家族とともにいる:ゼロから始める訪問看護

家族とともにいる
意思決定支援から看取りまで
連載の最後は、いちばん言葉にしにくいところです。 本人がどう生きたいかを聞くこと、家族を支えること、そして看取りに立ち会うこと。 教科書に手順が書いてあるようで、実際にその家に入ると、書いてあるとおりには進みません。 この回では、国のガイドラインが求めていることと、研究でわかっていること、 そして現場で実際にやることを、順番に置いていきます。 読み終えたときに、最初の一言を切り出せるようになることを目指します。
この回の結論
- 意思決定支援は、書類を作る作業ではありません。国のガイドラインが求めているのは、本人の意思を中心に、繰り返し話し合い、そのつど文書にまとめることです。一度決めて終わりにはなりません。
- 話し合いを重ねること自体の効果は、まだ十分に証明されていません。132の無作為化試験を調べた系統的レビューでは、最期に受けた医療が本人の希望と一致したかを調べた研究は12件しかなく、効果が示されたのは3件でした。
- だから訪問看護がすることは、書類を集めることではありません。その人が今どう考えているかを知り続け、変わったらチームに伝えることです。それは週に何度も家に入っている職種にしかできません。
SECTION 01 意思決定支援は、書類集めではない
新人のうち、意思決定支援と聞いて思い浮かべるのは、たいてい紙です。 事前指示書、リビングウィル、心肺蘇生を望むかどうかの確認書。 書いてもらえば支援したことになる、という気がしてしまいます。
けれども、紙に書いてある内容と、その人が今そう思っているかどうかは、別のことです。 気持ちは変わります。半年前に「延命は望まない」と書いた人が、孫の結婚式が決まった途端に 「それまでは頑張りたい」と言うことがあります。どちらも本心です。
訪問看護がこの領域で持っている強みは、そこにあります。 月に一度の外来では、その揺れは見えません。週に何度も家に入っていると、 言葉が変わった瞬間に立ち会えることがあります。
- 紙は、話し合いの記録であって、結論ではない書いてあるとおりに実行するための道具ではなく、話し合いがどこまで進んだかを示すものです。
- 変わったこと自体が、いちばん重要な情報「前は言っていなかったことを言った」は、そのまま記録に残す価値があります。第8回のとおり、本人の言葉は要約せずに残します。
- 決めさせるのが仕事ではない決められないまま揺れている状態も、その人の状態です。急かして決めさせた結論は、あとで家族を苦しめることがあります。
SECTION 02 国のガイドラインは、何を求めているか
日本には、この領域の基本文書があります。 厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。 平成19年に作られ、平成30年3月に改訂されました。 改訂の背景には、高齢多死社会が進み、在宅や施設での療養と看取りの需要が増えたことがあります。 つまり、このガイドラインは病院のためだけの文書ではありません。
実務の観点から、押さえるべき点は3つです。
図1 新人が迷いやすいのは2です。家族の希望と、本人の推定意思は別のものだという前提を、必ず置いてください。
家族から「本人には言わないでください」と頼まれることがあります。 その気持ちには理由があり、頭ごなしに否定するものではありません。 ただし、本人に伝えるかどうかを、訪問看護師が一人で決めてはいけません。 頼まれた事実と、その理由をそのまま記録に残し、主治医と管理者に伝えてください。 チームで扱う話であって、その場で約束する話ではありません。
SECTION 03 話し合いの効果は、どこまで確かめられているか
ここでも、根拠を確かめておきます。 アドバンス・ケア・プランニング(ACP、日本では「人生会議」とも呼ばれます)は、 近年とても強く推奨されてきました。ところが、その効果を調べた研究をまとめると、 思っていたほど単純な話ではないことがわかります。
1992年から2021年5月までに発表された無作為化試験132件を調べた系統的レビュー(Malhotra C, et al. 2022)があります。
図2 同じ問題意識から、専門家による批判的な論考も出ています(Morrison RS, et al. JAMA 2021)。推奨されている手法ほど、限界を知っておく価値があります。
この結果を、現場でどう受け取るか。 当ステーションの考え方は、紙を増やす方向ではなく、聞き続ける方向に使うというものです。 書類を1枚作ることを目標にすると、書けた時点で終わってしまいます。 そうではなく、その人が今どう考えているかを、訪問のたびに少しずつ知っていく。 変わったら、変わったとチームに伝える。それなら、週に何度も家に入っている職種にしかできません。
