鼠径部の「カビ」のケア

訪問看護リハビリステーション | スキンケア
鼠径部の「カビ」のケア
― 訪問看護師がすべきこと・してはいけないこと
おむつの中の赤み、股のつけ根のかゆみ。「カビですね」で終わらせると、治らないだけでなく広がります。鼠径部の真菌性皮膚炎について、診療ガイドラインと行政通知にもとづいて、訪問看護の現場でできることを整理しました。
この記事の想定読者:訪問看護師・リハビリ職、介護職の方、ご家族。診断は医師が行いますが、その診断を成り立たせるのも、治る環境をつくるのも、いちばん近くで皮膚を見ている人です。
目次
- 結論 ― 訪問看護師の仕事は3つ
- なぜ鼠径部なのか(5つの条件)
- 白癬とカンジダは別ものです
- 「カビ」と決める前に外しておきたいもの
- 当院の視点:塗る前に立ち止まれるのは訪問看護師だけ
- ケアの本体は「洗う・乾かす・こすらない」
- 薬のこと ― 塗る人として知っておきたいこと
- 広げない ― 家庭と施設のなかで
- 在宅パート:誰が・いつ・どこまで塗るのかを設計する
- やってはいけない5つ/訪問時チェックリスト/Q&A
結論 ― 訪問看護師の仕事は3つ
日本医真菌学会の2021年全国調査では、皮膚科を受診した新規外来患者の10.0%(9,442人)が皮膚真菌症でした。うち皮膚糸状菌症が86.3%、皮膚・粘膜カンジダ症が8.4%です。皮膚糸状菌症の病型別内訳では股部白癬が4.9%。一方、皮膚・粘膜カンジダ症でもっとも多い病型は高齢者のおむつカンジダ症(23%)で、次いでカンジダ性間擦疹(21%)でした。つまり、在宅・施設でおむつを使っている方の陰股部は、カンジダ症がもっとも多く見つかる場所そのものです。
なぜ鼠径部なのか(5つの条件)
鼠径部は、皮膚科の教科書で「間擦部」と呼ばれる場所です。皮膚と皮膚が向かい合い、汗がこもり、こすれます。皮膚真菌症診療ガイドライン2025は、カンジダ性間擦疹の好発部位を「陰股部、指趾間部、皮膚のくびれ部分、絆創膏や衣服、寝具などに覆われて高湿度に暴露される部位」と記載しています。要介護の方の鼠径部は、この条件をほぼ全部満たしてしまいます。
図1:条件3・4は在宅・施設に特有のものです。「洗い方が悪いから」ではなく、環境が作っているという理解が、家族や介護職を責めないケアの出発点になります。
5つめは見落とされがちですが、実務上とても大事です。ガイドラインは「高齢者の体部白癬や頭部白癬においては、もともと存在する足白癬や爪白癬から波及することが多い」と述べています。鼠径部だけを見ていると、供給源を残したまま塗り続けることになります。陰部を見たら足の指の間と足の爪も必ず見る、と決めておいてください。
日本臨床皮膚科医会が2023年に実施した大規模調査(Foot Check 2023)では、足の病気以外で皮膚科を受診した患者の潜在罹患率は足白癬13.7%・爪白癬7.9%(およそ7人に1人・13人に1人)でした。さらに2021年の全国調査では、足白癬・爪白癬とも患者数のピークは70歳代で、80代以上の割合が増えています(足白癬12.1%→16.7%、爪白癬17.6%→21.9%、2016年調査との比較)。訪問先の年齢層は、まさにここです。
白癬とカンジダは別ものです
同じ「カビ」でも、白癬菌(皮膚糸状菌)とカンジダは性質がまったく違います。白癬菌は外から入ってきて角層を食べながら外へ外へ広がる菌、カンジダはもともと皮膚や粘膜にいる常在菌が、湿気や免疫低下をきっかけに増えて悪さをする菌です。この違いが、そのまま見た目の違いになります。
図2:日本皮膚科学会・日本医真菌学会「皮膚真菌症診療ガイドライン2025」の記載をもとに作成。なお「陰嚢は白癬では侵されにくく、カンジダでは侵されやすい」という臨床上の手がかりも古くから言われますが、これも診断を確定させるものではありません。
治るまでの時間がまったく違う
ガイドラインは、皮膚カンジダ症について「有効な抗真菌薬を連日1〜2回外用することで概ね2週間以内に治癒させることができる」と述べています(CQ13、推奨度A)。一方、白癬は角層に菌が住みついているため、はるかに長い時間がかかります。手足白癬の塗布期間の目安として、ガイドラインは趾間型2か月以上・小水疱汗疱型3か月以上・角化型6か月以上を挙げ、「菌陰性を確認後さらに1か月塗布を追加する」ことを治癒に導くコツとしています。
