採血結果をどう見る?

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採血結果をどう見る?
在宅でよく出る検査値の読み方

在宅療養では、月に一度の採血が「今の体で何が起きているか」を知るほとんど唯一の窓になります。けれど検査値は、正常か異常かの二択で読むものではありません。この記事では、在宅の一般採血でよく並ぶ項目を五つのかたまりに分け、学会ガイドラインと公的資料をもとに読み方を整理します。さらに、在宅ならではの落とし穴──採血してから検査室に届くまでに数字そのものが動いてしまうこと──についても具体的に扱います。

目次

SECTION 01「基準範囲」は正常値ではない

検査結果票の右側に並ぶ数字の並び──あれは「正常値」ではありません。日本臨床検査標準協議会(JCCLS)が定義しているとおり、基準範囲とは健康な人を集めて測ったときの、真ん中95%が入る区間です。つまり、健康な人でも定義上20人に1人は範囲の外に出ます。

ここから素直に計算すると、一つの検査項目で健常者が範囲外になる確率は5%。項目が互いに独立だと仮定すれば、20項目測ったときに「1つ以上が範囲外」になる確率は 1−0.9520=約64%、40項目なら約87%です。実際には項目どうしに相関があるためこれより低くなりますが、項目をたくさん測るほど「※」が付く箇所が増えるのは、病気のせいではなく統計の性質だということは押さえておく価値があります。

図1 基準範囲=健常者の測定値の「真ん中95%」 中央 95% = これが「基準範囲」 下限 上限 2.5% 2.5% 健康な人でも、20項目測れば約64%が「1つ以上は範囲外」になる (各項目が独立と仮定した計算値。実際は項目間に相関があるためこれより低くなります)

図1:基準範囲は「健康な人の分布の真ん中95%」という統計的な区間であって、そこを外れたら病気という線ではありません。

基準範囲と「臨床判断値」はまったく別のもの

JCCLSは、基準範囲と混同されやすい概念として臨床判断値を明確に区別しています。臨床判断値とは、特定の病態に対して診断や治療介入の目安として設定された値のこと。たとえばWHOの貧血の定義や、動脈硬化性疾患の予防を目的としたLDLコレステロールの目標値がこれにあたります。JCCLSは「基準範囲は、それ単独では診断や治療の判定の拠り所にはならないが、測定値を解釈する目安として必要である」と述べています。

使い分けのイメージ
・基準範囲=「健康な人と比べてどのあたりか」を見るモノサシ
・臨床判断値=「治療を始めるか/専門医に相談するか」を決める線
この二つが同じ数字になっているとは限りません。むしろ違うのが普通です。

JCCLS共用基準範囲(主要項目)

かつては施設ごとに基準範囲がばらばらでしたが、現在は日本臨床検査医学会・日本臨床化学会・日本臨床衛生検査技師会・日本検査血液学会の共同作業で設定された「共用基準範囲」が広く採用されています。在宅でよく出る項目を抜き出しました。

項目単位共用基準範囲在宅での主な見どころ
白血球 WBC10³/μL3.3〜8.6感染・炎症。高齢者では上がらないことも
ヘモグロビン Hbg/dL男 13.7〜16.8
女 11.6〜14.8
貧血。落ちる「速さ」が重要
MCVfL83.6〜98.2貧血の原因を三つに振り分ける
血小板 PLT10³/μL158〜348出血傾向、肝硬変、薬剤性
総蛋白 TPg/dL6.6〜8.1Albと合わせて読む
アルブミン Albg/dL4.1〜5.1栄養ではなく炎症・予後の指標
尿素窒素 UN(BUN)mg/dL8〜20脱水・消化管出血・高蛋白負荷
クレアチニン Crmg/dL男 0.65〜1.07
女 0.46〜0.79
筋肉量に強く影響される
ナトリウム Nammol/L138〜145薬剤性の低Na、ふらつき・転倒
カリウム Kmmol/L3.6〜4.8薬剤性の高K、検体由来の偽高値
クロール Clmmol/L101〜108Naとセットで動くかどうか
カルシウム Camg/dL8.8〜10.1低Alb時は必ず補正して読む
血糖 GLUmg/dL73〜109採血後の放置で低く出る
総ビリルビン T-Bilmg/dL0.4〜1.5黄疸、胆道閉塞、溶血
ASTU/L13〜30肝以外(筋・心・溶血)でも上昇
ALTU/L男 10〜42
女 7〜23
より肝特異的
LD(LDH)U/L124〜222溶血検体で必ず上がる
ALP(IFCC法)U/L38〜1132020年に測定法が変更(後述)
γ-GTU/L男 13〜64
女 9〜32
胆道系・薬剤性・アルコール
コリンエステラーゼ ChEU/L男 240〜486
女 201〜421
肝合成能。Albと同じ方向に動く
CRPmg/dL0.00〜0.14上がるまでに時間差がある
HbA1c%4.9〜6.0貧血・輸血・鉄剤でずれる

出典:日本臨床検査標準協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲」(2022年10月1日改訂)および同「共用基準範囲に基づく医学教育用基準範囲 解説書」(2019年10月10日)。ALPは日本臨床化学会がIFCC法移行にあたって示した成人男女の基準範囲(38〜113 U/L)を記載しています。

ただし、この表の数字をそのまま使わないでください。共用基準範囲は「すべての施設が満たすべき精度管理の要件」を満たした検査室での値です。実際の判定は、必ずその検査結果票に印刷されている基準範囲を優先してください。検査センターや機器によって数字が違うことは普通にあります。

