訪問看護師のための筋トレ

訪問看護師のための筋トレ
――ぎっくり腰を「事故」にしないための、1日3分と週2〜3回
訪問看護は、腰にとって不利な条件がそろっています。ベッドの高さも床の広さも選べない、応援を呼べない、そして次の家までは車で座りっぱなし。日本の女性看護師3,066人を対象にした調査では、この1年間に腰痛があった人は75.9%にのぼりました。
この記事では、「痛くなってから何をするか」ではなく、痛くなる前に自分でできることに絞ってまとめます。器具はいりません。時間は、訪問の合間の30秒と、週に2〜3回・自宅で5分です。あわせて、2026年4月から新しく適用が始まった行政の枠組みと、事業所として使える支援制度も整理しました。
SECTION 01 結論――先に3つだけ
- 1運動は、腰痛予防で唯一はっきり効果が示されている方法
21件のランダム化比較試験をまとめた解析では、運動と教育を組み合わせると腰痛エピソードの発生が約45%減りました(相対リスク0.55)。一方で、腰ベルト(コルセット)や靴の中敷きには予防効果の根拠が見つかっていません。腰を守るのは装備ではなく、動きです。[9]
- 2量より「切れ目なく続くこと」。やめると効果も消える
同じ解析で、運動の予防効果は1年を超えると弱まる、あるいは消えていました。つまり必要なのは、追い込む1時間ではなく、やめずに済む3分です。筋力トレーニングにストレッチか有酸素運動を足して週2〜3回、というのが現時点で推奨できる形です。[9][10]
- 3「痛いから動かない」が、いちばん慢性化させる
日本の看護師の調査では、体を動かすことへの恐れが強い人は、仕事に支障が出る慢性腰痛を抱えている割合が1.76倍でした。ぎっくり腰になったときも、原則は安静ではなく「痛くない範囲で動く」です。[8][14][15]
SECTION 02 数字で見る――腰は「業務上疾病の第1位」
厚生労働省が2026年5月27日に公表した令和7年(2025年)の労働災害発生状況(確定値)によると、休業4日以上の死傷者数は135,333人。事故の型別では「転倒」が37,195人で最多、次いで腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が22,166人と続きます。業種別では保健衛生業が19,291人で、前年より2.2%増えました。[1]
図1|厚生労働省「令和7年における労働災害発生状況(確定値)」(2026年5月27日公表)より作成。
腰痛はもともと、休業4日以上の業務上疾病のうち約6割を占める第1位の疾病です。とくに保健衛生業と陸上貨物運送事業は突出しており、腰痛の発生率(死傷年千人率)は保健衛生業0.25、陸上貨物運送事業0.41に対して全業種平均は0.1。医療・介護の現場は、平均の2倍以上腰を痛めやすい職場だということです。[2]
もうひとつ、介護施設に関する厚生労働省の通達(令和6年3月29日 基発0329第34号・老発0329第10号)にはこう書かれています。転倒による骨折等と腰痛等の「動作による負傷」の2つで労働災害全体の約7割を占め、平均休業見込み日数は約39日。ぎっくり腰は「1〜2日休めば戻る」ものとは限りません。[4]
看護職の腰痛は「珍しいこと」ではない
全国12病院の女性看護師3,066人(平均35.8歳)を対象にした調査では、次のような結果でした。[8]
図2|Fujii T, Oka H, Takano K, et al. BMC Musculoskeletal Disorders. 2019;20:572 のデータをもとに作成。
読み方のポイントは、「腰痛がある人が多い」ことではなく、「仕事に支障が出る形で居座る人は一部」だという点です。過去20年の看護師の腰痛研究90件をまとめたレビューでも、有訴率の中央値は62.5%で、20年間ほとんど変わっていません。[11] 腰痛をゼロにするのは現実的ではありませんが、「支障が出る側」に回らないようにすることはできます。
SECTION 03 訪問看護の腰は、何に削られているのか
病棟と訪問では、腰にかかる負荷の質がちがいます。訪問看護に固有の要素は、大きく5つです。
- 1環境を選べない
高さの変わらない布団や低いベッド、狭い寝室、片側からしか近づけない配置。病棟なら「ベッドを上げる」で解決することが、そのまま中腰の時間になります。
- 2人を呼べない
単独訪問では、「もう1人いれば2人でできた」介助を1人で組み立て直す必要があります。ここで無意識に人力での抱え上げに戻ってしまうのが、いちばん危険なパターンです。
- 3移動で固まる
