傾聴の技術

傾聴の技術
―「聴く」を訪問看護の仕事として組み立て直す

ふくろう訪問看護リハビリステーション|訪問看護・リハビリスタッフ向け(ご利用者・ご家族の方にもお読みいただけます)

「傾聴が大事」と言われない研修はありません。けれど現場に戻ると、私たちは驚くほど早く相手の話をさえぎっています。ある研究では、医療者が相談内容を聞き始めてから中央値わずか11秒で口をはさんでいました。一方、さえぎらずに待った場合、患者さんが話し終わるまでの平均は92秒。2分あれば約8割が話し終わります。

傾聴は「やさしさ」や「性格」の話ではありません。測定でき、訓練で動き、記録に残せる技術です。このコラムでは、傾聴を支えるエビデンスと、その限界、そして訪問看護という「相手の家の中で、限られた時間で聴く」場面に落とし込む具体策を整理します。令和8年度診療報酬改定で訪問看護記録書の「評価」の記載が明確化されたことも踏まえ、聴いた言葉を記録につなぐところまで扱います。

目次

SECTION 01「聴けていない」は性格ではなく技術の問題

まず、私たち医療者が実際にどれくらい聴けているのかを数字で見ておきます。感覚ではなく録音・録画から測定された数字です。

11秒でさえぎられる ― 遮断までの時間

米国の外来診療112件の録音を二次解析した研究では、そもそも医療者が「今日はどうされましたか」と相談内容を尋ねたのは36%(40件)にとどまりました。さらに、尋ねた40件のうち27件(67%)では、患者さんが話し始めてから中央値11秒(四分位範囲7〜22秒)で医療者が口をはさんでいます。一方、さえぎられなかった患者さんが自分の相談内容を言い終えるまでは、中央値わずか6秒でした(Singh Ospina N, et al. J Gen Intern Med. 2019)。

「最後まで聞いたら診療が終わらない」という不安は、データでは支持されません。スイスの外来335件で、医師がストップウォッチを持ち、患者が「先生、どう思いますか?」と言うまで一切さえぎらずに待った研究では、自発的な発話時間は平均92秒(中央値59秒)78%が2分以内に話し終えました。5分を超えたのはわずか7人です。しかも医師は全例で「重要な情報を話しているので、さえぎるべきではない」と判断していました(Langewitz W, et al. BMJ. 2002)。

図1 11秒でさえぎるか、92秒待つか 横軸=相談内容を話し始めてからの経過秒数 0秒 30秒 60秒 90秒 120秒 150秒 ① 医療者がさえぎるまで(中央値) 尋ねた40件のうち27件(67%)で発生 11秒 ← ここで話が止まる ② さえぎらなかった場合の発話時間 中央値59秒/平均92秒/78%が2分以内に終了 中央値59秒  平均92秒 2分 ここまでで78%

出典:Singh Ospina N, et al. J Gen Intern Med. 2019;34(1):36-40/Langewitz W, et al. BMJ. 2002;325(7366):682-683。①と②は別の国・別の集団の研究であり直接比較ではないが、「さえぎる側の時間感覚」と「実際に必要な時間」の差を示している。

共感の機会は、10回に1回しか拾われていない

もう一つ、より痛い数字があります。肺がん患者と医師の面談20件を逐語録で分析した研究では、患者が不安・つらさ・生活への影響を語った「共感の機会」が384回ありました。医師が共感的に応じたのは39回(10%)。残りは、生物医学的な質問や説明にすっと話題が移っていました。さらに、共感的な応答の50%は面談の最後の3分の1に集中していた一方で、患者が懸念を口にするタイミングは面談全体に均等に分布していました(Morse DS, et al. Arch Intern Med. 2008)。

つまり、患者は最初から気持ちを出しているのに、私たちが受け止め始めるのは終盤になってから、という構図です。これを著者らは「interval empathy(間の共感)の機会損失」と呼びました。

図2 拾われなかった「共感の機会」 A 面談20件のなかで数えた回数 患者が気持ち・不安・生活への影響を語った回数 384回 そのうち医師が共感的に応じた回数 39回 = わずか10% B 起きるタイミングのずれ 患者が懸念を口にする = 面談全体に均等 医師が共感的に応じる = その半分が最後の3分の1に集中 最後の3分の1

