生活期を伴走する:ゼロから始める訪問セラピスト

ゼロから始める訪問セラピスト第10回/全10回(最終回)
生活期を伴走する

終わりを決める、そして看取りの場面のリハビリ

病院のリハビリテーションは、良くなって終わります。在宅のリハビリテーションは、良くならなくても続きます。 良くならない人に何をするのか。「維持」とは何をすることなのか。いつ、どうやって終わるのか。 進行していく病気の人と、最期が近い人に、セラピストは何ができるのか。 意思決定の支え方と看取りの手順は看護師版の最終回に本体があります。ここでは、その場にセラピストとしていることの中身を書きます。 最終回なので、最後に10回ぶんを1枚にまとめます。

この連載の現在地 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 第10回 生活期を伴走する

この回の結論

  1. 良くならない人にも、リハビリテーションの仕事はあります。「維持」は何もしないことではなく、下り坂の傾きを変えることです。傾きを変えたことは、数字と本人の言葉でしか証明できません。だから維持の日にこそ測り、書きます。
  2. 終了は敗北ではなく、計画の一部です。終わり方は3つ。目標に届いて卒業する、別の場所に移る、看取る。どの終わり方でも、終了の目安は計画書の最初から書いてあり、決めるのは数字ではなく本人の言葉です。
  3. 看取りの場面にも、セラピストにしかできないことがあります。楽な姿勢、楽な呼吸、家族の手に介助を移すこと、最後にしたいことをひとつ叶えること。緩和期のリハビリテーションは生活の質を上げることが確かめられていて、目的が変わるだけで、仕事はなくなりません。

SECTION 01 4つの坂——その人がどの坂を下りているかを知る

在宅で出会う人のほとんどは、これから先、少しずつ動けなくなっていきます。それ自体は変えられません。変えられるのは、その下り方です。そして下り方には、型があります。米国の高齢者を対象にした追跡研究で、亡くなる前の1年間の身体機能の経過を4つの型に分けたものがあります(Lunney 2002、2003)。どの坂を下りているかがわかると、セラピストが何をすべきかが決まります。

図1 最期の1年に、身体機能はどう下がるか。4つの坂と、セラピストの持ち場 米国の65歳以上の死亡者の分類。割合は Lunney 2002(7,966人)、坂の形は Lunney 2003(4,190人)より。 1 突然死(7%)——最後の月まで自立していて、急に終わる 坂がない。セラピストの持ち場は予防と、第8回の急変の初動。目標は「いまの暮らしを続ける」でよい。 2 がん(22%)——長く保って、最後の2〜3か月で急に下がる 保てる時期は運動で保ち、下がり始めたら目的を切り替える。切り替えの時期を見逃さないことが仕事。 3 臓器不全(16%)——悪化と回復を繰り返しながら、段々と下がる 心不全、呼吸器疾患。入院のたびに一段下がる。持ち場は、入院を減らすことと、退院のたびに戻すこと。 4 虚弱(47%)——低いところから、ゆっくり、長く下がる 半分がこの型。認知症、老衰、繰り返す転倒。傾きをゆるめることが目標になる。この連載の主役。 5 同じ人でも、坂は途中で変わる 虚弱の坂を下りていた人が、がんの坂に乗り換えることがある。3か月ごとの見直し(第3回)は、坂を見直す時間。 ※ 割合は米国の高齢者のもの。日本の数字ではないが、4つの型があること自体は在宅で日々見ているとおり。

図1 病院で見ていたのは、坂を上る人でした。在宅で見るのは、4種類の坂を下りる人です。上る人の技術のまま下りる人に向き合うと、「良くならない」ことだけが目に入ります。

坂の型を知ることは、あきらめるためではありません。目標の置き方を変えるためです。上る人には「どこまで上がるか」を目標にしました(第6回)。下りる人には「どのくらいの速さで下りるか」「下りたときに何が要るか」「下りきる前に何をしたいか」が目標になります。4部品(何を・どの支えで・どこまで・いつまでに)はそのまま使えます。「いつまでに」の中身が「3か月後も」に変わるだけです。