「2週間できれいになったらカンジダ、2週間で変わらなければ白癬か、そもそも診断が違う」という時間の物差しを持っておくと、報告のタイミングが決まります。ただし股部白癬の塗布期間についてはガイドラインに明示がありません。期間は必ず主治医の指示に従ってください。
「カビ」と決める前に外しておきたいもの
鼠径部・陰部の赤みは、真菌症以外にも原因がたくさんあります。日本創傷・オストミー・失禁管理学会の『IADベストプラクティス』は、失禁関連皮膚炎(IAD)と鑑別すべき疾患として十数種類を挙げています。そのなかには、放置してはいけないものが混じっています。
図3:日本創傷・オストミー・失禁管理学会『IAD-setに基づくIADの予防と管理 IADベストプラクティス』(照林社、2019)の鑑別疾患一覧、および皮膚真菌症診療ガイドライン2025の鑑別に関する記載をもとに作成。
乳房外パジェット病は高齢者の外陰部に好発する皮膚がんで、見た目は「治らない湿疹」です。おむつを使っている方の陰部の紅斑は「またかぶれた」で処理されやすく、年単位で放置されることがあります。「同じところが、同じ薬で、3か月以上よくならない」――これを医師に伝える基準にしてください。
塗る前に立ち止まれるのは、訪問看護師だけです
皮膚真菌症診療ガイドライン2025には、こういう一文があります。「皮膚真菌症には貨幣状湿疹や接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、汗疱あるいは異汗性湿疹、紅色陰癬など鑑別すべき疾患が多く、直接鏡検を怠ったために診断を誤り、患者に迷惑をかけている事例は枚挙にいとまがない」。診療ガイドラインとしてはかなり強い言い方です。
そして在宅には、外来にはない事情があります。訪問看護師が赤みに気づいてから、医師が実際にその皮膚を見るまでに、数日から数週間の時間が空くということです。この空白の時間に何が起きるかで、その後の数か月が決まります。
抗真菌薬を塗ってしまうと、顕微鏡で菌が見つかりにくくなります。ステロイドを塗ってしまうと、輪郭がぼやけて典型的な見た目でなくなります。つまり、良かれと思って手持ちの薬を塗った時点で、診断は振り出しに戻ります。そのあと「効かないから別の薬」を繰り返し、半年が過ぎる――在宅でよく見る経過です。
逆に言えば、訪問看護師の「まだ何も塗っていません」という一言には、外来では手に入らない価値があります。塗らないでおくことは、何もしないことではありません。診断を成立させるという、はっきりした仕事です。
図4:抗真菌薬もステロイドも「診断のための情報」を消してしまいます。塗らないという判断ができるのは、いちばん最初に皮膚を見た人だけです。
爪の検査キットは、鼠径部には使えません
イムノクロマト法の白癬菌抗原キット(デルマクイック®爪白癬)は、2022年2月1日に「白癬菌抗原定性」として保険収載されましたが、適用は爪白癬に限られます。鼠径部の皮膚には使えません。日本皮膚科学会も2021年11月のステートメントで「本キットはあくまでKOH直接鏡検の補完として使用されるべき」としています。鼠径部では、KOH直接鏡検が唯一の確定手段です。
医師に届ける8項目(報告テンプレート)
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 1 部位と範囲 | 左右どちらの鼠径か、陰嚢・陰唇・臀裂・下腹部まで及ぶか。おむつの当たる範囲との関係 |
| 2 輪郭 | 環になって中心が薄いか/面でべったりか。辺縁は盛り上がっているか。周囲に小さな発疹(衛星病巣)はあるか |
| 3 写真 | 明るい自然光で、しわを伸ばして、定規かガーゼを一緒に写す(大きさの基準になる)。同じ角度で毎回 |
| 4 経過 | いつから/広がっているか縮んでいるか/かゆみ・痛み・においの有無 |
