宛名なしの紹介状ってもらえるの?

宛名なしの紹介状ってもらえるの?
「行き先はまだ決めていないけれど、とりあえず紹介状だけ書いてもらいたい」。退院の話が出たとき、セカンドオピニオンを考えたとき、引っ越しが決まったとき——ご本人やご家族から、私たち訪問看護のスタッフもよく相談を受けます。結論から言うと、宛名の空いた紹介状は原則として出せません。ただし、それぞれの目的にはきちんと別の道が用意されています。制度の根拠と、場面ごとの進め方を整理しました。
- 紹介状(診療情報提供書)は「どこへ紹介するか」が決まってはじめて成り立つ文書です。宛先が空いていると、健康保険の対象になりません。
- 厚生労働省も、令和8年7月17日の疑義解釈で「紹介先の医療機関等が特定されている必要がある」と明記しています。
- 目的が「他の医師の意見を聞きたい」ならセカンドオピニオン用の診療情報提供書、「記録そのものがほしい」ならカルテ開示という、別の正式なルートがあります。
- 行き先がまだ決まらない段階なら、まず病院の地域連携室・医療ソーシャルワーカー、在宅ならケアマネジャーや訪問看護に相談するのが近道です。
図1 「宛名なし」を求める背景には必ず目的があります。目的を言葉にすると、制度上の正しい入口が見えてきます。
私たちが日常で「紹介状」と呼んでいる封筒の中身は、正式には診療情報提供書という書類です。健康保険のルールブックである医科診療報酬点数表では「B009 診療情報提供料(Ⅰ)」という項目に位置づけられ、点数は250点。医療費の計算は1点10円なので2,500円にあたり、3割負担の方なら窓口でおよそ750円のご負担になります。
この項目の条文は、こう始まります。「保険医療機関が、診療に基づき、別の保険医療機関での診療の必要を認め、これに対して、患者の同意を得て、診療状況を示す文書を添えて患者の紹介を行った場合に、紹介先保険医療機関ごとに患者1人につき月1回に限り算定する」。ポイントは「紹介先ごとに」という部分です。制度は、紹介する相手が決まっていることを前提に組み立てられています。
さらに、この項目の運用を定めた通知には、より具体的な手順が書かれています。「事前に紹介先の機関と調整の上」、定められた様式に必要事項を記入して、患者さんご本人または紹介先の機関に交付する——つまり、書く前に相手と話をつけておくことまで想定されているわけです。
図2 診療情報提供料(Ⅰ)の主な提供先。いずれの場合も「どこへ」が決まっていることが前提になります。「老人ホーム」は種類によって扱いが分かれます。
「老人ホームあて」は、施設の種類で扱いが変わります
在宅から施設入所へ移るときによく問題になるのが、この点です。ひとくちに老人ホームといっても、紹介状の宛先になれる施設と、なれない施設があります。制度が列挙しているのは介護老人保健施設(老健)と介護医療院で、特別養護老人ホームは含まれていません。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、認知症対応型グループホームも同様です。
| 入所・入居先 | 施設あての紹介状 | 補足 |
|---|---|---|
| 介護老人保健施設(老健) | ○ | 同一敷地内の老健は対象から除かれます |
| 介護医療院 | ○ | 同上 |
| 特別養護老人ホーム | × | 制度上の提供先に挙げられていません |
| 養護老人ホーム・軽費老人ホーム | × | 同上 |
| 有料老人ホーム・サ高住 | × | 担当ケアマネジャーあてなら可能な場合があります |
| 認知症対応型グループホーム | × | 下記の障害福祉のグループホームとは別の施設です |
| 障害福祉のグループホーム・障害者支援施設・就労支援事業所・福祉ホーム | ○ | 精神障害のある方について、社会復帰に必要な情報を提供する場合 |
理由1 制度が「宛先ごと」を単位にしている
前の章で見たとおり、診療情報提供料(Ⅰ)は「紹介先ごとに月1回」という数え方をします。宛先が決まっていなければ、そもそも何を1件と数えるのかが決まりません。同じ月に2か所へ紹介すれば2件として扱われ、逆に同じ病院の別の科へ2通書いても1件です。宛先は、この制度の背骨にあたる部分なのです。
理由2 国が「特定されている必要がある」と明言した
