うつの廃用症候群から立ち上がれるか。

在宅リハビリテーション / 精神科訪問看護
うつの廃用症候群から、もう一度立ち上がれるか
50代女性・脳梗塞などの器質的疾患はなし。動かない時間が積み重なって歩けなくなった方に、訪問看護とリハビリで何ができるのか。エビデンスと制度の両面から整理します。
立ち上がれます。ただし「順番」を間違えると、かえって遠回りになります。
器質的な病気がないのに動けなくなった状態は、多くが「うつ」と「廃用(生活不活発)」がかみ合って進んだものです。廃用によって落ちた体力は、活動を戻せば戻ることが実験的に確かめられています。一方で、うつの回復には決まった段階があり、体力が戻るタイミングは気分が戻るタイミングより遅れます。この時間差を知らずに「気分が良くなったのだから動けるはず」と前倒しすると、失敗体験になり、悪循環がもう一周します。
この記事では、①なぜ動けなくなるのか、②何日で落ちて何日で戻るのか、③うつ以外の原因を落とさないための確認、④回復段階ごとのリハビリの中身、⑤運動と行動活性化の具体的な処方、⑥訪問で使える評価、⑦保険と制度の組み立て方、の順にまとめます。
「動けない」は、2つの環がかみ合って進む
廃用症候群は、厚生労働省の資料では「生活不活発病」とも呼ばれます。動かない生活が続くことで心身の機能が落ち、機能が落ちるからますます動けなくなる——この悪循環が、進行のエンジンです。悪循環は「心身機能」「活動」「参加」のどのレベルからでも始まりうる、と整理されています[1]。
うつの場合、この環は二重になります。こころの環(気分が落ちる → 起き上がる回数が減る → できなかった自分を責める)と、からだの環(筋力・持久力が落ちる → 少し動くと疲れる → 動くこと自体が怖くなる)が、互いを加速させます。
図1|厚生労働省資料および大川による「生活不活発病と生活機能低下の悪循環」の考え方をもとに作成[1]。
この年代の女性に、決してまれな話ではない
令和5年(2023年)患者調査によると、気分[感情]障害(躁うつ病を含む)の推計患者数は1日あたり10万3,500人。うち35〜64歳が5万2,300人と最も多い層です。受療率(人口10万対)でみると外来は男性50に対し女性73で、女性のほうが高くなっています[2]。
からだは何日で落ち、何日で戻るのか
「もう戻らないのでは」という不安に、数字で答えられる部分があります。
落ちる速さ
健康な高齢者(平均67歳、半数が女性)12人に10日間だけベッド上で過ごしてもらった研究では、下肢の除脂肪量が約1kg減り、筋たんぱく合成速度は約30%低下しました[4]。同じ集団を対象とした続報では、10日間で下肢の筋力・パワー・有酸素能が明らかに低下しています[5]。参考として、平均38歳の成人では28日間の臥床でも下肢除脂肪量の減少は0.4kg未満とされており[4]、落ち方には年齢差があります。50代はその中間にあたると考えるのが妥当です。
戻る速さ
より在宅の実情に近いのが「歩数を減らす」実験です。ふだん活動的な成人45人(平均36歳、女性28人)が14日間だけ歩数を1日約1万歩減らしたところ、全身のインスリン感受性、体脂肪・腹囲・肝脂肪、全身持久力、血管内皮機能がそろって悪化しました。ところがその後14日間ふだんの活動に戻すと、いずれの指標もほぼ元の水準に復帰しました[6][7]。
図2|短期間の活動低下は測定可能な形でからだを変えますが、活動を戻せば同じだけの期間で戻ることが示されています[6][7]。ただし対象は健常成人であり、うつ病で長期間動けずにいる方にそのまま当てはめることはできません。「戻る方向に動く」根拠として読んでください。
「2週間動かないと体力は確かに落ちます。でも2週間動かした人は、ほぼ元に戻っています。今の状態は“壊れた”のではなく“使っていない”のだと思います」——原因を人格や意志の問題にせず、可逆的な身体現象として説明することが、最初の一歩を軽くします。
動けない理由を「うつ」だけにしない
「器質的疾患がない」という前提でも、動けなさの一部が身体側や薬剤側から来ていないかは、訪問のたびに拾い直す価値があります。うつ病診療ガイドライン2025でも、第1章に「うつ病に併存する身体疾患にはどのような配慮が必要か」という項目が独立して置かれています[8]。
| 拾うところ | 具体的に見るもの | あてはまったら |
|---|---|---|
| 日中の眠気・ふらつき | 朝の起き上がりに何分かかるか。日中に何時間横になっているか。立ち上がり時のふらつき | 睡眠薬・抗不安薬・鎮静系抗うつ薬の影響を主治医へ報告。転倒リスクとして計画書に記載 |
| 疲れやすさの質 | 「気持ちが向かない」のか「息が上がる・足に力が入らない」のか。本人の言葉で分ける | 後者が優位なら身体面の評価を優先。体重減少・食事量も同時に確認 |