| 5 塗ったもの | 処方薬・市販薬・残薬・家族の薬すべて。いつから、1日何回、何日間。「塗っていない」も重要な情報 |
| 6 足と爪 | 足の指の間の皮むけ・浸軟、足底の鱗屑、爪の白濁・肥厚。ここが供給源のことがある |
| 7 背景 | おむつ・パッドの種類と交換回数、失禁の性状(ブリストルスケール)、糖尿病、ステロイド・抗菌薬・免疫抑制薬 |
| 8 周囲 | 同居家族・同じ施設の他の利用者に似た皮疹がないか。バスマット・タオルの共用の有無 |
ケアの本体は「洗う・乾かす・こすらない」
薬の話より先に、こちらです。ガイドラインは皮膚カンジダ症の治療について「患部を清潔に保ち乾燥させることで回復促進と再発予防効果が期待できる」と明記しています。薬は菌を減らしますが、環境を変えなければ必ず戻ってきます。そして環境を変えられるのは、訪問看護師と介護職と家族だけです。
図5:4つのうち、いちばん飛ばされやすいのが2の「乾かす」です。訪問の時間が押しているときほど、ここが省略されます。「30秒待つ」を手順書に書いておくと守られます。
おむつと下着で変えられること
- パッドの重ね使いをやめる:吸収量は増えず、通気性だけが落ちます。おむつ内の温度と湿度が上がることは、そのまま真菌の増殖条件です。
- サイズを合わせる:小さすぎるおむつは鼠径部で強く食い込み、摩擦と蒸れの両方をつくります。
- 交換のタイミングを決める:時間で決めるより「排便後は必ず」を優先。便の消化酵素は数時間で角層を壊します。
- 日中に外す時間をつくる:短時間でも、しわを開いて空気に触れさせる時間があると違います。
- 下着は綿で、締めつけないもの:ゴムが鼠径部に当たる位置を確認します。
薬のこと ― 塗る人として知っておきたいこと
処方するのは医師ですが、実際に塗るのは訪問看護師・介護職・家族です。「この薬は、この病気に使える薬なのか」を知っているかどうかで、危険な流用を止められます。
図6:皮膚真菌症診療ガイドライン2025 表3(表在性皮膚真菌症に使用される抗真菌外用薬の系統・一般名・保険適用)をもとに作成。ステロイド外用剤の行は、ベタメタゾン吉草酸エステル外用剤などの電子添文「2.1 禁忌」(真菌皮膚感染症)にもとづきます。
塗り方の基本
- 回数:白癬に用いる外用抗真菌薬は「すべて1日1回の塗布でよい」とガイドラインに記載されています。皮膚カンジダ症は連日1〜2回。1日に何度も塗っても効果は上がりません。
- 範囲:白癬では、病巣より一回り広く塗ることが治癒に導くコツとされています。境界がぼやけて見える部分にも菌はいます。
- やめどき:菌の発育が止まると、菌が死滅していなくても臨床症状が消えます。「見た目が治った=治癒」ではありません。治療中断による再発が多いのはこのためです。期間は医師の指示に従います。
- 効かないときの判断:ガイドラインは、足白癬・体部白癬は1か月、爪白癬は3か月を目安に効果を評価し、改善がなければ薬剤耐性株の可能性を考慮して薬剤を切り替えるとしています(股部白癬は体部白癬と同じ枠で扱われます)。
外用薬のブテナフィン(ベンジルアミン系)とリラナフタート(チオカルバミン酸系)は、内服のテルビナフィンと同じ酵素(スクアレンエポキシダーゼ)を阻害します。ガイドラインもこの点を明記しています。テルビナフィンで効かなかったからブテナフィンに、という切り替えは、耐性菌に対しては切り替えになっていない可能性があります。ガイドラインは、外用薬を変えるならイミダゾール系など「スクアレンエポキシダーゼ阻害剤ではないもの」に変更するとしています。
外用抗真菌薬は近年、限定出荷が続いています。厚生労働省の医薬品供給状況一覧では、2026年7月時点でルリコナゾール1%1g規格の掲載2銘柄がいずれも限定出荷とされ、テルビナフィン塩酸塩クリーム1%も複数社が2026年5月以降に限定出荷となっています。薬が変わったときは、名前だけでなく「系統が変わったのか、変わっていないのか」を確認してください。これは訪問看護師が気づける数少ない場面です。
広げない ― 家庭と施設のなかで
供給源は、たいてい足にあります
