ゼロから始める訪問看護

訪問看護という仕事の全体像
病棟と何が逆転するのか
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりを、10回に分けてたどるものです。第1回は、地図を配る回にあたります。訪問看護とはどんな仕事なのか、病棟で身につけた力のうち何がそのまま使えて、何が置き換えを必要とするのか。読み終えたときに、これから9回で何を覚えるのかが順番で見えていることを目標にします。指導する立場の方には、新人と最初に共有する1枚として使っていただけます。
この回の結論
- 病棟と在宅で入れ替わるのは、働く場所だけではありません。その場のルール、手に入る情報、使える時間の3つが逆転します。覚え直すのは手技ではなく、この3つに合わせた判断の仕方です。
- 訪問看護の目的は、治すことではありません。運営基準が定める基本方針は、療養生活を支援し、生活機能の維持または向上を目指すことです。処置をしなかった日が、悪い訪問とはかぎりません。
- ひとりで行く仕事ですが、ひとりで決める仕事ではありません。1年目に最初に身につけるのは手技ではなく、持ち帰り方——その日のうちに、誰に、何を伝えるかです。
SECTION 01 訪問看護とは、何をする仕事か
まず言葉の定義から始めます。訪問看護とは、病気やけがのために自宅で療養を続けている人に対して、その人の家で、看護師などが療養上の世話または必要な診療の補助を行うことをいいます。実務のうえで押さえておく前提は、次の3つです。
- 主治医の指示書がなければ始まらない訪問看護は、主治医が交付する訪問看護指示書に基づいて提供します。どの保険を使い、週に何日行けて、何をしてよいのか。その枠を決めているのはこの1枚です。読み方は第2回で扱います。
- 医療保険と介護保険の2本立て同じ「訪問看護」でも、どちらの保険を使うかで回数の上限も、書類も、請求先も変わります。要介護・要支援の認定を受けている人は原則として介護保険、末期の悪性腫瘍や神経難病などに当たる人は医療保険です。
- 年齢を問わない高齢者だけの仕事ではありません。小児から成人まで、40歳未満の人も対象になります。同じステーションが、赤ちゃんの家にも、100歳の方の家にも行きます。
図1 訪問看護は2万か所を超え、1か月に140万人以上が使うサービスになりました。一方で、そこで働く看護師は看護師全体の6.7%にとどまります。
訪問看護が未経験なのは、例外ではありません
就業している看護師のうち、6割以上は病院にいます。訪問看護ステーションにいるのは6.7%、およそ15人に1人です。つまり、あなたのステーションの先輩も、そのほとんどが病院から来ています。「訪問看護を最初の職場にした人」のほうが、むしろ少数派です。未経験であることを引け目に感じる必要はありません。全員が一度は通った道です。
職場は、たぶん想像しているより小さい
1事業所あたりの看護職員は常勤換算で5.8人、リハビリ職なども含めた全職種でも8.1人です。看護職員が5人に満たない事業所が全体の約55%を占めます。病棟の1単位より小さい組織だと考えてください。教育担当が専任でいる事業所のほうが珍しく、あなたが受け取る教育の多くは、研修という形ではなく、同行した先輩の言動という形で届きます。裏を返せば、聞かなければ手に入りません。
同行の帰り道が、いちばん質の高い研修時間です。車の中で「さっき、なぜあの順番でやったんですか」と聞く。その場で聞けなかったことはメモに残して、その日のうちに聞く。1年目で伸びる人は、だいたい帰り道に質問をしています。移動時間は、記録を書く時間であると同時に、教わる時間です。
利用者像は、病棟の診療科とは重なりません
利用者の傷病を保険別に見ると、介護保険では循環器系の疾患や筋骨格系・結合組織の疾患が多く、医療保険では神経系の疾患や精神・行動の障害が多くなります。つまり同じ日のうちに、心不全で通院が難しくなった方の家、統合失調症で長く自宅療養をしている方の家、神経難病で人工呼吸器を使っている方の家をまわることがあります。隣のベッドが同じ疾患群、ということは起こりません。
介護保険の訪問看護では、1事業所あたりの利用者はひと月におよそ42人です。あなたが1年かけて出会うのは、この人数の生活そのものです。
ケアマネジャーが訪問看護に期待しているのは、多くの場合「処置をしてくれること」ではありません。「その人の暮らしが今週も回るかどうかを、医療の目で見て教えてくれること」です。だから訪問後の一報は、処置の内容よりも「先週と比べてどうだったか」のほうが喜ばれます。
SECTION 02 病棟と何が逆転するのか
ここがこの回の本題です。病棟から在宅に移ると、看護そのものが変わるわけではありません。変わるのは看護が置かれている条件です。主な7つを並べます。
| 逆転する軸 | 病棟 | 訪問看護(在宅) |
|---|---|---|
| 場のルール | 医療者側のルールが通る。時間も動線も設計されている。 | その家のルールが通る。あなたは後から入る訪問者。 |