SECTION 04 最初の一言を、どう切り出すか
新人がいちばん困るのは、話の切り出し方です。 死の話をいきなり持ち出すわけにはいきませんし、聞き方を間違えると、 「見放された」と受け取られることもあります。実務的には、次の順番が使えます。
- 体調の話から、暮らしの話へ移す「最近、しんどい日が増えていますね」から「これから先、どんなふうに過ごしたいですか」へ。医療の話としてではなく、暮らしの話として入ります。
- 本人の口から出た言葉を、拾って返す「もう十分生きた」「迷惑をかけたくない」。こうした言葉が出たときが入口です。流さずに「もう少し聞かせてください」と返します。
- 決めることではなく、教えてもらうこととして聞く「決めておきましょう」ではなく「どう考えているか教えてください」。答えが出なくてよい、と最初に言うと話しやすくなります。
- 大事にしていることを聞く「何をされたくないか」より「何を大事にしたいか」のほうが答えやすい。痛みがないこと、家にいること、家族に迷惑をかけないこと。ここが決まると、個別の選択はあとから導けます。
- その場で結論を求めない。次につなぐ「今日はここまでで大丈夫です。また聞かせてください」。第7回で扱った、期限を切って戻る形と同じです。
話を切り出しやすいのは、状態が落ち着いているときです。 急に悪くなってからでは、本人も家族も話ができる状態ではありません。 入院から戻ってきた直後、季節の変わり目、誕生日。区切りのタイミングに、 「これから先のこと、少し聞かせてもらっていいですか」と一言置いておくと、 次に悪くなったときの土台になります。
本人が話したことは、聞いた人の中に留めないでください。 主治医は、その情報がないまま治療方針を立てることになります。 ケアマネジャーは、その情報がないままサービスを組みます。 「本人がこう言っていた」は、チームで最も共有されにくく、最も必要とされている情報です。 第8回で見た訪問看護報告書の「特記すべき事項」欄は、ここでも使えます。
SECTION 05 家族をみる——介護者は、もう一人の対象
在宅の看取りが成り立つかどうかは、本人の状態だけでは決まりません。 そばにいる家族が持ちこたえられるかどうかで決まります。 ここを見ていないと、最期の数日で「やっぱり入院を」となることがあります。 それが悪いわけではありませんが、防げた消耗であることも多い。
- 睡眠時間を聞く「眠れていますか」ではなく「何時に寝て、何時に起きて、夜中に何回起きますか」。数字で聞くと実態が出ます。
- 体重と食事を聞く介護している人自身の食事が抜けていることは珍しくありません。第5回で見たとおり、台所とゴミにその痕跡が出ます。
- 口にした言葉を、そのまま記録する「もう限界です」「早く楽になってほしい」。こうした言葉は、要約せずに残してください。ケアマネジャーが動く材料になります。
- 「よくやっていますね」を、具体的に言うねぎらいは形式ではありません。「夜中に2回起きて体位を変えているのは、簡単なことではありません」と、見ている事実を添えて言います。
- 休むことを、提案として出すレスパイトや短期入所は、家族が言い出しにくいものです。こちらから選択肢として出すと、頼みやすくなります。
家族が限界に近いサインは、たいてい言葉ではなく生活に出ます。 家の中が急に荒れる、薬の管理が崩れる、こちらの訪問時に不在が増える、 逆に何時間も話し込むようになる。 これらは「家族の性格」ではなく、疲弊の徴候として扱ってください。 気づいたら、その日のうちにケアマネジャーと管理者に伝えます(第9回)。
SECTION 06 看取りが近づくと、何が起きるか
家族がいちばん怖いのは、これから何が起きるかを知らないことです。 知らないまま夜を迎えると、少しの変化でも救急車を呼ぶことになります。 先に説明しておくだけで、防げる救急搬送があります。 説明は、起きてから慌ててするものではなく、起きる前にしておくものです。
図3 この図は家族に見せるためのものではありません。看護師が、その家に合う言葉で説明するための下敷きです。
SECTION 07 その時が来たら——呼ぶのは119番ではない
在宅で看取る方針が決まっている場合、呼吸が止まったときにまず連絡するのは主治医です。 ここは、事前に家族と何度も確認しておく必要があります。 動転した家族が119番に電話すると、救急隊は救命処置を始めなければならなくなります。 本人と家族が望んでいなかった形になってしまうことがあります。
図4 この手順は、事前に家族と共有しておくものです。紙に書いて、電話の横に貼っておくと、その夜に効きます。