令和8年度の診療報酬改定(令和8年6月1日施行)では、レセプト(診療報酬明細書)の摘要欄に、紹介先が医療機関であるかどうかにかかわらず情報提供先の名称を記載するルールが加わりました。その運用について、令和8年7月17日付の疑義解釈資料(その10)にこう示されています——摘要欄への記載は望ましいものの、記載がなくても算定要件を満たしていれば算定はできる。ただし、算定にあたっては紹介先の医療機関等が特定されている必要がある、と。
つまり「レセプトに書き忘れた」ことは直ちに算定不可にはならないけれども、そもそも宛先が決まっていない文書は算定の対象外だ、という整理です。宛名なしの紹介状が保険で作れない根拠は、ここにはっきり示されています。
理由3 個人情報を守るしくみが働かない
紹介状には、病名、検査結果、内服薬、時には画像データまで添えられます。これは個人情報のなかでも取り扱いに特別な配慮が必要な情報です。「〇〇病院の△△先生へお渡しします」という前提があるからこそ、ご本人の同意が意味を持ちます。宛先が空欄のまま渡された文書は、どこへ渡るのかを誰も管理できません。医療機関が慎重になるのは、書きたくないからではなく、ご本人の情報を守る責任があるからです。
図3 宛名は形式ではなく、紹介状の働きそのものを支えています。
「宛名なしで」と頼みたくなる背景は、実はいくつかの型に分けられます。ご自身の状況に近いものを探してみてください。
図4 目的がはっきりすれば、宛名なしの紹介状を求めなくても道はあります。
「宛名なしの紹介状がほしい」というご希望の多くは、実はこの場面です。主治医とは別の医師の意見を聞いてみたい。けれど、どこの誰に聞くかまでは決めていない——。
このために用意されているのが「B010 診療情報提供料(Ⅱ)」、500点(3割負担でおよそ1,500円)です。通知にはこう書かれています。セカンドオピニオンを求める患者さんやご家族の申し出に基づき、治療計画、検査結果、画像などの必要な情報を添えた文書を「患者又はその家族に提供した場合」に算定できる。そして、医師が紹介の必要を認めて行う診療情報提供料(Ⅰ)とは「明確に区別されるべきもの」とされています。
ここが大事なところです。(Ⅱ)は、はじめからご本人・ご家族の手に渡すことを想定した制度です。「宛名を書いた封筒を紹介先に届ける」(Ⅰ)とは、そもそも設計が違います。セカンドオピニオンが目的なら、宛名なしを頼み込むのではなく、「セカンドオピニオンを受けたいので、その資料をお願いします」と伝えるのが正しい入口です。
| しくみ | 点数 | 3割負担の目安 | どんなとき | 渡す相手 |
|---|---|---|---|---|
| 診療情報提供料(Ⅰ) | 250点 | 約750円 | 他院・施設等への紹介 | 紹介先、または本人経由 |
| 診療情報提供料(Ⅱ) | 500点 | 約1,500円 | セカンドオピニオンの支援 | 本人・家族 |
| 連携強化診療情報提供料 | 150点 | 約450円 | 紹介元と紹介先が継続的に連携するとき | 連携先の医療機関 |
| カルテ開示 | 保険適用外 | 実費(医療機関ごと) | 診療記録そのものが必要なとき | 本人・家族など |
※点数は令和8年6月1日施行の診療報酬に基づきます。負担割合や加算の有無により実際の金額は変わります。
「紹介状というより、これまでの検査結果や経過が手元にほしい」。そういう場合は、紹介状ではなく診療記録の開示を求めるほうが目的に合っています。
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日 医政発第0912001号)は、診療記録の開示を「患者等の求めに応じ、診療記録を閲覧に供すること又は診療記録の写しを交付すること」と定義したうえで、医療従事者等は患者等から開示を求められた場合、原則としてこれに応じなければならないとしています。カルテ開示は、お願いして特別に見せてもらうものではなく、制度として位置づけられた権利です。
費用については、同じ指針が「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内の額」を徴収できると定めています。厚生労働省の通知でも、診療録の開示手数料(閲覧や写しの交付に係る手数料)は保険外で徴収してよいものとして挙げられています。金額は医療機関ごとに異なるので、申し込み前に窓口で確認しておくとよいでしょう。
宛名の話とあわせて知っておきたいのが、大きな病院を紹介状なしで受診したときの定額負担です。特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院、一般病床200床以上の紹介受診重点医療機関では、紹介状を持たずに初めて受診した場合、通常の窓口負担とは別に定額の「特別の料金」がかかります。