| 入ってくる情報 | 検査値・モニター・記録が先に揃っている。 | 五感と会話が先。次の検査は1週間後かもしれない。 |
| 使える時間 | 24時間、誰かが見ている。 | 30〜90分を週1〜2回。見ていない時間のほうが長い。 |
| その場の人手 | 呼べば人が来る。 | その場にいるのは自分ひとり。応援は電話の向こう。 |
| 仕事の目的 | 治療して退院する。 | 暮らしが続く。生活機能の維持・向上を目指す。 |
| チームの形 | 同じ建物の中で、その場で話せる。 | 別々の事業所に分かれ、時間差で伝わる。 |
| 記録の役割 | 院内で共有される情報。 | 事業所の外へ届ける通信手段(計画書・報告書)。 |
表1 病棟と在宅で条件が入れ替わる7つの軸。技術ではなく、技術を使う前提のほうが変わります。
7つのうち、1年目にいちばん効いてくるのは上の3つです。順に見ていきます。
1. その場のルールが逆転する
病棟では、起きる時間も、食事も、面会も、医療側のルールで動いていました。在宅は逆です。すでに何十年も続いている生活の中に、あなたが後から入ります。靴を脱ぎ、手を洗う場所を借り、椅子を勧められて座る。この立場の違いを最初に飲み込めるかどうかで、1年目の入りやすさが変わります。
動かしたものは、必ず元の位置に戻します。これは礼儀の話ではなく、ケアの一部です。ティッシュもリモコンもゴミ箱も、その人が手を伸ばせる場所にあるから、いまの生活が成り立っています。5センチずらしたまま帰ると、その5センチが夜の転倒になることがあります。
断りなく動かない、が原則です。窓を開ける、冷房をつける、冷蔵庫を開ける、ついでに洗い物をする。よかれと思った行動でも、ひとこと断らずにやると「この人は勝手に家の中を触る人だ」という警戒に変わります。一度こわれた「入れてもらえる関係」は、手技では取り戻せません。
2. 入ってくる情報が逆転する
病棟では、データが先に来て、人が後から来ました。採血の結果を見てから訪室する、という順番です。在宅はまるごと逆で、人が先、データは後——あるいは来ません。次の採血が1週間後、ということが普通にあります。
だから、検査値の代わりになる基準を自分で持つ必要があります。それが「その人の平常値」です。血圧が140だから高い、ではなく、この人はいつも150台なのに今日は120しかない、という読み方に切り替えます。この作り方は第4回で詳しく扱います。
3. 使える時間が逆転する
図2 訪問看護のアセスメントは、目の前を観察する作業であると同時に、前回からの1週間を復元する作業でもあります。
1週間は168時間です。週2回・各60分の訪問なら、あなたが直接見ているのは2時間、全体の約1.2%にすぎません。残りの166時間に何が起きたかは、誰も記録していません。それを推し量る材料が、本人の言葉、家族の言葉、部屋のようす、他職種の記録の4つです。訪問看護のアセスメントは、いま目の前を見る作業であると同時に、前回からの1週間を復元する作業でもあります。読み取り方は第5回で扱います。
「変わりありません」で記録を終わらせないでください。変わりがないと判断したのなら、何を確かめてそう言えるのかを残します。体重が先週と同じだった、薬が予定どおり減っていた、玄関まで自分で歩いてきた。次に行く人は、あなたの記録から1週間を復元します。空欄は「見ていない」と同じ意味になります。
SECTION 03 「治す」から「暮らしが続く」へ——評価軸の置き換え
訪問看護の目的は、法令にはっきり書かれています。
病棟の評価軸は「治って退院すること」でした。訪問看護の評価軸は「暮らしが続くこと」です。ここが置き換わっていないと、1年目は必ず「今日は何もできなかった」という感想を持ちます。
ですが、処置をしなかった日にも仕事はしています。服薬が続いていることを確かめた。介護している家族が眠れているかを聞いた。次の受診に行けそうかを見た。ヘルパーが入る日と入らない日で食事量が違うことに気づいた。これらは処置の記録欄には残りませんが、条文が言う「療養生活を支援し、生活機能の維持又は向上を目指す」ことそのものです。
同じ趣旨の基本方針は、医療保険側の基準(指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準/平成12年厚生省令第80号)にも置かれています。どちらの保険で入っていても、目指すものは同じです。保険が変わると変わるのは、回数の上限、書類、請求先であって、看護の目的ではありません。
ただし「毎回同じ」は、制度のほうが認めていません
暮らしを支える仕事だからといって、決まったことを繰り返せばよいわけではありません。国は2024年に、この点をわざわざ文書で示しています。
運営基準はもともと、訪問看護が「漫然かつ画一的なものにならないよう」行うべきものと定めています。新人にとってこの一文は、こう読み替えられます。「前回と同じことをやってくればいい訪問」は、制度上そもそも存在しない。だから、今日は何を確かめに行くのかを決めてから、インターホンを押します。決められないときは、押す前に先輩に電話をして構いません。
