目標を立てる:ゼロから始める訪問セラピスト

「歩けるように」ではなく、どこまでを、いつまでに
前回、その家で何をどう測るかを扱いました。この回は、測った値を目標に変える話です。 「歩けるように」「筋力の維持」と書かれた計画書は、達成したかどうかを誰にも判定できません。 目標には部品があり、書く層があり、期限があり、本人と家族で別々に聞く欄があります。 そして、目標を下げる判断にも手順があります。 計画書の様式そのものは第9回に譲り、ここでは目標の中身をどう決めるかに絞ります。
この回の結論
- 目標は「歩けるように」ではなく、何を・どの支えで・どこまで・いつまでにの4つの部品で書きます。4つそろって初めて、達成したかどうかを誰でも判定できます。
- 目標の主語は筋力ではなく、暮らしの行為です。国の計画書の記載要領は、訓練上「できる」動作を日常生活で「している」動作にすることを求めています。
- 本人の希望と家族の希望は、同じ欄に書きません。計画書は別々に聞く設計になっています。ずれは消すものではなく、両方書いて、どちらを3か月の目標にするかを決めるものです。
SECTION 01 「歩けるように」は、目標ではない
新人の計画書でいちばん多い目標が「歩行能力の向上」「筋力の維持」です。悪い言葉ではありません。ただし、3か月後に達成したかどうかを、本人にも家族にも看護師にも判定できません。判定できない目標は、見直しもできません。
リハビリテーションの目標の書き方については、実務向けの標準的な手順が示されています。目標は最大4つの部品で組み立てる、という考え方です。
図1 「歩けるように」には、この4つのどれも入っていません。逆に4つが入っていれば、本人が読んでも達成したかどうかが分かります。
この4つは、第5回の記録の形「値/条件/前回との差」と対になっています。条件をそろえて測った値があれば、目標の「どこまで」を数字で書けます。5回立ち上がりが14秒の人に「12秒未満」を目標に書けるのは、同じ椅子で同じ時間帯に測っているからです。
書いた目標を、本人に声に出して読んでもらってください。「筋力の維持」は読んでも何も起きません。「12月末までに、手すりを使ってひとりでトイレまで歩く」なら、本人が「12月は無理だと思う」「手すりはいらない」と返してきます。その返事が、目標が通じた証拠です。直されない目標は、読まれていない目標です。
SECTION 02 生活機能で書く——3つの層と、「できる」から「している」へ
国の計画書は、目標を3つの層に分けて書かせています。心身機能、活動、参加。この3つは、世界保健機関が2001年5月の総会で採択した国際生活機能分類(ICF)の骨組みで、厚生労働省はこの3つをまとめて「生活機能」と呼んでいます。第1回で見た運営基準の「生活機能の維持又は向上」は、この語です。
| 層 | 問い | 同じ人の目標を、この層で書くと |
|---|---|---|
| 心身機能・身体構造 | 体のどこが、どれだけ動くか | 右膝の屈曲を110度まで。5回立ち上がりを12秒未満に。 |
| 活動 | その体で、何ができるか・しているか | 日中は手すりでトイレまでひとりで歩く。浴槽をまたいで入る。 |
| 参加 | その活動で、暮らしのどこに戻れるか | 月1回、娘と近所の喫茶店まで出かける。町内会の集まりに座って出る。 |
表1 国際生活機能分類の3つの層。国の計画書の様式も、この3層で目標を書く欄になっています。下の層は上の層のためにあります。
第1回で、訪問リハビリテーションの計画書の約70%が運動機能の改善を目標にしていて、日常生活動作の改善は約40%、手段的日常生活動作は要支援で約40%・要介護で約20%だと書きました。表1でいえば、いちばん上の層だけで止まっている計画書が多いということです。
計画書の記載要領は、この点をはっきり書いています。
「できる」と「している」は違います。訪問中にセラピストの前で歩けることと、夜中にひとりでトイレまで行っていることは別です。計画書が評価しろと言っているのは後者で、目標に書くべきなのも後者です。第4回で「その家の場面で1回はやってみる」と書いたのは、この「している」を確かめるためです。
基本的動作能力と応用的動作能力は、通知に定義があります。基本的動作能力は「起居、歩行、発話等を行う能力」、応用的動作能力は「運搬、トイレ、掃除、洗濯、コミュニケーション等を行うに当たり基本的動作を組み合わせて行う能力」です(老企第36号 第二の5(9))。第2回で見た理学療法士と作業療法士の分かれ目が、目標の層の分かれ目とも重なっています。目標を「立ち上がり」で止めるか「トイレ動作」まで書くかは、どちらの職種が見るかにも関わります。
