訪問セラピストという仕事の全体像:ゼロから始める訪問セラピスト

ゼロから始める訪問セラピスト第1回/全10回
訪問セラピストという仕事の全体像

病院のリハ室と何が逆転するのか

病院や施設から在宅に移ってきた理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、最初につまずくのは技術ではありません。 平行棒も、プラットフォームも、鏡もない場所で、40分をどう組み立てるか。その組み立て方が変わるからです。 この回では、訪問という仕事の全体像——どこに何人いて、病院のリハ室と何が逆転し、 1日がどう流れ、ひとりで行けるようになるまでに何段階あるのかを、地図として先に渡します。 同じ事業所の看護師の方にも、セラピストが何をしている人なのかが見えるように書いています。

この連載の現在地 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 第1回 訪問セラピストという仕事の全体像

この回の結論

  1. 在宅でリハビリテーションを提供する入口は2つあります。訪問看護ステーションからの訪問と、訪問リハビリテーション事業所からの訪問です。自分がどちらの入口に立っているかで、指示の出方も、時間の数え方も、書く書類も変わります。
  2. 病院のリハ室と在宅で入れ替わるのは、働く場所だけではありません。設備、時間、目的、同席者の4つが逆転します。覚え直すのは手技ではなく、この4つに合わせた組み立て方です。
  3. 法令が定める訪問リハビリテーションの目的は生活機能の維持または向上で、心身の機能の維持回復はそのために「図る」ものと書かれています。この順番が、現場ではしばしば逆になります。

SECTION 01 訪問セラピストは、どこにいて、何人いるのか

最初に、自分が立っている場所を確認します。在宅でリハビリテーションを提供する入口は、大きく2つに分かれます。

  • 訪問看護ステーションから訪問する訪問看護ステーションに所属する理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、主治医の訪問看護指示書に基づいて訪問します。制度上は「訪問看護」の一部です。当ステーションはこちらです。
  • 訪問リハビリテーション事業所から訪問する病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院が指定を受けて行います。事業所の医師の診療に基づいて訪問し、報酬も書類も訪問看護とは別建てです。

どちらも、利用者の家に行って理学療法や作業療法を行うという点では同じに見えます。ですが、誰の指示で動くのか、1回を何分で数えるのか、何を書いて誰に出すのかが違います。この違いは第3回で正面から扱います。ここでは、まず規模を見ておきます。

図1 数字で見た訪問セラピスト 全国の訪問看護ステーション 令和6年10月1日現在。1年で1,619事業所、9.9%増えました。 18,042事業所 そこで働くセラピスト(実人員) 理学療法士28,666人、作業療法士12,308人、言語聴覚士3,527人。 44,501人 従事者に占めるセラピストの割合 従事者は総数200,229人。うち看護師は128,935人です。 22.2% 訪問リハビリテーション事業所(請求事業所) 受給者は約15万人。要支援が約3.0万人、要介護が約12万人です。 5,747か所 出典:厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(事業所数および表6 職種別にみた従事者数)。 訪問リハビリテーションは社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料4。事業所数と受給者数は令和7年の数値です。 訪問看護ステーションの従事者数は令和6年10月1日現在の実人員。常勤・非常勤を含みます。

図1 訪問看護ステーションで働く人の5人に1人以上は、すでに理学療法士・作業療法士・言語聴覚士です。訪問はもう、リハビリテーション職にとって例外的な進路ではありません。

セラピストは、すでに5人に1人以上います

訪問看護ステーションで働く人は全国で200,229人。そのうち理学療法士が28,666人、作業療法士が12,308人、言語聴覚士が3,527人で、合わせて44,501人になります。従事者のうち22.2%、5人に1人以上がセラピストです。「訪問看護ステーションは看護師の職場で、自分は間借りしている」と感じる必要はありません。人数の上では、すでにそういう場所ではなくなっています。

もっとも、リハビリテーション職全体から見れば、在宅はまだ少数派です。公益社団法人日本理学療法士協会の会員144,943人のうち、勤務先として急性期の病院を登録している人が24,101人、回復期リハビリテーション病棟が19,102人。つまり、あなたの周りにいる先輩も、そのほとんどが病院から来ています。訪問が未経験であることは、この領域では前提です。