訪問と訪問のあいだは、座位のまま車の運転。腰痛予防対策指針が対策の必要な5作業のひとつに「長時間の車両運転等の作業」を挙げているとおり、運転は腰にとって休憩ではありません。冷えて固まった体で、降りた直後にいきなり中腰になる――これが訪問看護に特有の危ない瞬間です。[2]
- 4同じ動作が1日に何度も来る
清拭、おむつ交換、吸引、移乗。1回あたりの負荷は大きくなくても、1日6〜8軒ぶん積み上がります。腰痛は「重いものを持った瞬間」だけでなく、蓄積の先で起こります。
- 5心理社会的な負荷も腰に来る
腰痛は姿勢や重量だけの問題ではありません。日本の勤労者を対象にした前向き研究でも、仕事の量的負担や職場での支援不足といった心理社会的要因が、仕事に支障をきたす腰痛の発症・遷延の危険因子として示されています。[16]
SECTION 04 1軒目の自分と、7軒目の自分
ぎっくり腰は、たいてい「重いものを持った瞬間」には起きません。多くの人が思い出すのは、そんなに重くない何かを、そんなに無理でもない姿勢で持ち上げた瞬間です。だから「あんなことで」と本人がいちばん驚きます。
けれど、それは事故ではありません。1軒目から7軒目まで、腰が丸まったまま伸びる機会のないまま積み上がってきた結果が、たまたまその動作で表に出ただけです。松平浩氏はこれを「腰痛借金」と呼んでいます。返さないまま増えていく、という感覚は現場の実感によく合います。
だとすれば、筋トレの目的は「強くなること」ではありません。7軒目の自分を、1軒目の自分にできるだけ近づけておくことです。目指すのは最大筋力ではなく、1日の終わりまで形が崩れない耐久性。この視点に立つと、やるべきことは自然に決まります。追い込む1時間より、訪問と訪問のあいだに挟む30秒のほうが大事だ、ということです。
図3|同じ業務量でも、途中で腰を「戻す」機会があるかどうかで1日の終わりの状態は変わる。
SECTION 05 やることは3層に分けると続く
予防に有効な運動として現時点で推奨できるのは、筋力トレーニングに、ストレッチか有酸素運動を組み合わせて週2〜3回という形です(16件の比較試験のメタ解析。運動単独で腰痛リスクが33%低下)。[10] ただし訪問看護の1日にそのまま「週2〜3回のジム通い」を差し込むのは現実的ではないので、次の3層に分けます。
図4|「毎日」「週2〜3回」「いつでも」で役割が違う。3つ全部を毎日やろうとすると、たいてい2週間でやめてしまう。
SECTION 06 毎日・訪問の合間に――合計30秒
1|立って腰をそらす(3秒)
この動きは、松平浩氏が考案し「これだけ体操®」として知られている体操です。介護職を対象にした1年間の比較研究では、実施を促した群(64人)は、マニュアルだけを渡した群(72人)にくらべて実施率も腰痛の改善・予防の割合も有意に高く、介入群では研究期間中に腰痛での初回受診も休業も発生しませんでした。[12] その後、全国12の労災病院の看護師を対象とした大規模ランダム化比較試験でも検証されています。[13]
- 1立ち方
足を肩幅よりやや広く開き、つま先はまっすぐ前に向けます。
- 2手の位置
両手の手のひらの付け根(手根部)を、ベルトの位置=腰の後ろに当て、指は下向きにそろえます。
- 3そらす
息をゆっくり吐きながら、膝は伸ばしたまま、肘を内側に寄せるようにして両手で骨盤を前へ押し込みます。「痛気持ちいい」ところで3秒キープ。
- 4回数
予防目的なら1日1〜2回で十分。腰が重い日は5〜10回。前かがみの作業を終えた直後・車を降りた直後に入れるのがいちばん効率的です。
そらしたあとに腰の痛みが10秒以上続く場合は、押し込む力を弱めるか中止します。お尻から太ももにかけて痛みやしびれが出た場合は中止し、整形外科を受診してください。
2|太ももの裏のばし(20秒×左右)
椅子や車のバンパー、階段の1段目などに片足のかかとを乗せます。背すじを伸ばしたまま、腰を丸めずに股関節から前に倒すのがポイント。前屈で背中を丸めてしまうと、狙ったハムストリングではなく腰椎が伸ばされます。20秒ずつ、左右。
3|股関節の前のばし(20秒×左右)
片膝立ちになり、後ろ足側のお尻を軽く締めながら、骨盤ごと前へ体重を移します。腰を反らせて前に出るのではなく、股関節の前側(腸腰筋)が伸びる感覚を探します。運転で縮んだままの筋肉なので、訪問看護ではここがいちばん効きます。
