訪問看護師が嚥下機能低下を見たら:医学的根拠に基づく対応とリハビリテーション

訪問看護の現場で、「最近、食事中のむせが増えた」「食事に時間がかかるようになった」「微熱が続いている」といったサインに気づくことはありませんか? これらは、高齢者の「嚥下機能低下」を示す重要なサインです。

厚生労働省の調査等によると、70歳以上の高齢者の肺炎の約7割以上が「誤嚥性肺炎」であると報告されています。訪問看護師による早期の気づきと適切な介入は、患者様の命を守り、生活の質(QOL)を維持するために不可欠です。

本記事では、嚥下能力の基礎知識から、医学的選択肢、リハビリテーションの方法まで、エビデンスに基づき定量的に解説します。また、私たち「ふくろう訪問看護」ならではのサポート体制についてもご紹介します。

目次

1. 嚥下能力とは?低下するメカニズム

嚥下(飲み込み)は、食べ物を認識してから胃に送り込むまでの複雑な運動であり、以下の「5期」に分類されます。

  1. 先行期(認知期)・準備期(咀嚼期)::食べ物の硬さや量を認識する。噛み砕き、唾液と混ぜて「食塊」を作る。
  2. 口腔期:舌を使って食塊を喉の奥(咽頭)へ送り込む。
  3. 咽頭期:嚥下反射が起こり、気管を閉鎖して食道へ送り込む(※ここで誤嚥が起きやすい)
  4. 食道期:食道の蠕動(ぜんどう)運動で胃へ運ぶ。

加齢に伴う機能低下(サルコペニアと不顕性誤嚥)

高齢になると、全身の筋力低下(サルコペニア)に伴い、咀嚼筋や嚥下関連筋群(舌骨上筋群など)の萎縮が進行します。 また、感覚機能の低下により、気管に食べ物や唾液が入っても「むせる(咳嗽反射)」ことができない「不顕性誤嚥(むせない誤嚥)」の割合が増加します。睡眠中の唾液の不顕性誤嚥が、高齢者の肺炎の大きな原因の一つとなっています。

2. 嚥下機能低下患者に対する「医学的選択肢」

嚥下機能の低下が疑われる場合、『嚥下障害診療ガイドライン2018年版』(日本耳鼻咽喉科学会)等の基準に沿って、医師や専門職と連携し、以下の医学的選択肢を検討します。

① 経口摂取の工夫(食事形態と姿勢)

まずは安全に口から食べるための調整を行います。

  • 嚥下調整食の提供:『日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021』に基づき、とろみ(トロミ)の程度や、ゼリー状、ペースト状などの食形態を調整します。水やお茶などのサラサラした液体は最も誤嚥しやすいため、適切な粘度調整が必須です。
  • 姿勢調整:ベッドギャッチアップ30度〜45度、頸部前屈位(あごを引いた姿勢)をとることで、気管への流入を防ぎます。

② 代替栄養(人工的水分・栄養補給法:AHN)の検討

経口摂取だけで必要栄養量(一般に高齢者で1日あたり1,000〜1,500kcal程度)を維持できない場合、代替栄養の導入が検討されます。 日本老年医学会の『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン』では、本人の益と害を慎重に評価し、多職種と家族で合意形成を図ることが推奨されています。

  • 経鼻胃管:短期的な栄養補給や評価目的で用いられますが、自己抜去のリスクや咽頭部の違和感があります。
  • 胃瘻(PEG):4週間以上の長期的な経管栄養が必要な場合に適応となります。嚥下訓練と並行して行いやすく、肺炎のリスク管理がしやすいメリットがあります。
  • 中心静脈栄養(CVポート等) / 末梢静脈栄養(PPN):消化管が使用できない場合や、完全な絶食が必要な場合に選択されます。皮下埋め込み型ポート(CVポート)は在宅での管理が容易です。

③ 薬物療法(補助的アプローチ)

嚥下反射や咳嗽(咳)反射の改善を目的として、脳内のドーパミンやサブスタンスPを増加させる薬剤が処方されることがあります。訪問看護師は、これらの服薬状況と副作用(消化器症状など)をモニタリングします。