ただし、あなたの事業所には1人かもしれません

ここに、この連載を看護師にも読んでもらう理由があります。訪問看護ステーションの人員基準を見ると、看護職員は常勤換算で2.5人以上(うち1名は常勤)と数が決まっているのに対し、リハビリテーション職の定めはこう書かれています。

理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士 指定訪問看護ステーションの実情に応じた適当数 出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第60条第1項第1号ロ

人数の定めがありません。0人でも基準を満たしますし、10人でも構いません。1事業所あたりの従事者は常勤換算で8.1人、うち看護職員が5.8人ですから、残りは平均2.3人です。ここに事務職員も入ります。入職したその日から、同じ職種の先輩が事業所に自分しかいない、ということが普通に起こります。

だから訪問セラピストの1年目は、「先輩セラピストに教わる」だけでは成り立ちません。教わる相手のかなりの部分は看護師になります。逆に言えば、看護師の側にも、セラピストが何をできて何ができないのかが見えていないと、頼みようがありません。

看護師はここを見ている

看護師がセラピストの訪問に期待しているのは、多くの場合「筋力がついたかどうか」ではありません。「この人の暮らしが、あと何か月このまま回りそうか」を、動作の目で見て教えてくれることです。トイレまで自力で行けるか、夜間に起き上がれるか、介護している家族の腰が持つか。看護師が薬とバイタルサインから読んでいるものを、あなたは動作から読んでいます。同じ人の別の断面です。

SECTION 02 病院のリハ室と何が逆転するのか

ここがこの回の本題です。病院から在宅に移っても、理学療法や作業療法そのものが変わるわけではありません。変わるのはリハビリテーションが置かれている条件です。主な7つを並べます。

逆転する軸病院のリハ室訪問(在宅)
設備平行棒、プラットフォーム、鏡、トレッドミル。必要なものが揃っている。その家にある物だけ。廊下、こたつ、上がり框、洗面台。
環境誰にでも合うよう標準化された環境。その人ひとりのために何十年かけて作り込まれた環境。
時間の刻み1日に複数回、毎日会える。1回20分以上を週に数回。次に会うのは1週間後かもしれない。
目的治療期間内に機能を戻し、退院する。暮らしが続く。生活機能の維持または向上を目指す。
同席者本人と自分。家族がいるのは面会や指導の場面だけ。家族が同じ部屋にいる。声かけも沈黙も全部聞こえている。
その場の人手呼べば医師も看護師も来る。その場にいるのは自分ひとり。応援は電話の向こう。
記録の宛先院内のカルテ。同じ建物の人が読む。事業所の外へ届ける通信手段。主治医、ケアマネジャー、看護師が読む。

表1 病院のリハ室と在宅で入れ替わる7つの軸。技術ではなく、技術を使う前提のほうが変わります。

7つのうち、1年目にいちばん効いてくるのは上の4つです。順に見ていきます。

1. 設備が逆転する——「道具がない」のではなく「道具が変わる」

最初の訪問で、多くの人が同じことを思います。「ここで何をすればいいのだろう」。平行棒がない、プラットフォームがない、体重計すらないこともあります。ですが、道具がないわけではありません。その家そのものが道具です。

廊下の幅は歩行の課題設定に使えます。こたつからの立ち上がりは、床からの起き上がり訓練そのものです。上がり框の高さは段差昇降の実測値で、しかもその人が毎日必ず越える段差です。洗面台につかまって立てるかどうかは、朝の身支度が続くかどうかと直結しています。病院で平行棒の中を10往復してもらうより、その家の廊下を1往復してもらうほうが、はるかに多くの情報が取れます。

実務のコツ

初回訪問で、玄関から居室、トイレ、洗面所、寝室までを一度歩いてもらってください。手すりの位置、つかまっている場所、足の運び、途中で休む場所。この1往復が、その家における評価の基準線になります。次の訪問からは、この経路と比べるだけで変化がわかります。器具のない場所での評価の詳しいやり方は第5回で扱います。

注意

動かしたものは、必ず元の位置に戻してください。これは礼儀ではなく、リハビリテーションの一部です。椅子もリモコンも歩行器も、その人が手を伸ばせる場所にあるから、いまの生活が成り立っています。「使いにくそうだから」と親切のつもりで位置を変えて帰ると、その5センチが夜間の転倒になることがあります。配置を変えるときは、必ず本人と家族に断り、記録に残します。