厚生労働省は、転倒と腰痛の両方を対象にした「いきいき健康体操」(4分15秒の動画と解説書)を無料で公開しています。令和元年度厚生労働科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業「エビデンスに基づいた転倒予防体操の開発およびその検証」の一環として制作されたもので、ストレッチ、スロースクワット、腰痛予防の体操、片足立ち、かかと落としが4分に収められています。朝のミーティングで全員でやるのに向いた長さです。[5]
SECTION 07 週2〜3回・自宅で5分の筋トレ4種
器具は不要、床とスペースがあればできます。回数より、フォームが崩れないところで止めることを優先してください。
| 種目 | やり方 | 回数の目安 | 崩れやすい点 |
|---|---|---|---|
| お尻上げ (ヒップリフト) | 仰向けで膝を立てる。お尻を締めてから骨盤を持ち上げ、肩・腰・膝が一直線になる位置で3秒キープ。ゆっくり下ろす。 | 10回×2セット | 腰を反らせて高く上げすぎる。上げるのは「腰」ではなく「お尻の力で骨盤」。 |
| 対角の手足のばし (バードドッグ) | 四つ這いから、右手と左足をゆっくり水平に伸ばして5秒キープ。左右交互。 | 左右各6回×2セット | 骨盤が左右に傾く。腰の上にコップを置いてこぼさないつもりで。手足は高く上げなくてよい。 |
| 横向き支え (サイドブリッジ) | 横向きに寝て、肘と膝で体を支えて腰を持ち上げる。頭からお尻まで一直線。 | 10〜20秒×左右2回 | お尻が後ろに引ける。きつければ膝つきのままで十分。反動をつけない。 |
| ゆっくりスクワット | 椅子の前に立ち、3秒かけて座り、3秒かけて立つ。お尻を後ろに引きながら股関節から折る。 | 10回×2セット | 膝がつま先より大きく前へ出る。背中が丸まる。反動で立ち上がる。 |
おまけ|転倒予防の2種(各30秒)
腰痛と転倒は、労働災害の1位・2位を占める「行動災害」として一体で対策されています。ついでに次の2つを入れておくと効率的です。
- 片足立ち:壁や手すりのそばで、左右30秒ずつ。ふらついたらすぐ手をつける位置で。
- かかと落とし:つま先立ちになり、かかとをストンと下ろす×10回。骨への刺激になります。
骨粗しょう症と診断されている方、圧迫骨折の既往がある方、妊娠中の方、下肢のしびれや脱力がある方、腰の手術を受けたことがある方は、自己判断で始めず、まず主治医または整形外科にご相談ください。かかと落としと腰そらしは、とくに骨粗しょう症の方では注意が必要です。
SECTION 08 やらないほうがいいこと、誤解されていること
- 1膝を伸ばしたままの上体起こし(シットアップ)
腰椎に強い圧迫と剪断力がかかります。腹筋を鍛えたいなら、上に挙げた横向き支えや対角の手足のばしのように「腰を動かさずに支える」種目のほうが目的に合っています。
- 2腰ベルト(コルセット)を毎日つけっぱなしにする
腰痛予防対策指針は、腰部保護ベルトについて「一律に使用するのではなく、個人ごとに効果を確認してから使用の適否を判断すること」としています。[2] 予防効果を検証したメタ解析でも、腰ベルトに予防効果の根拠は見つかっていません。[9] 腰痛診療ガイドライン2019でも装具療法は「弱く推奨(推奨度2)」にとどまります。[15] 痛みが強い時期に一時的に使うのはよい選択ですが、常用の道具ではありません。
- 3「痛いけれど押し切る」筋トレ
痛みを我慢して回数を稼ぐと、代償動作で別の場所を痛めます。痛みが出ない範囲まで回数・角度・キープ時間を落としてください。ゼロにするより、小さくして続けるほうが正解です。
- 4「腰が痛いから動かない」
これがいちばん誤解されている点です。看護師3,066人の調査では、体を動かすことへの恐れが強い群(FABQ-PAスコア15以上)では、仕事に支障が出る慢性腰痛のオッズ比が1.76倍(95%信頼区間1.21〜2.57)でした。[8] 日本の勤労者を対象にした研究でも、急性腰痛のあとに「治るまで安静に」と指導された人のほうが、「痛くない範囲で普段どおりに動いてよい」と指導された人より、その後の経過が不良でした。[14]
SECTION 09 筋トレより先に効くもの――動作と環境
順番として大事なのは、実は筋トレより先です。腰痛診療ガイドライン2019は、職業性腰痛の予防について「運動」と「職場環境の改善(持ち上げ器具の使用、作業場の高さ調整など)」の両方を挙げています。[15] どんなに鍛えても、毎日抱え上げていれば追いつきません。