| 食事と体重 | 1日の食事回数、たんぱく質源(肉・魚・卵・大豆・乳)の有無、体重の推移 | 低栄養が併走していると筋力は戻りにくい。主治医・管理栄養士と共有 |
| 痛み | 腰・膝・肩の痛みで動作を避けていないか。夜間痛の有無 | 痛みが動作制限の主因なら、リハの入り口が変わる |
| 気分の上がりすぎ | 急に活動量が増える、眠らなくても平気、イライラ | 抗うつ薬によるアクチベーションや診断の見直しの可能性。速やかに主治医へ[3] |
| 回復期の危険サイン | 制止が取れてきた時期の希死念慮、身辺整理、急な安堵 | 回復期はむしろ自殺リスクが高まる時期がある。チームで共有し、単独判断で抱えない[3] |
精神科作業療法の場は、薬物療法の効果と有害作用をモニタリングするのに適した場だと位置づけられています[3]。訪問看護も同じです。週1〜2回、生活の場で継続的に観察している私たちが最初に気づける変化があります。「眠いのは薬のせいだから飲みたくない」といった、主治医には言いにくい訴えが出てくる場でもあります。受け止めたうえで、本人の同意を得て主治医につなぐところまでが仕事です。
順番を間違えない ── 回復段階でリハの中身は変わる
日本うつ病学会の「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」は、うつ病の回復過程を休息期/急性期/回復期前期/回復期後期に分け、それぞれで作業療法の役割と使う活動を整理しています[3]。在宅でも、この地図はそのまま使えます。
いちばん大事なのは「気分と体力のズレ」
同ガイドラインは、回復期後期を「病前の6〜7割の回復状態」と表現し、この時期には気分は改善しても意欲が低下しており、集中力が続かず、体力低下や易疲労感が残存していることが多いと述べています。そして、これは怠けや気持ちの問題ではなく、気分の回復と、意欲・記憶力・集中力・体力の回復には時間的なズレがあることを、本人と家族に説明するよう求めています[3]。
図3|日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」の回復過程の記述をもとに作成[3]。橙色の帯が、「気分は上向いたのに、まだ動けない」時期にあたります。
段階別の中身
| 段階 | この時期の目標 | 在宅でやること | やらないこと |
|---|---|---|---|
| 休息期 | 休息の確保と回復の保証 | 「必ず回復すること」「休息は治療であること」を伝える。訪問は短時間で。生活のリズムと睡眠だけ把握する | 活動の提案。目標設定。決定を迫ること |
| 急性期 | 廃用の予防と早期離床 | ストレッチ体操などの簡単な身体運動を取り入れて廃用を予防する。所要は10分程度から段階的に増やす[3]。ベッド上での足関節運動、端座位の時間づくり | 負担の大きい課題。会話の情報量を増やすこと |
| 回復期前期 | 現実感の回復と活動量の調整 | 「散歩でもしてみようか」という自然な意欲を支持する。行った後の心地よさと疲労感を基準にペースを決める。活動と気分の記録表を導入 | 本人のペースを超えた前倒し。「もう大丈夫」という励まし |
| 回復期後期 | 生活の立て直しと再発予防 | 洗濯・掃除など生活課題の再開。休息の取り方とストレス対処を練習。趣味・役割の再構築。復職準備 | 元どおりに戻すことを目標にすること |
表1|日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」表3をもとに、在宅の場面に読み替えて作成[3]。
同ガイドラインは、「うつ病の患者は一度決めたことを、無理をしても守ろうとする傾向があるため注意が必要である」と明記しています[3]。決めた回数を体調が悪い日も守ってしまい、翌日に反動が来て、「やっぱり自分はダメだ」という体験に変わる——これが在宅で最も起こりやすい失敗です。目標と一緒に「休んでいい条件」と「休むときの連絡方法」を、最初に文書で渡しておくことを勧めます。
何を、どれだけ ── 運動のエビデンスと、現実的な処方
エビデンスは「運動そのもの」を支持している
218研究・14,170人を統合した2024年のネットワークメタ解析(BMJ)では、通常ケアなどの対照と比べてウォーキングまたはジョギング(効果量 Hedges’ g −0.62、95%確信区間 −0.80〜−0.45)、ヨガ(g −0.55、−0.73〜−0.36)、筋力トレーニングでうつ症状の中等度の改善が認められました。強度が高いほど効果は大きく、一方で脱落が少なかった(受け入れられやすかった)のは筋力トレーニングとヨガでした。著者らは、運動は精神療法や薬物療法と並ぶ中核的治療の選択肢として検討しうるとしています[9]。