SECTION 02在宅の採血は「検査室に届くまで」で決まる

当院の視点

在宅では、病棟や外来より「数字が動いてしまう余地」が大きい

病院なら採血から検査室まで数分です。在宅は違います。ご自宅で採って、車で運んで、クリニックに戻って、検査センターの集配を待つ。この数時間の空白のあいだに、体の中では起きていないことが試験管の中で起きます。とくにカリウムと血糖は、患者さんの状態とは無関係に動きます。「腎臓が悪くないのにKが5.6」「食後なのに血糖が82」──こうした値を見たら、まず病態を疑う前に検体の履歴を思い出してください。

日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン」および日本臨床検査標準協議会「標準採血法ガイドライン(GP4-A3、2019年3月発行)」から、検査値に直結する手技上のポイントを整理します。

図2 採血のこの5場面で、数字は動く 1 駆血帯を1分以上つけたまま探した → カリウムや蛋白などが上振れする。1分以内なら影響はわずか 2 「手を握ったり開いたり」を繰り返してもらった → 筋肉からカリウムが出る。K測定時は避ける(ガイドライン明記) 3 細い針で強く吸った/混和が乱暴だった → 溶血。赤血球の中身が出てK・LD・ASTが一気に上がる 4 全血のまま冷たい場所に置いた(冬場の車内・保冷剤の直近) → 赤血球からカリウムが漏れ出て、偽性高カリウム血症になる 5 血糖を解糖阻止剤(NaF)入りでない管に入れた → 血球が糖を消費し続け、時間とともに血糖値が下がっていく ※ 1・2は標準採血法ガイドライン(GP4-A3)に基づく記載。3〜5は検体の前処理(プレアナリシス)に関する一般的な留意点。

図2:在宅採血では、この5つのうち3つ(溶血・低温放置・分離の遅れ)が「移動時間」に集中します。

標準採血法ガイドラインの実務ポイント

  • 駆血帯は穿刺部位の7〜10cm中枢側、強さは40mmHg程度。1分以内であれば測定値への影響はわずかとされています。
  • パンピング(手を何度も握り開きする動作)はカリウム測定時には避ける。軽く握ってもらうのは可。
  • 抗凝固剤入りの採血管は、ホルダーから抜いたらすぐに5回以上、確実に転倒混和する。
  • 1本の採血針で採る採血管は原則10本まで
  • 止血は5分程度。抗凝固薬・抗血小板薬を内服中の方はさらに長めに。
  • 翼状針は、直針に比べて神経損傷の頻度が低いとされ、使用が広がっています。

穿刺してはいけない部位・避けるべき部位

部位起こりうること判断
手首の手掌側腱・動脈の損傷穿刺不可
麻痺のある側感染・神経損傷穿刺不可
透析シャントのある腕シャント閉塞穿刺不可
輸液ルートより中枢側の静脈輸液が混じって測定値が狂う穿刺不可
感染のある部位血流感染穿刺不可
乳房切除側の腕リンパ流のうっ滞避けるべき(医師の許可があれば可の場合あり)
手首の橈側橈骨神経浅枝の障害避けるべき
肘窩の尺側領域/肘窩遠位の正中領域深部正中神経障害合併症に注意して穿刺

出典:日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン」(標準採血法ガイドラインGP4-A3より改変)

合併症の頻度も知っておく。神経損傷は約1万〜10万回の穿刺に1回、血管迷走神経反応(VVR)は0.01〜1%とされています。まれではありますが、在宅では「近くに助けを呼べる人がいない」状況で起こります。VVRの既往、採血を希望しない部位、消毒薬・ラテックスのアレルギーは初回訪問時に必ず確認して記録に残し、既往のある方は臥位で採血してください。

SECTION 03五つのかたまりで読む

項目を一つずつ上から順に見ていくと、必ず途中で迷子になります。在宅の一般採血は、次の五つのかたまりに分けて「どこが動いたか」を先につかむと読みやすくなります。

図3 在宅の一般採血を五つのかたまりで読む ① 血球 ── 貧血・感染・出血 WBC / Hb / MCV / PLT 見るのは「値」より「前回からの落ち幅と速さ」 ② 腎機能と電解質 ── 脱水・薬の効きすぎ Cr / eGFR / BUN / Na / K / Cl / Ca 在宅でいちばん「行動が変わる」かたまり ③ 肝臓と胆道 ── 薬剤性・胆道閉塞 AST / ALT / ALP / γ-GT / T-Bil 新しく始めた薬がないかを必ず確認する ④ 栄養と炎症 ── ただし読み違えやすい Alb / TP / ChE / CRP Albは「栄養」ではなく「炎症と予後」を映している ⑤ 代謝と心臓 ── 薬の調整に直結する GLU / HbA1c / BNP・NT-proBNP / PT-INR

図3:どのかたまりが動いたかを先に決めてから、その中の項目を細かく読みます。

SECTION 04血球──貧血・感染・出血

貧血の定義は一つではない

WHOは年齢を問わず、ヘモグロビン(Hb)が男性13 g/dL未満、女性12 g/dL未満を貧血と定義しています。ところが加齢とともにHbは低下するため、この基準をそのまま当てはめると、通常の居住生活を送っている65歳以上の約10%、85歳を超えると約20%が「貧血」に該当してしまいます。

そこで国立長寿医療研究センターをはじめ日本の高齢者医療の現場では、男女を問わずHb 11.0 g/dL未満を「明らかに貧血を有する高齢者」とするのが実用的という考え方が示されています。日本老年医学会の学術集会記録でも、多くの論文が11〜11.5 g/dL以下を採用していると報告されています。

数字に幅があるのは、対象集団と目的が違うからです。WHOの13/12は「世界共通の疫学的定義」11.0前後は「精査・治療を要する高齢者を絞り込むための実用値」。前者は広く拾い、後者は介入対象を絞る。矛盾ではなく役割の違いです。ただし11.0以上でも、MCVに異常がある場合や、経過とともにHbが下がり続けている場合は精査が必要とされています。