出典:Morse DS, Edwardsen EA, Gordon HS. Arch Intern Med. 2008;168(17):1853-1858. PMID 18809811。パネルBの点の配置は分布の傾向を示す模式であり、実データの座標ではない。

SECTION 02傾聴は訓練で動く ― ただし万能ではない

ここが実務上いちばん大事な点です。傾聴は生まれつきの資質ではなく、研修で測定可能に変化する行動です。ただし、変化するのは主に「医療者側の行動」であり、「患者さんのアウトカム」への効果は思ったより控えめです。両方を正直に押さえておきましょう。

Cochraneレビュー:共感は動く、患者アウトカムは不確実

がん医療に携わる医療者へのコミュニケーション技術研修(CST)を対象としたCochraneレビュー(17のランダム化比較試験)では、研修群は対照群と比べて次のように変化しました。

  • 共感を示す:標準化平均差 SMD 0.18(95%信頼区間 0.05〜0.32、P=0.008、I²=0%、6研究844面談)— 確実性は中等度
  • 開かれた質問を使う:SMD 0.25(95%CI 0.02〜0.48、P=0.03、I²=62%、5研究796面談)— 確実性は非常に低い
  • 事実だけを述べて終わることが減る
  • 患者の不安などのアウトカムへの影響は非常に不確実、バーンアウト予防の効果は確実性が低い

Moore PM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018;7(7):CD003751.

図3 コミュニケーション研修で動いたもの(効果量と95%信頼区間) -0.2 0 0.2 0.4 0.6 0.8 効果なし 共感を示す SMD 0.18[0.05〜0.32] 6研究・844面談/確実性:中等度 開かれた質問を使う SMD 0.25[0.02〜0.48] 5研究・796面談/確実性:非常に低い

読み方:横棒が破線の縦線(効果なし)にかからなければ「統計学的に差がある」。ただし棒の長さ(信頼区間の広さ)と確実性の評価が別問題であることに注意。SMD 0.18は「小さいが確かにある」程度の大きさ。出典:Moore PM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018;7(7):CD003751.

日本のランダム化比較試験:2日間の研修で何が変わったか

日本の腫瘍医30名を2日間のコミュニケーション技術研修(SHAREに基づく)群と対照群にランダムに割り付け、その医師の外来を受けた患者1,192名(回答率84.6%)を評価した試験があります。

Fujimori M, et al. J Clin Oncol. 2014;32(20):2166-2172 の結果
  • 医師側:情緒的サポート(P=.011)、支持的な場の設定(P=.002)、情報の伝え方(P=.001)、自分のコミュニケーションへの自信(P=.001)がいずれも改善
  • 患者側:研修後の医師の外来を受けた患者は抑うつ得点(HADS-D)が有意に低かった(P=.027)。医師への信頼も高かった
  • ただし:不安(HADS-A)・全体のディストレス・面談への満足度には差がなかった

正直に書いておくべき「効かなかった研究」

傾聴を万能薬のように書くコラムは信用できません。実際、否定的な結果も出ています。大腸がんの術前患者50名を、看護師による治療的傾聴(therapeutic listening)を行う群と対照群にランダムに割り付けたブラジルの試験では、傾聴介入によって状態不安や手術への恐怖が下がるという結果は得られませんでした。むしろ変化がみられたのは対照群のほうで、著者らは「研究者と接触して話す機会そのもの(内省を促す働きかけがなくても)」が影響した可能性を論じています(Garcia ACM, et al. Rev Lat Am Enfermagem. 2018;26:e3027)。

ここから引き出せる実務上の教訓

「一回、丁寧に話を聴けば不安が下がる」という単純なモデルは成り立ちません。傾聴の効果は、誰が・どの局面で・何を目的に行うかに強く依存します。訪問看護における傾聴の主目的は「その場で不安を消すこと」ではなく、①本人の困りごとと価値観を正確に把握すること、②本人が意思を表明できる関係と場をつくること、③そこで得た情報をケアと記録に反映させることだと位置づけたほうが、実務にも研究知見にも合致します。

SECTION 03傾聴の三層構造 ― 場・受け取り・返し

傾聴を「気持ちの持ちよう」から「手順」に変換するために、三つの層に分けて考えます。日本のがん医療で開発され、患者の意向調査からエビデンスに基づいて構成されたSHARE(Supportive environment=支持的な環境/How to deliver the bad news=伝え方/Additional information=付加的な情報/Reassurance and Emotional support=安心感と情緒的サポート)と、看護師向け研修で用いられるNURSEの考え方を、訪問看護向けに整理し直したものです。