抗うつ薬で寛解に至っていない患者を対象にした試験では、週210分程度のウォーキングに相当する中等度の運動で寛解率が高まったとの報告もあります[3][10]。また、運動プログラムは専門家の指導のもとで行った場合に効果が高まり、脱落率が下がることも示されています[3]——訪問リハビリが介在する意味は、ここにあります。
これらの数字は「運動できる状態の人」を対象にした試験から出ています。週210分のウォーキングは、いま10メートル歩けない人への処方ではありません。目標として置くのは正しく、いきなり渡すのは間違いです。
はしごを1段ずつ
図4|段階を上げる速さは「翌日の体調」で決めます。回数や距離ではなく、翌朝の起き上がりが前日と同じかどうかを判断基準にすると、本人にも家族にも共有しやすくなります。
1回のメニュー例(回復期前期・訪問30分の中で)
- 座位で3分:足首の上下、膝の伸展、肩回し。会話しながらでよい
- 立ち上がり:椅子から5回。手すりや机に手をついてよい。回数より「毎回同じ椅子で」を優先し、比較できるようにする
- 歩行:室内を往復。距離ではなく、その日どこまで行けたかを本人と一緒に記録
- 締め:「今日いちばんラクだったのはどれでしたか」と聞き、次回の入り口を決める
器質的疾患がない50代であれば、負荷を上げること自体は安全にできることが多いのが特徴です。制限要因は身体ではなく、多くの場合「やってみる前の予測(どうせ疲れる、どうせできない)」の側にあります。だからこそ、次のセクションが要になります。
行動活性化 ── 「やる気が出たら動く」ではなく「動くとやる気が出る」
厚生労働科学研究で作成された患者向け資料は、行動活性化を「達成感や楽しみを感じられる行動を増やしましょう」と説明しています[11]。精神科作業療法ガイドラインも、行動活性化療法の視点は回復期以降の介入に積極的に取り入れるべきと位置づけています[3]。
図5|「身体を動かせばこころも動く」「こころが変われば身体も変わる」という良循環をつくることが、うつ病の作業療法の基本方針とされています[3]。
なぜ訪問看護師・リハ職が担えるのか
英国で行われた大規模比較試験(COBRA試験、Lancet 2016)では、専門的な心理療法の訓練を受けていない若手メンタルヘルスワーカーが実施した行動活性化が、専門家が実施した認知行動療法に対して非劣性でした。12か月時点で両群とも約3分の2の参加者が抑うつ症状の50%以上の改善を報告し、行動活性化の提供コストは約20%低くなっています[12]。行動活性化療法が対照群や薬物療法群よりうつ症状を改善させたとするメタ解析もあります[3][13]。
つまり行動活性化は、生活の場に定期的に入る職種が実装するのに向いた方法です。心理療法の専門資格がないから手が出せない、という話ではありません。ただし、実施にあたっては主治医と方針を共有し、記録を医療チームで共有することが前提です。
1週間の活動記録シート(訪問で一緒に埋める)
「快(楽しさ)」と「達成(できた感じ)」を0〜10で別々につけるのがコツです。うつ状態では、楽しさが戻る前に達成感が戻ることがよくあります。
| 日付 | やったこと(小さくてよい) | 快 0-10 | 達成 0-10 | 翌朝の体調 |
|---|---|---|---|---|
| 例)8/10 | カーテンを開けて5分座った | 2 | 5 | いつもと同じ |
シートは「宿題」にすると、できなかったときに自責の材料になります。訪問の場で一緒に振り返る資料として扱い、空欄があっても「その日は休めたということですね」と扱ってください。埋まっている行を見つけて、数字が動いた行を本人と一緒に指さすのが、いちばん効きます。
測る ── 「良くなっている」を数字で見せる
うつの回復は本人には実感しにくく、「何も変わっていない」と感じやすいものです。だから測ります。測った数字は、そのまま自己効力感の材料になります。
| 何を見るか | 使えるもの | 備考 |
|---|---|---|
| 気分と疲労 | SMSF(気分と疲労のチェックリスト) | 13項目のVAS。5分程度で実施でき、繰り返して状態の変化を本人と共有しやすい[3] |
| 抑うつの重症度 | QIDS-J(簡易抑うつ症状尺度) | 16項目の自己評価。0-5正常/6-10軽度/11-15中等度/16-20重度/21-27きわめて重度[3] |
| 生活行為(IADL) | FAI(Frenchay Activities Index) | 15項目。うつ病の方はIADLが低下しやすく、生活評価として有用とされる[3] |
