高度肥満患者さんの褥瘡処置

「体格が大きい方の床ずれケアは、痩せた方と同じでいいの?」——在宅の現場でよく受ける質問です。高度肥満の患者さんは、実は褥瘡(じょくそう/床ずれ)のリスクが標準体格の約3倍とされます1)。しかも「皮膚のしわ(スキンフォールド)」「体位変換の難しさ」「見えにくい深部の損傷」など、独特の落とし穴があります。この記事では、国内外のガイドラインとエビデンスをもとに、訪問看護・リハの現場ですぐ使える実践ポイントを整理します。

目次

1なぜ「高度肥満」で褥瘡リスクが高まるのか

肥満というと「クッションが多く床ずれになりにくそう」という誤解がありますが、実際は逆です。理由は大きく4つあります。

約3倍標準体格と比べた
褥瘡発生リスク1)
深部から皮膚表面に所見が出る前に
深部組織が壊れやすい2)
しわの奥骨突出部だけでなく
皮膚のしわ内にも発生3)
!高度肥満で褥瘡が増える4つの理由
  • 圧・ずれ・摩擦が大きい:体重が重いぶん、支持面(骨突出部やしわ)にかかる荷重が大きく、血流が止まりやすくなります2)
  • マイクロクライメット(皮膚の微小環境)が悪化:体温維持のため発汗しやすく、皮膚とマットレスの間が高温多湿に。皮膚がふやけ(浸軟)、ずれに弱くなります4)
  • 脂肪組織は血流が乏しい:酸素が届きにくく、いったん傷ができると治りにくい5)
  • 体位変換が難しい:介助時に「引きずり(ドラッグ)」が起きやすく、それ自体がずれ・摩擦を生みます3)

2まず「特有の好発部位」を知る

高度肥満の患者さんでは、仙骨・踵などの典型的な部位に加えて、「非典型的」な部位を必ずチェックします。見落としやすいのはここです。

ベッド面(横向きに寝た状態のイメージ) 1 2 3 4
1仙骨・尾骨・坐骨(従来からの好発部位)
2腹部の垂れ(パニクルス)の下/垂れた腹部が下の組織を圧迫
3皮膚のしわ内(乳房下・鼠径部・腹部)
4医療機器の当たる部位(チューブ・カテーテル等)
図1:横向きに寝た高度肥満患者で特に注意したい褥瘡・皮膚障害の好発部位(イメージ図)
非典型部位のチェックポイント
  • 腹部の垂れ(パニクルス)の裏側:垂れた腹部が自重で下の組織を圧迫します。50ポンド(約23kg)を超える例もあり、圧だけで皮膚が破綻します6)
  • 皮膚のしわ(乳房下・鼠径部・腹部・頸部):しわの中は高温多湿で、間擦疹(かんさつしん)や皮膚障害の温床。しわは「底まで開いて」観察します4)
  • チューブ・カテーテルの当たる部位:しわの奥に埋もれ、皮膚に食い込みやすい。医療機器関連圧迫損傷(MDRPI)に注意6)
  • ベッド柵・車椅子のアームレスト:体格に合わない用具が臀部・体幹に深部損傷を起こします6)
i見えない損傷に注意(実践のコツ)

高度肥満では、皮膚表面に赤み(発赤)が出る前に、深部組織で損傷が進むことがあります7)。「発赤がないから大丈夫」と判断せず、触診で熱感・硬さ・左右差を確認しましょう。色素の濃い皮膚では発赤が見えにくいため、なおさら触診が重要です。

3予防の柱①:体位変換とポジショニング

予防の基本は国内外で共通です。日本褥瘡学会は体位変換は基本2時間を超えない範囲、粘弾性フォームや上敷二層式エアマットレスなど体圧分散寝具を使う場合は4時間を超えない範囲でもよいとしています8)。ただし高度肥満では「介助方法」に特有の工夫が要ります。

高度肥満患者の体位変換:実践のポイント
  • 30度側臥位で「腹部の垂れ」を逃がす:パニクルスを下の組織から持ち上げるように支え、荷重が集中しないようにします7)
  • 「引きずらない」介助を徹底:スライディングシート等の移動補助具でずれ・摩擦を減らします。人力だけの引っ張りは皮膚損傷・介助者の腰痛の両方を招きます3)9)
  • 介助者は十分な人数を確保:リフトやスライディングボードが無い場合、無理に少人数で動かさない。安全な移乗が結果的に皮膚を守ります7)
  • ドーナツ型クッションは使わない:中心部の虚血を促進するため、国内ガイドラインでも避けるべきとされています10)
  • 強い揉みマッサージも禁忌:皮下損傷・炎症のリスクになります10)