SECTION 02 「維持」は、何もしないことではない

新人がいちばん戸惑うのが、「維持目的」と書かれた指示です。何を目指せばよいのかわからない、と言います。病院では「維持」は治療の終わりを意味しました。在宅では違います。第4回で出したとおり、訪問リハビリテーションを6か月使った人のうち、日常生活動作が改善した人は34%、維持された人は46%です。維持は結果の半分近くを占める、いちばん普通の成果です。

維持を目標にするなら、書き方を決めておきます。第6回の達成度5段階で、「期待どおり」をいまの状態に置きます。「3か月後も、杖で200メートル歩いて公園まで行ける」。これが期待どおり。「300メートルに伸びた」が期待以上、「150メートルに落ちた」が期待を下回る。維持を目標にした瞬間、数字がないと達成度が判定できなくなります。維持の人ほど、月1回の測定日(第5回)を飛ばせません。

注意

維持の人の記録に「著変なし。継続」と書き続けることが、いちばん危険です。第9回で書いたとおり、その24行からは何も読み取れず、3か月後の見直しで「なぜ続けるのか」を答えられなくなります。第4回で触れたとおり、医療保険側の基準は「漫然かつ画一的」なリハビリテーションを戒めています。維持は漫然の言い換えではありません。維持と漫然を分けるのは、数字と、目標と、継続する理由の3つです。この3つが計画書にあれば、それは維持です。なければ、外から見て区別がつきません。

国の調査に、気になる数字があります。介護予防訪問リハビリテーションを始めて24か月後に、利用を続けていて修了の予定がない人が76.4%いました。継続している理由の上位は「本人・家族の希望」と「運動機会や活動量の維持が必要」です(第259回介護給付費分科会 資料4)。本人が続けたいと言うこと自体は正当な理由です。ただ、それだけを理由にした継続は、次の改定で最初に問われるところでもあります。本人の希望を、測れる目標に翻訳して計画書に書く。第6回でやったことを、維持の人にもやるだけです。

制度メモ

訪問リハビリテーション事業所では、3か月以上続ける場合に終了の目安時期を計画に書くことが通知で求められています(第3回)。様式2-2-1の記載要領(第6回)も、3か月以上の継続が必要と医師が判断する場合には継続が必要な理由と、他の介護サービスの併用・移行の見通しを書くよう求めています。訪問看護ステーションからの訪問にはこの様式の義務はありませんが、看護師と一緒に作る計画書(第9回)に同じ3つを置いておくと、指示書の更新のたびに「なぜ続けるか」を主治医に説明できます。

SECTION 03 終わりを決める——終了は、最初から計画に書いてある

終わり方は3つです。目標に届いて卒業する。入院や入所で別の場所に移る。看取る。3つ目はSECTION 05で扱います。ここでは1つ目の「卒業」の話をします。卒業は、セラピストがいちばん苦手にしている終わり方です。やめる理由より、続ける理由のほうが、いつでも簡単に見つかるからです。

① 移行支援加算におけるリハビリテーションは、訪問リハビリテーション計画に家庭や社会への参加を可能とするための目標を作成した上で、利用者のADL及びIADLを向上させ、指定通所介護等に移行させるものであること。 出典:厚生省老人保健福祉局企画課長通知「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日 老企第36号 第二の5(16)①

制度は、訪問リハビリテーションが通所介護などに移行することを、加算をつけて後押ししています。通知はさらに、終了した人のその後を「電話等での実施を含め」確認し、日常生活動作が維持または改善していることを確かめるよう求めています。終了は、訪問をやめることではなく、その人が次の場所で動き続けているのを確かめるところまでです。運営基準も、提供の終了に際して本人・家族への指導と、主治医・ケアマネジャーへの情報提供を求めています。