図4 傾聴の三層構造 第1層 場をつくる(言葉を発する前に決まっている部分) 座る・目線の高さを合わせる・時計や端末を見ない・テレビの音を下げてよいか尋ねる 同席者の位置を整える・「あと○分います」と先に伝えて時間の見通しを共有する 第2層 受け取る(さえぎらない・埋めない) 開かれた問いで始める・最初のひとまとまりは最後まで聞く・沈黙を3秒待つ 相づちは「はい」より「うなずき」+短い促し(「それで」「もう少し教えてください」) 第3層 返す(感情に名前をつけて確かめる) 要約して返す・感情を言語化する(「不安、という感じでしょうか」) 評価や励ましを足さない・確認して修正してもらう(「私の受け取り方で合っていますか」)

第1層が崩れていると、第2層・第3層の技法はほとんど機能しない。訪問看護では玄関を上がってから座るまでの30秒が第1層にあたる。

「40秒」の意味

共感的なかかわりに膨大な時間が要るわけではない、という点も研究で示されています。医師の説明ビデオに約40秒の共感的な語りかけを加えるだけで、視聴した女性の不安得点が低下し、医師を「温かい・思いやりがある」と評価する割合が上がりました(Fogarty LA, et al. J Clin Oncol. 1999;17(1):371-379)。訪問1回45分のうち、傾聴に確保すべき「まとまった時間」は数分で足ります。問題は長さではなく、その数分に手を止めているかどうかです。

SECTION 04沈黙は9割が「つながらない沈黙」

当院の視点

「黙って待つ」は、待てば起きるものではない

研修でよく「沈黙を恐れないで」と教わります。しかし、沈黙にも質があります。がん外来124件の録音から、2秒を超える沈黙1,211回すべてを音声学的・語彙的に分類した研究があります。結果は次のとおりでした。

図5 外来の沈黙 1,211回の内訳(2秒超のすべて) 離断的な沈黙(気まずさ・注意が逸れている) 440回 36.3% 中立的な沈黙(会話の間・手続き上の空白) 700回 57.8% 招き入れる沈黙(相手に語る余地を差し出す) 61回 5.0% つながりの沈黙(情動が共有された瞬間) 10回 0.8% 1,211回を横幅いっぱいに割り付けたもの 招き入れる沈黙は5.0% つながりの沈黙は0.8%(平均3.6秒・会話の後半3分の2にのみ出現)

沈黙の94%は、相手を招き入れていません。ただ止まっているだけか、気まずいだけです。「つながりの沈黙」10回は5つの面談にしか現れず、平均3.6秒、しかもすべて会話の後半3分の2で生じていました。前半にはひとつも起きていません(Bartels J, et al. Patient Educ Couns. 2016;99(10):1584-1594)。

ここから、当院が現場で共有している沈黙の使い方は次の3点です。

  1. 沈黙の前に「招き入れる合図」を置く。黙る前に、うなずく/体をわずかに相手へ向ける/「…そうでしたか」と短く受けてから止まる。何の前触れもなく黙ると、それは離断的な沈黙になります。
  2. 3〜4秒で十分。「つながりの沈黙」の平均は3.6秒でした。10秒も黙る必要はなく、むしろ不自然です。心の中で「ひとつ、ふたつ、みっつ」と数えるだけで、多くの人はその間に続きを話し始めます。
  3. 訪問の前半で「深い沈黙」を期待しない。研究でつながりの沈黙が後半にしか出なかったように、関係が温まる前の沈黙は空白でしかありません。前半は開かれた問いと相づちで流れをつくり、沈黙を使うのは中盤以降と割り切ります。

そして最も重要なこと。沈黙が生きるのは、手が止まっているときだけです。血圧計のカフを巻きながら、記録端末を打ちながらの3秒は、相手にとって「待ってもらえている時間」にはなりません。