支持面(マットレス・クッション)の選び方

体圧分散マットレスは「体位変換の代わり」ではなく「回数や負担を減らす補助」と考えます10)。高度肥満では、体重と体幅に対応した耐荷重(バリアトリック仕様)の用具を選ぶことが大前提です。標準サイズでは「底づき」して除圧が効かず、かえって危険になります6)。マイクロクライメット管理機能(皮膚を冷却・乾燥させる低圧エアロス等)付きの支持面は、重症例で新規褥瘡ゼロという小規模観察研究の報告もあります(BMI平均51.4、n=21)11)

4予防の柱②:スキンケアとしわの管理

高度肥満のスキンケアで最重要なのが「しわ(スキンフォールド)を、乾いた清潔な状態に保つ」ことです。ここが崩れると、間擦疹→皮膚障害→褥瘡へと進みます。

  1. しわを「底まで」開いて観察・洗浄する患者さん自身では手が届かないことが多い部位です。介助者が持ち上げて、しわの奥まで確認します4)
  2. こすらず、押さえるように洗って乾かす弱酸性の洗浄剤を使い、「拭く」ではなく「押さえる(パッティング)」で摩擦を減らします。柔らかいタオルや使い捨てクロスが安全です4)12)
  3. 10分以内に保湿・保護剤を塗る洗浄後は角層のバリアが弱るため、速やかに保湿しドライスキンを防ぎます。失禁がある部位は撥水性の皮膚保護剤(長時間保持のクリーム・オイル)で浸軟を防ぎます12)
  4. しわの中の摩擦・湿気を減らす工夫しわ同士が擦れないよう、吸湿性のある素材を挟む方法があります。1日2回の洗浄+保湿を習慣化すると、皮膚障害の予防につながります3)4)
!褥瘡と「失禁関連皮膚炎(IAD)」を見分ける

湿った赤みは、褥瘡とは限りません。失禁関連皮膚炎(IAD)は尿・便が溜まる部位に、褥瘡は骨突出部や機器の圧迫部位に起こりやすい、という「場所」が最大の手がかりです4)。両者で対処が変わるため、見分けが治療の第一歩になります。

5予防の柱③:予防的ドレッシングと栄養

仙骨部の予防的シリコンフォームドレッシング

国際ガイドライン(EPUAP/NPIAP/PPPIA 2019)は、高リスク患者・高BMI患者への予防的なソフトシリコンフォームドレッシングを推奨しています3)。エビデンスも比較的しっかりしており、複数のRCTをまとめたメタ解析では、予防的シリコンドレッシングが褥瘡発生を有意に減らしました(通常ケアと比べ相対リスク0.30)13)。大規模RCT(1,600例超)でも、仙骨部の新規褥瘡を約41%減らしています14)。頭側挙上でずれが強くなる場面では、あらかじめ仙骨をシリコンドレッシングで保護しておくと有効です15)

iドレッシングは「万能」ではありません

予防的ドレッシングは、体位変換・除圧・スキンケアという基本ケアに「上乗せ」する補助です3)。貼れば体位変換をサボってよい、という意味ではありません。基本の予防バンドルがあってこそ効果を発揮します。

「太っている=栄養は足りている」ではない

高度肥満でも、たんぱく質や微量栄養素が不足している「隠れ低栄養」は珍しくありません。低栄養は褥瘡の発生因子であり、治癒を遅らせる因子でもあります16)。国際ガイドラインでも、高BMI患者に栄養評価と管理の専門的介入を組み込むことが推奨されています3)。体格だけで判断せず、必要に応じて管理栄養士と連携しましょう。

6在宅ですぐ使える「予防バンドル」早見表

予防は単独の対策ではなく、複数を束(バンドル)にして行うことで効果が高まります10)。在宅での実践を一覧にまとめます。

項目高度肥満で特に意識すること
リスク評価ブレーデンスケール等で数値化。皮膚所見の変化に応じて体位変換の頻度・角度を都度調整3)10)
皮膚・しわ観察骨突出部+パニクルス下+しわの奥+機器の当たり。触診で熱感・硬さも確認4)7)
体位変換基本2時間以内(体圧分散寝具使用時は4時間以内も可)。30度側臥位で腹部の垂れを逃がす7)8)
移動・移乗スライディングシート等で「引きずらない」。用具が無ければ人数を確保3)9)
支持面バリアトリック仕様(耐荷重・体幅)を選ぶ。マイクロクライメット管理機能も検討6)11)
スキンケアしわを底まで開き、押さえ洗い→10分以内に保湿。撥水保護剤で浸軟予防4)12)
ドレッシング仙骨部などに予防的シリコンフォーム(基本ケアへの上乗せ)3)13)
栄養「肥満=栄養十分」と考えない。隠れ低栄養を評価し専門職と連携3)16)
多職種連携訪問看護師・リハ職・医師・栄養士・家族でケアを共有10)
!やってはいけないこと(禁忌・注意)
  • ドーナツ型クッションの使用(中心部の虚血を招く)10)
  • 強い揉みマッサージ(皮下損傷・炎症のリスク)10)
  • 体格に合わない標準サイズの用具(底づきし除圧が効かない)6)
  • 発赤が無いことだけを根拠に「異常なし」と判断すること7)

