関等の関係職種がICTを用いて記録した診療情報等を活用して 計画的な管理を行った場合の評価が新設されました。 チームの記録を、それぞれが持ち帰って別々に保管する時代から、 互いに読み合う前提の記録へと、制度の側が動いています。 自分の記録は、いずれ他職種が読むものだと思って書いてください。
相談してくる新人を、当ステーションはいちばん高く評価します
技術は、時間をかければ身につきます。判断も、経験の数だけ精度が上がります。 けれども、迷ったときに人を呼べるかどうかは、性格でも度胸でもなく、 その職場が何を歓迎してきたかで決まります。
「こんなことで電話してくるな」と一度言われた人は、二度と電話をかけません。 その人が次に迷ったとき、一人で決めます。そして、その判断が外れたときに困るのは利用者です。 だから当ステーションでは、相談の電話を、業務の中断ではなく業務そのものとして扱います。 深夜1時の5分の電話は、翌朝の1時間より安いというのが、実務上の計算でもあります。
新人のうちは、報告の形が整っていなくてかまいません。 「うまく言えないんですけど、○○さんのことで気になっていて」から始めてくれれば、 あとはこちらで順番を組み立てます。 整えてから話そうとして、話さないまま持ち帰るのが、いちばん困ります。 形が整うのは、たいてい3年目くらいです。それまでは、整っていない状態で持ってきてください。
ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、 観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりをそのまま書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。
- 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
- 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
- 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
- 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を募集しています(常勤・非常勤)
- お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
- メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
- 採用の詳細:求人情報のページ
ブランクのある方、病棟以外の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。
1年目チェックリスト(第7回ぶん)
- 電話をかける前に、S・B・A・Rの4つを手帳に一言ずつ書いてからかけている
- Rを言わずに電話を切ったことが、この1か月で一度もない
- 数字を伝えるとき、その人の平常値をセットで言える
- 気づいたことを「今すぐ/今日中/次回まで」のどれかに振り分けられる
- 迷ったときに、ひとつ上の段に上げる判断ができている
- 受けた指示を、その場で復唱して確認している
- 「様子をみましょう」と言われたとき、期限と再連絡の条件を聞き返せる
- 主治医につながらないときの次の連絡先を、担当している人ごとに知っている
- 相手によって、同じ出来事の伝え方を変えられる
- 電話した時刻・相手の名前・伝えた内容・受けた指示を、その日のうちに記録している
- 結論が出ていない状態でも、相談として持ち込めている
Q&A よくある質問
連載「ゼロから始める訪問看護」全10回
- 訪問看護という仕事の全体像——病棟と何が逆転するのか
- 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚
- 訪問1回の組み立て方——玄関の前から次回の予約まで
- からだをみる——「その人の平常値からのズレ」で読む
- 暮らしをみる——情報は家の中に置いてある
- 「いつもと違う」に気づき、動く——予測と急変時の初動
- 報告・連絡・相談——SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
- 記録と書類——訪問看護記録書・計画書・報告書
- 多職種連携——誰が何を持っていて、何を待っているか
- 家族とともにいる——意思決定支援から看取りまで
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省保険局医療課「訪問看護計画書等の記載要領等について」令和8年3月27日 保医発0327第10号(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681763.pdf)※令和8年6月1日から適用。報告書「特記すべき事項」欄、訪問看護記録書Ⅱの記載事項
- 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf)※適正な訪問看護の推進、訪問看護におけるICTを用いた医療情報連携の推進
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html)
- 一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和8年度診療報酬改定まとめ」(https://www.zenhokan.or.jp/new/new2753/)
- 指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年3月31日厚生省令第80号)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)第4章 訪問看護
- Müller M, Jürgens J, Redaëlli M, Klingberg K, Hautz WE, Stock S. Impact of the communication and patient hand-off tool SBAR on patient safety: a systematic review. BMJ Open. 2018;8(8):e022202. doi:10.1136/bmjopen-2018-022202