SECTION 03 本人と家族は、別々に聞く設計になっている
計画書には「本人の希望」と「家族の希望」の欄が別々にあります。これは書式の都合ではありません。記載要領が、聞き方まで決めています。
読みどころが2つあります。1つ目は「本人からの聞き取りにより」です。家族に聞いて本人欄を埋めることは、要領のとおりではありません。2つ目は、家族の欄が「家族の希望」ではなく「本人の希望に沿って、家族が支援できること」だという点です。家族の欄は、家族の要求を書く場所というより、本人の希望を支える側の欄として設計されています。
「何がしたいですか」は、答えにくい質問です
本人に希望を聞くと、多くの場合「別に」「迷惑をかけたくない」「歩けるようになれば」と返ってきます。これは希望がないのではなく、聞き方が広すぎるだけです。
- 興味・関心チェックシートを使う国の通知が別紙様式2-1として用意している一覧表です。「している」「してみたい」「興味がある」を項目ごとに選んでもらいます。白紙で聞くより、はるかに多くの答えが出ます。要領は、希望を確認する際に活用できると明記しています。
- 「していたこと」から入る第4回の初回訪問で「何をしていた人か」を聞くと書きました。畑、犬の散歩、仏壇、囲碁。過去形で聞いたものを、現在形に戻せるかどうかが目標の候補になります。
- 大事さと満足度を分けて聞く作業療法で使われる方法に、本人が挙げた行為について「どれくらい大事か」と「今どれくらいできているか」を別々に点数で聞くものがあります(カナダ作業遂行測定)。大事なのにできていないものが、目標の第一候補です。
本人に聞くときは、家族が席を外している時間を作ってください。玄関で家族を見送る数分、家族が台所にいる間。同席していると、本人は家族の顔を見て答えます。「迷惑をかけたくない」は、たいてい家族の前で出る言葉です。ふたりきりで「本当は何がしたいですか」と聞くと、別の答えが出ることがあります。その答えを、家族の前で本人に言わせるのではなく、あなたが計画書に書いて持ち帰ります。
SECTION 04 希望がずれるとき
本人は「もう一度畑に出たい」と言い、家族は「転ぶから家の中だけにしてほしい」と言い、あなたは「立ち上がりから」と見ている。三つ巴は珍しくありません。ずれは消すものではなく、書いておくものです。
- 3つとも書く本人の希望、家族が支援できること、セラピストの見立て。どれも計画書に居場所があります。どれかを消して合わせにいくと、消された側は計画から降ります。
- 長期目標と短期目標に振り分ける「畑に出る」を長期目標に、「3か月後に庭先まで見守りで出る」を短期目標に。本人の希望を長期に置くと、消さずに済みます。家族の不安は短期目標の「どの支えで」に反映させます。
- ずれの理由を、次回までの宿題にする家族が転倒を心配しているなら、転倒の実績と場所を聞き取る。本人が畑と言うなら、畑までの経路を実際に歩いてみる。ずれは、情報が足りないところに出ます。情報が増えると、ずれは縮みます。
看護師が計画書の目標欄を見るとき、探しているのは「本人と家族の希望が一致しているか」です。一致していない目標は、家族の協力が得られず、途中で止まります。看護師は家族の疲労と本人の意欲の両方を毎週見ているので、どちらが折れそうかを知っています。ずれを見つけたら、セラピストがひとりで抱えず、看護師に「本人はこう、家族はこう言っています」と渡してください。看護師のほうが先に、同じずれを聞いていることがあります。人生の終わりに向けた本人の意思の話は、看護師版の連載が正面から扱っています(ゼロから始める訪問看護 第10回 家族とともにいる)。
SECTION 05 期限の決め方——3か月、長期、そして終わりの目安
「いつまでに」を決めるとき、自分で期間を発明する必要はありません。計画書の記載要領が、単位を決めています。
図2 短期目標は3か月、長期目標は本人の希望、終了の目安は最初の計画から書く。この3本がそろっていれば、見直しのたびに「進んだか」を判定できます。
国の調査では、リハビリテーション会議で目標の達成度と取り組みの効果を確認しているのは約半数でした。目標を立てることと、達成したかを確かめることは別の作業です。図2の3本に日付が入っていれば、確かめる日が自動的に決まります。日付のない目標は、確かめる日も来ません。
短期目標を「3か月で達成できそうなもの」に寄せすぎないでください。達成できる目標だけを並べると、計画書は毎回100点になり、見直す材料がなくなります。3か月後に達成できたかどうか五分五分、くらいが目標の適正な高さです。達成できなかった目標は失敗ではなく、次の3か月の出発点です。達成できなかった理由を書ける目標は、達成できた目標より次につながります。