7まとめ

この記事のポイント
  • 高度肥満の患者さんは褥瘡リスクが約3倍。「太っている=床ずれになりにくい」は誤解1)
  • 仙骨などの定番部位に加え、パニクルス下・しわの奥・機器の当たりを必ずチェック4)6)
  • 体位変換は「引きずらない」+30度側臥位で腹部を逃がす。ドーナツ型は使わない7)10)
  • スキンケアはしわを底まで開いて、押さえ洗い→速やかに保湿4)12)
  • 仙骨部の予防的シリコンドレッシング栄養評価を基本ケアに上乗せ3)13)16)
在宅の褥瘡ケア、ひとりで抱え込まないでください

ふくろう訪問看護リハビリステーションでは、看護師・リハビリ職が皮膚の状態をアセスメントし、体位変換や福祉用具の選び方、ご家族への手技指導までサポートします。褥瘡の予防・処置でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

参考文献
  1. American Nurse Journal「Obesity: Skin issues and skinfold management」(2025年7月)— 肥満患者は褥瘡リスクが約3倍。https://www.myamericannurse.com/obesity-skin-issues-and-skinfold-management/
  2. WoundSource「Pressure Injury Prevention: What Areas Are at Risk?」(2022年11月)https://www.woundsource.com/blog/pressure-injury-prevention-what-areas-are-risk
  3. Marshall C, et al.「Hospital-acquired pressure injury prevention in people with a BMI of 30.0 or higher: A scoping review」Journal of Advanced Nursing(2024年)— 国際ガイドライン(EPUAP/NPIAP/PPPIA 2019)の高BMI患者向け推奨を含む。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jan.15882
  4. Bariatric Times「Keeping the Bariatric Patient’s Skin Intact」— マイクロクライメット、しわの管理、IADとの鑑別。https://bariatrictimes.com/keeping-the-bariatric-patients-skin-intact/
  5. American Nurse Journal(同上, 2025年7月)— 脂肪組織の血流不良と創傷治癒。
  6. Bariatric Times「Pressure Ulcers, CMS Changes, and Patients of Size」— パニクルス、非典型部位、用具サイズ。https://bariatrictimes.com/pressure-ulcers-cms-changes-and-patients-of-size-what-are-the-issues/
  7. WHAM Evidence Summary「Prevention of pressure injuries in individuals with overweight or obesity」Wound Practice & Research(初版2018年)— 30度側臥位でパニクルスを逃がす、深部組織損傷の遅発性発赤。https://journals.cambridgemedia.com.au/wpr/volume-26-number-3/evidence-summary-prevention-pressure-injuries-individuals-overweight-or-obesity
  8. 日本褥瘡学会「褥瘡の予防について」— 体位変換は基本2時間以内、体圧分散寝具使用時は4時間以内も可。https://www.jspu.org/general/prevention/
  9. Ghezeljeh TN, et al. RCT(Marshall 2024内で引用)— リフト使用によるずれ防止の有用性。
  10. 「訪問看護が支える在宅の褥瘡予防ケア」(2026年5月)— 支持面は体位変換の補助、ドーナツ型禁忌、強い揉捏マッサージ回避、予防バンドル。日本褥瘡学会ほか国内ガイドライン準拠。
  11. WHAM Evidence Summary(同上)— マイクロクライメット管理付きバリアトリックベッドの小規模観察研究(BMI平均51.4、n=21、新規褥瘡ゼロ、Level 3e)。
  12. 日本産科婦人科学会ほか「褥瘡の予防と管理(スキンケア)」(2021年)— 弱酸性洗浄、10分以内の保湿、撥水性皮膚保護剤による浸軟予防。https://www.jaog.or.jp/note/9.褥瘡の予防と管理/
  13. 「Prophylactic use of silicone dressing to minimize pressure injuries: Systematic review and meta-analysis」(2022年)— 予防的シリコンドレッシングで褥瘡発生を有意に減少(RR 0.30, 95%CI 0.19–0.45)。
  14. 「Silicone adhesive multilayer foam dressings to prevent hospital-acquired sacrum pressure ulcers」ScienceDirect(2024年8月)— 大規模RCTで仙骨部新規褥瘡を41%減少(RR 0.59, 95%CI 0.35–0.98, p=0.04)。
  15. Bariatric Times(同上)— 頭側挙上時、仙骨をシリコンドレッシングで前処置しずれを軽減。
  16. 厚生労働省関連ガイドライン/日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)」— 低栄養は褥瘡の発生・治癒遅延因子。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針に代わるものではありません。実際のケアは、患者さんの状態に応じて主治医・訪問看護師等の専門職にご相談ください。掲載しているエビデンスの多くは中等度〜低い質のものを含み、今後の研究で推奨が更新される可能性があります。
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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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