2 指定訪問看護事業者は、指定訪問看護の提供の終了に際しては、利用者又はその家族に対して適切な指導を行うとともに、主治の医師及び居宅介護支援事業者に対する情報の提供並びに保健医療サービス又は福祉サービスを提供する者との密接な連携に努めなければならない。 出典:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第64条第2項(第83条で訪問リハビリテーションに準用)
図2 卒業は一度にしない。段を1つ下りるたびに、条件を確かめる 各段の条件を満たしていれば次へ。満たさなければその段にとどまる。戻ってもよい。 1 週2回:短期目標が「期待どおり」に届いた 数字の推移と達成度と提案(第9回)を主治医とケアマネジャーへ。「週1回への減回を提案します」。 2 週1回:宿題が、こちらが見ていない週も続いている 第4回の21%の壁。本人の口から回数が言え、数字が落ちていなければ次へ。落ちていれば週2回に戻す。 3 隔週:動く場所が、家の外にできた 通所、地域の通いの場、散歩の相手。ケアマネジャーと担当者会議で移行先を決め、そこに1回同席する。 4 終了:本人が「もう大丈夫」と自分の言葉で言った 終了時の申し送り1枚(維持してほしい数字、宿題、再開する条件)を看護師・ケアマネジャー・家族に渡す。 5 終了後1〜3か月:電話か、看護師の訪問で確かめる 歩けているか、通えているか、転んでいないか。落ちていれば再開の入口はケアマネジャーと主治医。 ※ 段4の「再開する条件」は具体的に。「屋外歩行が100メートルを切ったら」「2回転んだら」「入院したら」。

図2 いちばん飛ばされやすいのは段3です。家の外に動く場所がないまま終了すると、第4回の宿題の壁がそのまま効いて、数か月で戻ってきます。

実務のコツ

終了を、本人と家族に「卒業」と言ってください。「もう来なくていいですか」と聞かれて「はい」と答えると、見捨てられたと受け取る人がいます。「目標に届いたので卒業です。ここから先は、ご自分の足で続けてください。落ちたときの戻り方は、この紙に書いてあります」。最後の訪問では、初回に測った数字と今日の数字を並べて見せます。第5回で初回評価を丁寧にやる理由は、ここにあります。初回の数字がなければ、卒業式で見せるものがありません。

移る終わり——入院・入所で終わるとき

2つ目の終わり方は、こちらが決めるものではありません。ある日、入院や入所で訪問が終わります。このときセラピストにできることは2つです。渡すことと、戻ってきたときに続きから始められるようにしておくこと。渡すのは、直前の数字と、できていた動作と、介助の工夫(第9回の表3)です。入院先のセラピストは、その人が家でどう動いていたかを知りません。「入院前は杖で屋外200メートル、浴槽は見守りでまたげていた」の1行があるかないかで、退院時の目標が変わります。運営基準は終了時に主治医とケアマネジャーへの情報提供を求めていますが(第64条第2項)、病院のリハビリ職に届く形にするのは、ケアマネジャーか看護師を通じた文書です。

戻ってきたときは、逆の流れです。訪問リハビリテーション事業所は、退院した人の計画を作るときに、その医療機関の実施計画書等で情報を把握することになっています(第81条第4項)。訪問看護ステーションからの訪問でも同じことをします。退院時の実施計画書に書かれた数字と、初回訪問で測った数字を並べれば、入院で何段下がったかが見えます。図1の3番目の坂は、この「入院のたびに一段下がる」を、どれだけ戻せるかの勝負です。退院直後の2週間が、もっとも戻りやすい時期です。第3回で触れた退院後の頻回訪問(3か月以内は週12回まで)は、このために使います。

看護師はここを見ている

リハビリが終了しても、看護師の訪問が続くことはよくあります。そのとき看護師が困るのは、「リハビリが終わったあと、自分は何を見ればよいのか」がわからないことです。セラピストからほしいのは、終了時の申し送り1枚です。維持してほしい数字(「屋外歩行200メートル、5回立ち上がり13秒台」)、続けてほしい宿題(「立ち上がり10回を毎日」)、そして再開の条件(「2回転んだら、5回立ち上がりが16秒を超えたら、こちらに連絡を」)。この3つがあれば、看護師は月1回、宿題の実施を聞き、年に数回は5回立ち上がりを測って、境界を越えたときにセラピストを呼び戻せます。第5回の「器具のいらない評価」は、こういう場面のために看護師と共有してあります。終了は、セラピストが看護師にバトンを渡す場面です。渡すものがないと、看護師は走れません。

SECTION 04 進行していく病気——目標は「上がる」ではなく「下がる速さ」

図1の2番目と3番目の坂を下りる人には、病気ごとに、リハビリテーションにできることと、根拠の確かさが違います。表にしておきます。新人がまず知っておくべきなのは、「進行性だからリハビリは意味がない」という考え方に根拠がないことと、「進行性だから頑張れば止められる」という考え方にも根拠がないことの両方です。