金額は、医科の場合初診7,000円・再診3,000円が国の定めた下限で、令和8年度の診療報酬改定でもこの水準は変更されていません。ただしこれはあくまで最低額で、各病院はこれを上回る金額を設定できます。実際、令和8年6月から金額を引き上げた病院もあります。受診予定の病院のホームページや院内掲示で、必ず最新の額をご確認ください。なお、救急の場合や、他の医療機関から紹介を受けている場合などは対象外です。
宛名が要るのは紹介状だけではありません。在宅の療養を支える書類は、どれも「誰から誰へ」がはっきりしていて初めて効力を持ちます。
訪問看護指示書は「事業所あて」の文書です
主治医が交付する訪問看護指示書は、用紙のいちばん下に事業所名を記入する欄があります。ここが自分のステーション名になっているかどうかは、受け取ったときの必須の確認事項です。複数のステーションが関わる利用者さんでは、それぞれのステーションあての指示書が必要で、1枚を回し読みすることはできません。事業所名が違っていれば、主治医に連絡して直していただきます。
指示書の各欄の読み方については、別の記事で詳しくまとめています。あわせてご覧ください。
訪問看護指示書の読み方・注意点
看護サマリーも、宛先を書いてから渡します
入院時や他のステーションへの引き継ぎでお渡しする看護サマリー(看護情報提供書)も同じです。「どこの誰に読んでもらうために書いたのか」が決まっていないと、書くべき内容の粒度も決まりません。入院先が未定の段階で準備しておきたいときは、宛名の入った提出用ではなく、ご本人・ご家族がお持ちになる控えとしてお渡しし、行き先が決まった時点で改めて宛先入りの書類を用意する、という運用が現実的です。
図5 在宅療養を支える書類と、それぞれの宛先。
窓口や診察室でどう伝えるか。ほんの少しの言い換えで、行き違いはかなり減ります。
| 伝わりにくい言い方 | 伝わりやすい言い方 | なぜ変わるか |
|---|---|---|
| とりあえず宛名なしで一通ください | 〇〇病院の△△科あてにお願いできますか | 宛先が決まれば、その場で作成の手続きに入れます |
| 別の先生にも診てもらいたいので紹介状を | セカンドオピニオンを受けたいので資料をお願いします | 「転院希望」と誤解されず、(Ⅱ)の手続きに乗ります |
| これまでの記録を全部書いてください | 診療記録の開示をお願いしたいのですが | 窓口が決まっており、申込書の案内をしてもらえます |
| どこかいい病院を紹介してください | こういう治療を受けたいのですが候補はありますか | 希望の中身が伝わり、相談員につないでもらえます |
- 何のために必要か、ひとことで言えますか(受診/意見を聞く/記録の保管)
- 行き先の医療機関名と診療科は決まっていますか
- その医療機関は紹介予約が必要ではありませんか(事前確認が必要な施設もあります)
- 大きな病院なら、定額負担の額をホームページで確認しましたか
- 次の受診日はいつですか(作成に日数がかかることがあります)
- ご家族が代わりに受け取る場合、ご本人の同意と身分確認の方法を確認しましたか
「宛名なしでは書けません」と言われました。断られたということでしょうか?
いいえ、多くの場合は「書きません」ではなく「この形では制度上つくれません」というご説明です。宛先が決まればすぐに作成できることがほとんどですので、行き先探しのほうを相談窓口に一緒に進めてもらいましょう。
宛名を空けたまま、自費で書いてもらうことはできますか?
保険の対象外である以上、医療機関の判断で自費の文書料として作成される場合はあります。金額は医療機関ごとに設定され、院内に掲示されています。ただし、同じ内容の文書について自費を徴収したうえで診療情報提供料も算定することはできない、と通知で定められています。作成するかどうかも含めて医療機関の判断になるため、お断りされることもあります。
特別養護老人ホームに入所することになりました。施設あての紹介状はもらえますか?
特別養護老人ホームは、健康保険上は紹介状の宛先として認められていません。同じ「老人ホーム」でも、介護老人保健施設や介護医療院あてなら通常どおり作成できます。特養の場合は、入所後に診療を担当する協力医療機関や配置医師の所属先あてに書いていただくか、施設の看護職員に必要な情報を伝える形で引き継ぐのが一般的です。施設の相談員に「どこあてで用意すればよいか」を先に確認しておくと、二度手間になりません。
紹介状に有効期限はありますか?