2. 時間が逆転する——40分を「訓練の時間」だと思わない

病院では、必要なら1日に何度でも会えました。在宅は違います。訪問リハビリテーションの利用状況を見ると、週2回以内が多く、1回あたりの利用時間は40分が多いという結果が出ています。1週間は168時間ですから、あなたが直接見ている時間は全体の1%に届きません。

ここで発想を切り替える必要があります。その40分は、訓練をする時間ではありません。残りの167時間を設計する時間です。その場でどれだけ良い運動をしても、次に来るのは1週間後です。あなたが帰ったあと、本人と家族が何をするか、何をしないで済むようにするか。そこまで決めて帰らないと、40分は40分のままで終わります。

見ていない時間をどう読むかについては、看護師版の連載が同じ問題を扱っています。あわせて読んでください(ゼロから始める訪問看護 第1回 訪問看護という仕事の全体像)。

3. 目的が逆転する——「良くする」から「暮らしが続く」へ

急性期や回復期では、良くなることが前提でした。生活期はそうとはかぎりません。進行性の疾患もあれば、加齢によって少しずつ下がっていく人もいます。「今日は何もできなかった」という感想を1年目が持つとしたら、たいていここが置き換わっていません。この点は次のSECTION 03で、法令の条文を見ながら扱います。

4. 同席者が逆転する——家族が同じ部屋にいる

病院のリハ室では、家族がいるのは面会と指導の場面だけでした。在宅では、ほとんどの訪問で家族が同じ部屋にいます。あなたの声かけも、うまくいかなかった場面も、本人にかけた励ましも、全部聞こえています。

これは負担ではなく、資源です。1週間の167時間を実際に支えているのは家族です。その人に、今日やったことの意味と、明日からやってほしいことを1つだけ伝えて帰る。それだけで訪問の効き方が変わります。ただし「1つだけ」です。3つ渡すと、たいてい何も残りません。

ちなみに、在宅で行うリハビリテーションは病院で行うものの代用品ではありません。脳卒中の利用者を対象に日常生活動作の自立度を比べたメタアナリシス(2025年)では、在宅でのリハビリテーションは病院でのリハビリテーションと差がなく(7研究、標準化平均差0.17、95%信頼区間 −0.00〜0.34)、通常のケアと比べると上回っていました(9研究、標準化平均差1.24、95%信頼区間 0.69〜1.79)。場所が家に変わったから効果が落ちる、ということはありません。変わるのは、組み立て方です。

SECTION 03 法令は「生活機能」を目的に、「心身の機能」を手段に置いている

訪問リハビリテーションの目的は、運営基準にはっきり書かれています。少し長いですが、語順に注目して読んでください。

指定居宅サービスに該当する訪問リハビリテーション(以下「指定訪問リハビリテーション」という。)の事業は、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう生活機能の維持又は向上を目指し、利用者の居宅において、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを行うことにより、利用者の心身の機能の維持回復を図るものでなければならない。 出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第75条(訪問リハビリテーションの基本方針)

目指すものとして先に置かれているのは「生活機能の維持又は向上」です。理学療法や作業療法は、そのために行う手段として書かれ、心身の機能の維持回復は「図る」ものとして後ろに来ます。目的が生活機能で、心身機能はその下にある。条文はこの順番になっています。

ところが、実際の計画書はしばしば逆になります。厚生労働省が2026年6月の審議会に出した資料によれば、訪問リハビリテーションのリハビリテーション計画書で運動機能の改善を目標にしている割合は約70%、日常生活動作や手段的日常生活動作の改善を目標にしているのは20〜40%でした。

制度メモ

同じ趣旨の基本方針は、訪問看護の側にも置かれています(同令第59条)。ただし語順が違います。訪問看護は「療養生活を支援し、心身の機能の維持回復及び生活機能の維持又は向上を目指す」で、心身の機能と生活機能が並んでいます。訪問リハビリテーションは、生活機能を目指したうえで心身の機能を図る、という入れ子になっています。並列ではなく、上下があると読むのが素直です。

これは「筋力訓練をするな」という話ではありません。膝が伸びなければ立てませんし、握力が落ちれば手すりを使えません。心身機能へのアプローチは必要です。ですが、目標欄に「膝関節屈曲角度の改善」とだけ書いて、それが何のためかが書かれていない計画書は、条文の求める順番になっていません。目標の立て方は第6回で正面から扱います。