病気確かめられていることセラピストの持ち場
心不全運動を中心とした心臓リハビリテーションは、死亡率には差がないが、入院を減らす(15.9%対23.8%)。生活の質も上がる。在宅で行う型でも効果は同じ方向(Molloy 2024、60試験8,728人)体重と息切れを毎回聞く(看護師版第6回の表)。心臓リハビリの入口は既存コラム「高齢者の心不全患者に向けた心臓リハビリテーション入門」へ
慢性閉塞性肺疾患呼吸リハビリテーションの効果は放っておくと薄れる。監督つきの維持プログラムは6〜12か月後の生活の質を保つ。増悪・入院・死亡は変わらない(Malaguti 2021、21試験1,799人)効果を「保つ」ための定期訪問そのものが根拠のある介入。息切れの自己管理と、動作の省エネの指導
パーキンソン病重症度の段階ごとに、できることと注意点が変わる。既存コラム「パーキンソン病のヤール分類でどう変わる?」に段階別に整理薬の効いている時間帯に訪問を合わせる。すくみ足の家の中の場所を地図にする(第5回の家を測る)
筋萎縮性側索硬化症中等度の運動を検討した試験は2件43人だけ。機能評価尺度はわずかに良く、有害事象はなかったが、益も害も断定できない小ささ(Cochrane 2013)疲労を翌日に残さない負荷(第8回の段2)。できなくなる順番を先読みして、道具(第7回)と介助(第9回)を前倒しで準備する
認知症運動は認知機能を改善する根拠はないが、日常生活動作を保つ方向の結果(6試験289人、確実性はとても低い)。介護者の負担が減った試験が1件(Forbes 2015)目標を本人ではなく生活の中に置く。「トイレまで自分で行く」を守る。介助する家族の腰と時間を守る

表1 進行していく病気で、リハビリテーションに確かめられていること。「効く」の中身が病気ごとに違います。心不全は入院、慢性閉塞性肺疾患は生活の質、認知症は日常生活動作。何を守るかを、病気に合わせて目標に書きます。

表を見てわかるのは、「効く」の中身が病気によって違うということです。心不全では入院が減る。慢性閉塞性肺疾患では生活の質が保たれる。認知症では日常生活動作が保たれる。どれも「治る」ではありません。だから目標も「治る」ではなく、「入院しない」「息切れせずに着替える」「トイレは自分で行く」になります。第6回の4部品で書けば、「トイレまでを、手すりを使って、ひとりで、3か月後も」です。

実務のコツ

進行していく病気では、「次にできなくなること」を先に書いておきます。いまは階段を上がれるが、次は上がれなくなる。そのときに何が要るか(1階に寝る場所、手すり、ベッド)を、できなくなる前に本人と家族に話し、道具の申請(第7回)は着工前・貸与前の手続きに間に合うように進めます。できなくなってから慌てて申請すると、その間の数週間が、いちばん危ない時間になります。先読みは、悲観ではなく準備です。本人に伝えるときの言葉は、「もしも」ではなく「そのときのために」です。

家族も、同じ坂を下りている

進行していく病気では、本人の坂と並んで、家族の坂があります。本人が一段下がるたびに、介助の量が一段増え、家族の腰と睡眠と時間が削られます。認知症の運動プログラムを調べた総説では、家族が運動に付き添う形にした1つの試験で、介護者の負担が下がっていました(Forbes 2015)。1試験40人の小さな結果ですが、方向は現場の実感と合っています。家族が「見ている」だけの介護から、「一緒にやる」介護に変わると、家族の負担感は変わります。

だから、進行していく病気の人の計画には、家族の項目を1行入れます。「妻が、ベッドから車いすへの移乗を、腰を痛めずにできる」。これは本人の目標ではなく家族の目標ですが、様式2-2-1にも「本人・家族への生活指導の内容」の欄があり、第9回の表3にも本人・家族の行があります。家族が倒れると、本人の坂は一気に急になります。家族の腰を守ることは、本人の坂の傾きを守ることです。看護師版の第10回に、介護者はもう一人の対象だという節があります。セラピストの側からは、介助の技術を家族の身体に合わせて渡すことが、その節への応答になります。