MCVで三つに振り分ける

MCV分類在宅で優先して考えること
〜83 未満小球性鉄欠乏。高齢者では消化管出血をまず疑う。NSAIDsの長期内服は要チェック
83〜98正球性慢性疾患に伴う貧血、腎性貧血、出血直後、原因不明の「老人性貧血」
98 超大球性ビタミンB12・葉酸欠乏。胃切除後、PPIやH2ブロッカーの長期内服
ビタミンB12欠乏は「認知症のように」現れることがあります。国立長寿医療研究センターの病院レターでは、B12欠乏症の高齢者では認知症が前面に出ることがあり、神経症状と貧血の程度は必ずしも相関しないと指摘されています。神経症状は治療が遅れると不可逆になることがあるため、大球性貧血を見たら「もの忘れが最近進んだ気がする」という家族の言葉と結び付けて考えてください。

なぜ在宅では貧血に気づきにくいのか

高齢者、とくに寝たきりに近い方は日常の活動量が少ないため、Hbが減っても動悸や息切れという典型的な症状が出ません。慢性の経過をたどった場合はHb 9 g/dL以下でも自覚症状に乏しいことがあると報告されています。「元気そうに見える」ことは、貧血がないことの根拠になりません。顔色、眼瞼結膜、爪、そして何より前回値からの推移で見てください。

SECTION 05腎機能──eGFRが「良く見えて」しまう人

これは在宅で最も重要な落とし穴です。血清クレアチニン(Cr)は筋肉から生じる代謝産物なので、筋肉量が少ない人ではCrが低く出ます。すると、そこから計算されるeGFR(推算糸球体濾過量)は実際より高く=良く見えてしまいます。

日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」は、筋肉量が極端に減少している高齢者では血清Cr値の低下からGFRを過大評価する可能性があると明記し、その懸念がある場合には血清シスタチンC値を用いたeGFR(JSN eGFRcys)を使用するよう述べています。サルコペニア、長期臥床、四肢欠損などが該当します。

図4 同じ「Cr 0.70 mg/dL」でも意味が違う Crから計算した見かけのeGFR 実際の腎機能に近いと考えられる範囲 A:日常的に歩ける75歳男性・筋肉量は保たれている eGFR 約80 ほぼ同じ Crの値と実際の腎機能が大きくは食い違わない B:寝たきりで痩せた88歳男性・著しい筋肉量の低下 eGFR 約72 実際はもっと低い Crを作る筋肉そのものが少ないため、腎機能が良く見えてしまう ※ 数値は説明のための例示です。実際の乖離の程度は個人差が大きく、疑う場合はシスタチンCによる評価を行います。

図4:在宅の患者さんはBに近い方が多くいます。「eGFRが70もあるから薬の量は大丈夫」という判断が危ういのは、このためです。

ここが薬につながります。腎排泄型の薬(DOAC、一部の抗菌薬、ジゴキシン、メトホルミンなど)は腎機能に応じて用量を決めます。eGFRを過大評価すれば、そのぶん薬が過量になります。さらにCKD診療ガイドライン2023は、加齢による腎予備能の低下から、脱水や低血圧による腎血流の低下、NSAIDsなどの腎毒性物質の使用で急性腎障害を起こしやすいことにも注意を促しています。夏場の食欲低下と鎮痛薬の併用は、在宅で最も遭遇する腎障害の組み合わせです。

BUNとCrの「比」を見る

BUN(尿素窒素)は、脱水や心不全のように腎血流が低下した状態では尿細管からの再吸収が増えるため、Crに比べて高くなります。日本内科学会雑誌の解説では「BUNの変動はCrに比べて大変大きいため、大きな上昇や低下を見たら腎外性因子が関与していると考えたほうがよい」とされています。

図5 BUN/Cr比の読み分け(目安) およそ10前後 ── 腎臓そのものの問題として動いている 慢性腎不全ではBUNもCrも同じように上がるため、比は10前後で安定しやすい 10を超えてくる ── 腎臓の外に理由がある 循環血液量の減少(下痢・嘔吐・発汗・心不全・利尿薬)、高蛋白食、消化管出血 20以上 ── まず脱水を疑う 在宅では夏場・発熱時・食事量低下時に最もよく見る組み合わせ 30以上+Hb低下 ── 上部消化管出血を強く疑う 黒色便の有無、抗血栓薬・NSAIDsの内服を必ず確認し、その日のうちに報告

図5:BUN/Cr比は、脱水と消化管出血という在宅で見逃したくない二つを拾い上げる指標です。

SECTION 06電解質──ナトリウム・カリウム・カルシウム

ナトリウム:低Naはほとんど「薬」から始まる

低ナトリウム血症は日常臨床で最も頻度の高い水電解質異常の一つで、とくに高齢者に多く見られます。高齢者では腎臓の尿濃縮能・希釈能が低下し、バソプレシン(ADH)の基礎分泌が亢進しているため、抗うつ薬によるSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)が発症しやすいとされています。

在宅で低Naを見たら確認する薬機序のイメージ
サイアザイド系などの利尿薬ナトリウムの排泄促進+尿希釈能の低下
SSRI・SNRIなどの抗うつ薬ADH分泌の亢進(SIADH)
カルバマゼピンADH分泌の亢進
オピオイド、一部の抗がん剤ADHへの影響
低Naの症状は「なんとなくぼんやりする」「ふらつく」「吐き気がする」といった非特異的なものから始まります。認知症の進行や老衰と誤って解釈されやすいのが厄介なところです。転倒が増えた・傾眠が増えたという変化の背景に低Naがないか、直近の処方変更と併せて確認してください。急激に低下した場合は高齢者ほど重症化しやすく、意識障害や痙攣は緊急の所見です。