鼠径部だけを治療しても、足白癬・爪白癬が残っていれば、また戻ってきます。とくに爪白癬は外用薬だけでは届きにくく、内服が必要になることが多い病型です。鼠径部の相談をするときに、足と爪の写真も一緒に医師へ送る。これだけで治療計画が変わることがあります。
家庭のなかでの伝わり方
- バスマット・スリッパ・体重計は、白癬菌が乗り移りやすい場所です。同居者と分ける、あるいは頻繁に洗います。
- 体を拭く順番を決めます。陰部と足は最後。同じタオルで顔から順に拭くと、菌を運びます。
- 洗濯は通常の洗濯で構いませんが、濡れたまま置かないこと。乾燥が最大の対策です。
- おむつ交換時の手袋交換と手指衛生。複数の利用者を続けてケアする施設では、ここが分岐点になります。
国内の多施設調査では、白癬臨床分離株の2.3%(5/210株)にテルビナフィン耐性株(Hiruma ら、2021年)、1.0%(3/288例)にイトラコナゾール耐性株(Hiruma ら、2023年)が検出されています。さらに、知的障害者が生活するグループホームで、テルビナフィンを3年間内服した患者を発端者として耐性白癬が集団発生した国内初の症例集積報告もあります(Noguchi ら、2021年)。
また2020年に日本で新種として報告された Trichophyton indotineae は、多くがテルビナフィン耐性で、ヒトからヒトへの感染力が強く、体部白癬・股部白癬・足白癬として広範囲に強い炎症を起こします。「施設内で複数の人の股が同時に赤い」は、報告すべき所見です。
HOME CARE
SECTION 09 在宅パート:誰が・いつ・どこまで塗るのかを設計する
9-1 「週2回の訪問」では、1日1回の外用は成立しない
ここが在宅の核心です。抗真菌薬は毎日塗ってこそ効きますが、訪問看護は毎日入れるとは限りません。訪問看護のなかで行う軟膏処置は訪問看護基本療養費・訪問看護費に含まれ、別に算定するものではありませんから、「点数がつくから毎日行く」という発想も成り立ちません。
つまり、訪問看護師に求められているのは「自分が塗ること」ではなく、「自分がいない日にも塗られる仕組みを設計すること」です。
9-2 介護職に頼める範囲は、行政通知で決まっています
厚生労働省医政局長通知(平成17年7月26日 医政発第0726005号)は、一定の条件のもとで「皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く。)」の介助は原則として医行為ではない、としました。さらに令和4年12月1日の通知(医政発1201第4号)で、「水虫や爪白癬にり患した爪への軟膏又は外用液の塗布(褥瘡の処置を除く。)」が明示的に追加されています。
ただし、これは「誰でも自由に塗ってよい」という意味ではありません。通知は条件を定めています。
図7:厚生労働省医政局長通知(平成17年7月26日 医政発第0726005号/令和4年12月1日 医政発1201第4号)にもとづく。実際の手技や観察項目は、令和6年度老人保健健康増進等事業「原則として医行為ではない行為に関するガイドライン」(2025年3月)にまとめられています。
「連続的な容態の経過観察が必要でないこと」――ここが実務上のいちばんの分かれ目です。診断がついていない皮疹、びらん・出血がある面、広がっている最中の皮疹は、この条件を満たしません。「とりあえずヘルパーさんに塗っておいてもらう」のではなく、まず診断をつけ、範囲が安定してから移管する。順番が逆になると、条件を満たさないまま任せることになります。
9-3 手順書に書く5項目
介護職や家族に移管するとき、口頭の申し送りでは必ず崩れます。紙1枚に、次の5つを書いてください。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 1 どこに | 「右鼠径のしわの内側から、外側へ指2本分まで」。文章より、写真に線を書き込むほうが確実 |
| 2 どれだけ | 「人差し指の先から第1関節まで(1FTU=約0.5g)で、手のひら2枚分」。うすく、すりこまない |
| 3 いつ | 「入浴後または陰部洗浄後、乾いてから」。生活動線に埋め込む。時刻より「◯◯のあと」で決める |