職場における腰痛予防対策指針(平成25年6月18日 基発0618第1号)は、適用対象を福祉・医療分野等における介護・看護作業全般に広げたうえで、腰部に著しく負担のかかる移乗介助等については「リフト等の福祉機器を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」と明記しています。[2][3]
また、人力のみで取り扱う物の重量の目安として、満18歳以上の男性は体重のおおむね40%以下、女性はその60%程度までとしています。体重50kgの人なら12kg前後です。人の体はこの範囲をはるかに超えています。
- 1高さを変える
介護ベッドは、作業のたびに自分の腰(大転子あたり)の高さまで上げる。ギャッチアップも遠慮なく使う。上がらないベッドや布団のままなら、それは「がんばりどころ」ではなくケアマネジャーに伝えるべき福祉用具の相談材料です。
- 2滑らせる、持ち上げない
スライディングシート・スライディンググローブを常備し、上方移動や体位変換は「持ち上げる」ではなく「滑らせる」に置き換える。1人訪問ほど、道具に頼る意味が大きくなります。
- 3近づく
対象物が体から離れるほど腰にかかるモーメントは大きくなります。ベッド柵をはずす、足を1歩踏み込む、片膝を乗せる。「遠くから手を伸ばす」を減らすだけで負荷はかなり変わります。
- 4膝をつく
床上のケア(吸引、おむつ交換、褥瘡処置)は、中腰ではなく片膝または両膝をつく。訪問バッグに膝をつくためのタオルやクッションを1枚入れておくと定着します。
- 5車から降りるときの型を決める
運転席から降りるときは、体をひねって片足ずつ出さず、いったん体ごと横を向いて両足を外に出してから立つ。そして立ったら3秒だけ腰をそらしてから歩き出す。ここを型にしておくと、「降りた直後の1動作」でのぎっくり腰が減ります。
SECTION 10 それでもぎっくり腰になったら
まず確認するのは「これは自分で様子を見てよい腰痛か」です。プライマリケアの急性腰痛のうち、重篤な脊椎の病気が原因であるものは1%未満とされていますが、そのわずかな例を見落とさないための確認です。[8]
図5|腰痛診療ガイドライン2019の考え方をもとに、訪問看護の現場向けに整理。
動ける腰痛だったときの過ごし方
- 1寝込まない
腰痛診療ガイドライン2019は、急性腰痛について「安静よりも活動性の維持のほうが有用」としています。痛みの強い最初の1〜2日に無理をする必要はありませんが、ベッドで固定するのは逆効果です。楽な姿勢を見つけつつ、こまめに立って歩きます。[15]
- 2痛み止めは我慢しない
ガイドラインでは急性腰痛に対する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が推奨度1・エビデンスの強さAで推奨されています。痛みを抑えて動けるようにすること自体が治療です。持病や併用薬がある方は薬剤師・主治医に確認を。[15]
- 3冷やす/温めるは、楽なほうで
どちらが正しいかを決める強い根拠はありません。急性期で熱感があれば冷却、こわばりが強ければ温熱、と本人が楽なほうを選んで構いません。
- 4その日のうちに管理者へ報告する
「たいしたことないから」と黙って続けると、記録が残らず、訪問の組み替えも福祉用具の相談もできません。報告は自分のためだけでなく、次に同じ家に入る同僚のためでもあります。
- 5戻すときは段階的に
復帰初日から重い介助を含む訪問に戻さない。抱え上げの多い利用者を一時的に外す、複数名訪問に戻す、といった組み替えを管理者と相談してください。
SECTION 11 ステーションとして取り組めること――2026年に変わった枠組み
改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)第62条の2により、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善・作業の管理等が事業者の努力義務となりました。これを受けて「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日公示、令和8年4月1日適用)が示され、従来の「エイジフレンドリーガイドライン」は令和8年3月31日で廃止、法律に基づく指針へと格上げされています。[6][7]
指針は、①安全衛生管理体制の確立等 ②職場環境の改善 ③健康や体力の状況の把握 ④健康や体力の状況に応じた対応 ⑤安全衛生教育、の5本柱で構成され、体力の把握には厚生労働省の「転倒等リスク評価セルフチェック票」の活用が示されています。[7]
- 1腰痛の健康診断