カリウム:まず「本当に上がっているのか」を疑う

血清カリウムが予想外に高いとき、腎機能障害や薬剤(RAS阻害薬、スピロノラクトン、ST合剤など)といった相応の理由が見当たらなければ、偽性高カリウム血症を鑑別する必要があります。原因は大きく二つ、採血手技によるものと、血液成分の異常によるものです。

  • 溶血──最も多い原因。カリウムは細胞内の主要な陽イオンなので、赤血球が壊れれば血清中の濃度が上がります。同時にLDやASTも上がっていれば溶血を強く疑えます。
  • 全血のまま低温で保存──細胞内のカリウムが細胞外へ放出されます。冬場は室温保存でも室温そのものが低い点に注意が必要です。
  • 1分を超える駆血、手のパンピング──筋肉からのカリウム放出。
  • 血小板増多──採血後に血液が凝固する際、血小板からカリウムが放出されます。血小板数が60万/μLを超えると頻度が増すとされ、100万/μL以上では顕著になります。
在宅で高K値が返ってきたときの実務手順は、①検査結果票の溶血情報とLD・ASTを確認する ②その日の採血の状況(駆血時間・手技・移動時間・保管温度)を思い出す ③心電図変化や筋力低下などの症状を確認する ④主治医に「値」と「採血時の状況」をセットで報告する──この順番です。値だけを伝えると、不要な受診や不要な薬剤中止につながることがあります。

カルシウム:低アルブミンなら必ず補正する

血清カルシウムの約半分はアルブミンと結合しています。したがってアルブミンが低い人では、実際に働いているカルシウム量が変わらなくても測定値は低く出ます。在宅の患者さんの多くはアルブミンが4.0を下回っているため、この補正を省略すると「低カルシウム血症」を作り出してしまいます。

補正カルシウム(Payneの式)
アルブミンが4.0 g/dL未満のとき:
 補正Ca(mg/dL)= 実測Ca +(4.0 − 血清Alb)
例:Ca 8.2、Alb 2.8 → 補正Ca = 8.2 + 1.2 = 9.4(基準範囲内)

SECTION 07栄養と炎症──アルブミンは栄養の指標ではない

当院の視点

「アルブミンが下がった=栄養が足りない」という読み方は、すでに国際的に否定されています

米国静脈経腸栄養学会(ASPEN)は2020年10月のポジションペーパーで、「アルブミンは栄養状態を示すものではなく炎症を示すものである」と明記しました。①血清アルブミンやプレアルブミンは現在認められている栄養不良の定義の構成要素ではない、②総タンパク質や総筋肉量の代理測定値として機能しない、③したがって栄養マーカーとして用いるべきではない、④これらの低下は炎症マーカーである──という4点です。日本栄養治療学会(JSPEN)も、GLIM基準に関するQ&Aで同じ趣旨を示し、アルブミン値によるスクリーニングでは低栄養症例を見逃す可能性が少なくないと述べています。

図6 アルブミンが下がる理由は「食べていないから」ではない 経路1:炎症で、肝臓がアルブミン合成を後回しにする 感染・褥瘡・がん・手術・慢性炎症があると、肝臓はタンパク質合成に優先順位をつける → アルブミンとプレアルブミンの血清濃度が下がる 経路2:毛細血管の透過性が上がり、血管の外へ漏れる 炎症に伴って血清タンパク質が再分配される → 体内の総量が減っていなくても、血清アルブミン値は下がる では「食べていない」はどこに出るのか GLIM基準が診断に使うのは、体重減少・低BMI・筋肉量の減少という表現型 → 低栄養は採血ではなく「体重計とメジャーと食事摂取量」で捉える 出典:ASPENポジションペーパー(2020年10月)/日本栄養治療学会 GLIMよくあるご質問/国立長寿医療研究センター

図6:アルブミンは炎症と予後を映す鏡です。栄養状態は体重・BMI・筋肉量で評価します。

とはいえ、アルブミンが無価値というわけではありません。炎症の存在と予後の重さを教えてくれる指標として読む価値は十分にあります。「Albが3.8から3.1に落ちた」という変化は、栄養指導のサインではなく「体のどこかで炎症が起きていないか探せ」というサインです。褥瘡、誤嚥性肺炎、尿路感染、腫瘍の進行──在宅ならこのあたりを順に確認していくことになります。

CRP:高齢者では「時間差」と「上がらないこと」に注意

CRPは炎症の代表的な指標ですが、発症からある程度の時間が経たないと上昇しません。発熱した当日のCRPが陰性でも、感染症は否定できません。また高齢者では感染症でも発熱そのものが乏しいことがあり、体温・CRP・白血球のいずれもが「思ったほど動かない」状況が起こります。

高齢者の感染症では、採血の数字より先に「いつもと違う」が出ます。食べない、しゃべらない、起きてこない、活動しない、尿量が減った、急に転ぶようになった──こうした変化は、CRPが2桁になる前から現れます。採血結果は判断の材料の一つであって、判断そのものではありません。

SECTION 08肝臓と胆道──測り方が変わった項目に注意

ALPは2020年に「数字そのもの」が変わりました

これは古い記録と見比べるときに必ずつまずくポイントです。国内のALP測定は、2020年4月から日本臨床化学会(JSCC)法から国際臨床化学連合(IFCC)法への移行が始まりました。IFCC法の測定値はJSCC法のおよそ3分の1になります。