SECTION 05 看取りの場面で、リハビリテーションができること

最期が近づくと、「もうリハビリはいいでしょう」と言われることがあります。家族から言われることも、看護師から言われることも、自分でそう思うこともあります。ここで確かめておきたいのは、緩和期のリハビリテーションには、効果を確かめた研究があり、学会の推奨があるということです。目的が変わるだけで、仕事はなくなりません。

  • 多職種による緩和リハビリテーションは、生活の質を上げる命を限る病気を持つ人を対象にした27の試験(3,571人)をまとめた解析で、生活の質は小さいながら確かに改善しました(標準化平均差 0.40)。がんでも、心不全でも、呼吸器疾患でも方向は同じで、入院日数も減っています(Pryde 2026)。
  • 進行がんの緩和期でも、運動は安全22の試験(1,840人)で、運動をした群としなかった群で重い有害事象の割合に差はありませんでした。生活の質、疲労、体力、下肢の筋力は運動した群のほうが良好でした(Toohey 2023)。
  • 日本の学会も、緩和期のリハビリテーションを提案している日本リハビリテーション医学会の「がんのリハビリテーション診療ガイドライン 第2版」(2019年)は、緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して、病状の進行や苦痛症状に合わせた包括的リハビリテーション治療を行うことを提案しています(推奨の強さ「弱い」、エビデンスの確実性「中」)。痛みや呼吸困難の症状緩和を目的とした患者教育も同じ強さで提案され、マッサージも提案されています。ガイドラインは、緩和ケア主体の時期は終末期と同義ではないこと、訓練内容を調整すれば実施できる場合が多いことも述べています。

では、その場でセラピストは何をするのか。5つにまとめます。看取りに向かう数週間で身体に何が起きるかと、家族への説明、その時が来たときの手順は、看護師版の最終回「意思決定を支える、そして看取り」に本体があります。予後の見立てと苦痛の評価は既存のコラム「訪問看護師が「末期がん患者」を見たら」に譲ります。

図3 看取りの場面で、セラピストにできる5つのこと。目標は「今日」の単位で立てる 上から順に、動ける時期から動けない時期へ。同じ日に複数を行うこともある。 1 動ける範囲で、動く場所を守る ベッドから椅子へ、椅子から窓辺へ。歩けなくなっても「座って食べる」を守る。中止基準は本人の楽さで読む。 2 楽な姿勢をつくる 枕とクッションの置き方、ベッドの角度、痛む側の支え方。家族が同じ姿勢を再現できるように、写真か絵で残す。 3 息を楽にする 起こした姿勢、前かがみで腕を支える座り方、口すぼめ呼吸、痰を出しやすい向き。薬の調整は主治医と看護師。 4 介助を、家族の手に移す 寝返り、起こし方、車いすへの移り方、手足のさすり方。家族が「自分にもできることがある」と思えるように。 5 最後にしたいことを、ひとつ叶える 風呂に入る、庭に出る、孫と食卓につく。動作を分解して、道具と人手をそろえるのがセラピストの仕事。 ※ 5つとも「良くする」ためではない。「今日、その人と家族にとって少し楽で、少し本人らしい」ためのもの。

図3 行4と行5は、セラピストがいなくなったあとも家に残ります。看取りの場面の目標は、「3か月後」ではなく「今日」と「今週」の単位で立てます。

注意

第8回の中止基準(表1)を、看取りの場面にそのまま当てないでください。安静時の脈拍が120を超える日、酸素飽和度が90%を切る日が、続くようになります。数字で切ると、何もできない日ばかりになります。この時期の中止基準は本人の楽さです。「起きてみますか」と聞いて、本人が起きたいと言い、起きたあとの表情が楽なら、それは実施してよい日です。ただし、これは主治医と看護師と共有した方針の中で行うことです。「この時期の目標は楽さです」と計画書に書き、看護師と主治医がそれを知っている状態を先に作ってください。ひとりで決めない、という第8回の原則は、ここでも変わりません。

本人が「もういい」と言ったとき

家族ではなく、本人が「リハビリはもういい」と言うことがあります。ここでセラピストが試されます。「そうですか」と引くのも、「少しだけやりましょう」と押すのも、どちらも本人を見ていません。聞くのは「何がもういいのか」です。歩く練習がつらいのか、人が来ること自体が負担なのか、体を動かすと痛いのか、先が見えて気持ちが落ちているのか。答えによって、次にすることが変わります。歩く練習なら、図3の行2以降に切り替えて、練習はしません。人が来ることが負担なら、訪問の回数と時間を主治医・看護師・ケアマネジャーと減らします。痛みなら、その日は姿勢と痛みの場所だけを看護師に渡して帰ります。