| 社会適応 | SASS-J(自記式社会適応度評価尺度) | 一般平均36点、就労群と非就労群のカットオフは25/26点[3] |
| 復職準備性 | PRRS(復職準備性評価シート) | 全項目平均2.0点以上でリワーク活動開始、3.0点以上で復職申請の目安[3] |
| 身体機能 | 握力/30秒立ち上がりテスト/TUG/歩数 | 特別な機器が要らず、在宅で毎回同じ条件で測れるものを選ぶ。歩数は活動量計やスマートフォンで代用可 |
表2|評価尺度は日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」資料編に掲載されたものから抜粋[3]。
【在宅パート】保険と制度をどう組むか
50代・うつ病・器質的疾患なし。この条件では、使える制度が一段せまくなります。組み方を先に決めておかないと、必要な職種が入れません。
まず、介護保険は使えません
40〜64歳(介護保険第2号被保険者)が要介護認定を受けられるのは、加齢に起因する16の特定疾病に該当する場合に限られます。うつ病はこれに含まれません。したがって、65歳未満のうつ病では、訪問看護も訪問リハビリも医療保険で組むことになります。ケアマネジャーを介さず、訪問看護ステーションへ直接相談する流れになる点も、介護保険のケースとの大きな違いです。
医療保険には2つのルートがあり、選択で「入れる職種」が変わる
図6|どちらを選ぶかは「いま何がボトルネックか」で決まります。服薬中断・不安・生活リズムが主課題ならA、筋力低下と歩行が主課題ならB。開始前に主治医と合意しておく必要があります。
- 精神科訪問看護基本療養費で訪問できるのは、保健師・看護師・准看護師・作業療法士です。理学療法士・言語聴覚士は算定の対象になりません。「うつの廃用に理学療法士を入れたい」場合、この点が最初の分岐になります。
- 訪問するスタッフは、精神科病棟・精神科外来での勤務経験1年以上、精神疾患を有する方への訪問看護の経験1年以上、精神保健業務の経験1年以上、または所定の研修修了のいずれかを満たし、地方厚生(支)局への届出が必要です。
- 精神科訪問看護基本療養費(Ⅰ)(Ⅲ)は1回30分以上が原則です。30分未満で算定するには、指示書に「短時間訪問の必要性」の記載が要ります。
- 訪問看護記録書・報告書・明細書に、月の初日の訪問時のGAF値を記載します。
- 急性増悪時は精神科特別訪問看護指示書(14日、月1回)で回数の枠が広がります。
令和8年度診療報酬改定(2026年6月1日施行)で意識したいこと
- 退院後3か月以内の週5日:精神科訪問看護の訪問日数の上限は原則週3日ですが、退院後3月以内は週5日まで拡大されています。うつの廃用は退院直後がいちばん動かしどきです。この枠を使い切る設計を、退院前カンファレンスの段階で立てておきます。
- 漫然・画一的な訪問回数の設定は認められません。「毎週火・金」を惰性で続けるのではなく、いま何段目にいるから週何回必要なのかを計画書に書き、段が上がったら回数の見直しも書く。これは請求上の話であると同時に、そのままリハビリの質の話でもあります。
- 訪問開始・終了時刻の記載、服薬状況・残薬の把握といった記録要件も、改定で明確化された部分です。
医療費と生活費を支える制度
| 制度 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自立支援医療 (精神通院医療) | 通院・投薬・デイケア・訪問看護の自己負担が原則1割になり、世帯の所得に応じた月額上限が設定される[14] | うつ病は「重度かつ継続」に該当。一定所得以上(市町村民税所得割23万5千円以上)の方の経過的特例は令和9年3月31日まで延長[15]。利用できる医療機関・薬局は原則1か所ずつだが、訪問看護事業所は追加できる |
| 精神障害者 保健福祉手帳 | 各種割引・税の控除など。障害福祉サービスの利用にもつながる | 初診から6か月経過後に申請可能 |
| 傷病手当金 | 健康保険の被保険者が就労できない期間の所得補償 | 支給期間は通算して1年6か月。復職と再休職を繰り返す場合の通算の考え方を早めに確認しておく |
| 自立訓練 (生活訓練) | 障害福祉サービス。生活リズムの立て直しや日中活動の場として使える | 市区町村の障害福祉窓口へ。訪問看護と並走させやすい |
| 精神科作業療法・ 精神科デイケア・リワーク | 医療機関側で提供されるプログラム。集団の場での練習は在宅では代替しにくい | 外出できる段(図4の④以降)に届いたら、次の受け皿として先に見学だけ済ませておく |