測定法成人男女の基準範囲時期
JSCC法(旧)106〜322 U/L〜2020年前後まで
IFCC法(現行)38〜113 U/L2020年4月より順次移行

出典:日本臨床化学会「ALP・LD 測定法変更について(医療従事者向け)」/JCCLS共用基準範囲

換算の目安は「IFCC値×2.84=JSCC値」ですが、日本臨床化学会はこの換算に限界があることを明記しています。IFCC法は小腸型ALPの反応性を低く抑える処方のため、血液型がB型・O型で分泌型の方(B型・O型の約8割)では低めに、妊婦では胎盤型ALPの影響で高めに乖離します。

実務上の注意。入院サマリーや数年前の検査結果と比べるとき、「ALPが250から95に下がった、良くなった」という読み方をしてはいけません。測定法が変わっただけの可能性があります。結果票に「ALP(IFCC)」と書かれているか、基準範囲がどちらの数字かを必ず確認してください。なおLD(LDH)も同時期にIFCC法へ移行しましたが、こちらは共用基準範囲(124〜222 U/L)が変更されずに適用されています。

在宅で肝機能が動いたときに最初に見るもの

  • 新しく始まった薬・増量された薬──在宅で最も多い原因です。開始からの日数を必ず確認します。
  • ALP・γ-GTが優位に上がっている──胆道系。胆管結石、腫瘍による閉塞、薬剤性胆汁うっ滞。黄疸・掻痒・便の色を確認。
  • AST・ALTが優位に上がっている──肝細胞障害。薬剤性、ウイルス性、うっ血肝(心不全)。
  • ASTだけが高くALTは正常──肝臓以外を疑います。溶血検体、筋疾患、横紋筋融解。
  • Alb・ChE・PLTがそろって低い──肝硬変など慢性の肝合成能低下を示唆します。

SECTION 09血糖とHbA1c──高齢者では「下げすぎ」が敵

日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会は2016年に「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を策定しました。特徴は二つ。認知機能とADLでカテゴリー分類すること、そしてインスリンやSU薬など重症低血糖が危惧される薬剤を使用している場合には目標値に「下限」を設けたことです。

カテゴリー重症低血糖が危惧される薬剤
を使用していない
重症低血糖が危惧される薬剤
(インスリン・SU薬・グリニド等)を使用している
カテゴリーⅠ
認知機能正常かつADL自立
7.0% 未満65〜74歳:7.5% 未満(下限 6.5%)
75歳以上:8.0% 未満(下限 7.0%)
カテゴリーⅡ
軽度認知障害〜軽度認知症
または手段的ADL低下
7.0% 未満8.0% 未満(下限 7.0%)
カテゴリーⅢ
中等度以上の認知症
または基本的ADL低下、多併存疾患
8.0% 未満8.5% 未満(下限 7.5%)

出典:日本糖尿病学会・日本老年医学会 合同委員会「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」(2016年)、日本老年医学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」。年齢、罹病期間、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定し、図の目標値を下回る/上回る設定を柔軟に行うことが認められています。

高齢者糖尿病診療ガイドライン2023は、下限を設定する理由として「追跡調査においてHbA1c低値は転倒・骨折や死亡の危険因子である」ことを挙げています。またカテゴリーⅢで8.5%未満としているのは、このレベルを超えると高浸透圧高血糖状態や感染症による死亡リスクが急増するためです。訪問時にHbA1cが6.2%まで下がっていたら、それは「良くなった」ではなく「低血糖を起こしていないか確認すべき」というサインになり得ます。

HbA1cが当てにならない場面

HbA1cは赤血球の寿命(約120日)を前提とした指標なので、赤血球の代謝が変わる状況では実際の血糖と乖離します。在宅で該当しやすいのは次のような場合です。

  • 鉄欠乏性貧血の未治療期(HbA1cが高めに出やすい)/鉄剤投与開始後(低めに出やすい)
  • 輸血後、出血後、溶血性貧血
  • 腎性貧血とエリスロポエチン製剤の使用
  • 肝硬変

こうした背景がある方では、HbA1c単独ではなく、実際の血糖値やご家族が測っている自己血糖測定の記録と合わせて読む必要があります。

SECTION 10心臓と凝固──BNP・PT-INR

BNP/NT-proBNPは2023年にカットオフが変わりました

日本心不全学会は2023年10月、10年ぶりに「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント」を改訂しました。2021年に日本心不全学会・欧州心臓病学会・米国心不全学会の3学会合同で策定された心不全の国際定義との整合を図ったものです。

BNP(pg/mL)NT-proBNP(pg/mL)解釈
18.4 以下55 以下基準値。潜在的な心不全の可能性は極めて低い
18.4 超〜35 未満55 超〜125 未満直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低い
35 以上125 以上心不全の診断を考慮/循環器専門医への紹介を検討
100 以上300 以上心不全の可能性がより高い

出典:日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント 2023年改訂版」(2023年10月17日)。2013年版からの主な変更は、心不全の可能性を考慮するBNPを40→35 pg/mLに、BNP 100 pg/mLに対応するNT-proBNPを400→300 pg/mLに変更した点です。

在宅では「BNPが高いから心不全」とは直結しません。日本心不全学会自身が、BNP・NT-proBNPはいずれも腎機能の低下に伴って上昇すること、とくにNT-proBNPは代謝のほとんどが腎排泄に依存するため軽度の腎機能低下でも影響を受け、eGFR 30 mL/分/1.73m²未満では増加の程度が大きくなることを注意喚起しています。さらに高齢者では一般に両ペプチドとも高くなり、心房細動でも軽度上昇し、急性炎症でも高値を示すことがあり、逆に肥満者では低値になります。在宅の患者さんは「高齢+腎機能低下+心房細動」という条件をまとめて満たしていることが多いのです。BNPは絶対値よりその人の中での推移で読んでください。