気持ちが落ちているときの答えは、セラピストにはありません。それは看護師版の第10回が扱っている領域で、聞いた言葉をひとりで抱えず、その日のうちに看護師と主治医に渡します(第8回の「ひとりで決めない」)。「もういい」を記録に書くときは、本人の言葉のまま「」で残します。「もう歩かなくていい、座って庭を見ていたい」。この1行は、その人の最後の目標そのものになることがあります。

実務のコツ

「風呂に入りたい」と言われたら、断る前に分解してください。脱衣所までの移動、脱ぐ、浴槽をまたぐ、湯の中で座る、出る、拭く、着る、戻る。8つのうち、本人ができるのはどれで、家族が支えられるのはどれで、道具(第7回のシャワーチェアや浴槽台)で埋まるのはどれか。看護師と一緒に入るなら、看護師が体を、セラピストが動作と道具を受け持ちます。「無理です」は、分解してから言う言葉です。分解すると、たいていは「明日の午後なら、看護師と2人で」になります。

SECTION 06 10回ぶんを、1枚にする

最終回なので、この連載で書いてきたことを1枚にまとめます。各回のいちばん大事な1行と、それを使う場面です。1年目の終わりに、この表を上から読んで、言えないところがあれば、その回に戻ってください。

いちばん大事な1行使う場面
第1回 全体像病院と在宅では、設備・時間・目標・家族の4つが逆転する病院のやり方が通じないと感じたとき
第2回 3職種理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、法律上の業務も得意も違う。1人職場では「呼ぶ」が技術自分の職種で足りない場面に出会ったとき
第3回 制度入口は2つ。1回は20分。医師の指示と計画の評価周期が土台指示書と計画書を見るとき
第4回 1回の組み立て40分は確かめる20分とつくる20分。宿題を毎日続けられる人は5人に1人訪問の前日と、玄関を開けたあと
第5回 評価器具がなくても測れる。値と条件と前回との差で書く月1回の測定日と、毎回の記録
第6回 目標何を・どの支えで・どこまで・いつまでに。「歩けるように」は目標ではない計画を作るときと、3か月ごとの見直し
第7回 家と道具手すりの位置は動きが決める。手を入れないという判断もある住宅改修と福祉用具の相談が出たとき
第8回 リスクやらない判断は、理由と代わりと伝えた相手が書けていれば判断。転ばせたら起こす前に見る運動を始める前の数分と、事故のとき
第9回 記録と報告記録は、あなたがいない6日間にあなたの見立てを働かせる道具毎回の記録と、月末と、相手に渡すとき
第10回 生活期維持は傾きを変えること。終了は計画の一部。看取りにも仕事がある良くならない人と、終わりを決めるとき

表2 連載10回の要約。1年目の終わりに、この表だけを見返しても意味が通るように書きました。

当ステーションの視点

良くならない人のそばに、最後までいられるのが、この仕事です。

病院で働いていたころ、良くならない人は、いつのまにかリハビリ室から消えました。転院、退院、方針の変更。担当が外れるだけで、その人がそのあとどうなったかを、セラピストは知らないまま次の人を受け持ちました。在宅は違います。良くならない人のそばに、最後までいます。下り坂を一緒に下りて、終わりを一緒に決めて、看取りの場面にも同じ家にいます。

当ステーションは、それをこの仕事のいちばんの価値だと考えています。治すことに比べて地味に見えるかもしれません。けれども、坂を下りる人に「今日はここまで来られましたね」と言える人は、上る人に「もっと」と言える人より、ずっと少ないのです。そして家にいる人が本当に必要としているのは、後者より前者です。

10回かけて書いてきたのは、その準備でした。測って、目標を立てて、家を変えて、やらない日を決めて、記録して、渡す。全部、良くならない人のそばに最後までいるために要るものです。1年目の終わりに、担当している人の名前を一人ずつ思い浮かべて、その人がどの坂を下りていて、次に何が要るかを言えるようになっていれば、この連載の役目は済んでいます。ここまで読んでくださって、ありがとうございました。看護師の皆さんへ。セラピストが何をする人か、少しは見えたでしょうか。同じ家で、一緒に働きましょう。