| 4 いつまで | 医師の指示期間を明記。「見た目がよくなっても、◯月◯日までは続ける」と日付で書く |
| 5 やめる・呼ぶ基準 | しみる・痛がる・水ぶくれや膿が出た・出血した・広がった・発熱した → 塗るのをやめて連絡 |
9-4 医師・皮膚科につなぐタイミング
- 診断がついていない鼠径部の紅斑(=まず1回目でつなぐ)
- 1か月塗っても改善しない、あるいは塗っているのに広がる
- 水疱・膿疱ができた、びらんから出血する、においが強くなった、発熱がある
- 糖尿病・ステロイド内服・免疫抑制薬・抗がん薬治療中の方の皮疹
- 同じ施設・同じ家庭で、複数の人に似た皮疹が出た(耐性菌・疥癬・集団発生を考える)
- 市販薬やステロイド配合剤を使ってから悪化した
9-5 訪問看護指示書に書いてもらうこと
指示書の「留意事項及び指示事項」欄が空欄だと、現場は毎回医師に確認することになります。皮膚の処置については、部位/薬剤名と剤形/回数/期間/見直しの時期を書いてもらうよう依頼してください。「症状に応じて」ではなく日付が入っていると、介護職への移管もそのまま進められます。
9-6 記録は3点セットで
令和8年度診療報酬改定では「適正な訪問看護の推進」として、漫然かつ画一的な訪問の禁止、記録書等への評価の記載、実際の訪問開始・終了時刻の記載が求められています。皮膚のケアでは、次の3点をセットで書くと、そのまま評価の記載になります。
- 所見:部位・範囲・輪郭・びらんの有無(できれば同条件の写真)
- 前回との差:「前回より外側に1cm縮小」「衛星病巣が消えた」「変化なし(3回連続)」
- 判断と行動:「変化なしが3回続いたため主治医へ報告、皮膚科受診を相談」
とくに②を書く習慣があると、「1か月で効果判定」というガイドラインの原則が自然に守られます。
9-7 終末期は、目的を入れ替える
看取りが近い方の鼠径部の真菌症では、「完全に治す」ことが目標にならない場面があります。数か月かかる白癬の治療を最後までやり切ることが、本人にとって意味を持たないこともある。そのとき見るのは、かゆくないか/痛くないか/においで本人と家族が困っていないかの3つです。
洗浄・乾燥・摩擦を減らすケアは、治すためだけのものではありません。そのまま安楽のためのケアになります。方針を変えるときは、必ず多職種で共有し、記録に残してください。
9-8 介護者を責めない
鼠径部の真菌症は、清潔にしていないから起こるのではありません。おむつという環境と、失禁と、皮膚の老化が作ります。それでも家族は「自分のケアが悪かった」と受け取ります。最初に「これは環境が原因で、誰のせいでもありません」と言葉にしてから、具体策の話に入ってください。ここを飛ばすと、その後の指導が入らなくなります。
やってはいけない5つ
ステロイド外用剤の電子添文は、真菌皮膚感染症を禁忌としています。さらに副作用として「皮膚真菌症(皮膚カンジダ症、皮膚白癬等)」が挙げられ、密封法(ODT)の場合に起こりやすいと記載されています。おむつは密封法と同様の作用を持ちます。つまり、おむつの中でステロイドを使うことは、真菌症を作りやすい条件そのものです。
ブテナフィン・リラナフタートは皮膚カンジダ症に保険適用がありません。おむつ部の紅斑でもっとも多いのはカンジダです。効かないだけでなく、その間に診断が遅れます。
抗真菌薬もステロイドも、KOH直接鏡検の結果と見た目を変えます。診察の予定が決まっているなら、その日は塗らずに待つのが正解です(医師と事前に相談を)。
摩擦は角層を削り、熱は熱傷と乾燥を作ります。どちらもバリアを壊す方向です。泡でのせて、押さえ拭きして、しわを開いて自然乾燥。これが最短ルートです。
この2つは正反対に見えて、同じ失敗です。やめどきも、変えどきも、決めるのは日付。「症状が消えても◯月◯日まで」「◯月◯日までに改善しなければ報告」を最初に決めておいてください。
訪問時チェックリスト(10項目)
- しわを伸ばして、奥まで見た(見えない部分に病変の本体があることが多い)
- 輪になっているか、面で広がっているかを確認した
- 周囲に小さな発疹(衛星病巣)がないか見た
- 足の指の間・足底・足の爪を見た