PT-INR:日本の目標域は欧米より低い

ワルファリン内服中の方では、PT-INRが治療域に入っているかを確認します。日本循環器学会/日本不整脈心電学会「2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン」では、国内の大規模研究であるJ-RHYTHM Registryの解析結果などから、非弁膜症性心房細動について以下のように設定されています。

  • 脳梗塞の既往がない一次予防で、比較的低リスク(CHADS₂スコア2点以下など)の患者:年齢によらずPT-INR 1.6〜2.6(なるべく2.0に近づける)
  • 脳梗塞の既往を有する二次予防や高リスクの患者:出血リスクを勘案しつつ、70歳以上でもINRはなるべく2.0以上に管理し、70歳未満ではINR 3.0の上限を許容してよい

訪問看護の現場で押さえておきたいのは、INRを動かす要因が生活の中にあることです。抗菌薬の追加、納豆や青汁の摂取変化、下痢や脂肪吸収不全によるビタミンK吸収の低下、そして血清アルブミンの低下(ワルファリンはアルブミンとの結合率が高いため、Albが下がると遊離型が増えて効きすぎる方向に働きます)。「今回Albが下がって、INRも伸びている」という組み合わせは、報告すべきパターンです。

SECTION 11 在宅・訪問看護の実務

11-1 最初の数回で作るのは「記録」ではなく「その人の物差し」

在宅の検査値は、基準範囲との距離よりその人自身の平常値からのズレのほうがはるかに多くを語ります。慢性腎臓病の方のCr 1.8は異常値ではなく平常値かもしれません。逆に、いつも0.6の方が0.9になっていれば、それは「基準範囲内」でも1.5倍の上昇です。薬剤性腎障害の診断では「血清クレアチニン値が前値の150%以上に上昇する」ことを基本と考えると簡潔である、という考え方が厚生労働省の重篤副作用対応マニュアルでも示されています。前値がわからなければ、この判断はできません。

11-2 ベースライン1枚シートに書いておく項目

この方の「いつもの採血」

  • いつものHb(  g/dL)/いつものCr・eGFR(  /  )
  • いつものNa・K(  /  )/いつものAlb(  )
  • いつものBNPまたはNT-proBNP(  )/PT-INRの目標域(  〜  )
  • HbA1cの目標値と下限(  % 未満/下限  %)
  • 使用中の検査センターと、結果が返ってくるまでの日数
  • 採血を避ける部位(麻痺側・シャント側・郭清側・本人の希望)
  • VVRの既往、消毒薬・ラテックスのアレルギー

11-3 訪問看護師が採血したとき、制度上どう扱われるか

訪問看護ステーションの看護師が主治医の指示で採血を行うことは、日常的に行われています。診療報酬上の取扱いは、初診料・再診料等に関する留意事項通知に定められています。

通知の要点

  • 初診、再診または在宅医療において、患者の診療を担う保険医の指示に基づき、当該保険医の診療日以外の日に訪問看護ステーション等の看護師等が検査のための検体採取等を実施した場合
  • 当該保険医療機関において検体検査実施料を算定する
  • 検体採取に当たって必要な試験管等の材料を患者に対して支給する
  • → なお、当該検体採取が実施された日を診療報酬明細書の摘要欄に記載する

実務上の注意点として、この取扱いでは検体採取料(血液採取)は算定できないものとされています。また、医師の診療がない日の採血ですから実日数にはカウントされません。ステーション側は「いつ・誰が・どの項目を採ったか」を、指示元の医療機関がレセプトを組める形で正確に伝える必要があります。採血日の連絡漏れは、そのまま医療機関の返戻につながります。

介護保険で訪問看護に入っている方に採血の指示が出た場合は、まず指示の根拠を確認してください。病状の悪化により特別訪問看護指示書が交付されていれば医療保険の訪問看護に切り替わります。ケアマネジャーと主治医に確認せずに進めると、後から保険の適用が整理できなくなります。

11-4 検体は「採ったあと」がステーションの仕事

SECTION 02で見たとおり、在宅では移動時間が検査値を動かします。ステーションとして決めておきたいのは次の点です。

  • 採血の時刻を記録する。結果が想定と食い違ったとき、「採血から何時間経った検体か」が唯一の手がかりになります。
  • 全血を冷やさない。保冷剤に直接触れさせない。冬場の車内は室温保存のつもりでも低温になっています。
  • 直射日光と高温も避ける。夏場のダッシュボードは論外です。
  • 訪問ルートの最後に採血を入れる。可能な範囲で、検体が車に乗っている時間を短くする組み方にします。
  • 血糖を測るなら解糖阻止剤入りの採血管を使う。指示を受ける段階で、必要な採血管の種類と本数を確認しておきます。
  • 抗凝固剤入りの管は抜いたらすぐ5回以上転倒混和。後回しにすると凝固して再採血になります。

11-5 結果が返ってきたときの記録は「3点セット」で

令和8年度診療報酬改定では、訪問看護について「適正な訪問看護の推進」として、漫然かつ画一的な訪問を避けること、記録書等に評価を記載すること、実際の訪問開始・終了時刻を明確にすることが求められています。検査値についても、数字を書き写すだけの記録は評価とは言えません。

検査値の記録は、この3つを揃える

  • ① 数字──今回の値(と、採血日時)
  • ② 平常値との差──前回値と、その差をどう見たか
  • ③ 判断と行動──誰にいつ報告したか、指示は何だったか、次に何を観察するか

たとえば「Na 128(前回136、−8)。傾眠傾向あり、朝の内服は自己中断なし。2週間前からサイアザイド増量あり。10時に主治医へ電話報告、明日往診の指示。水分摂取量と傾眠の程度を毎訪問で確認。」──ここまで書いて、初めて記録が判断の資料になります。