実務のコツ

目標を書くとき、「そうすると、この人の生活の何が変わりますか」と自分に一度聞いてください。答えられなければ、まだ手段しか書けていません。膝が10度伸びると、何ができるようになるのか。トイレに間に合うようになるのか、デイサービスの送迎車に乗れるようになるのか。そこまで書けたものが目標です。

SECTION 04 あなたは、誰の代わりに行くのか

訪問看護ステーションから訪問する人には、もうひとつ知っておくべきことがあります。制度上の位置づけです。ここを知らないまま働いていると、看護師との関係でつまずきます。

理学療法士、作業療法士又は言語聴覚士による訪問看護は、その訪問が「看護業務の一環としてのリハビリテーションを中心と」したものである場合に、「看護職員の代わりに訪問させる」という位置付けのものである。 出典:厚生省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」(平成12年3月1日老企第36号)第二の4(4)

「看護職員の代わりに訪問させる」。これがあなたの訪問の法的な立ち位置です。訪問看護ステーションから行く場合、あなたが提供しているのは制度上「訪問看護」であって、「訪問リハビリテーション」ではありません。同じ通知は、計画書と報告書を看護職員と連携して作ること、利用開始時と状態が変わったときには看護職員が訪問して評価することも求めています。

この位置づけを、負い目のように受け取る必要はまったくありません。ですが、実務上ははっきりした意味を持ちます。あなたの40分は、あなたの40分で完結しません。その日に見たことを看護師に渡すところまでが1回の訪問です。渡さなければ、代わりに行った意味がなくなります。

制度メモ

令和6年度の介護報酬改定で、理学療法士等による訪問看護に新たな減算が設けられました(適用は令和6年6月1日から)。厚生労働大臣が定める施設基準に該当する事業所は1回につき8単位の減算です。基準は、1. 前年度(前年4月から当年3月まで)の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による訪問回数が看護職員による訪問回数を超えていること、2. 算定日が属する月の前6か月間に、緊急時訪問看護加算・特別管理加算・看護体制強化加算のいずれも算定していないこと、のいずれかに該当することです。国は、リハビリテーション職の訪問が看護から切り離されて単独で回ることを、報酬の側から抑えにきています。算定の詳細は第3回で扱います。

看護師はここを見ている

看護師が困るのは、セラピストの技術が足りないときではありません。「今日どうだったか」がわからないまま次の訪問日が来るときです。とくに知りたいのは3つ。1. 前回と比べて動けているか。2. 家族の負担が増えていないか。3. 転倒や痛みなど、こちらが医師に報告すべきことがあったか。この3つは、訓練内容よりも先に伝わってほしい情報です。渡し方の型は第9回で扱います。

SECTION 05 訪問セラピストの1日

ここまでが考え方の話でした。次は、実際の1日の形です。事業所によって件数も時間割も違いますが、おおよその骨格は共通しています。

図2 訪問セラピストの1日(4件の日の例) 8:30 事業所に集まる/申し送り 昨日からの変化と、その日の担当を共有する。看護師の訪問予定も確かめる。 9:15 1件目 インターホンを押す前に、今日その家で確かめることを1つ決める。 10:30 2件目 移動中に1件目の記録を下書きする。頭の中に置いたままにしない。 12:00 昼/午前の持ち帰り分を片づける 午前に気になったことは、午後に持ち越さずここで電話する。 13:30 3件目 午後は疲労が出る時間帯。同じ人でも午前とは動きが違うことがある。 14:45 4件目 最後の1件ほど、次回の予約と家族への伝達を省きたくなる。省かない。 16:00 戻って記録・報告 記録、実施計画書、看護師とケアマネジャーへの連絡。ここまでが1日の訪問。

図2 件数と時間割は事業所によって変わります。共通しているのは、移動時間が業務時間の中にあること、そして記録と報告が「訪問のあと」ではなく「訪問のうち」に入っていることです。

病院との最大の違いは、移動が仕事の一部になることです。1日4件なら、移動は合計で1時間半から2時間になります。この時間は空き時間ではありません。前の訪問の記録を下書きし、次の訪問で確かめることを決める時間です。移動時間の使い方が、1年目のうちに差になって出ます。