廃用症候群リハビリテーション料は、急性疾患等に伴う安静(治療の有無を問わない)による廃用症候群で、治療開始時にFIM115以下・BI85以下といった一定以上の能力低下がある場合に算定する区分で、診断または急性増悪から120日が限度です[16]。うつ病による長期臥床がこれに当たるかは個別の判断になり、精神科領域では精神科作業療法が主軸になることが多いのが実情です。いずれにせよ算定区分の判断は医療機関側で行うものであり、訪問看護側からは「この方は廃用が主課題である」という評価を具体的な数値で共有することが役割になります。
家族へ、そして支援する私たちへ
精神科作業療法ガイドラインは、家族への説明としてこう整理しています。うつ病の治療・リハビリテーションには1〜2年を要し、個人差が大きいこと。休養・休職期間は医学的にも必要な時間であり、本人は決して怠けているわけではないこと。叱咤激励を避けること。同時に、家族の共感的態度が本人の依存傾向を強め、自主性を失わせることのないようにも、と付け加えています[3]。
この2つは矛盾しません。「代わりにやってあげる」を減らし、「一緒にやる」を増やす——これが実務上の落としどころです。洗濯物をたたむのを代わってしまうと役割が失われますが、隣で一緒にたたむなら、それは活動であり交流でもあります。
| 避けたい言葉 | 置き換え |
|---|---|
| 「がんばって」「気の持ちよう」 | 「今日はここまで動けましたね」 |
| 「いつになったら治るの」 | 「先週より1回多く立てましたね」 |
| 「起きないと体がなまるよ」 | 「起きたくなったら声をかけてください。5分だけ一緒に座りましょう」 |
| 「みんな大変なんだから」 | 「しんどいのに、話してくれてありがとう」 |
家族自身も不安と負担を抱えており、支援を必要としている——という認識も、同ガイドラインが繰り返し強調している点です[3]。訪問時に本人だけでなく、玄関先で家族に「ご家族はいかがですか」と一言かけることを、業務の一部として組み込んでください。
受診・相談の目安
- 死にたい気持ちや、消えてしまいたいという言葉が出たとき
- 身辺の整理を始めた、急に穏やかになった、といった変化があるとき(回復期はむしろ危険が高まる時期があります[3])
- 眠らなくても平気になり、急に活動量が増え、いつもと違う様子が見られるとき
- 食事量・水分量が明らかに減り、体重が短期間で落ちているとき
- 「動けない」の内容が、意欲の問題から身体症状(息切れ、脱力、痛み)へ移り変わってきたとき
ご本人・ご家族が相談できる公的な窓口もあります。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(お住まいの都道府県・政令指定都市の相談窓口につながります)
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間対応)
ふくろう訪問クリニックとふくろう訪問看護リハビリステーションでは、精神科領域の在宅支援に対応しています。「病院に行けるくらいなら、こんなに困っていない」——その段階からご相談ください。動けるようになってから受診するのではなく、動けないところから始めるのが在宅医療の仕事です。
参考文献・出典
- 厚生労働省「生活不活発病と『生活機能低下の悪循環』」(審議会資料)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002ksqi-att/2r9852000002ktwd.pdf/大川弥生「生活不活発病(廃用症候群)—ICF(国際生活機能分類)の『生活機能モデル』で理解する」ノーマライゼーション 2009年8月号
- 厚生労働省「令和5年(2023)患者調査の概況」(令和6年12月20日公表)表2・表5・統計表3https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/dl/kanjya.pdf
- 日本うつ病学会「うつ病治療ガイドライン —精神科作業療法—」2018年11月19日作成https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline_20181119.pdf
- Kortebein P, Ferrando A, Lombeida J, Wolfe R, Evans WJ. Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults. JAMA. 2007;297(16):1772-1774. doi:10.1001/jama.297.16.1772-b(PMID: 17456818)
- Kortebein P, Symons TB, Ferrando A, et al. Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2008;63(10):1076-1081. doi:10.1093/gerona/63.10.1076(PMID: 18948558)