11-6 ご本人・ご家族への伝え方

検査結果を全項目説明する必要はありません。むしろ逆効果です。「γ-GTが少し高い」といった話は不安だけを残します。伝えるのは「方向」と「行動」の二つに絞ってください。

  • 方向──「前回より水分が足りていない方に動いています」「貧血は前回とほぼ同じで、落ち着いています」
  • 行動──「今週は食事の量と水分の量をメモしておいてください」「次の往診で先生から薬の相談があります」
  • 数字を渡すなら1〜2項目まで。その方に関係する項目だけを、意味とセットで。
  • 基準範囲外の「※」に反応しないでよい理由を、先に伝えておく。SECTION 01の話(20項目測れば健康な人でも6割以上に「※」が付く)は、ご家族への説明にそのまま使えます。

11-7 終末期には「採血しない」という選択がある

看取りの時期が近づくと、採血の目的が変わります。数値を改善するための管理から、苦痛を減らすための判断へ。この段階では、結果によって何も変えないのであれば、採血そのものが負担でしかありません。

血管が細く、何度も刺すことになり、そのたびに皮下出血が広がる。ご家族は毎回の数字に一喜一憂する。それでも治療方針は変わらない──こうした状況になっていないか、チームで立ち止まって話す価値があります。厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)が示すとおり、本人の意思は変化しうるものであり、繰り返し話し合い、その都度文書に記録することが基本です。

「もう採血はしないでおきましょう」という提案は、ご家族には「見放された」と受け取られることがあります。やめる理由ではなく、代わりに何を見るのかを伝えてください。──呼吸が楽そうか、表情は穏やかか、手足は温かいか、眠れているか。数字の代わりに見る指標があることを示せば、決定は「諦め」ではなく「切り替え」になります。

SECTION 12連絡の目安とQ&A

以下は在宅で結果を受け取ったときの一般的な考え方です。実際の連絡基準は、必ず主治医と患者さんごとに決めてください。

図7 結果が返ってきたときの判断の順番 STEP 1 まず「症状」を見る 意識・呼吸・尿量・食事量に変化があれば、値を待たずに連絡 STEP 2 前回値と並べる 基準範囲との距離ではなく、その人の平常値からの動きを見る STEP 3 検体の履歴を疑う K・血糖・LD・ASTが不自然なら、溶血・低温・移動時間を確認 STEP 4 薬を並べる 直近2〜4週間で始まった薬・増量された薬がないかを確認 STEP 5 「数字+平常値との差+採血時の状況」で報告する 値だけを伝えると、判断に必要な情報が欠けたまま指示が出ることになる

図7:STEP 1が最初に来ることが重要です。検査値は症状より遅れて動くことがあります。

その日のうちに主治医へ連絡したい組み合わせ(例)

検査所見同時に確認すること
Naが前回から急に大きく低下している傾眠、ふらつき、嘔気、けいれん。直近の利尿薬・抗うつ薬の変更
Kが高い(かつ溶血情報なし)脱力、不整脈、RAS阻害薬・スピロノラクトン・ST合剤の内服
Crが前回の1.5倍以上に上昇食事・水分量、発熱、下痢、NSAIDsの使用、尿量
Hbが前回から明らかに低下黒色便、鮮血便、ふらつき、抗血栓薬の内服、BUN/Cr比
BNP・NT-proBNPが前回より大きく上昇体重増加、下腿浮腫、夜間の息苦しさ、内服のアドヒアランス
PT-INRが目標域を大きく外れている抗菌薬の追加、食事内容の変化、下痢、Albの低下、出血徴候
HbA1cが目標の下限を下回っている低血糖症状の有無、食事量の低下、インスリン・SU薬の量

よくある質問

在宅の採血は、どのくらいの頻度が適切ですか?

一律の正解はありません。安定している方なら数か月に一度、利尿薬や抗凝固薬の調整中、腎機能が変動している時期、新しい薬を始めた直後などは、より短い間隔が必要になります。判断の基準は「その結果で何かを変える予定があるか」です。変えるつもりのない検査は、患者さんの負担を増やすだけになります。

結果票に「H」「L」の印がたくさん付いていて、家族が不安がっています。

SECTION 01の内容をそのまま説明材料に使ってください。基準範囲は健康な人の真ん中95%を切り取った区間なので、項目数が多ければ健康な人でも印が付きます。そのうえで「この方にとって今いちばん見ているのはこの項目で、前回とこう変わっています」と、1〜2項目に絞って話すほうが、すべてを説明するより安心につながります。

採血がどうしてもうまくいかず、途中でやめてしまいました。

「採れなかった」も所見です。血管の状態、脱水の程度、体位、ご本人の反応──次回のために記録に残してください。そのうえで、無理に何度も刺すより、主治医に状況を伝えて優先項目を絞る、往診時に医師が採る、採血日をずらすといった選択肢を相談するほうが安全です。標準採血法ガイドラインでも、量が足りないからと後から継ぎ足すことは避けるべきとされています。

古い検査結果と比べたら、ALPが3分の1になっていました。良くなったのでしょうか?

測定法が変わっただけの可能性が高いです。2020年4月からALPはJSCC法からIFCC法へ移行し、測定値がおよそ3分の1になりました。結果票の項目名が「ALP(IFCC)」になっているか、基準範囲が38〜113 U/Lになっているかを確認してください。異なる測定法どうしを単純に比べることはできません。

アルブミンが低いので、高たんぱくの補助食品を勧めるべきでしょうか?