注意

予定が詰まっている日ほど、報告が後回しになります。そして後回しにされた報告は、たいてい翌日以降になります。「今日中」に伝えるべきことを翌朝に回した時点で、それは「次回まで」に格下げされています。移動中でも昼休みでも構いません。電話は、事業所に戻ってからかけるものではありません。

SECTION 06 ひとりで行く、けれどひとりで決めない

訪問でいちばん怖いのは、難しい手技ではありません。その場に相談できる人がいないことです。だから、単独訪問ができるようになるまでには段階があります。当ステーションが新しく入った方と一緒にたどる順番は、次の5段階です。

図3 単独訪問までの5段階 1 同行(見る) 見るのは運動の中身ではなく、玄関から辞去までの型と、その家の物の位置。 2 一部実施 1つだけ担当する。歩行の評価だけ、運動の1種目だけ。範囲は先に決める。 3 メイン担当(先輩が同席) あなたが進め、先輩は口を出さずに見る。振り返りは訪問後に行う。 4 見守り 先輩は別行動。ただし、その場ですぐ電話できる状態にしておく。 5 単独訪問 ひとりで行く。帰ったその日に看護師へ渡すところまでが1回の訪問。 進んだ段階から前に戻ることは、失敗ではありません。戻れるようにしておくことが、安全の設計です。

図3 当ステーションが新入職の方と一緒にたどる順番。何回で次に進むかは、利用者ごとに変わります。人ではなく、担当する家ごとに段階を持ちます。

大事なのは、この段階が「人」ではなく「家」ごとに進むことです。単独訪問ができるようになった人でも、新しく担当する家では同行からやり直します。呼吸器を使っている人の家、認知症のある人の家、家族の関係が難しい家。それぞれで最初の1回は同行に戻ります。

なお、訪問看護ステーションからの訪問では、計画書と報告書を作るにあたって、利用開始時と、利用者の状態が変わったときに、看護職員が訪問して状態を評価することが求められています。新しく受け持つ家に、セラピストだけで入って完結させる形は、制度の側でも想定されていません。

迷ったら、3つの締切に仕分ける

ひとりで訪問することと、ひとりで決めることは別です。訪問中に迷ったら、その内容を次の3つのどれかに仕分けます。

  • 今すぐその場で電話します。持ち帰りません。訪問中に転倒させた、いつもと明らかに違う呼吸や意識、開始前のバイタルサインが中止基準に触れている、家族が限界を訴えている。判断がつかないこと自体が「今すぐ」の理由になります。
  • 今日中訪問は予定どおり終えて、移動中か戻ってから連絡します。動作能力が先週より落ちている、痛みの訴えが増えた、処方が変わったらしい、福祉用具が合っていない。看護師と主治医のどちらに先に伝えるかは、事業所の決まりに従います。
  • 次回まで記録に残し、次の訪問か計画の見直しのときに扱います。本人が漏らした希望、家族の何気ない一言、部屋の使い方の変化。急ぎませんが、書かないと消えます。

1年目のつまずきは、ほとんどがこの仕分けで起きます。迷ったときは、ひとつ上の段に置いてください。「今日中」で足りるものを「今すぐ」にしても、誰も困りません。逆は困ります。中止の基準そのものは第8回で、報告の型は第9回で扱います。看護師版の連載にも同じ仕分けが出てきます(ゼロから始める訪問看護 第7回 報告・連絡・相談)。

注意

「看護師さんは忙しそうだから、あとで言おう」という遠慮が、いちばん危ない場面をつくります。あなたが電話をかけないという判断は、あなたひとりで下した判断です。ひとりで訪問することは任されていますが、ひとりで決めることは、まだ誰からも任されていません。とくにセラピストは、その日いちばん長くその人の体を触っている職種です。あなたが気づかなければ、誰も気づきません。

SECTION 07 この連載の地図——全10回で何ができるようになるか

図4 全10回の地図 第1〜3回 立ち位置をつくる——全体像・職種・制度 仕事の全体像/3職種の守備範囲/どの保険で、誰の指示で動くのか 第4〜7回 その家で判断する——組み立て・評価・目標・環境 訪問1回の組み立て/器具のない場所での評価/目標/住宅改修と福祉用具 第8〜10回 渡して伴走する——リスク・記録・生活期 中止基準と急変時の初動/実施計画書と看護師への渡し方/終わりの決め方 各回は1トピック完結です。順番に読めば、単独訪問までの道のりをそのままたどれます。