腰痛予防対策指針は、重量物取扱い作業・介護看護作業等に常時従事する労働者について、配置する際とその後6か月以内ごとに1回、医師による腰痛の健康診断を実施することとしています。[2][3]
- 2腰痛予防体操を業務時間内に
指針は「作業開始前、作業中、作業終了後等」に腰痛予防体操を実施させ、そのための時間・場所が確保できるよう配慮することとしています。個人の心がけではなく、事業所側が用意する枠組みという整理です。[3]
- 3エイジフレンドリー補助金(令和8年度)
中小企業事業者向けに、リスクアセスメントと、その結果を踏まえた転倒防止・腰痛予防のための運動指導や、移乗介助を支援する機器の導入、ノーリフトケアの教育などの経費が補助されます(専門家総合対策コース、上限100万円)。交付申請の受付は令和8年5月20日〜10月31日。ただし専門家によるリスクアセスメント(第1段階)の申請期限は令和8年8月31日で、予算に達した時点で締め切られます。医療・福祉法人は、資本金がない場合は労働者数(100人以下)で中小企業事業者に該当するかを判断します。[17][18]
- 4記録を「個人の不注意」で終わらせない
腰を痛めた報告が上がったら、その家の環境(ベッドの高さ、動線、福祉用具の有無)まで戻って見直す。同じ利用者宅で複数のスタッフが腰を痛めているなら、それは個人の問題ではなく環境の問題です。
SECTION 12 チェックリスト
- 前かがみの作業を終えたら、その場を離れる前に3秒だけ腰をそらしている
- 車を降りたら、歩き出す前にいちど腰を起こしている
- 運転席から降りるとき、両足を外に出してから立つ型になっている
- 介護ベッドを、作業のたびに自分の腰の高さまで上げている
- 床上のケアで、中腰ではなく膝をついている
- スライディングシートやグローブを訪問バッグに入れている
- 「持ち上げる」を「滑らせる」に置き換えられないか、毎回考えている
- 週2〜3回、5分の筋トレ(お尻上げ・対角の手足・横向き支え・スクワット)をしている
- 腰ベルトを、痛いとき限定ではなく毎日つけっぱなしにしていない
- 腰の違和感を「たいしたことない」で片づけず、管理者に伝えている
- 足のしびれ・脱力・排尿の異常という受診サインを覚えている
- 抱え上げが必要な利用者宅を、福祉用具やケアマネジャーへの相談につなげている
SECTION 13 よくある質問
Q1 いま腰が痛いのですが、筋トレは始めてよいですか。
足のしびれ・脱力・排尿の異常・発熱・強い外傷といったサインがなければ、痛みが出ない範囲の運動は勧められます。ただし腰痛診療ガイドライン2019で運動療法が強く推奨(推奨度1)されているのは慢性腰痛(3か月以上)に対してで、急性腰痛への運動療法は推奨が示されていません。急性期にまずやるべきは「筋トレ」ではなく「寝込まないこと」です。痛みが落ち着いてから、回数を落として再開してください。[15]
Q2 週2〜3回も時間がとれません。毎日30秒だけでも意味がありますか。
あります。介護職を対象にした研究で効果が示された「立位の腰そらし」は、1回3秒の体操です。[12] 大事なのは総量より継続で、運動の予防効果はやめると弱まることがわかっています。[9] まず30秒を切らさないことを目標にして、余裕が出た週に5分を足す順番で構いません。
Q3 腰ベルトをすれば予防になりますか。
予防目的での常用は勧められません。腰ベルトの予防効果はメタ解析で示されておらず[9]、腰痛予防対策指針も「一律に使用するのではなく、個人ごとに効果を確認してから使用の適否を判断」としています。[2] 痛みが強い時期に一時的に使い、動けるようになったら外していく、という使い方が現実的です。
Q4 腹筋を鍛えれば腰痛は防げますか。
「腹筋が弱いから腰痛になる」という単純な図式では説明できません。予防効果が示されているのは特定の筋肉ではなく、筋力トレーニングにストレッチか有酸素運動を組み合わせたプログラム全体です。[10] また、体幹だけでなく上肢・下肢の運動も含む形が多く用いられています。[9] ヒップリフトやスクワットでお尻と脚を入れているのは、そのためです。
Q5 1人訪問で、どうしても持ち上げないと成立しない場面があります。
それは個人が工夫して乗り切る場面ではなく、事業所に持ち帰る場面です。腰痛予防対策指針は「原則として人力による人の抱上げは行わせないこと」としています。[2][3] 福祉用具(スライディングシート、リフト、手すり、高さの変わるベッド)の導入をケアマネジャーに相談する、複数名訪問に戻す、訪問時間を組み替える――どれも管理者と一緒に動く話です。「1人でやりきれた」ことは、次に同じ家に入る誰かにとっての前例になってしまいます。
