自閉スペクトラム症でひきこもる中高生への訪問看護:観察とケアのポイント

結論:自閉スペクトラム症(ASD)があり、知的障害を伴うこともある中高生がひきこもっているとき、最初の目標は「部屋から出すこと」ではありません。同じ曜日・時間・担当者・流れで「安心できる大人が定期的に来る」状態をつくることです。本人に会えない時期は、家族への支援から始めてかまいません。
本人は不調を言葉で訴えにくいため、睡眠・食事・体重・便秘・歯・皮膚・服薬の副作用を見て、イライラや自傷を「痛みや体調不良のサイン」としても読みます。動作が極端に遅くなる・固まるといった変化は、ひきこもりの悪化と決めつけず、主治医につなぎます。
SECTION 01 まず目標を決める:「出す」より「安心できる訪問を続ける」
厚生労働省の「ひきこもり支援ハンドブック」は、本人の意思を尊重し、一歩ずつ進めること、家族を支援すること、精神疾患や発達障害を正しく理解すること、支援者が一人で抱え込まないことを基本に置いています。ASDのある中高生では、見通しの立たない変化そのものが大きな負担になるため、この考え方がとくに重要です。
SECTION 02 観察のポイント:言葉にならない不調のサインを拾う
英国のNICEガイドライン(19歳未満の自閉スペクトラム症)は、行動上の問題の背景として、コミュニケーションの困難、痛みや消化器症状などの身体の不調、不安・抑うつ、環境(照明・騒音)、日課の変化、思春期、虐待、予測できなさなどを確認するよう勧めています。睡眠の問題や偏食・栄養の問題についても、評価と対応が示されています。
図1 ひきこもる中高生の体調サインの観察ポイント
てんかんの合併に注意する
ASDの人では、てんかんの合併が多いことが知られています。メタ解析(Amiet ら, 2008)では、てんかんの頻度は知的障害を伴うASDで約2割(21.5%)、知的障害を伴わないASDで約8%でした。ぼんやりして反応がない、一点を見つめて動かない、けいれんなどを見たら、様子を記録して主治医に伝えます。
カタトニア様の変化を見逃さない
ASDでは、動作が極端に遅くなる、固まる、促されないと動けない、話さなくなるといった変化(カタトニア様の症状)が、とくに思春期以降に現れることがあります。専門外来に紹介された506人を調べた研究(Wing & Shah, 2000)では、30人(6%)にこうした重い変化がみられ、15歳以上の年齢群では9〜25%、始まりは10代が多いと報告されています。「ひきこもりが悪化した」と見すごさず、主治医につなぎます。
不安・抑うつ・自傷・希死念慮
これらの併存も多く、本人は言葉で伝えにくいため、行動や表情、睡眠・食事の変化から気づくことが大切です。自傷や希死念慮を疑ったときは一人で抱えず、主治医と緊急時の連絡手順を共有します。
SECTION 03 関わり方:伝え方と環境の整え方
SECTION 04 家族・学校・地域との連携
保護者の疲れや孤立にも目を向けます。ねぎらいと、休息(レスパイト)、ペアレント・トレーニングなどの情報提供が支えになります。あわせて、家庭内暴力や、虐待・ネグレクトのサインがないかにも注意します。虐待が疑われるときは、児童虐待防止法第6条により通告が必要です。
学校、相談支援専門員、発達障害者支援センターとの連携は、本人・家族の同意を得て行います。福岡市は福岡市発達障がい者支援センター、糸島市は福岡県の発達障がい者支援センター(福岡地域)が窓口です(福岡県のページをご確認ください)。
SECTION 05 チェックリスト
- 本人に会えない時期も、家族への支援から始めている(本人の意思を尊重し、無理に部屋から出そうとしない)
- 訪問の曜日・時間・担当者・流れを、できるだけ固定している
- 睡眠・食事・体重・便秘・歯・皮膚・服薬の副作用を、毎回同じ項目で見ている
- イライラ・自傷・パニックの前後で、体調(痛み・睡眠・環境の変化)に変化がなかったか記録している
- てんかんを疑う様子(ぼんやり、一点を見つめる、けいれん)を見たら、主治医に伝えている
- 動作が極端に遅い・固まる・促されないと動けない・話さなくなる変化を、主治医につないでいる
- 不安・抑うつ・自傷・希死念慮を確認し、緊急時の連絡先と手順を家族と共有している
- 保護者の疲れ・孤立、家庭内暴力、虐待・ネグレクトのサインを見ている(通告義務を理解している)
- 学校・相談支援専門員・発達障害者支援センターと、本人・家族の同意を得て連携している
SECTION 06 Q&A
Q. 本人に会えないまま訪問を続けてよいですか。
A. 本人・家族の同意のもと、家族支援から始めることは支援の一つの形です。ただし、本人に会えない日の算定や記録の扱いは、疑義解釈などで個別に確認してください。
Q. イライラや自傷が増えたとき、まず何を見ますか。
A. 痛み(歯・便秘・皮膚)、睡眠、食事、服薬の変化、日課や環境の変化を確認します。体調不良のサインの可能性があるためです。
Q. 動かなくなった・話さなくなったのは、ひきこもりの悪化でしょうか。
A. そうとは限りません。カタトニア様の変化の可能性があるため、様子を記録して主治医につなぎます。
Q. 日本の学会のガイドラインはありますか。
A. この組み合わせ(ASDのひきこもり中高生への訪問看護)に特化した日本の学会のガイドラインは確認できませんでした。本稿は、NICEガイドラインと関連論文、厚生労働省の資料にもとづいています。
SECTION 07 ご利用・採用のご案内
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SECTION 08 参考にした資料
- NICE. Autism spectrum disorder in under 19s: support and management (CG170). 2013年公表(一部推奨は2021年更新). https://www.nice.org.uk/guidance/cg170
- Amiet C, Gourfinkel-An I, Bouzamondo A, Tordjman S, Baulac M, Lechat P, Mottron L, Cohen D. Epilepsy in autism is associated with intellectual disability and gender: evidence from a meta-analysis. Biol Psychiatry. 2008;64(7):577-582. doi:10.1016/j.biopsych.2008.04.030. PMID: 18565495.
- Wing L, Shah A. Catatonia in autistic spectrum disorders. Br J Psychiatry. 2000;176(4):357-362. doi:10.1192/bjp.176.4.357.
- 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」. https://www.mhlw.go.jp/content/001468496.pdf
- 児童虐待の防止等に関する法律 第6条(児童虐待に係る通告).
- 福岡県「発達障がい者支援センター」. https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/hattatsusyougai.html
本稿は一般的な情報であり、個々の利用者の対応は主治医の指示と事業所の手順にしたがってください。制度の運用は改定されることがあります。(令和8年10月11日時点)