図4 前半で立ち位置をつくり、中盤でその家における判断を、後半で渡し方と終わり方を積み上げます。第1回は、この地図そのものを渡す回でした。

この連載は入門の骨格に絞っています。もっと踏み込んで知りたくなったときは、当ステーションがすでに公開している次の記事が続きになります。

当ステーションの視点

1年目に磨くのは、運動メニューではなく「渡し方」です。

病院なら、気づいたことはカルテに書けば同じ建物の中で共有されました。リハビリテーション室から病棟までは歩いて数十秒で、看護師をつかまえて口に出せばそれで済みました。訪問は違います。あなたが玄関を出た瞬間、その家でいま何が起きているかを知っているのは、日本中であなたひとりになります。

しかも訪問看護ステーションから行く場合、あなたは制度上「看護職員の代わりに」訪問しています。代わりに行った人が何も持ち帰らなければ、その家のその日は、誰にも見られなかったことになります。だから当ステーションは、新人の訪問を「良い運動ができたか」では見ません。「次に行く看護師が困らないだけのものを、渡せたか」で見ます。

渡すものは3つです。見たこと(事実)、迷ったこと、そして確かめられなかったこと。3つ目がいちばん大事です。浴室を見せてもらえなかった、家族が不在で介護の状況を聞けなかった、時間が足りなくて歩行を見られなかった——それは失点ではなく、その日の結果として立派な情報です。次に行く人は、そこから入れます。

徒手の技術は数か月で伸びます。渡し方は、初日から身につきます。この連載の10回は、すべてそこに向かって並んでいます。

採用のご案内

ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問リハビリが未経験の方を歓迎しています。

この連載は、病院や施設からそのまま在宅に来た理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、 ひとりで訪問して、その家で評価して、判断して、報告できるようになるまでの道のりを書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 訪問の経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。

1. いきなり一人にしません 見学から一部実施、メイン担当、見守り、単独訪問へ。段階を戻すことを失敗と呼びません。
2. 看護師と医師が、すぐ近くにいます 同じ事業所に看護師がいて、同じ法人にふくろう訪問クリニックがあります。医学的な判断で迷ったとき、抱え込まずに済みます。
3. 「わかりません」と言える その日のうちに報告できることを、技術より先に身につけてほしいと考えています。
いちばん早いのは、当ステーションへ直接ご連絡いただくことです
  1. 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
  2. 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
  3. 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
まずは見学だけでも歓迎します/お電話・メールどちらでも

ブランクのある方、回復期や維持期の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。

1年目チェックリスト(第1回ぶん)

  • 自分の訪問が、訪問看護ステーションからの訪問か、訪問リハビリテーション事業所からの訪問か、どちらの入口かを言える
  • 訪問看護ステーションからの訪問が制度上「看護職員の代わり」であることを、自分の言葉で人に説明できる
  • 担当している家の中で、平行棒やプラットフォームの代わりに使える場所を3か所挙げられる
  • 担当している利用者について、「心身の機能の目標」と「生活の目標」を分けて口に出せる
  • 1週間168時間のうち自分が直接見ている時間が何時間かを計算でき、残りを誰が支えているかを言える
  • 訪問から戻ったその日のうちに、誰に何を渡すかが決まっている(相手の名前と連絡手段が言える)
  • 「わかりません、確認して今日中にお返事します」を、実際に声に出して言ったことがある
  • 単独訪問までの5段階のうち、担当する家ごとに、いま自分がどこにいるかを指させる