採用のご案内

ふくろう訪問看護リハビリステーションは、
訪問リハビリが未経験の方を歓迎しています。

この連載は、病院や施設からそのまま在宅に来た理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が、 ひとりで訪問して、その家で評価して、判断して、報告できるようになるまでの道のりを書いたものです。 言いかえれば、当ステーションが新しく入った人と一緒にたどる順番そのものです。 訪問の経験がないことは、ここでは前提であって、条件ではありません。

1. いきなり一人にしません 見学から一部実施、メイン担当、見守り、単独訪問へ。段階を戻すことを失敗と呼びません。
2. 看護師と医師が、すぐ近くにいます 同じ事業所に看護師がいて、同じ法人にふくろう訪問クリニックがあります。医学的な判断で迷ったとき、抱え込まずに済みます。
3. 「わかりません」と言える その日のうちに報告できることを、技術より先に身につけてほしいと考えています。
いちばん早いのは、当ステーションへ直接ご連絡いただくことです
  1. 日程が早く決まります。間に人が入らないぶん、お問い合わせから見学、面談までを最短の日程で組めます。
  2. 条件を、決める人と直接相談できます。勤務日数、1日の訪問件数、オンコールの有無といった働き方の話を、伝言でなくその場でやりとりできます。
  3. 入職祝い金20万円を進呈します。直接応募限定紹介手数料がかからないぶんを、求職者の方に還元します。
まずは見学だけでも歓迎します/お電話・メールどちらでも

ブランクのある方、回復期や維持期の経験しかない方、まず話だけ聞いてみたいという方も、お気軽にご連絡ください。

1年目チェックリスト(第10回ぶん)

  • 担当している人について、4つの坂(突然死・がん・臓器不全・虚弱)のどれを下りているかを言える
  • 「維持」を目標にした人について、期待どおりの状態を数字で書いている
  • 維持の人の記録に「著変なし」ではなく、数字と本人の言葉を書いている
  • 3か月以上続ける人について、継続の理由と移行の見通しを計画書に書いている
  • 終了までの段(週2回・週1回・隔週・終了・確認)を、担当する人ごとに言える
  • 終了時の申し送り1枚(維持してほしい数字・宿題・再開の条件)を書ける
  • 終了した人のその後を、1〜3か月後に電話か看護師経由で確かめている
  • 進行していく病気の人について、「次にできなくなること」と、そのときに要る道具を先に書いている
  • 心不全・慢性閉塞性肺疾患・認知症で、リハビリの「効く」の中身が何かを言える
  • 看取りの場面でセラピストにできる5つ(動く場所・姿勢・呼吸・家族の手・したいこと)を言える
  • 看取りの時期の中止基準を「本人の楽さ」に切り替えることを、看護師と主治医と共有している
  • 「風呂に入りたい」を、断る前に動作に分解できる