介護保険の訪問看護は「20分未満」「30分未満」「30分以上1時間未満」「1時間以上1時間30分未満」という時間区分で報酬が決まります。つまり訪問時間は、都合ではなく制度の単位です。令和8年度診療報酬改定では「適正な訪問看護の推進」として、訪問看護記録書等に実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載することが明確化されました。早く終わったから早く帰る、長引いたから黙って延ばす、のどちらも記録に残す必要があります。
SECTION 04 ひとりで行く、けれどひとりで決めない
訪問看護でいちばん怖いのは、処置の難しさではありません。その場に相談できる人がいないことです。だから、ひとりで訪問できるようになるまでには段階があります。当ステーションが新しく入った方と一緒にたどる順番は、次の5段階です。
図3 当ステーションが新入職の方と一緒にたどる順番。何回で次に進むかは、利用者ごとに変わります。人ではなく、担当する家ごとに段階を持ちます。
大事なのは、この段階が「人」ではなく「家」ごとに進むことです。単独訪問ができるようになった人でも、新しく担当する家では同行からやり直します。3軒目までは順調だった人が4軒目で戻ることも、失敗ではありません。
判断は、3つの締切に仕分ける
ひとりで訪問することと、ひとりで決めることは別です。訪問中に迷ったら、その内容を次の3つのどれかに仕分けます。
- 今すぐその場で電話します。持ち帰りません。バイタルや意識の明らかな変化、転倒のあと、家族が限界を訴えているとき。判断がつかないこと自体が「今すぐ」の理由になります。
- 今日中訪問は予定どおり終えて、戻ってから、あるいは移動中に連絡します。処置の方法を変えたほうがよさそうなとき、薬の残り方が指示と合わないとき、次回の内容を相談したいとき。
- 次回まで記録に残し、次の訪問か、計画の見直しのときに扱います。生活のちょっとした変化、本人の希望、家族の言葉。急がないけれど、忘れると消えてしまうものです。
1年目のつまずきは、ほとんどがこの仕分けで起きます。迷ったときは、ひとつ上の段に置いてください。「今日中」で足りるものを「今すぐ」にしても、誰も困りません。逆は困ります。この仕分けの具体的な基準は第6回と第7回で詳しく扱います。
「先輩の手をわずらわせたくない」という遠慮が、いちばん危ない場面をつくります。あなたが電話をかけないという判断は、あなたひとりで下した判断です。ひとりで訪問することは任されていますが、ひとりで決めることは、まだ誰からも任されていません。
SECTION 05 この連載の地図——全10回で何ができるようになるか
図4 前半で入口をつくり、中盤で見る力を、後半でつなぐ力を積み上げます。第1回は、この地図そのものを渡す回でした。
この連載は入門の骨格に絞っています。もっと踏み込んで知りたくなったときは、当ステーションがすでに公開している次のコラムが続きになります。
- 保険の使い分けと指示書第2回 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚とあわせて読むと、実務のこまかいところまで届きます。医療保険・介護保険・公費はどう使える?/訪問看護指示書の読み方・注意点
- 1年目の姿勢と力のつけ方この回と対になる内容です。訪問看護師が身につけるべき知識・技術・姿勢
- 症状別の実務訪問先で実際に迷いやすいものから。訪問看護師のための褥瘡/訪問看護師が皮疹を見たら
1年目に磨くのは、手技ではなく「持ち帰り方」です。
病棟なら、気づいたことは同じ建物の中で数分後に共有されます。ナースステーションに戻れば誰かがいて、口に出せばそれで済みました。訪問看護は違います。あなたが玄関を出た瞬間、その家でいま何が起きているかを知っているのは、日本中であなたひとりになります。
だから当ステーションは、新人の訪問を「うまくできたか」では見ません。「次に行く人が困らないだけのものを、持ち帰れたか」で見ます。持ち帰るものは3つです。見たこと(事実)、迷ったこと、そして確かめられなかったこと。3つ目がいちばん大事です。聞けなかった、見せてもらえなかった、時間が足りなかった——それは失点ではなく、その日の結果として立派な情報です。次に行く人は、そこから入れます。
手技は数か月で伸びます。持ち帰り方は、初日から身につきます。この連載の10回は、すべてそこに向かって並んでいます。
ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問看護が未経験の方を歓迎しています。
この連載は、訪問看護の経験がないまま入職した看護師が、ひとりで訪問して、 観察して、判断して、報告できるようになるまでの道のりをそのまま書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。
