特指示の発行・回数はどう決まる?

「特指示(とくしじ)が出たので、明日から毎日訪問に入ってください」——訪問看護の現場でよく飛び交う言葉ですが、特別訪問看護指示書が出た瞬間に、使う保険・訪問できる回数・利用者さんの負担のしくみが大きく変わります。本コラムでは、訪問看護師・リハビリ職のみなさんが「特指示はどういうときに・何回出るのか」「保険証のどこを確認すればよいのか」「利用者さんの負担はどうなるのか」を、現場目線で整理します。
1. 特別訪問看護指示書とは? 通常の指示書との違い
特別訪問看護指示書(以下、特指示)は、主治医が診療に基づき、「急性増悪などにより、一時的に週4日以上の頻回な訪問看護が必要」と認めた場合に、通常の訪問看護指示書に上乗せするかたちで交付する指示書です[1][4]。通常の指示書が「ベースの設計図」だとすれば、特指示は「短期集中の追加指示」にあたります。
| 項目 | 通常の訪問看護指示書 | 特別訪問看護指示書 |
|---|---|---|
| 有効期間 | 1〜6か月の範囲で医師が指定 | 診療の日から14日以内 |
| 交付回数 | 期間が切れたら更新 | 原則、月1回まで(例外あり→第3章) |
| 交付できる医師 | 主治医(かかりつけ医) | 通常指示書と同じ主治医のみ。老健・介護医療院の医師は交付不可 |
| 訪問回数の上限 | 医療保険では原則週3日まで(別表7・8等を除く) | 週4日以上・1日複数回も可能 |
| 適用される保険 | 介護保険優先(要介護認定者の場合) | 要介護認定者でも期間中は医療保険に切り替わる |
特指示は単独では成立しません。必ず「有効な通常の訪問看護指示書」が土台にあり、同じ主治医が診療したうえで交付します[1][4]。無診察での交付はできないため、急変時にはまず主治医の診察(往診・外来・退院時診察)が入る、という流れを押さえておきましょう。
2. どういうときに出る?——交付が想定される3つの場面
特指示の交付が想定されるのは、大きく次の3つの場面です[1][4]。
リハビリ職のみなさんに関わる点として、特指示期間中は訪問看護ステーションからの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の訪問も、医療保険の訪問看護(看護業務の一環としてのリハビリテーション)として位置づけられます。急性増悪後の離床支援や退院直後のADL再構築で、看護師と連携して集中的に入る場面が想定されます。
3. 何回まで出せる?——「月1回」の原則と「月2回」の例外
原則:1人につき月1回・14日以内
特指示の有効期間は診療の日から14日以内、交付は原則として月1回までです[1][4]。「月」は暦月(1日〜末日)で数え、交付日の属する月でカウントします。たとえば7月25日に交付された特指示は8月7日まで有効で、月をまたいでも「7月分の1回」として扱われます(レセプトは月ごとに分けて請求します)。
例外:月2回まで交付できる2つの状態
次のいずれかに該当する利用者さんは、月2回まで交付が可能です。理論上は14日×2回で、ほぼ1か月間を医療保険での頻回訪問でカバーできます[1][4]。
| 月2回交付できる状態 | 現場での着眼点 |
|---|---|
| ① 気管カニューレを使用している状態 | カニューレ管理・吸引頻度の増加、皮膚トラブルなど、連日の観察が必要な場面が多い |
| ② 真皮を越える褥瘡の状態 (NPUAP分類Ⅲ度・Ⅳ度、DESIGN-R D3〜D5) | 連日の処置・体位管理・栄養介入が必要。深達度の評価記録が交付根拠になるため、アセスメントの記載を正確に |
「月2回」の対象はこの2つの状態に限られます。非がんの終末期や難治性潰瘍は、要望はあるものの現時点では月2回の対象に含まれていません。また、連続交付する場合でも、そのつど主治医の診療が必要です。
4. 特指示が出たら保険はどうなる?——保険証確認フロー
ここが実務上いちばん大事なところです。特指示の期間中は、ふだん介護保険で訪問している要介護・要支援の利用者さんも、全員「医療保険の訪問看護」に切り替わります[2][4]。つまり、特指示が出たら「どの医療保険か・負担割合は何割か・公費はあるか」を確認しなければ、請求も利用者さんへの説明もできません。初回訪問時には次の順番で確認しましょう。
交付日・指示期間(14日以内か)・指示内容・通常指示書と同じ主治医かをチェック。指示期間の初日と最終日を訪問予定表に転記します。
75歳以上→後期高齢者医療(負担1割・2割・3割)/70〜74歳→高齢受給者証で2割・3割を確認/70歳未満→3割(未就学児は2割)。介護保険証しか控えていない利用者さんは要注意——特指示期間の請求先は医療保険です。
指定難病の特定医療費受給者証(負担2割+所得に応じた月額上限)[5]、自立支援医療(精神通院)、生活保護の医療券、重度障害者医療など。公費があれば自己負担はさらに軽くなります。受給者証の有効期限と月額上限額の管理票もあわせて確認を。
頻回訪問で自己負担が膨らむ場合、高額療養費制度で月ごとの負担に上限がかかります。限度額適用認定証(またはマイナ保険証の限度額情報)の有無を確認し、必要なら申請を案内します。
特指示期間中の訪問看護は医療保険のため、介護保険の区分支給限度基準額の枠を使いません。ケアプラン上の位置づけが変わるので、開始日と終了見込みを必ず共有します。期間終了の翌日からは自動的に介護保険(または通常の医療保険の枠組み)に戻ります[2]。
5. 利用者さんの負担はどうなる?