SECTION 05言い換えの実例集 ― 現場で使う言葉に落とす

技法は言葉の形にしないと再現できません。訪問看護で頻出する場面を、避けたい言い方と置き換える言い方で並べます。

場面避けたい言い方置き換える言い方
訪問の冒頭 「お変わりないですか?」 「前回お会いしてから今日まで、いちばん気になっていたことはどんなことでしたか」
※「変わりない」を前提にしない開かれた問いにする
つらさを語られた直後 「大丈夫ですよ、みなさんそうですから」 「…つらい、という感じでしょうか」
※一般化せず、その人の感情に名前をつけて確認する
共感を示したいとき 「お気持ち、わかります」 「私には想像しきれないところがあります。もう少し聞かせていただけますか」
※分かったことにすると、その先が語られなくなる
解決策を思いついたとき (すぐに)「では○○してみましょう」 「ほかにも気がかりはありますか」→出し切ってから「どこから手をつけたいですか」
※先に全部出してもらう。優先順位は本人に決めてもらう
家族が代わりに答えたとき (そのまま家族と会話を進める) 「ありがとうございます。○○さんご自身は、どう感じていらっしゃいますか」
※家族の説明を否定せず、本人に戻す
言葉が出てこないとき 「たとえば痛みですか? 眠れないとか?」 (うなずいて3秒待つ)→「ゆっくりで大丈夫です」
※選択肢を先に出すと、本当の答えが埋もれる
話が長くなってきたとき 「すみません、時間が…」 「今のお話、私の理解では○○ということですね。今日はここまで伺って、続きは次回いちばんに伺います」
※要約+次回の約束で閉じる。切るのではなく預かる
感情が強く出たとき 「泣かないでください」 (何も言わずティッシュを差し出し、待つ)→「無理にお話しにならなくて大丈夫です」
※感情表出を止めない
「開かれた問い」の作り方 ― 3つの型
  • 時間で開く:「この1週間で、いちばん困ったのはどんな場面でしたか」
  • 意味で開く:「その症状があると、生活のどこがいちばん困りますか」
  • 価値で開く:「これから先、どんなことは譲りたくないと思っていらっしゃいますか」

「痛みはありますか」「眠れていますか」は必要な質問ですが、閉じた問いを並べるほど相手は「答える人」になり、語らなくなります。閉じた問いは、開かれた問いのあとに置くのが原則です。

SECTION 06

在宅で聴く ― 訪問看護の傾聴実務

6-1 訪問45分の「最初の2分」を空ける

外来のデータが示したのは「78%が2分以内に話し終える」でした。訪問看護でも同じ設計ができます。バイタル測定や処置に入る前に、最初の2分を、何もせず聴くだけの時間として確保する。この2分は情報収集ではなく、相手に「話し切ってもらう」ための時間です。

図6 訪問45分の中に傾聴を組み込む 2分 約28分 約8分 約5分 冒頭2分:手を止めて聴く 開かれた問いを1つだけ。記録端末を閉じ、うなずきと短い促しだけで受ける。 中盤:観察・処置・確認 閉じた質問はここへ。作業しながらの会話はここに限定する。 後半:気持ちに触れる/沈黙を使う 関係が温まった後半に、価値観・不安・これからの話を置く。 終盤:要約して確認する 「今日伺ったのは○○」と返し、次回の約束で閉じる。

時間配分は目安。訪問時間区分(30分未満・30分以上60分未満など)にかかわらず、冒頭に「聴くだけの数分」を置く構造は変えない。

6-2 作業と傾聴を混ぜない

在宅ではどうしても「測りながら聞く」「書きながら聞く」になりがちです。しかしこの状態では、前述の「招き入れる沈黙」も「つながりの沈黙」も生じません。研究で「つながりの沈黙」がきわめて稀だった理由として、著者らは注意が分散していることを挙げています。

  • 相手が気持ちの話を始めたら、手を止める。カフを外す、端末を伏せる。
  • 止められない処置中に大事な話が始まったら、「その話、処置が終わったらきちんと伺わせてください」と予約する。聞き流さない。
  • 記録は訪問中に完成させず、要点のキーワードだけにとどめる。

6-3 家族が同席する場での聴き方

在宅特有の難しさは、本人が答える前に家族が答えてしまうことです。家族の情報は貴重ですが、そのままにすると本人の意思が記録から消えます。

  • 順番を決める:「まず○○さんご本人に伺って、そのあとご家族からも教えてください」と最初に宣言する。
  • 物理的に整える:本人の正面に座り、家族はやや側方に。視線が家族に流れない配置にする。
  • 家族にも聴く時間を確保する:本人の前では言えないことがあります。玄関先や別室での数分を、意図的に確保する。

6-4 認知症のある方の「聴く」

厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」は、2025年(令和7年)3月に第2版が示されています。傾聴に直接関わる記載として、次の点が実務上重要です。