- 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
- 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
- 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
- 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士を募集しています(常勤・非常勤)
- お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
- メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
- 採用の詳細:求人情報のページ
ブランクのある方、病棟以外の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。
1年目チェックリスト(第1回ぶん)
- 訪問看護が医療保険でも介護保険でも行われる仕事だということを、人に説明できる
- 自分の事業所の利用者がいま何人で、主にどんな状態の人が多いかを言える
- 病棟と在宅で逆転する3つ(場のルール/入ってくる情報/使える時間)を、自分の言葉で言い換えられる
- 1週間のうち自分が見ている時間が何時間かを計算でき、残りを何で埋めるかを2つ以上挙げられる
- 訪問から戻ったその日のうちに、誰に何を報告するかが決まっている(相手の名前と連絡手段が言える)
- 「わかりません、確認して今日中にお返事します」を、実際に声に出して言ったことがある
- 単独訪問までの5段階のうち、担当する家ごとに、いま自分がどこにいるかを指させる
Q&A よくある質問
連載「ゼロから始める訪問看護」全10回
- 訪問看護という仕事の全体像——病棟と何が逆転するのか
- 制度の入口——使う保険と、指示書という1枚
- 訪問1回の組み立て方——玄関の前から次回の予約まで
- からだをみる——「その人の平常値からのズレ」で読む
- 暮らしをみる——情報は家の中に置いてある
- 「いつもと違う」に気づき、動く——予測と急変時の初動
- 報告・連絡・相談——SBARと「今すぐ/今日中/次回まで」
- 記録と書類——訪問看護記録書・計画書・報告書
- 多職種連携——誰が何を持っていて、何を待っているか
- 家族とともにいる——意思決定支援から看取りまで
REFERENCE 参考資料
- 一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和8年度 訪問看護ステーション数 調査結果」2026年6月19日公表(https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/r8-research.pdf)
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料3「訪問看護」令和8年6月29日(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716095.pdf)※利用者数、従事者数、事業所規模、加算の算定状況、時間区分、令和8年度診療報酬改定の全体像
- 厚生労働省「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」令和7年7月29日(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/24/index.html)※就業場所別にみた就業看護師数
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)第4章 訪問看護 第1節 基本方針(第59条)
- 指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準(平成12年3月31日厚生省令第80号)
- 厚生労働省保険局「指定訪問看護の提供に関する取扱方針について」令和6年10月22日 事務連絡(全国訪問看護事業協会による周知:https://www.zenhokan.or.jp/new/new2461/)
- 一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和8年度診療報酬改定まとめ」(https://www.zenhokan.or.jp/new/new2753/)
- Samson Z, Hunt LJ, Wagner LM, Dill J, Muench U. Nurses’ Transitions Into and Out of the Home Health Sector. Med Care Res Rev. 2026;83(4):261-273. doi:10.1177/10775587261422386