  • アマンタジン塩酸塩(ドーパミン遊離促進)
  • シロスタゾール(抗血小板薬だが、脳血流改善・サブスタンスP増加による嚥下機能改善作用が報告されている)
  • アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(降圧薬だが、副作用の「空咳」を逆利用して咳嗽反射を促す)

3. 嚥下能力のリハビリテーション(訓練方法)

訪問看護師が現場で実践・指導できるリハビリテーションには、「間接訓練」と「直接訓練」があります。

間接訓練(食べ物を使わない基礎訓練)

誤嚥のリスクなく実施でき、嚥下に必要な筋力や可動域を維持・向上させます。

  • 口腔ケア:細菌数を減らし、誤嚥性肺炎を予防する基本中の基本です。
  • 頸部・顔面のストレッチ、嚥下体操:食事前の準備運動として有効です。
  • 発声訓練(パタカラ体操):「パ(口唇)」「タ(舌尖)」「カ(舌根)」「ラ(舌の持ち上げ)」と発音することで、嚥下に関わる器官を鍛えます。
  • 呼吸・咳嗽訓練:誤嚥した際に自力で喀出(吐き出す)ための呼気筋力を鍛えます。
  • 頭部挙上訓練(シャキア訓練):仰向けで頭だけを持ち上げ、つま先を見る訓練。食道入口部を開大させる舌骨上筋群を鍛えます。

直接訓練(食べ物を使う実戦訓練)

医師の評価や専門的な指示のもと、誤嚥しにくい食品(ゼリーなど)を用いて実際の嚥下を訓練します。一口量(3〜5ml程度)の調整、嚥下後の口腔内残留の確認(空嚥下の促進)を慎重に行います。

4. ふくろう訪問看護の強み:医療法人監修だからこその安心感

嚥下機能低下を見つけた際、訪問看護師は「どこまで経口摂取を続けてよいのか」「胃瘻やポートの管理はどうすべきか」と悩むことが少なくありません。

当事業所(ふくろう訪問看護)は、医療法人が監修している訪問看護ステーションです。 そのため、現場で働く看護師には以下のような大きなメリットと安心感があります。

  1. 医師との迅速な連携・相談体制 患者様の「むせ」や「食事量低下」をアセスメントした際、法人内の医師に速やかに報告し、医学的根拠に基づいた指示(嚥下評価の依頼、栄養ルートの変更相談、薬物療法の提案など)をスムーズに仰ぐことができます。一人で抱え込む必要はありません。
  2. 胃瘻・CVポート等の医療処置への強いバックアップ 胃瘻トラブル(肉芽、漏れ)やCVポートの管理といった高度な医療処置についても、医療法人のバックアップがあるため、安全・確実な対応が可能です。
  3. 倫理的課題へのチームアプローチ 「口から食べられなくなった時」の人工栄養導入の意思決定など、正解のない倫理的な課題に対しても、医師、ケアマネジャー、ご家族を交えた多職種チームで方針を決定していく土壌が整っています。

まとめ

高齢者の嚥下機能低下は、生命に直結する重要なサインです。訪問看護師による早期発見、適切な食事形態の選択、リハビリテーションの実施が誤嚥性肺炎の予防につながります。

ふくろう訪問看護では、医療法人監修の強みを活かし、医学的なエビデンスと医師との強固な連携のもと、スタッフが安心して専門性を発揮できる環境を整えています。患者様の「食べたい」という思いを安全に支えるケアを、私たちと一緒に実践していきませんか。

【参考文献】

  1. 厚生労働省. 「高齢化に伴い増加する疾患への対応について(肺炎患者の年齢構成と誤嚥性肺炎の割合)」.
  2. 日本耳鼻咽喉科学会 編. 『嚥下障害診療ガイドライン2018年版』. 金原出版.
  3. 日本老年医学会. 『高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン 人工的水分・栄養補給の導入を中心として』. 2012年.
  4. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 『日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021』.
  5. 日本呼吸器学会. 『医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン』.
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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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