SECTION 06 目標を立てると、何が変わるのか——正直な答え
目標設定はリハビリテーションの基本とされていますが、それで結果が変わるのかは、実は確かめにくいことです。成人のリハビリテーションにおける目標設定の効果を集めたレビュー(39試験、2,846人)は、こう報告しています。
- 目標を立てないより、立てたほうがよい健康関連の生活の質と自己申告の情動で、標準化平均差0.53(95%信頼区間 0.17〜0.88)。自己効力感では1.07(0.64〜1.49)。ただし、どちらも証拠の確実性は非常に低いとされています。
- 形を決めて立てると、さらに少し上がる構造化した目標設定は、通常の目標設定と比べて自己効力感で0.37(0.02〜0.71)。効果は小さく、確実性はやはり低いです。
- 活動や参加そのものが変わるかは、結論が出ていない目標を立てることで実際の活動量や社会参加が増えるかどうかについては、決定的な証拠は見つかっていません。
つまり、目標を立てることは本人の「やれそうだ」という感覚を上げるところまでは確かめられていて、それ以上は分かっていません。落胆する結果ではありません。訪問で週に2時間しか会えない人が、残りの166時間を自分で動かすために必要なのは、まさにその感覚だからです。第4回で、宿題を完全に続けられる人は5人に1人だと書きました。目標が本人の言葉で書かれていることは、その5人に1人を増やす数少ない手段のひとつです。
SECTION 07 目標を下げる判断——下げるのではなく、幅を持たせる
第4回で、訪問リハビリテーションの利用開始から6か月後、日常生活動作が改善したのは約34%、維持が約46%、つまり約2割は下がっていると書きました。生活期では、目標を下げる場面が必ず来ます。そのとき、新人がいちばん迷います。「下げていいのか」「諦めたことにならないか」。
下げるのではなく、最初から幅を持たせておく方法があります。リハビリテーションで使われる達成度の尺度は、ひとつの目標に対して「予想どおり」をゼロとして、それより良い2段階と悪い2段階、合わせて5段階を先に書いておく、という形をとります。図1の部品を1つずつ動かせば、その5段階は数分で作れます。
図3 先に5段階を書いておけば、下がったときに「目標を下げる」という作業そのものが要らなくなります。下の段は最初から目標の一部です。
それでも、5段階の枠ごと動かす場面はあります。進行性の疾患で、3か月前の「0」がもう届かなくなったとき。そのときの手順は3つです。1. 何が変わったかを、値と条件で書く(第5回)。2. 本人と家族に、変わったことをそのまま伝える。3. 「維持」を目標に書く。維持は消極的な目標ではありません。運営基準の目的は「生活機能の維持又は向上」で、維持は最初から目的のうちに入っています(第1回・第3回)。「3か月後も、日中は見守りでトイレまで歩いて行っている」は、下がる人にとって立派な目標です。この話は第10回で、もう一度扱います。
目標を下げるとき、本人と家族に言わずに計画書だけ書き換えないでください。「歩けるようになる」が計画書から消えていることに、家族はあとで気づきます。そのときに一言もなかったことが、信頼を切ります。下げる日は、伝える日です。伝え方は「できなくなりました」ではなく「ここまではできています。ここを守りましょう」です。守る目標も、図1の4部品で書けます。
目標は約束ではありません。比べるための線です。
新人は目標を約束だと思います。だから高く書けず、下げられず、達成できなかった日に自分を責めます。目標は、本人と家族とチームが同じものを見るために引いた線であって、あなたが果たす契約ではありません。
線があれば、3か月後に「上にいるか、下にいるか」を全員が同じ言葉で言えます。線がなければ、「なんとなく良くなった」「最近悪い気がする」しか言えません。当ステーションが新人の計画書を見るとき、達成できそうかどうかは見ていません。3か月後に、本人が自分で「できた」「できなかった」を言える書き方になっているかを見ています。
そして、線は動かしてよいものです。動かすときに、なぜ動かしたかを書いて、本人と家族に伝える。それができる人の計画書は、何年経っても読めます。
次の回は、目標に届くために家と道具をどう変えるかの話です。
ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問リハビリが未経験の方を歓迎しています。