Q6 スタッフに運動を勧めたいのですが、負担にならない始め方は。
厚生労働省の「いきいき健康体操」(4分15秒)を朝のミーティングで流すのが、いちばん摩擦が少ない入り口です。[5] オンラインでの取り組みにも根拠があり、高齢者ケアに従事する130人を対象としたランダム化比較試験では、ビデオ会議で指導した12週間のレジスタンス運動によって腰痛の強さが有意に改善しました。[19] 訪問看護のように全員が同じ時刻に同じ場所へ集まれない職場でも、形にできるということです。
SECTION 14 参考資料
- 厚生労働省「令和7年の労働災害発生状況を公表(確定値)」2026年5月27日. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73382.html
- 厚生労働省「腰痛予防対策」(職場における腰痛予防対策指針の概要、死傷年千人率、腰部保護ベルトの扱い). https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31158.html
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」(平成25年6月18日付け基発0618第1号 別添). https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001376468.pdf
- 厚生労働省労働基準局長・老健局長「介護施設における労働災害の防止について」令和6年3月29日 基発0329第34号・老発0329第10号. https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T241219K0040.pdf
- 厚生労働省「転倒予防・腰痛予防の取組」(転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」動画・解説書). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000111055.html
- 厚生労働省「「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(公示)」令和8年2月10日(高年齢者の労働災害防止のための指針公示第1号、適用日 令和8年4月1日). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html
- 厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」(関係通達 基発0210第1号、転倒等リスク評価セルフチェック票、エイジフレンドリー補助金). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html
- Fujii T, Oka H, Takano K, Asada F, Nomura T, Kawamata K, Okazaki H, Tanaka S, Matsudaira K. Association between high fear-avoidance beliefs about physical activity and chronic disabling low back pain in nurses in Japan. BMC Musculoskelet Disord. 2019;20(1):572. doi:10.1186/s12891-019-2965-6. https://doi.org/10.1186/s12891-019-2965-6
- Steffens D, Maher CG, Pereira LSM, Stevens ML, Oliveira VC, Chapple M, Teixeira-Salmela LF, Hancock MJ. Prevention of Low Back Pain: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Intern Med. 2016;176(2):199-208. doi:10.1001/jamainternmed.2015.7431. PMID:26752509