Q&A よくある質問

Q病院で何年か経験しないと訪問はできない、と聞きました。本当ですか。
A制度上、訪問で働くために必要な臨床経験年数の要件はありません。訪問看護ステーションの人員基準は、看護職員を常勤換算で2.5人以上(うち1名は常勤)置くことを定めていますが、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士については「実情に応じた適当数」としか書かれておらず、人数も経験年数も定めがありません。ただし、訪問看護ステーションからの訪問では、利用開始時に看護職員が訪問して状態を評価することが求められており、単独訪問までに段階を踏む必要があるのも事実です。要件がないことと、放り出してよいことは別です。
Q病院で覚えた評価や手技は、どのくらい使えますか。
A手技そのものは、ほぼそのまま使えます。使えないのは前提条件のほうです。器具、床の硬さ、ベッドの高さ、明るさ、確保できるスペース、介助してくれる人、使える時間。訪問では「手技をやる」ことより「その家でやれる形に置き換える」ことのほうに時間がかかります。置き換えの考え方は第5回で扱います。
Q訪問1回は何分ですか。自分で決められるのですか。
A決められません。訪問看護ステーションからの訪問は1回あたり20分以上で、1人の利用者につき週6回が限度です。訪問リハビリテーション事業所からの訪問は1回20分以上で308単位、こちらも週6回が限度です(退院または退所の日から3か月以内で、医師の指示に基づいて継続する場合は週12回まで算定できます)。実際に何分入るかは、指示書とケアプラン、リハビリテーション計画で決まっています。詳しくは第3回と第4回で扱います。
Q看護師と何をどう分担すればいいのか、まだよくわかりません。
A分担の全体像は第2回で扱います。第1回の時点で覚えておいてほしいのは1つだけです。訪問看護ステーションからの訪問は、制度上「看護職員の代わり」であり、計画書と報告書は看護職員と連携して作ることになっています。利用開始時と状態が変わったときには、看護職員が訪問して評価することも求められています。つまり、あなたの訪問は最初から看護と組み合わさっている前提で設計されています。自分の40分だけを完結させないでください。
Q事業所にセラピストが自分ひとりです。誰に聞けばいいですか。
A珍しいことではありません。人員基準にリハビリテーション職の人数の定めがないため、1人職場は制度上ふつうに起こります。聞く相手は看護師でかまいません。動作と環境の読みはセラピストのほうが強く、全身状態、薬、家族の事情、他のサービスの動きは看護師のほうが情報を持っています。訪問のあとに「今日この人の血圧はどうでしたか」「この家は誰が主に介護していますか」と聞くだけで、翌週の判断が変わります。1人職場での動き方は第2回で扱います。
Q良くならない人を担当することに、正直まだ抵抗があります。
Aその感覚は、急性期や回復期で身につけた評価軸が正しく働いている証拠です。生活期では、その軸をもう1本増やします。運営基準が目指すものとして先に置いているのは「生活機能の維持又は向上」で、維持も目的のうちに入っています。下がっていく速度を緩めること、家族が続けられる形に整えること、転ばずに1年過ごせることは、いずれも成果です。この話は第10回で正面から扱います。

REFERENCE 参考資料

  1. 厚生労働省「令和6(2024)年 介護サービス施設・事業所調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kaigo/service24/index.html)※事業所数、および「表6 職種別にみた従事者数(詳細票)」令和6年10月1日現在
  2. 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料3「訪問看護」令和8年6月29日(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716095.pdf)※1事業所当たり従事者数、理学療法士等による訪問看護の単位数と令和8年度改定の内容
  3. 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会(第259回)資料4「訪問リハビリテーション」令和8年6月29日(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001716096.pdf)※請求事業所数、受給者数、報酬の構造、利用時間と計画書の目標の状況
  4. 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令第37号)第59条(訪問看護の基本方針)、第60条(看護師等の員数)、第75条(訪問リハビリテーションの基本方針)(https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
  5. 厚生省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日老企第36号 第二の4(4)
  6. 公益社団法人日本理学療法士協会「統計情報」2026年3月末現在(https://www.japanpt.or.jp/activity/data/)※会員数および会員の分布
  7. Do Y, Lim Y, Jin S, Lee H. Effectiveness of Home-Based Rehabilitation on Activities of Daily Living in Patients With Stroke: Systematic Review and Meta-Analysis. Phys Ther. 2025;105(6):pzaf044. doi:10.1093/ptj/pzaf044
本記事は、公開されている法令・通知・ガイドライン等をもとに、訪問看護の実務に必要な範囲を整理したものです。 制度の取扱いは改定や個別の事情によって変わることがあります。実際の判断にあたっては、 主治医、所属事業所の管理者、審査支払機関、地方厚生局等の窓口にご確認ください。 個々の健康上の問題については、かかりつけ医にご相談ください。
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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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