制度としての期限は定められていません。ただし内容が古くなるほど、紹介先の医師は現在の状態を判断しづらくなります。実務上は発行から1か月程度を目安に受診されるのが一般的で、時間が空いてしまった場合は書き直しを勧められることがあります。
1通の紹介状で、2か所の病院を回ることはできますか?
できません。紹介状は宛先ごとに作成される文書です。2か所に相談したい場合は2通必要になります。なお、同じ月に別々の医療機関へ紹介する場合、それぞれで費用が発生します。
封をされた紹介状は、開けて中を見てもよいのでしょうか?
書かれているのはご本人の情報ですから、内容を知る権利はご本人にあります。ただし封をした状態でお預かりしている以上、そのまま紹介先にお渡しいただくのが無難です。中身を確認したいときは、渡す前に主治医に「控えをいただけますか」とお伝えください。写しをくださる医療機関が多くあります。
訪問看護のスタッフです。ご家族から「宛名なしのサマリーを」と頼まれたら?
まず、何のために必要かをうかがってください。入院に備えたいのであれば、提出用ではなくご家族が保管する控えとしてお渡しし、行き先が決まった時点で宛先入りを準備する旨をお伝えします。救急搬送に備えたいのであれば、サマリーより、お薬手帳や1枚にまとめた救急時の情報シートのほうが実際に役立ちます。いずれの場合も、ご本人の同意と、記録への残し方を事業所内で統一しておきましょう。
- 紹介状は宛先とセットで成り立つ文書です。宛名の空いた紹介状は、原則として健康保険では作れません。
- 令和8年7月の疑義解釈で、算定には紹介先が特定されている必要があると明記されました。
- 他の医師の意見を聞きたいならセカンドオピニオン用の診療情報提供書(500点)、記録がほしいならカルテ開示。目的に応じた入口があります。
- 行き先が決まらないときは、地域連携室・医療ソーシャルワーカー・ケアマネジャー・訪問看護にご相談ください。候補を一緒に絞り込めます。
- 訪問看護指示書も看護サマリーも、宛先の確認から始まります。宛名は形式ではなく、情報を安全に届けるためのしくみです。
「宛名なしでもいいから」という言葉の裏には、たいてい、先が見えない不安があります。どこにかかればいいのか分からない、退院までに間に合うだろうか、いまの治療でよいのだろうか。その不安こそが本当の相談内容です。書類の形にこだわらず、まずは困りごとをそのままお話しください。私たち訪問看護も、地域の医療機関との橋渡しの一端を担っています。
参考にした資料
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(診療報酬の算定方法の一部を改正する件〈令和8年厚生労働省告示第69号〉、令和8年3月5日保医発0305第6号、令和8年3月27日保医発0327第2号、疑義解釈資料〈その1〜その10〉)/令和8年6月1日施行
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html - 医科診療報酬点数表 B009 診療情報提供料(Ⅰ)250点(注1、留意事項通知(3)(8))/令和8年版
- 医科診療報酬点数表 B010 診療情報提供料(Ⅱ)500点(留意事項通知(1)(2))/令和8年版
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その10)」令和8年7月17日事務連絡(医科・問2:診療情報提供料(Ⅰ)の摘要欄記載と、紹介先が特定されている必要があること)
- 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定の概要 7.外来医療の機能分化・強化等」(紹介状なしで受診する場合等の患者定額負担/今改定では変更なし、初診 医科7,000円・再診 医科3,000円)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001681336.pdf - 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf - 厚生労働省医政局長通知「診療情報の提供等に関する指針の策定について」平成15年9月12日 医政発第0912001号
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3403&dataType=1&page+No=1 - 厚生労働省保険局医療課長通知「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」平成17年9月1日 保医発第0901002号(以後改正あり/診療録の開示手数料の取扱い)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000182511.pdf - 医師法(昭和23年法律第201号)第19条第2項
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201 - 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定説明資料等について」(書類事務の簡素化・署名または記名押印の取扱い)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_71068.html
※本記事は2026年8月時点の制度に基づいて作成しています。診療報酬や各医療機関の運用は変更されることがあります。実際のお手続きにあたっては、かかりつけの医療機関の窓口、地域連携室、または担当のケアマネジャー・訪問看護ステーションにご確認ください。