- Shiri R, Coggon D, Falah-Hassani K. Exercise for the Prevention of Low Back Pain: Systematic Review and Meta-Analysis of Controlled Trials. Am J Epidemiol. 2018;187(5):1093-1101. doi:10.1093/aje/kwx337. PMID:29053873
- 関 美和子ほか. 看護師の腰痛に関する文献検討と腰痛予防・改善に向けた今後の課題. 日本看護研究学会雑誌. 2023;46(1):99-114.(過去20年・90文献、腰痛有訴率の中央値62.5%)
- Matsudaira K, Hiroe M, Kikkawa M, Sawada T, Suzuki M, Isomura T, Oka H, Hiroe K, Hiroe K. Can standing back extension exercise improve or prevent low back pain in Japanese care workers? J Man Manip Ther. 2015;23(4):205-209. doi:10.1179/2042618614Y.0000000100. PMID:26917938
- Oka H, Nomura T, Asada F, Takano K, Nitta Y, Uchima Y, et al. The effect of the “one stretch” exercise on the improvement of low back pain in Japanese nurses: a large-scale, randomized, controlled trial. Mod Rheumatol. 2019;29(5):861-866. doi:10.1080/14397595.2018.1514998
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- Matsudaira K, Konishi H, Miyoshi K, Isomura T, Takeshita K, Hara N, Yamada K, Machida H. Potential risk factors for new onset of back pain disability in Japanese workers: findings from the Japan epidemiological research of occupation-related back pain study. Spine (Phila Pa 1976). 2012;37(15):1324-1333. doi:10.1097/BRS.0b013e3182498382. PMID:22246538
- 厚生労働省「令和8年度エイジフレンドリー補助金」のご案内(リーフレット). https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001715767.pdf
- 一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会「令和8年度エイジフレンドリー補助金」(申請受付・様式・Q&A). https://www.jashcon-age.or.jp/
- Espin A, Irazusta J, Aiestaran M, Latorre Erezuma U, García-García J, Arrinda I, Acedo K, Rodriguez-Larrad A. Videoconference-Supervised Group Exercise Reduces Low Back Pain in Eldercare Workers: Results from the ReViEEW Randomised Controlled Trial. J Occup Rehabil. 2024. doi:10.1007/s10926-024-10182-2
本記事は、腰痛の予防と自己管理に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の診断・治療に代わるものではありません。痛みやしびれが強い場合、症状が続く場合、持病がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
記載した制度・統計は2026年8月時点の公表情報にもとづいています。補助金の要件・期限は変更されることがあるため、申請前に必ず最新の公式情報をご確認ください。