  • 認知症の人は言語による意思表示がうまくできないことが多いため、支援者は身振り手振りや表情の変化も意思表示として読み取る努力を最大限に行うことが求められる
  • 本人と時間をかけてコミュニケーションを取ることが重要であり、決断を迫るあまり急がせない
  • 意思を表明しにくくしている要因がないか(支援者の態度、人的・物的環境)に配慮する
  • 選択肢は可能な限り複数示し、文字や図表で示すことが有効な場合がある。理解しているような反応でも実際は理解できていないことがあるため、様子を見ながら確認する
  • 意思決定支援は意思形成支援・意思表明支援・意思実現支援に分けて考える

実務上は、「今日は何を食べたいですか」のような開かれた問いが負担になる場面があります。その場合は2択にする・実物を見せる・時間帯を変えて聞き直すほうが本人の意思に近づきます。開かれた問いが常に善というわけではない、というのがここでの注意点です。

6-5 精神科訪問看護での傾聴の輪郭

妄想や幻聴の訴えに対して、内容の真偽を議論すると関係が壊れます。かといって同調すると症状を強化しかねません。原則は「内容には賛否を示さず、その体験に伴う感情には応じる」です。

  • ×「そんな人はいませんよ」/×「そうですね、狙われていますね」
  • ○「そう感じておられるのは、とても怖いことだと思います」「その声が聞こえるのは、いつ頃からですか」

また、傾聴は無制限ではありません。訪問時間、話題の範囲、緊急時の連絡ルールをあらかじめ共有しておくことが、結果として本人を守ります。

6-6 「死にたい」と言われたとき

訪問看護では避けて通れない場面です。厚生労働省自殺対策推進室の「ゲートキーパー養成研修用テキスト」(令和6年3月)は、ゲートキーパーの役割を気づき・傾聴・つなぎ・見守りの4つとして整理しています。

図7 「気づき・傾聴・つなぎ・見守り」の4ステップ 1 気づき ― 変化に気づいて声をかける 眠れない・食べない・身なりが変わった・「もういい」といった言葉。訪問看護は変化に 気づける数少ない職種であることを自覚する。 2 傾聴 ― 気持ちを尊重して耳を傾ける 「そんなこと言わないで」と止めない。話題をそらさない。「つらい気持ちを話して くださってありがとうございます」と受け止め、批判も安易な励ましもしない。 3 つなぎ ― 早めに専門家へ相談するよう促す 主治医・精神科・地域の相談窓口へ。ひとりで抱えず、その日のうちに管理者と 主治医に報告する。事業所内で情報を共有する。 4 見守り ― 温かく寄り添いながら見守る つないだ後も関係を切らない。「何かあったらまた話してください」と伝え、 訪問頻度や連絡方法をチームで決めておく。

出典:厚生労働省自殺対策推進室「ゲートキーパー養成研修用テキスト」令和6年3月。

6-7 人生会議(ACP)は「聴く」の積み重ね

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(平成30年3月改訂)は、意思決定支援の基本原則として次を挙げています。

  • 適切な情報提供と説明に基づき、本人が多職種の医療・ケアチームと十分に話し合い、本人による意思決定を基本とする
  • 本人の意思は変化しうることを踏まえ、その都度意思を示し伝えられるよう支援し、話し合いを繰り返し行う
  • 本人が意思を伝えられなくなる可能性があるため、意思を推定する者をあらかじめ定めておくことも重要
  • 話し合った内容は、その都度文書等に記録し共有する

ここで重要なのは、ACPが「専用の面談」でしか行えないものではない、という点です。訪問のなかで出た「もう入院はしたくないな」「あの時はしんどかった」という一言こそが素材です。その言葉を、本人の言い回しのまま記録に残すことが、後から効いてきます。

6-8 令和8年度改定 ― 聴いたことを「評価」欄に書く

2026年(令和8年)度診療報酬改定では、「適正な訪問看護の推進」として、訪問看護ステーションが作成する記録書の記載内容の明確化等が行われました。中央社会保険医療協議会 総会(第647回・令和8年2月13日)の答申「個別改定項目について」に示された内容は次のとおりです。

  • 指定訪問看護の実施にあたっては、利用者の心身の状況等に応じて妥当適切に行い、漫然かつ画一的なものにならないよう、看護目標及び訪問看護計画に沿って行うことを明記
  • 記録書等において、指定訪問看護の内容に係る「評価」の記載を求めるとともに、実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載する必要があることを明確化