Q&A よくある質問

Q維持目的の訪問を続けていると、「漫然としている」と指導で言われませんか。
A言われるとしたら、維持だからではなく、維持の証拠がないからです。数字(月1回の測定)、目標(期待どおりの状態を数字で)、継続の理由と移行の見通し(計画書)。この3つがそろっていれば、それは維持であって漫然ではありません。逆に、改善目的でも「著変なし。継続」の記録が並んでいれば、漫然と見なされます。問われるのは目的ではなく、証拠です。維持の人の記録は、改善の人の記録より丁寧に書く、と決めておくと迷いません。
Q目標に届いたので終了を提案したら、本人が「やめたくない」と言います。
Aやめたくない理由を聞いてください。「来てくれるのが楽しみ」「ひとりでは続かない」「また悪くなるのが怖い」。理由によって答えが変わります。楽しみなら、動く場所を家の外に作ってから(図2の段3)。ひとりで続かないなら、通所や通いの場への移行。怖いなら、再開の条件を紙にして渡します。本人の希望は継続理由として正当ですが、その希望を測れる目標に翻訳できないなら、続ける根拠にはなりません。一度に終了せず、段を1つ下りる提案(週1回、隔週)から始めると、本人も受け入れやすくなります。
Q看取りが近い利用者の家族から「もうリハビリは無理でしょう」と言われました。
A「無理」の中身を確かめてください。たいてい家族が思い浮かべているのは、歩く練習や筋力訓練です。それはもうしません、と伝えたうえで、図3の5つを見せます。楽な姿勢を作る、息を楽にする、寝返りと起こし方を家族に教える、最後にしたいことをひとつ叶える。「リハビリをやめる」のではなく「リハビリの目的を変える」と言い換えると、家族の受け取り方が変わります。訪問の名目と回数は、主治医と看護師とケアマネジャーで決め直します。この時期に家族が介助を覚えることは、看取ったあとの家族にも残ります。
Q筋萎縮性側索硬化症の人に、運動をさせてよいのですか。
A中等度の運動を検討した試験は2件43人しかなく、機能評価尺度でわずかに良く、有害事象はなかったものの、益も害も断定できない小ささです(Cochrane 2013)。当ステーションでは、翌日に疲労を残さない負荷(第8回の段2、ややきついを超えない)で、関節の動きと呼吸と姿勢を保つことを中心にし、筋力を増やすことを目標にはしません。それ以上に大事なのは、できなくなる順番を先読みして、道具と介助と意思決定の場を前倒しで準備することです。運動の量より、準備の速さが、この病気では効きます。主治医の指示と、日本神経学会の診療ガイドラインに沿って進めます。
Q終了した人が、半年後にまた悪くなって戻ってきました。終了が早すぎたのでしょうか。
A戻ってきたこと自体は失敗ではありません。図1のとおり、坂を下りる人は、いつか下ります。確かめてほしいのは2つです。終了時に「再開の条件」を渡していたか。そして、その条件を越えた時点で誰かが気づけたか。渡していて、看護師かケアマネジャーが条件を越えたときに連絡してきたなら、その終了は正しく設計されていました。渡していなかったなら、次の終了で直します。終了の質は、戻ってこないことではなく、戻る入口が開いていたかで測ります。
Q担当していた人が亡くなりました。次の訪問に行くのがつらいです。
Aつらいのは普通のことで、それは弱さではなく反応です。看護師版の最終回に、見送ったあとの自分のことが書いてあります。事業所で振り返る、ただし犯人を探さない。つらかったと言ってよい。よかったことも言葉にする。眠れない状態が続くなら管理者に伝える。セラピストも同じです。ひとつだけ足すなら、その人の記録の最後に、あなたが見た「その人らしかった動き」を1行書いておいてください。「最後の週、娘さんの声に手を上げた」。それは家族に渡せる言葉であり、あなたがその場にいた意味でもあります。

REFERENCE 参考資料

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  4. 厚生省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)及び指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について」平成12年3月1日老企第36号 第二の5(1)(終了の目安時期)、第二の5(16)(移行支援加算)
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  6. 厚生労働省老健局「リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の実施及び一体的取組について」令和6年3月15日 老高発0315第2号・老認発0315第2号・老老発0315第2号(介護保険最新情報 Vol.1213 https://www.mhlw.go.jp/content/001227724.pdf)※別紙様式2-2-1 記載要領(5) リハビリテーションの見通し・継続理由、終了の目安・時期
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  14. 日本神経学会 監修. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)診療ガイドライン2023. 南江堂; 2023.
本記事は、公開されている法令・通知・ガイドライン等をもとに、訪問看護の実務に必要な範囲を整理したものです。 制度の取扱いは改定や個別の事情によって変わることがあります。実際の判断にあたっては、 主治医、所属事業所の管理者、審査支払機関、地方厚生局等の窓口にご確認ください。 個々の健康上の問題については、かかりつけ医にご相談ください。
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この記事を書いた人

福岡生まれ、筑紫丘高校卒業、九州大学医学部卒業後、東北の地域中核病院で初期研修医・救急医として勤務し、その後東京の国立がん研究センター中央病院、東京大学病院に勤務。地元の福岡に帰ってきて2023年1月に:ふくろう訪問クリニック(旧:つくし訪問クリニック早良)を開院。2025年5月に医療法人「ふくろうの樹」設立。2025年11月「ふくろう訪問看護リハビリステーション」を開院。

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