- 口角・乳房下・臍・腋窩など、ほかの間擦部も見た
- 今使っている外用薬をすべて確認した(処方薬・市販薬・残薬・家族の薬)
- おむつ・パッドの種類、重ね使いの有無、交換回数を確認した
- 同居家族・同じ施設の他の方に似た皮疹がないか確認した
- 同じ条件で写真を撮り、前回と比べた
- 記録に「所見・前回との差・判断と行動」の3点を書いた
よくある質問
- 抗真菌薬と保湿剤・皮膚保護剤を両方使うとき、順番はどちらが先ですか。
- 抗真菌薬が先です。皮膚が乾いた状態で抗真菌薬を薄く塗り、それが乾いてから保護剤を重ねます。逆にすると、薬が皮膚に届きません。ただし製剤の組み合わせによっては混ざらないほうがよいものもあるので、迷ったら薬剤師に確認してください。
- びらんがあってしみると訴えます。どうすればよいですか。
- まず塗るのをやめて、医師に報告してください。アルコールを含む外用液は浸軟・びらん面にしみます。剤形(クリーム・軟膏・液)の変更で解決することがあります。また、しみる原因が薬そのものへの接触皮膚炎のこともあります。ガイドラインは「同じ系統すべての薬剤に接触過敏性を有することがある」ため、系統の異なる抗真菌薬を何種類か採用しておくとよいと述べています。
- 本人が痒くて掻いてしまいます。かゆみ止めを足してもよいですか。
- ステロイド外用薬を自己判断で足すのは避けてください(真菌症には禁忌)。かゆみ対策としてまずできるのは、乾燥させること、締めつけを外すこと、爪を短く整えること、夜間に冷やすことです。それでも掻破が続いて皮膚が壊れていくようなら、内服の抗ヒスタミン薬なども含めて医師に相談してください。
- ウッド灯(ブラックライト)は在宅でも使えますか。
- ガイドラインには、足白癬・股部白癬の鑑別疾患として重要な紅色陰癬は、ウッド灯で病巣が鮮やかなピンク色の蛍光を発すると記載されています。ただし、光らなかったからといって紅色陰癬が否定されるわけでも、白癬が確定するわけでもありません。あくまで医師の診断を補助する所見です。
- おむつを外して「解放する時間」を作ると、失禁で汚れてしまいます。
- 全員に一律で行う必要はありません。排尿・排便のパターンが読める方であれば、排泄直後の30分〜1時間が現実的です。ベッド上であれば防水シーツを敷き、両膝を軽く開いて鼠径部が空気に触れる姿勢をとるだけでも違います。「いつやるか」をケアプランの時間帯に落とし込むのがコツです。
- 結局、訪問看護師がいちばんやるべきことは何ですか。
- 塗る前に立ち止まって、医師が診断できる情報を残すこと。そして、自分がいない日にも洗浄・乾燥・外用が続く仕組みを作ることです。薬を選ぶのは医師ですが、その薬が効く条件をつくれるのは、生活の場にいる人だけです。
ご相談ください
ふくろう訪問看護リハビリステーションでは、緩和ケア・難病・精神科・認知症の方の在宅療養を支えるなかで、スキンケアとおむつ環境の調整も日常的に行っています。「なかなか治らない陰部の赤み」「おむつの中の皮膚トラブル」でお困りの方、ケアマネジャーの方、施設のご担当者の方は、お気軽にご相談ください。
皮膚の状態によっては、ふくろう訪問クリニックの訪問診療とあわせて、皮膚科医療機関へのご紹介も含めて検討します。
参考文献・出典
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- ベタメタゾン吉草酸エステル外用剤 電子添文(禁忌2.1、重要な基本的注意8.2、副作用11.2「皮膚真菌症」、小児等の項「おむつは密封法(ODT)と同様の作用がある」).各社最新版.
- 厚生労働省「医薬品供給状況一覧」(2026年7月27日時点)、岩城製薬「医療用医薬品 供給情報」(2026年6月29日現在).
- 中央社会保険医療協議会 総会 令和8年度診療報酬改定 答申(第647回、令和8年2月13日)―「適正な訪問看護の推進」.
本記事は2026年8月時点で確認できる情報にもとづく一般的な解説です。診断・治療の適否は個々の状態によって異なります。実際の判断は必ず主治医の指示に従ってください。制度・薬価・供給状況は変更されることがあります。