「評価」は、実施内容の羅列では足りません。傾聴はここで記録につながります。おすすめは3点セットです。

  1. 本人の言葉(そのまま):「夜になると、このまま動けなくなるんじゃないかと怖い」
  2. 看護師の解釈と目標に対する評価:転倒への不安が夜間の飲水制限につながっている。目標「脱水予防」は未達。
  3. 次の行動:ポータブルトイレの位置を家族と再調整。次回、夜間の水分量を本人と一緒に確認。

この形にすると、傾聴が「やさしい雑談」ではなくアセスメントの根拠として記録に残ります。改定の求める「評価の記載」にも、そのまま応えられます。

6-9 聴く側を守る

傾聴は感情労働です。Cochraneレビューでは、コミュニケーション研修がバーンアウトを防ぐという根拠は確実性が低いと評価されました。つまり「研修を受ければ疲れなくなる」わけではありません。組織側の手当てが必要です。

  • 重い訪問の後は、その日のうちに誰かに話す(デブリーフィングを5分でよいので習慣化)
  • 担当の固定化を見直す。ひとりに重い事例が集中していないか、管理者が定期的に確認する
  • 「うまく聴けなかった」を報告できる場をつくる。失敗を共有できないチームでは技術が育たない

SECTION 07セルフチェックと3分練習

訪問後30秒のセルフチェック(10項目)

  • 今日、最初に投げた質問は「開かれた問い」だったか
  • 相手の最初のひとまとまりを、最後まで聞けたか
  • 相手が話している途中で、自分の言葉をかぶせなかったか
  • 手を止めて聴いた時間が、どこかにあったか
  • 感情を表す言葉を、こちらから一度でも言語化して返したか
  • 「大丈夫」「わかります」で会話を閉じていないか
  • 解決策を出す前に、「ほかに気がかりは」と一度確認したか
  • 本人が話す前に、家族の説明で済ませていないか
  • 今日聴いた本人の言葉を、少なくとも1つ、そのまま記録に残せるか
  • 次回いちばんに確認すべきことを、その場で本人に伝えたか

スタッフ間でできる3分ロールプレイ

特別な研修を組まなくても、朝礼や事例検討の冒頭3分で回せます。

  1. 60秒:Aさんが利用者役として、実際にあった訴えを話す(脚色可)。Bさんは相づちとうなずきだけで、質問も助言も一切しない。
  2. 30秒:Bさんが「私が受け取ったのは○○ということですね」と要約して返す。
  3. 90秒:Aさんが「言いたかったことと合っていたか」「どこで話しやすく/話しにくくなったか」をフィードバックする。

この形式の要点は、Bさんに質問を禁じるところにあります。私たちは「聴く」つもりで「訊いて」しまうためです。質問を封じると、うなずき・沈黙・要約という技術だけで会話を支える経験ができます。

SECTION 08よくある質問

時間が足りません。傾聴のために訪問時間を延ばすべきですか。
延ばす必要は必ずしもありません。研究では、さえぎらなければ約8割の人は2分以内に話し終え、共感的なかかわりは40秒程度でも効果が確認されています。問題は総量ではなく配置です。冒頭2分を「聴くだけ」に確保し、閉じた質問を中盤にまとめるだけで、体感は大きく変わります。なお令和8年度改定では実際の訪問開始・終了時刻の記載が明確化されており、時間を延ばすかどうかは記録上も曖昧にできません。だからこそ「決まった時間の中でどう配置するか」が実務の課題になります。
相手が話し続けて訪問が終わりません。どう切ればよいですか。
「切る」のではなく「預かる」形にします。要約して返し(「今日伺ったのは○○ですね」)、次回の最初にその続きを扱うと約束する。切られたと感じるのは、話が途中で止まったときではなく、受け取られなかったと感じたときです。なお5分を超えて話し続ける人は少数派(前掲研究では335人中7人)であり、毎回起きるわけではありません。
「傾聴すれば不安が減る」と説明してよいですか。
断定はできません。傾聴を単独の介入としたランダム化比較試験では、不安や恐怖の低下が示されなかった報告もあります。一方、コミュニケーション研修を受けた医師の外来では患者の抑うつ得点が有意に低かったという日本の試験もあります。「必ず不安が減る」ではなく「本人の困りごとと意思を正確に把握でき、ケアの質が上がる」という説明のほうが、根拠に忠実です。
沈黙が苦手です。無理にでも黙るべきですか。
無理に黙る必要はありません。研究では2秒を超える沈黙の約94%は「離断的」または「中立的」で、相手を招き入れてはいませんでした。前触れなく黙ると気まずいだけです。うなずきや「…そうでしたか」を挟んでから3〜4秒待つ。それだけで沈黙の質が変わります。
認知症の方には、開かれた問いのほうがよいのですか。
一律ではありません。意思決定支援ガイドライン(第2版)は、身振りや表情も意思表示として読み取ること、時間をかけること、選択肢は複数を分かりやすく示すこと(文字や図の活用を含む)を挙げています。抽象度の高い開かれた問いが負担になる場合は、2択にする・実物を見せる・時間帯を変えて聞き直すほうが本人の意思に近づきます。
ご家族から「本人には言わないでほしい」と頼まれました。
まずご家族がそう考えるに至った心配を傾聴します。そのうえで、本人の意思決定を基本とすることが国のガイドラインの原則であること、本人が知りたい範囲や時期は本人に確認できることを共有し、主治医とチームで方針を協議します。ステーションの一存で決めず、必ず記録に残して連携してください。
ご利用者・ご家族の方へ