在宅での看取りに関わることは、制度上も訪問看護の役割として位置づけられています。 訪問看護療養費には訪問看護ターミナルケア療養費があり、 また機能強化型訪問看護管理療養費の施設基準では、 ターミナルケアの件数が実績要件のひとつに置かれています (機能強化型1では前年度20件以上、機能強化型2では15件以上など)。 看取りに関わることは、制度が訪問看護に期待している機能そのものです。
SECTION 08 見送ったあとにすること
その場が終わっても、仕事は残ります。 そして、ここで手を抜くと、家族の記憶に残るのはそこになります。
- 身体を整えるケアを、家族と一緒に行う医師の確認のあと、希望を聞きながら行います。手を動かしてもらうことが、受けとめる時間になることがあります。無理に誘わないこともまた大事です。
- 使っていた医療機器と薬の扱いを伝える酸素、吸引器、麻薬。返却や処分の手順は決まっています。家族が困るところなので、紙で渡してください。
- 関わっていた全員に連絡するケアマネジャー、ヘルパー、薬局、福祉用具、通所。訪問予定が入ったままだと、その事業所が翌朝そのまま訪ねてくることになります。
- 記録を、その日のうちに完成させる時刻、経過、連絡した相手。第8回のとおりです。あとから書けるものではありません。
別れ際に、家族へ渡してほしいものが1つあります。 「あのときのご本人の様子」を、こちらの言葉で伝えることです。 「先週、庭の花のことを話しておられました」「昨日、娘さんの声にうなずかれました」。 家族は、最後の数日のことを何度も思い返します。 そのときに、自分たちが見ていなかった時間の話が1つあると、支えになることがあります。
SECTION 09 見送ったあとの、自分のこと
最後に、看護師自身の話を書いておきます。 ここを飛ばす教科書が多いのですが、1年目にとっては、いちばん必要な話かもしれません。
担当していた人が亡くなったあと、しばらく引きずるのは普通のことです。 あのとき別の判断をしていたら、と考えてしまうのも普通です。 問題は、それを一人で抱えて、誰にも言わないことです。
- 事業所で振り返る。ただし、犯人を探さない第6回と同じです。見落としがあったかを裁く場ではなく、次に同じ状況が来たときの手順を決める場にします。
- つらかったと言ってよい感情を持ったまま仕事をするのが、この職業です。平気なふりを続けた人から辞めていきます。
- よかったことも、言葉にして残す「最後まで家にいられた」「痛みが取れていた」「家族が間に合った」。うまくいったことを言語化しないと、記憶に残るのは失敗だけになります。
- 眠れない、思い出して涙が出る状態が続くなら、相談するそれは弱さではなく、反応です。管理者に伝えてください。一人で持ちこたえる話ではありません。
10回かけて伝えたかったのは、一人にしない、ということだけです
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、 ひとりで訪問して、観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりを、順番に書いてきました。 制度の入口から始めて、訪問の組み立て方、からだの見方、暮らしの見方、 異変への気づき方、報告、記録、連携、そして看取り。
並べてみると、覚えることが多いように見えます。実際、多いです。 けれども、10回を通していちばん多く書いたのは、技術の話ではありませんでした。 わからないときに、どうするかの話です。 迷ったら見に行く。判断がつかないなら電話する。整っていなくても持ち込む。 形が違うだけで、毎回同じことを書いていました。
訪問看護は、その家に入るときは一人です。それは変えられません。 変えられるのは、その一人が、後ろに誰かがいる状態で立っているかどうかです。 段階を戻すことを失敗と呼ばない、深夜の電話を業務の中断と呼ばない、 迷った回数を隠さなくていい。当ステーションが用意したいのは、その後ろ側です。
1年目が終わるころ、この連載のチェックリストを見返してみてください。 全部に印がついていなくてかまいません。 去年は言えなかった「わかりません」が言えるようになっていれば、それでいちばん大事なところは進んでいます。 ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、 観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりをそのまま書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。
- 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
- 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