アルブミン値だけを根拠に栄養介入を決めるのは適切ではありません。ASPENおよび日本栄養治療学会が示しているとおり、アルブミンは栄養マーカーではなく炎症マーカーです。低栄養の評価には、体重の推移、BMI、筋肉量、食事摂取量を用います。もちろん低栄養と炎症は併存しうるので、栄養評価は栄養評価として、アルブミン低下の背景にある炎症の原因を探すことは別に行ってください。

eGFRが正常範囲なのに、主治医が「腎機能は良くない」と言います。

クレアチニンから計算したeGFRは、筋肉量が少ない方では実際より高く出ます。日本腎臓学会のCKD診療ガイドライン2023も、サルコペニアや長期臥床の方ではeGFRcrが高く推算されることを明記しており、その場合は筋肉量の影響を受けにくいシスタチンCによる評価(JSN eGFRcys)を使うよう述べています。寝たきりに近い方や著しく痩せた方では、数字より主治医の臨床判断のほうが実態に近いことがあります。

採血結果の読み方や在宅での検査体制について

ふくろう訪問看護リハビリステーションは、ふくろう訪問クリニックと連携し、福岡市早良区を中心に訪問看護・訪問リハビリテーションを行っています。採血の指示・検体の受け渡し・結果の共有までを含めた在宅の検査体制について、ケアマネジャーの方、医療機関の方、ご家族からのご相談を承っています。

緩和ケア難病・希少疾患精神科訪問看護認知症訪問リハビリ

参考文献・出典

  1. 公益社団法人 日本臨床検査標準協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲 ―解説と利用の手引き―」2022年10月1日改訂版
    https://www.jccls.org/news/kijyunhani20221001/
  2. 日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員会「共用基準範囲に基づく医学教育用基準範囲 ―解説書―」2019年10月10日
    https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2019/10/igakukyouikukijyun.pdf
  3. 日本臨床検査医学会「臨床検査のガイドライン JSLM2021」より「標準採血法ガイドラインに基づく正しい採血法」
    https://www.jslm.org/books/guideline/2021/GL2021_03.pdf(ガイドライン一覧:https://www.jslm.org/books/guideline/index.html
  4. 日本臨床検査標準協議会編「標準採血法ガイドライン(GP4-A3)」学術広告社, 2019年3月
  5. 日本臨床化学会 酵素・試薬専門委員会「ALP・LD 測定法変更について ―医療従事者向け― ver.1.0」2019年11月21日
    http://jscc-jp.gr.jp/file/2019/alpld2.pdf
  6. 日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1章(腎機能の評価)
    https://jsn.or.jp/data/gl2023_ckd_ch01.pdf
  7. 日本腎臓学会編「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第14章(高齢者CKD)
    https://jsn.or.jp/data/gl2023_ckd_ch14.pdf
  8. 厚生労働行政推進調査事業費補助金 腎疾患政策研究事業「腎機能測定ツール」
    https://ckd-research.jp/admin/calculate_egfr/
  9. 日本糖尿病学会「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」(日本糖尿病学会・日本老年医学会 合同委員会, 2016年)
    https://www.jds.or.jp/modules/important/index.php?content_id=66
  10. 日本老年医学会「高齢者糖尿病診療ガイドライン2023」Ⅵ.高齢者糖尿病の血糖コントロール目標・治療方針
    https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/diabetes_treatment_guideline_13.pdf
  11. 日本老年医学会「高齢者診療におけるお役立ちツール:高齢者糖尿病の血糖コントロール目標 2016」
    https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_01.html
  12. 日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント 2023年改訂版」2023年10月17日
    https://www.jhfs.or.jp/statement-guideline/statement20231017.html(PDF:https://www.jhfs.or.jp/statement-guideline/files/statement20231017.pdf
  13. 日本心不全学会「血中BNPやNT-proBNP値を用いた心不全診療の留意点について」
    https://www.jhfs.or.jp/statement-guideline/statement20130403.html
  14. 日本栄養治療学会(JSPEN)「GLIM よくあるご質問」
    https://www.jspen.or.jp/glim/glim_faq
  15. 国立長寿医療研究センター NST「脱!アルブミン値を参考にした栄養評価」(ASPENポジションペーパー2020年10月の解説)
    https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/nst/40.html
  16. 国立長寿医療研究センター 病院レター第47号「高齢者の貧血について ~老人性貧血=“Unexplained Anemia”というのもあります~」
    https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/documents/hospitalletter47.pdf
  17. 森 聖二郎「高齢者の貧血をどう診るか」日本老年医学会雑誌 2008;45(6):594-596
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/45/6/45_6_594/_pdf/-char/ja
  18. 「BUN,クレアチニンの代謝」日本内科学会雑誌 2008;97(5):929-934
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/5/97_929/_pdf
  19. 「病態生理に基づく低ナトリウム血症の鑑別診断」日本内科学会雑誌 2022;111(5):902-908
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/5/111_902/_pdf
  20. 「抗凝固薬モニタリング」日本血栓止血学会誌 2022;33(3):351-355(2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドラインのPT-INR至適治療域の解説)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsth/33/3/33_2022_JJTH_33_3_351-355/_html/-char/ja
  21. 厚生労働省「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(初・再診料等における訪問看護ステーション等の看護師等による検体採取の取扱い)保医発0305第4号 令和6年3月5日
    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2024/240306_21.pdf
  22. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(関係法令・通知等)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html/説明資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
  23. 公益財団法人 日本訪問看護財団「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護に関する説明資料等】」
    https://www.jvnf.or.jp/news/r8housyu-kaitei/
  24. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 急性腎不全」(医療関係者向け)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1e03_0001.pdf

本記事は在宅療養に関わる方への一般的な情報提供を目的としています。個別の検査結果の解釈および治療方針は、必ず主治医の判断によります。記載した基準範囲・カットオフ値は出典時点のものであり、実際の判定にはお手元の検査結果票に記載された基準範囲を優先してください。

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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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