特指示期間中の訪問看護は医療保険の「訪問看護療養費」として算定され、利用者さんの自己負担は加入している医療保険の負担割合(1〜3割)で決まります[2]。
| 区分 | 自己負担割合 | 負担を軽くするしくみ |
|---|---|---|
| 75歳以上(後期高齢者医療) | 1割/2割/3割(所得による) | ・高額療養費(月額上限) ・指定難病の医療費助成(2割負担+月額上限)[5] ・自立支援医療、生活保護、自治体の医療費助成 など |
| 70〜74歳 | 2割(現役並み所得は3割) | |
| 70歳未満 | 3割(未就学児は2割) |
説明の際に押さえたいポイントは次の3つです。
- 回数が増えれば、その分だけ負担額も増える——「毎日入るとおおよそいくらになるか」の見込みを、負担割合とあわせて事前に伝えると安心につながります。
- 介護保険の限度額は消費しない——「訪問看護が毎日になったせいで、ヘルパーが使えなくなるのでは」という心配には「訪問看護は別枠(医療保険)に移るので、介護サービスの枠はそのまま使えます」と説明できます。
- 公費・高額療養費で上限がかかる場合が多い——特に難病・生活保護・重度障害の利用者さんでは、実質負担がごく小さいこともあります。受給者証の確認が説明の精度を左右します。
6. 特指示期間中に「できるようになること」
- 週4日以上の訪問——通常の医療保険の「週3日まで」の制限が外れ、毎日の訪問も可能になります[1][4]。
- 1日複数回の訪問——朝の処置と夕方の状態観察など、1日2〜3回の訪問を組めます(難病等複数回訪問加算の対象)。
- 複数ステーションの併用——週4日以上の頻回訪問が計画されている場合、2か所のステーションが並行して入れます。
- 長時間訪問看護加算の対象——90分を超える長時間の訪問看護が週1回算定できます。
- 週3日以上の点滴が必要なら——別途「在宅患者訪問点滴注射指示書」(有効期間7日・回数制限なし)の交付を主治医に相談します[1]。
※2026年度診療報酬改定では、高齢者住宅等に併設・隣接するステーションを対象とした「包括型訪問看護療養費」が新設され、特指示が交付されている利用者もその対象に含まれました[6]。制度の細部は今後も変わりうるため、最新の告示・通知の確認を習慣にしましょう。
7. まとめ——現場で迷わないための5行
- 特指示は「急性増悪・終末期(末期がん以外)・退院直後」に、主治医の診療に基づいて交付される。
- 有効期間は診療日から14日以内、交付は原則月1回。気管カニューレ使用中・真皮を越える褥瘡なら月2回まで。
- 期間中は全員が医療保険——要介護の利用者さんも切り替わる。
- 確認するのは「特指示原本 → 医療保険証(負担割合)→ 公費受給者証 → 限度額認定証」の順。
- 介護保険の限度額は消費しない。開始・終了はケアマネと必ず共有する。
参考文献
- 厚生労働省「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)区分番号C007 訪問看護指示料・特別訪問看護指示加算、および同算定に係る留意事項通知(令和8年度診療報酬改定後)。
- 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第67号)および同留意事項通知(令和8年度改定後)。
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等」(平成20年厚生労働省告示第63号)別表第7・別表第8。
- 厚生労働省保険局医療課「訪問看護療養費請求書等の記載要領等について」ほか関連通知(特別訪問看護指示書の様式・交付要件・月2回交付の対象状態を規定)。
- 厚生労働省「難病の患者に対する医療等に関する法律」(平成26年法律第50号)に基づく特定医療費(指定難病)助成制度。
- 厚生労働省 中央社会保険医療協議会 答申「令和8年度診療報酬改定について」(2026年2月)訪問看護関連項目(包括型訪問看護療養費の新設等)。