- 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
- 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を募集しています(常勤・非常勤)
- お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
- メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
- 採用の詳細:求人情報のページ
ブランクのある方、病棟以外の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。
1年目チェックリスト(第10回ぶん)
- 意思決定支援が、書類を作る作業ではないと説明できる
- 「これから先のこと」を、自分の言葉で切り出せる
- 「何をされたくないか」より先に「何を大事にしたいか」を聞いている
- 本人が話したことを、要約せずに記録に残している
- 本人の意思が確認できないとき、家族の希望と本人の推定意思を分けて考えられる
- 家族から「本人には言わないで」と頼まれたとき、一人で約束していない
- 介護している家族の睡眠時間と食事を、数字で聞けている
- 看取りが近づいたときに起きることを、家族に事前に説明できる
- 在宅で看取る方針のとき、まず主治医に連絡すると家族に伝えている
- 亡くなったあと、関わっていた全事業所に連絡している
- つらかったときに、それを事業所で言えている
Q&A よくある質問
連載「ゼロから始める訪問看護」全10回
- 訪問看護という仕事の全体像——病棟と何が逆転するのか
- 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚
- 訪問1回の組み立て方——玄関の前から次回の予約まで
- からだをみる——「その人の平常値からのズレ」で読む
- 暮らしをみる——情報は家の中に置いてある
- 「いつもと違う」に気づき、動く——予測と急変時の初動
- 報告・連絡・相談——SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
- 記録と書類——訪問看護記録書・計画書・報告書
- 多職種連携——誰が何を持っていて、何を待っているか
- 家族とともにいる——意思決定支援から看取りまで
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」平成30年3月改訂(https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf)
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン 解説編」(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000197722.pdf)
- 中央社会保険医療協議会 総会「個別事項(その12)人生の最終段階における医療・ケア」令和5年12月8日(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001176508.pdf)※ガイドラインの概要、死亡の場所の推移
- 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf)※機能強化型訪問看護管理療養費の要件(ターミナルケアの実績)
- 厚生労働省保険局医療課「訪問看護計画書等の記載要領等について」令和8年3月27日 保医発0327第10号(https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681763.pdf)
- Malhotra C, Shafiq M, Batcagan-Abueg APM. What is the evidence for efficacy of advance care planning in improving patient outcomes? A systematic review of randomised controlled trials. BMJ Open. 2022;12(7):e060201. doi:10.1136/bmjopen-2021-060201
- Morrison RS, Meier DE, Arnold RM. What’s Wrong With Advance Care Planning? JAMA. 2021;326(16):1575-1576. doi:10.1001/jama.2021.16430