この連載は、病院や施設からそのまま在宅に来た理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、 ひとりで訪問して、その家で評価して、判断して、報告できるようになるまでの道のりを書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 訪問の経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。
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- メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
- 採用の詳細:求人情報のページ
ブランクのある方、回復期や維持期の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。
1年目チェックリスト(第6回ぶん)
- 担当している人の短期目標を、「何を・どの支えで・どこまで・いつまでに」の4つで言える
- 心身機能・活動・参加の3つの層で、同じ人の目標を書き分けられる
- 「できる」動作と「している」動作を分けて評価している
- 本人の希望を、家族が席を外している時間に、本人から直接聞いたことがある
- 興味・関心チェックシートを使ったことがある
- 本人の希望と家族の希望がずれている人について、両方を計画書に書いている
- 短期目標に日付が入っていて、確かめる日が決まっている
- 終了の目安を、最初の計画書に書いている
- ひとつの目標を5段階(−2〜+2)で書いたことがある
- 目標を下げた日に、本人と家族にその理由を口頭で伝えたことがある
- 「維持」を目標に書いた計画書を、4つの部品で書ける
Q&A よくある質問
連載「ゼロから始める訪問セラピスト」全10回
- 訪問セラピストという仕事の全体像——病院のリハ室と何が逆転するのか
- 3職種は何が違うのか——PT・OT・STの守備範囲と、重なるところ
- 制度の入口——リハビリはどの保険で、誰の指示で動くのか
- 訪問1回の組み立て方——40分か60分で何をするか
- その家で評価する——器具のない場所で、何をどう測るか
- 目標を立てる——「歩けるように」ではなく、どこまでを、いつまでに
- 家と道具を変える——住宅改修・福祉用具でできること、できないこと
- リスクと中止基準——その日やらない判断と、急変時の初動
- 記録と報告——リハビリテーション実施計画書と、看護師への渡し方
- 生活期を伴走する——終わりを決める、そして看取りの場面のリハビリ
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省老健局「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の実施及び一体的取組について」令和6年3月15日 老高発0315第2号・老認発0315第2号・老老発0315第2号(介護保険最新情報 Vol.1213 https://www.mhlw.go.jp/content/001227724.pdf)※別紙様式2-1(興味・関心チェックシート)、別紙様式2-2-1・2-2-2(リハビリテーション計画書)の記載要領
- 厚生労働省「国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-」(日本語版)(https://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html)※2001年5月 WHO第54回総会採択。生活機能の定義
- 厚生省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日老企第36号 第二の5(1)、第二の5(9)
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料4「訪問リハビリテーション」令和8年6月29日(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716096.pdf)※計画書の目標の内訳、リハビリテーション会議での達成度確認、6か月後の日常生活動作の変化
- Bovend’Eerdt TJ, Botell RE, Wade DT. Writing SMART rehabilitation goals and achieving goal attainment scaling: a practical guide. Clin Rehabil. 2009;23(4):352-361. doi:10.1177/0269215508101741
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