訪問看護師に「これは言ってもいいことだろうか」と迷う必要はありません。眠れないこと、お金のこと、家族に言えない気持ち、これから先の不安。医療的な相談でなくても構いません。話しにくいときは「実は、ひとつ聞いてほしいことがあって」と切り出していただければ、私たちは手を止めます。

参考文献・出典

  1. Singh Ospina N, Phillips KA, Rodriguez-Gutierrez R, et al. Eliciting the Patient’s Agenda—Secondary Analysis of Recorded Clinical Encounters. J Gen Intern Med. 2019;34(1):36-40. doi:10.1007/s11606-018-4540-5. PMID 29968051. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29968051/
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  6. Fujimori M, Shirai Y, Asai M, Kubota K, Katsumata N, Uchitomi Y. Effect of communication skills training program for oncologists based on patient preferences for communication when receiving bad news: a randomized controlled trial. J Clin Oncol. 2014;32(20):2166-2172. doi:10.1200/JCO.2013.51.2756. PMID 24912901. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24912901/
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  9. 日本サイコオンコロジー学会・日本がんサポーティブケア学会 編『がん医療における患者−医療者間のコミュニケーションガイドライン 2022年版』金原出版、2022年6月30日. https://jpos-society.org/guideline/communication/
  10. SHARE/QPLプロジェクト「SHAREコミュニケーションプロジェクト概要」(Supportive environment/How to deliver the bad news/Additional information/Reassurance and Emotional support). https://share-communication.jp/share_communication/
  11. 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」平成30年3月改訂. https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10802000-Iseikyoku-Shidouka/0000197701.pdf
  12. 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」令和7年3月. https://www.dcnet.gr.jp/pdf/download/support/research/center2/250407/o_r6_guide02_20250320.pdf(初版:平成30年6月 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
  13. 厚生労働省自殺対策推進室「ゲートキーパー養成研修用テキスト」令和6年3月. https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/assets/pdf/gatekeeper_yousei.pdf
  14. 中央社会保険医療協議会 総会(第647回)令和8年2月13日 答申「個別改定項目について」(適正な訪問看護の推進). 一般社団法人全国訪問看護事業協会 掲載 https://www.zenhokan.or.jp/new/new2743/
  15. 厚生労働省保険局医療課「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護ステーション向け】」令和8年3月10日版. https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001671099.pdf
  16. Beckman HB, Frankel RM. The effect of physician behavior on the collection of data. Ann Intern Med. 1984;101(5):692-696. doi:10.7326/0003-4819-101-5-692(患者の話が早期に遮断されることを最初に示した古典的研究)

本コラムは訪問看護・リハビリテーションに携わる方および利用者・ご家族の方に向けた一般的な情報提供であり、個別の診療・ケア方針を定めるものではありません。診療報酬・制度の運用は最新の通知・疑義解釈により変わることがあります。算定や記録の取り扱いについては、必ず厚生労働省および地方厚生局の最新資料をご確認ください。気分の落ち込みや「消えてしまいたい」という気持ちが続く場合は、抱え込まずに主治医・担当看護師、またはお住まいの地域の相談窓口へご相談ください。

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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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