- Bowden Davies KA, Sprung VS, Norman JA, et al. Short-term decreased physical activity with increased sedentary behaviour causes metabolic derangements and altered body composition. Diabetologia. 2018;61(6):1282-1294. doi:10.1007/s00125-018-4603-5(PMID: 29671031)
- Sprung VS, Bowden Davies KA, Norman JA, et al. Short-term physical inactivity induces endothelial dysfunction. Front Physiol. 2021;12:659834. doi:10.3389/fphys.2021.659834
- 日本うつ病学会「うつ病診療ガイドライン2025」2025年12月25日公開https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/iinkai/katsudou/data/guideline2025.pdf(第1章 治療計画の策定 BQ1-6、BQ1-9 ほか)
- Noetel M, Sanders T, Gallardo-Gómez D, et al. Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2024;384:e075847. doi:10.1136/bmj-2023-075847(PMID: 38355154)
- Trivedi MH, Greer TL, Church TS, et al. Exercise as an augmentation treatment for nonremitted major depressive disorder: a randomized, parallel dose comparison. J Clin Psychiatry. 2011;72(5):677-684.
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- Richards DA, Ekers D, McMillan D, et al. Cost and Outcome of Behavioural Activation versus Cognitive Behavioural Therapy for Depression (COBRA): a randomised, controlled, non-inferiority trial. Lancet. 2016;388(10047):871-880. doi:10.1016/S0140-6736(16)31140-0(PMID: 27461440)
- Ekers D, Webster L, Van Straten A, et al. Behavioural activation for depression: an update of meta-analysis of effectiveness and sub group analysis. PLoS One. 2014;9(6):e100100.
- 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)について」https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000146932.pdf
- 障害者総合支援法施行令の改正(令和6年3月29日公布)による経過的特例の延長(令和9年3月31日まで)。愛知県「自立支援医療(精神通院医療)制度について」ほか各自治体公表資料
- 「H001-2 廃用症候群リハビリテーション料」令和8年度診療報酬改定。対象患者は急性疾患等に伴う安静(治療の有無を問わない)による廃用症候群で、治療開始時にFIM115以下・BI85以下等の状態にあるもの。算定限度は診断または急性増悪から120日
本記事は2026年8月時点で確認できる公的資料・学会ガイドライン・査読付き論文をもとに作成した一般向けおよび医療従事者向けの情報提供です。診断・治療・算定の可否は個々の状況によって異なります。診療報酬・公費の取扱いは、必ず最新の告示・通知および地方厚生(支)局・自治体の運用をご確認ください。症状についての判断は、主治医にご相談ください。

